Golden Eye 呪われし瞳アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
宮下茜
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/21〜05/24
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●本文
右は琥珀色の瞳、左は金色の瞳
子供の頃から、左右の瞳には違う場面が写っていた
右に映るはその人の現在、左に映るはその人の過去
左の瞳は、人の過去を視、失われた記憶を復元し、記憶を消す事も出来る
人は、金瞳の能力を恐れ、嫌悪し、同情の眼差しを向けてきた
両親すらも、兄妹すらも、誰も金色の瞳を覗き込もうとはしなかった
「零君、捜しましたよ」
街中を歩いていて声をかけられることは滅多にない零は、足を止めると声の主に冷たい視線を向けた。
「庵、わざわざそっちから来なくても、今から行こうと思ってたんだけど」
「あぁ、誤解しないでください。貴方を監視しているつもりはありません。ただ、こちらに来ていただいてから仕事に向かうのでは、無駄に往復させる事になってしまいますから」
「で、仕事って?死者の記憶視て、遺言を告げる?それとも、犯人探し?または、記憶の復元?」
「違います」
「なら、記憶の消去、か?」
「いいえ」
庵の柔らかい否定に、零は暫し考え込んだ後で彼の顔を思い切り睨みつけた。
「俺に出来るのは、それだけだ」
「きちんと上からの許可状も貰ってきています。貴方には、ある男性に安らかな死を‥‥」
「断る!」
零は怒鳴るようにそう言うと、庵に背を向けた。
「待ってください零君。これは正式な上からの命令です」
「なら、上に突っ返しておけ!」
歩き去って行こうとする零の腕を掴むと、庵は絶対的な力で零を引き止めた。
「命令に背くことは許されません。貴方は依頼人に安らかな死を与えられる唯一の存在なのです」
「自殺幇助は真っ平御免だ!」
「彼は、放っておいても直に散って行くでしょう。それも、苦しみながら‥‥。彼は、不治の病に侵されているのです」
「苦しまないように、薬を打てば良いだろ!?何で俺なんだよ!」
「貴方の能力は、死の直前に最上級の幸せな記憶を見せてあげる事が出来る」
「あんなんは記憶じゃねぇ。ただの‥‥ただの幻だ!」
「それで良いのです。依頼主は、それを望んでいるのです。幻でも何でも、幸せなあの時に戻れるのならば‥‥」
長めの前髪、琥珀色のカラーコンタクトに隠された金の瞳。
その瞳は、過去視や記憶操作だけでなく、優しく残酷な幻を見せながら緩やかに人の命を奪う能力も持っていた。
≪映画『Golden Eye 呪われし瞳』募集キャスト≫
*零(ゼロ)
華奢で低身長、伏せ目がちでどこか危うい雰囲気
外見年齢は14〜18程度
金瞳を嫌っており、長い前髪と琥珀色のカラーコンタクトで隠している
表面上では俺様で人使いが荒いが、内心は繊細で優しい
依頼人に対しては敬語を使うが、それ以外の者には基本的に使わない
『俺』『お前』
*男性
不治の病に侵されており、安らかな死を望んでいる
外見年齢20以上
*優(ゆたか)
男性の息子、または弟で零と同い歳程度
高身長で常にふにゃりと笑っている。ボケっとした雰囲気
天然でお馬鹿だが、力が強く、やる時はやる人
外見年齢16〜20程度
零の雰囲気に惹かれ、友達になりたいと思っている
『僕』『〜さん』(零は零君、最終的には呼び捨て)
