Schlecht Nacht Einsアジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
宮下茜
|
芸能 |
3Lv以上
|
獣人 |
2Lv以上
|
難度 |
やや難
|
報酬 |
7万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
05/26〜05/29
|
●本文
黒のコートを羽織り、左手に持った拳銃をそっと仕舞う。
ポケットの中から煙草を取り出し、火をつけると紫煙を吐き出す。
「本当、時間に正確だよね」
背後から聞こえた声に振り向けば、黒のロリータ調のワンピースに身を包んだ少女が1人、ゆっくりと彼の隣に並んだ。
「お前は毎回1分遅れてくるな」
「正確に来ようとはしているんだけどね」
頭の高い位置で結んだ2つの髪束が、彼女が首を振るたびにゆるゆると動く。
「それにしても、毎回思うけど黒(シュヴァルツ)って地味な服装してるよね」
「目立つ必要があるか?」
黒のシャツに、黒のネクタイ、黒の靴に、黒のズボン。
瞳も髪も、黒。ただ、肌の色だけが目も覚めるような白色だった。
「まぁ、私も人の事言えないけどね」
白(ヴァイス)が自身の格好に視線を落とす。
黒のワンピースは丈が短く、足元はニーハイソに黒の靴、髪を縛るリボンすらも黒だ。
背中に背負っているウサギのリュックも黒‥‥
「お前は髪と瞳が目立つな」
「仕事の時はカラコン入れて、髪染めてるんだから良いでしょ?」
頬を膨らませた白の瞳は、鋭い赤。髪は鮮やかな金色で、真っ白な肌にへばりついて靡いていた。
「大体、髪が長すぎだ」
「私の勝手でしょ」
腰元まで伸びた金色の髪を染めるのはそれなりに大変だった。毎回手伝わされている黒が文句を言うのも仕方の無い事かも知れない。
「で、今日の仕事は?」
白の言葉に、黒が煙草の先で足元に見える大きな建物を指し示した。
「あそこに、とある会社の社長の子供が監禁されてるらしい」
「ふーん。それって男?女?」
「さぁ」
「さぁって、そんなんで大丈夫なわけ?」
「縛られてるヤツがいたら、ソイツが助けるべき相手だ」
「いなかったら?」
「中からは開かないような部屋に閉じ込められてるヤツ」
「アバウトすぎー!」
「文句を言うな。上からそれだけしか情報が流れてこなかったんだ」
「で?勿論、そんな地味で退屈な仕事ばかりじゃないんでしょ?」
「監禁されてるヤツを助けるのは地味で退屈な仕事か?‥‥まぁ、分かってるとは思うが、一発派手なモンも仕事の中に入ってるぜ?」
「あの建物全部爆破するとか?」
「はっ!そりゃすげーな。‥‥それほど派手な事はしなくて良いが、まぁ、あの会社のトップの始末と少々派手に内部を荒らして来いとさ」
「向かってくるヤツらは勿論?」
「その先は言わなくても分かってるだろ?俺らが無事にあの建物から出さなくちゃなんねーのは、社長のガキだけだ」
白が不敵な笑みを浮かべ、黒ウサギのリュックを地面に下ろす。
「ってゆーか、社長のガキって言うけど、本当にガキなわけ?」
「さぁな」
「‥‥まぁ、あんまり子供じゃない方がやりやすいけどね」
リュックの中からポーチを取り出し、黒のカラーコンタクトを瞳にはめた。
≪映画『Schlecht Nacht Eins』募集キャスト≫
*黒(シュヴァルツ)
高身長で全身黒づくめ。実年齢不明(外見年齢18〜38程度)
運動神経良し、銃捌きも見事なもの。無愛想で冷酷だが、子供と動物には優しい一面も
ぶっきらぼうな言葉遣い。主な使用武器は拳銃
*白(ヴァイス)
低身長で全身黒づくめ。自称15歳(外見年齢14〜18程度)
運動神経良し、銃捌きも問題はない。愛らしい外見の割りに残酷で派手好き
少し荒い少女口調。主な使用武器はナイフ
*修(おさむ)
誘拐されている社長の子供(外見年齢20以下)
*恒(ひさし)
会社トップ(外見年齢25以上)
*恒の会社で働く社員
→外見年齢20以上が望ましい
・恒の家族
・社員の家族
●リプレイ本文
