幽霊屋敷の指輪アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや易
報酬 5.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/17〜05/20

●本文

 幽霊屋敷と噂される場所は大抵、誰かしらが遊び半分で乗り込んでいくものだ。
 肝試し感覚で入り込み、進入経路確保のために窓を割り、自分達がこの場所に来た事を示すために壁に落書きをし、お菓子を食べて盛り上がり、そのゴミを持ち帰らずに残して行く。
 犯罪行為の数々に、のんきに肝を試す前にやらなければならない事があるのではないのかとツッコミたくなる。
 だいたい、肝を試してなんになるのか。
 結局幽霊屋敷に行っても、せいぜい周囲に音を漏らさずに窓を割る方法だとか、高い塀を乗り越える方法だとか、およそ実生活で使わなさそうなスキルを身につけるだけだ。
 そんな否定的な事を心中で考えながらも、蛍は集団の最後尾についてノロノロと歩を進めていた。
 自分1人では馬鹿らしいと思える事も、何人か集まればノリでやれてしまう。若さとは恐ろしいものだ。
 ここは絶対に出るだとか、前方でキャイキャイとはしゃぐ声がする。
 崩れかけたレンガの壁の穴から庭に侵入し、有名スポットなだけあり既にご丁寧に割られている窓から侵入する。
 仲間の1人が手に持った懐中電灯を点け‥‥蛍が余所見をした瞬間、懐中電灯を持った友人が倒れた。
 バタンと言う音に驚いて顔を上げる蛍。数人の仲間が床に倒れ、懐中電灯が転がって行く。
「お、おい!?」
 焦りつつも懐中電灯を掴み‥‥光の中に映し出された存在に、立ち尽くす。
 白いワンピース、長い髪、虚ろな瞳‥‥本物の霊の出現に、皆叫び声を上げる間もなく失神したのだ。
 蛍同様、すぐに失神できなかった数人が床にへたり込む。
 映画のように、凄まじい悲鳴を上げる者は誰も居なかった。本当に恐ろしい時は声すらも喉で縮こまってしまう。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
 女性の霊は何かぶつぶつと言っているが、それはあまりにも小さい声なので聞き取る事が出来ない。
「あ、あの‥‥お、俺達は別に、貴方に悪さをしようとして来たんじゃなく‥‥」
 震える声で何とか喋りかける蛍。女性がゆっくりと顔を上げ、虚ろな瞳が真正面から蛍を見つめる。
「‥‥あのー、私、探し物してるんですよー」
 間延びした声は、明らかにこの場の雰囲気に似合わなかった。
「大切な思い出を思い出さなくちゃ成仏できないんですけどー、それを思い出すためには指輪が必要なんですー。でも、その指輪がどこ行ったのか分からなくてー」
 ジっと見つめる女性。あまりにも自分達が思い描いていたのと違う幽霊像に呆気にとられた蛍達は完全にフリーズしていた。
「あのー、一緒に探してくれませんかー?何か、貴方達は言葉が通じるみたいですしー。今まで来た人達って、貴方達のお仲間みたいに急に眠っちゃったり、逃げちゃったりする人達ばかりでー」
 もしかして、手伝わないと祟られるとか言う即死フラグが立っているのではないか。
 怯えながらもコクコクと頷く蛍達。
「それじゃぁ、眠ってる人達を起こさないようにそうっと行きましょうかー」
 ふわふわと前を歩く女性に続く蛍達。ノロノロとした歩みで進み‥‥突然女性がクワっと目を見開いて振り向いた。
「あ、そこ危ないですよー、段差がありますからー」
 恐ろしい顔に、まだ正気を保っていた仲間の1人がふっと意識を失った。
「あらー、また眠っちゃいましたねー。夜遅いので無理も無いですがー」
 女性はそう言うと、再びノロノロと歩き始めた。