・庵(いおり)
高身長で優男風、いつも白衣を着ている
外見年齢20以上
零に依頼を持ってくるが、彼が普段何をしているのかは謎に包まれている
政府の秘密機関の所長、医者、研究員、弁護士、占星術師などなど、聞けば毎回答えが違う
『私』『〜さん』(零は零君)
その他
・男性の家族
・男性の友人
・優の友人 など
*零の家族は既に他界しています
≪シーン≫
・出会い
男性の家へと到着する零
優と出会う→優が一方的に零の雰囲気に惹かれる
話しかけようとするが、そっけなくあしらわれる
・甘美な死
優しく残酷な幻に微笑みながら散っていく男性
望まれたからとは言え、己の能力によって殺めてしまった1つの命に落ち込む零
・零と優
落ち込む零に声をかける優だったが、放っておいてくれと冷たく言われる
今にも壊れてしまいそうな危うい零の雰囲気に放っておけない優
お前に俺の気持ちなんか分からないと言われ、しゅんとなる優
・友達
何も言わずに去っていこうとする零を引き止める優
急いで家の中に取って返し、荷物を纏めて出てくる
→気持ちは分からないけれど、放っておけない。それなら、零の気持ちが分かるまで傍にいる
突拍子もない発言に断固拒否の零だったが、なんとしてもついてくると言い張る優
→ぜってー俺の邪魔だけはするなよ
折れる零。盛大な溜息をつきながら、優の存在に少しだけ癒される零
●リプレイ本文
白いテーブルの上に広げられたタロットカードの上を、細い指が滑る。戸惑うように止められた指先が、ゆっくりとカードを開く。死神が巨大な鎌を持って不気味に微笑んでおり、次のカードには愚者が楽しそうに道を歩く姿が描かれていた‥‥
上への報告のためにと同行を申し出た庵(星野・巽(fa1359))に思い切り嫌な顔をして見せた零(千架(fa4263))だったが、庵が車を取ってくると少しだけ態度を和らげた。
「零君、左瞳の調子はどうです?」
「別に」
ハンドルを軽快に捌きながら、世間話でもするような調子で言葉を投げかける。次から次へと繰り出される『能力者に対する質問』に不機嫌になっていく零。
「どうせこれからお前の前で力使うんだから、自分の目で確かめろよ」
「真剣な零君の顔は魅力的ですからね、どうしても仕事の話をしたくなるんです」
「つまり、嫌がらせしてるってわけだな。‥‥お前にソノ真剣な顔向けてやろーか?」
「嬉しいですねぇ。愛の告白ですか?‥‥さぁ、着きましたよ」
車が緩やかにスピードを落として行き、零がドアを開ける。庭に立ち、ジっと家を見つめる零の背後を智弥(氷咲 華唯(fa0142))が通り過ぎる。一瞬だけ零を見た後で、隣家の玄関へと吸い込まれて行く。零が木の扉をノックしようと右手を上げた時、庭の隅から優(玖條 響(fa1276))が姿を現した。
「初めまして。お客様だよね?案内、しようか?」
「貴方は空さんの弟の優さんですね?初めまして、私は庵、こちらは零と申します」
後ろから追いついてきた庵が人の良さそうな笑みを浮かべ、右手を差し出す。
「あの、ご職業は‥‥?」
「零君のお抱え運転手です」
にっこりと微笑む庵と、白衣に首を傾げながらも納得の表情を浮かべる優。中に入って下さいと言って扉を大きく開け放ち‥‥
「もしかして零君って‥‥」
不思議な雰囲気を身に纏った零に惹かれ、何とか話しかけようとする優だったが、零は冷たい琥珀色の瞳をチラリと向けただけで、無言で優の前を通り過ぎた。
戸口から聞こえた微かな音に、梨(美森翡翠(fa1521))は握っていた空(宮坂 冴(fa5592))の手を離すと振り向いた。目が悪い彼女は、伏せたままの瞳をジっと零と優に向け、雰囲気を読むと肩の力を抜いた。
生気のない瞳で天井を見つめていた空がゆっくりと零に視線を向け、微かに瞳を和らげると梨の頭をそっと撫ぜた。梨がそれを合図に立ち上がり、優の背後に回るとギュっと服の裾を掴む。
「どうして、俺を呼んだ?」
「最後に、夢を見たいから。‥‥どうせ治らないんだ。いつ死が訪れてもおかしくはない。その覚悟は出来てるんだ‥‥」
「逝ってらっしゃい」
「お兄様、お元気で」
優と梨の言葉に軽く頷く空。零が苦々しい表情で左瞳を押さえ‥‥
「さぁ、零君。お仕事の時間です」
「‥‥っ、分かってる‥‥!」
長い髪を掻き上げ、左瞳に入っていた琥珀色のコンタクトを外す。鮮やかな金の瞳を空の瞳と合わせ、ジっと覗き込む。
空の瞳に、美しい南国の世界が広がっていく。暖かな風、どこまでも続く広い海。『元気になったら自由に外へ行きたい』彼の切なる願いは、叶えられた。身体は羽のように軽く、痛みは全くない。走れば身体に絡みつく風が優しく、空は穏やかな笑みを浮かべていた。
「‥‥逃げて、これで満足かよ」
絞り出すように言葉を紡ぐ零。道具にされた怒り、解放された空への羨ましさ、どす黒い感情が渦巻き、冷たい瞳で空を見下ろす。
無表情でその光景を見つめていた優が零の隣に立ち、柔らかい笑顔を浮かべて肩を叩く。梨が空の手を組み合わせ、そっと頬に触れた後で零に向き直り、頭を下げる。
「空お兄様の願いを叶えていただいて有難う御座いました」
「ごくろうさん♪」
軽く言って零の頭をポンと叩く庵。零が鋭く庵を睨みつけ、庵が首を竦めると部屋から出て行く。彼とすれ違う形で、敏腕弁護士であり空の死後に幼い妹と弟の後見人となるよう任された誉(蘇芳蒼緋(fa2044))が入ってくると、空のベッドへと駆け寄った。
「空!‥‥なぁ、空、寝てるだけだろ?目、覚ませよ‥‥」
安らかな笑顔を浮かべた空の頬を撫ぜる誉。暫く空の顔を見つめた後で、ゆっくりと手を引っ込めると立ち上がった。誉の視線に含まれる感情を敏感に感じ取った梨が顔を上げ、袖を引っ張る。
「誉さん、違います!これは空お兄様の望んだ事。零さんは何も悪くないのです!」
首を振り、何とか怒りを治めるように訴えかける梨だったが、誉の視線は相変わらず鋭かった。
「お前さえ‥‥お前の存在さえ知らなければ‥‥空は‥‥!!」
彼が零に向ける視線は、決して特別なものではなかった。むしろ、それが『普通の反応』だった。
(‥‥いくら望まれた事とは言え、結局俺はただの殺人者でしかない‥‥か)
目を伏せ、自嘲気味な笑みを口元に浮かべると、部屋を出て行く。誉がいつか必ず法の場で‥‥と心に近い、梨が零の背中を見送った後で、無言で涙を零すと空の手に縋りついた。
「あの、有難う‥‥空の願い聞いてくれて。空、幸せそうな顔してた。零君のお陰だね」
優しい感謝の言葉ばかりを言う優に、零は拒絶の瞳を向けた。
「お前、分かってるのか?俺は、お前の兄貴を殺したんだぞ?」
「それは‥‥」
「俺は今、1人になりたいんだ。ついてくるな」
「でも、零君が悲しそうだから心配で‥‥」
寂しげな笑顔‥‥零は舌打ちをすると、優に背を向けた。
「余計なお世話なんだよ。放っとけよ」
「だけど‥‥」
「お前に‥‥お前に俺の何が分かるってんだよ」
前髪越しの金色の瞳が、苦痛に細められる。今にも泣き出しそうで、今にも脆く崩れ落ちてしまいそうで‥‥危うい場所で踏みとどまっている零に手を伸ばしかけ、慌てて引っ込める。