≪映画『幽霊屋敷の指輪』募集キャスト≫

*蛍(けい)
 肝試しに参加した男性。外見年齢15〜20代程度
 冷静なツッコミ体質
 常識人で頭の回転も速い
 『俺』『〜さん』落ち着いた男性口調

*幽(ゆう)
 幽霊の女性。外見年齢20代程度
 『なんかー、幽霊の女の人って長いんで、幽ってフレンドリーに呼んで下さいー』と言って自ら命名
 天然系おっとり。思いっきり自分のペースで動く(壁もすり抜ける)
 顔色が悪く、目は虚ろ。性格はそうでもないが、見た目は怖い
 『私』『〜さん』間延びした女性口調
 ・翡翠の指輪を探している
 ・指輪を手にした後は成仏出来る

*蛍の友人
 失神しなかった者で、指輪探しに参加する者限定
 外見年齢、性別共に特に指定はなし
 →蛍の兄姉や弟妹でもOK

・幽霊屋敷に住む霊
 幽とは友人
 驚かせてくる者はいるが、危害を加えようとする者はいない
 外見年齢、性別共に特に指定はなし

●今回の参加者

 fa0634 姫乃 舞(15歳・♀・小鳥)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa2640 角倉・雨神名(15歳・♀・一角獣)
 fa2657 DESPAIRER(24歳・♀・蝙蝠)
 fa2993 冬織(22歳・♀・狼)
 fa3319 カナン 澪野(12歳・♂・ハムスター)
 fa3742 倉橋 羊(15歳・♂・ハムスター)
 fa5508 アイリス・エリオット(20歳・♀・猫)

●リプレイ本文

「思い出の籠もった大切な指輪なのでしょうね。無事に見つかると良いですね」
 夕(姫乃 舞(fa0634))が同情の眼差しを幽(DESPAIRER(fa2657))に向け、蛍(倉橋 羊(fa3742))の妹・麻(美森翡翠(fa1521))が落ちた懐中電灯を拾うと2つ年上の兄・陸(カナン 澪野(fa3319))の背中を叩く。陸が小さな悲鳴を喉の奥で上げ、蛍の背後に回る。
「恐いのか?」
「こ、恐くなんか無い!」
 精一杯の強がりを言ってみせる陸。密かに淡い想いを抱いている夕の前で、ヘタレな事など出来ない。
「陸さんは強い方ですから。頼りにしていますね?」
 胸を張って頷く陸。幽が着いて来て下さいねーと間延びした声で言い、スルリと壁をすり抜ける。純粋で天然な麻がそれに続こうとし、壁に体当たりする。
「いった〜い」
「あ、そこ壁があるんで気をつけて下さいねー?」
 壁から顔だけ出して幽が注意を促し、壁の中へと消えて行く。
「俺ら壁なんてすり抜けられないんだけどー!」
 蛍が声を張り上げ‥‥そう言えば貴方達は人間でしたねと、今更な事を言う幽。
「あんた、本当に幽霊か?新手のドッキリとかじゃなく?」
「ドッキリで壁がすり抜けられるか?」
 戸惑ったような陸の質問に、蛍が更に質問を重ねた。


「お前ら、うろうろして転んだりするなよ。釘でも出てたら大惨事だ!」
 蛍がキビキビと弟妹に指示を出し、夕が笑顔で3兄妹の姿を見つめる。幽が緩慢な足取りで廊下を曲がり‥‥1人の少女が現れた。陸がビクリと肩を震わせ、霧雨(角倉・雨神名(fa2640))が満面の笑みで走り寄ってくる。
「もしかして、新入りの方ですか?嬉しいですっ!」
 蛍の後ろから「はじめましてぇ」と元気に挨拶をしつつ手を差し出す麻。細い霧雨の手と小さな麻の手が合わさり‥‥すかっと、手がすり抜ける。
「あ、触れないのでみなさん幽霊さんですね☆」
「ポニャラケッチャヌバダベーーーー!!!??」
 陸が意味不明な言葉を叫び、麻が「陸お兄ちゃんが外国の言葉話してるよぉ〜」と勘違いをする。
「麻、あれは外国語じゃなくて陸語。そして、幽霊は俺達の方じゃなくあんたの方」
 蛍が律儀に訂正を入れ、霧雨がそうでした☆と言って微笑む。
「まだ他にも住人さんがいらっしゃったのですね」
「あと何人かいますけどー、皆さんいい人ですよー」
「皆さんに会えて良かったです。私、幽霊とかそう言うのダメでー」
「私達が肝試しに来たばかりに驚かせてしまったでしょうか‥‥すみません。でも、恐い人間ではないので安心してくださいね」
 ふわりと微笑む夕。どちらからツッコんだら良いのかと蛍が眉間に皺を寄せ‥‥麻が背中を突付くとミニカップ麺と魔法瓶を差し出した。
「お腹空くと怒りやすくなるんだよー」
「麻‥‥どこから出した?」
 蛍と全く同じ表情でカップ麺を見つめる陸。麻がリュックから箸を取り出し、ここから出したのだとジェスチャーで示す。その華奢な体からは想像もつかないほどに食いしん坊でよく食べる麻は、常に食料品を持ち歩いているのだ。


(本当は幽霊屋敷になんて来たくなかった。でも、麻も夕さんも来るって言うし‥‥)
 先ほどまで一緒にいた仲間達といつの間にかはぐれてしまった陸は、今やこの寂しい屋敷の中で一人ぼっちになっていた。
「皆どこに行ったのかな」
 声が虚しく廊下に響き、暗闇に吸収されて行く。
(幽霊でも良いから、まだ誰かいた方がマシだ)
 半ばヤケになりながらそう思った時、突然右側の壁から白い手がにゅっと生えた。
「どうしたの?アンタ、迷子?」
 すっと姿を現したエナ(アイリス・エリオット(fa5508))が透き通った翡翠色の瞳を大きく見開くと口元に手を当てた。驚きのあまり蒼白になって腰を抜かした陸の様子に、自分が人を驚かす存在である事を思い出したと言った様子だった。
「あぁゴメン!脅かす気はなかったのよ、つい癖で‥‥」
 どうやら恐い幽霊ではないらしいと判断した陸は、顔を赤くしながら今見た事は絶対に言うなと口止めをする。その必死な様子にエナが内心で、情けないわねと溜息をついた。
「アンタ、幽の知り合い?さっき向こうで見たけど」
「本当か!?」
「こっちから行けば近いわ」
 エナが陸の前に立ち部屋の中に入っていく。勿論、ドアをすり抜けてだ。そんな芸当など出来ない陸がドアノブを回して押し開け、後ろ手に閉める。埃っぽい空気に顔を顰めた時、エナが「あっ」とか細い悲鳴を上げた。
「間違えちゃったわ」
「もー、しっかりしろよなー」
 陸が文句を言いつつドアノブを回し‥‥ノブは少ししか回らない。ドアが開かなくなってしまい、焦る陸。エナが手を伸ばし‥‥陸の手とドアノブを通過する。
「‥‥‥‥‥‥!!!」
「あぁ、そっか。幽霊だから触れないのよね」
「い、いま、冷やっとした!」
 声にならない悲鳴を上げ涙目になる陸に「ホントゴメンー!」と軽く謝るエナ。数度ドアノブを触れられない事を確認し、ふと顔を上げる。
「私はドアすり抜けられるけど、アンタはどうする?この部屋ココ以外に出入り口ないの」
 ‥‥陸が本日2度目の声にならない悲鳴を上げた。


「あれ?陸お兄ちゃんがいないよぉ?」
 麻の声に、蛍が振り返る。今まで背後霊よろしく背中にヘバリついていた弟がいつの間にか消えていた。
「もしや、この屋敷に住む何者かによって攫われてしまったんでしょうか!?」
 霧雨がそう言って蛍の背中にしがみつく。
「それ自分達の事じゃん。そもそも、何で幽霊のくせに怖いんだよ?」
「幽霊でも怖いものは怖いのです。お兄ちゃんは‥‥あ、ごめんなさい。私お兄ちゃん欲しかったんです」
 霧雨の言葉に幽が視線を落とし‥‥か細い悲鳴が聞こえて来た。さっと視線を合わせ、声のした方に走る一行。幽の導きに従って扉を開け‥‥エナと陸が立っていた。
「カモミールのお茶。落ち着くよ〜」
 麻が急いでお茶を手渡し、夕が「そちらの方はお友達ですか?」と言って首を傾げる。陸がエナに会った経緯を語り出し、蛍から「1人でうろうろするなっていつも言ってるだろ」とお叱りの言葉を受ける。
「突然、あの本棚を倒すのよ!って言うから何かと思ったら、隠し通路があって‥‥廊下にホルマリンとか、骸骨とか‥‥」
 それを見てあげた悲鳴を聞きつけて、蛍達が駆けつけたと言うわけだ。
「陸お兄ちゃんがご迷惑お掛けしましたぁ」
 麻が頭を下げ、幽がエナに説明を入れる。
「指輪なんて探してたの?‥‥私、力になるわ!」
 エナがそう言って、幽の手を取った。