零が背を向け、歩き始める。優はその背中をしゅんと肩を落としながら見つめていた。
「先輩、空さんは‥‥?」
玄関前のステップに腰を下ろし、零の事を考えていた優の前に皐月(倉橋 羊(fa3742))と智弥が立つと心配そうに顔を覗き込んだ。優が無言でただ首を振る。
「そうですか、でも、空さんの望んだ事ですから」
皐月が見た目の割りに大人な意見を述べ、智弥が優の肩をそっと叩く。扉がゆっくりと内側に開き、顔を上げれば零が不機嫌そうな顔で立っていた。左瞳には琥珀色のコンタクトがはめられ、長い前髪が瞳を隠している。
「もう、行くの?まだもう少しいれば?」
「その必要はない」
そっけない態度のまま歩き出す零。遠ざかる背中を見つめながら、優が決心したように顔を上げると家の中に飛び込む。突然の事に驚きながらもその背中を追う皐月と智弥。優が箪笥を開け、バッグの中に洋服を詰め込んでいく。
「どうした‥‥?」
「優お兄様?」
誉と梨が困惑の表情で優の行動を見つめる。優がパンパンになったバッグを肩にかけ、立ち上がると真っ直ぐな瞳を誉と梨に向けた。
「僕、零について行く」
「奴について行く!?馬鹿な真似はよせっ!!正気か!?」
「おい、優‥‥」
智弥の言葉に首を振る優。決して揺るがない決心なんだと瞳だけで伝える。
「俺は君達を護る。全てのものから。それが後見人としての役目であり、空の願いだ」
「僕は‥‥」
「‥‥行ってらっしゃいませ、優お兄様。空お兄様と同じように、お兄様の人生ですから。ご自分の意思を大事になさってください」
梨が晴れやかに微笑み、優がそっと妹の小さな頭を撫ぜる。
「人間同士の関わりなんて、なるようにしかなりませんよ。その時に正しいと思う道を自分で選び取っていくしかない。今は、先輩がどうしたいか、それだけです」
皐月の言葉を受け、智弥が優の肩を叩く。
「2度と会えないわけじゃない。優の気が済むようにしてくれば良い」
「なぜ‥‥何故君達は受け入れるんだ?あいつが‥‥空がこうなったのも全部‥‥」
「空お兄様の意志です」
梨がキッパリと言い放ち、優が梨を振り返ってから駆け出す。赤いレンガの敷かれた道を疾走し、零の背中を見つけると速度を上げる。
「待って!!僕も一緒に行く!」
零に追いつき、腕を掴む優。
「は!?ふざけんな!放せよっ!!」
突然の展開に驚きながらも、手を振り解こうともがく。だが、優の力は零のそれよりも遥かに強い。
「零の事、確かにまだ分からない所も多くあるけど‥‥惹かれてるし、もっと知りたいって思ってる。だから零の事全部分かるまで、一緒に行くよ」
真剣な表情で気持ちを語る優に唖然とする零。それでも、ダメだと拒絶の言葉を吐き出そうと口を開き‥‥
「ダメって言っても、どんな事してでも絶対についてくから!!」
「‥‥‥‥‥‥ぜってー、俺の邪魔だけはするなよ」
呆れて盛大な溜息をつきながら、チラリと優を見上げる零。優の顔がパァっと輝き、零に抱きつく。
「有難う零〜!!」
「ひっつくな!熱い、ウザイ、気持ち悪い!」
「ひ、酷いよ零〜」
「‥‥お前、妹は良いのかよ!?」
「うん、行ってらっしゃいって言ってくれたし‥‥」
「はぁ、妹も変わってんだな‥‥」
「あれ?それより運転手さんは?」
「あいつは運転手じゃねぇっ!!真に受けるな!」
騒ぎながら去って行く2人の背中を眼下に見ながら、梨がタロットカードを開いていく。
「彼の存在がどのように影響を与えるのか、楽しみですねぇ」
「庵さん‥‥」
「あぁ、続けてください。梨さんの占いはよく当たりますから‥‥」