(この現象はあれか?1匹見たら30匹、しかも問題児てんこ盛り。何の試練だ?)
 増える幽霊現象に頭を抱えつつも開けた部屋の中で、お手玉が舞っていた。突然のポルターガイスト現象に驚く一行の前に、時代錯誤の姫姿の女性が現れた。
「妾に何用じゃ?」
 静姫(冬織(fa2993))に事情を説明する幽。夕が「まぁ綺麗な方」と言って微笑み、麻がポテトチップスを食べながら「お姫様だぁ!」と声を上げる。蛍がすかさず「どこでも座り込んで食わない」とお叱りを入れ、ついでに「夕もマイペース過ぎ!」とツッコミを入れる。静姫を見て視線を泳がせている陸にも何か言おうと口を開き‥‥
「一宿の恩義じゃ。妾も共に探そうぞ」
 静姫がすっと宙を撫ぜ、火の玉を出現させて部屋に灯りをともす。室内の捜索をし始める蛍達を尻目に、静姫の興味は麻の持ち物に逸れていた。麻がポテトチップを差し出し、静姫がそれに手を伸ばすがスカっと通り過ぎる。麻が少し考えた後で1枚を静姫の口元へ持って行き、綺麗な唇の奥に消えたお菓子に、物は持てないけれど食べる事は出来るのだと、感心をする。麻が次から次へとお菓子やカップ麺を出し、静姫がお湯を注ぐだけで出来上がるカップ麺を見て「何と!如何な術じゃ?」と言っては目を輝かせる。
「探し物は探す事を止めた時に見つかるなんて迷信だ!必死になれ、根性で犬の嗅覚を引き寄せろ、血眼になって這い蹲って探せ!」
 2人をそのままに、蛍が仁王立ちになって指示を飛ばす。が、自分も働け。
「どんなデザインの指輪だったのか思い出せませんか?」
 夕の質問に幽が詳細なデザインを告げる。その話を聞いていた静姫が「其れはもしや‥‥」と呟きながら収集物品入れの中から指輪を取り出して幽に差し出す。
「姿見の前に落ちておったのじゃ」
「普通に考えて、それは置いてあったんじゃ?」
「姫さんボケてんなー」
 蛍と陸のダブルツッコミもなんのその、静姫は涼しい顔だ。夕が「無事に見つかって良かったですね」と微笑み‥‥幽の瞳が輝いた。生前病弱だった彼女のために家族が御守り代わりに買って来てくれた、大切な指輪‥‥
「見つけてくださって、有難う御座いましたー」
「思い出せたんですね?じゃぁ‥‥」
「成仏は、しません。今の私にも、大切な家族がいますからー」
 幽の言葉に「何か照れちゃうなぁ」と呟き顔を真っ赤にするエナ。夕がそっと涙を拭う。
「素敵な関係なのですね」
「良かったな、家族が出来て」
 陸が柔らかい笑みを浮かべ、蛍が「もう見失うなよ?」と釘を刺しておく。
「また来てくださいね、ずっと待ってます」
 屋敷の前で手を振る霧雨に「またお会いしましょうね」と手を振り返す夕。俺はもう良いやぁと陸が心の中で呟き‥‥
「そう言えば、寝ちゃってる人達そのまんまだねぇ」
「あっ!!」
 麻の一言に、一行は再び幽霊屋敷へと舞い戻った。