仕立ての良いスーツに袖を通した恒(瑛樹(fa5407))は部屋の隅で膝を抱える修(倉瀬 凛(fa5331))を冷たい瞳で見つめると、秘書の篁(笙(fa4559))と視線を合わせた。
「どうしてこんな事をするのですか?」
小声で呟かれた修の質問に、ただ無言の瞳を向けただけで、2人は重い扉を押し開けて部屋から出た。進(佐渡川ススム(fa3134))がボケっとしていた表情を引き締め、ピっと敬礼をする。
「逃げないように見張っておいてくれ」
「分かりました!」
「それから、彼に食事も‥‥いや、なんでもない」
ゴホンとわざとらしい咳払いをし、首を振る恒。キョトンとする進をその場に残し、篁と2人、社長室へと足を向けると革張りの大きなソファーに腰を下ろした。
「人を呪わば穴2つ‥‥か」
「息子も哀れなものですね。父親の業の為に此の様な目にあうとは」
「あの子を見ていると、由樹を思い出す」
「社長の弟さんですね。お写真で何度か拝見した事があります」
「顔など、そっくりだとは思わないか?‥‥ふっ、あの男の息子を己の弟に重ねて見ると言うのもある意味では愚か‥‥だな」
ギシリと椅子を鳴らしながら、深く背もたれに体重を預ける。
「あの男さえいなければ、由樹ももう二十歳になっているのか」
デスクの上に置いてある写真たてに収められているのは、幸せだった頃の恒と両親、そして5つ年下の弟が映った写真だ。皆が笑顔で写真に写っており‥‥まさかこの数ヵ月後、恒以外の全員が修の父親・孝仁の手によって葬られようとは、誰が予想しただろうか?
「恒様の苦しみも、ご家族の無念も、これでやっと‥‥」
「なぁ、篁。お前はあの子供をどうすれば良いと思う?」
「息子の命と引き換えに、あの男が過去の真相を公にするよう拒めぬ策は既に整っております。後は実行の時を待つのみ‥‥息子は‥‥我々の顔を見ております故、消すのが一番良い方法とは思います。しかし、恒様のお望みはそうではない」
「‥‥あぁ」
「無事に家に帰すのが良いかと」
「そう‥‥だな」
恒が頷いた時、突然階下から爆発音が轟いた。何事かと緊張する恒の前で、デスクの上に置かれていた内線電話が赤いランプを発する。
「今のは何事だ?‥‥そうか‥‥あぁ‥‥あぁ、分かった。そこで止めてくれ」
「何事ですか?」
「何者かが侵入したらしい。爆弾で扉を吹き飛ばすとは、随分派手だな。とりあえず、あの子供を別の場所に移動させるように指示を」
「分かりました」
篁が素早く番号を押し‥‥何の反応もない受話器をデスクの上に投げ出すと、首を振った。
「まさか‥‥」
「あ〜あ、これって絶対犯罪の片棒担いでるよなぁ。結構清くまっとうな人生生きてたはずなんだけどな」
進はそう呟くと、胸に抱えた弁当とお菓子に視線を落とした。白いビニール袋の中から覗く数種類のお菓子に、修の顔を思い浮かべる。
「これ食ってちったあ元気出してくれればいいんだけどな。‥‥まぁ、そんな子供ってわけでもないかね」
苦笑しながらペットボトルのお茶を口に含み‥‥突然の爆発音に、勢い良くお茶を吹き出す。
「い、今のはなんだ!?」
口の端から顎にかけて垂れたお茶を袖でぐいと拭い‥‥すっと、後ろから何者かに口を塞がれ、廊下の端へと引きずり込まれる。
「お前、息子の居場所を知ってるな?」
「面倒は嫌いなの、さっさと居場所を喋った方が利口よ」
口元を押さえていた手が放され、振り向けば黒(烈飛龍(fa0225))とナイフを手にした白(夏姫・シュトラウス(fa0761))が立っていた。ナイフの銀色の刃が天井から降り注ぐ蛍光灯の明かりにキラリと光り‥‥進がゴクリと喉を鳴らす。
「た、頼む。殺さないでくれ!」
「だったらさっさと言ってよ。時間がないのよ、こっちは」
「わ、わかった。いいい、言うからナイフを引っ込めてくれよ?」
白が持っていたナイフを下ろし、進が安堵の溜息をつくと一気に修のいる場所を喋る。もうこれで自分の役目は終えたとばかりに、2人に背を向けて走り出し‥‥白が下ろしたナイフをすっとその背中へと投げつける。ナイフは正確な直線を描いて進の首を切り裂き、鮮血が廊下に飛び散る。
「なん‥‥で‥‥‥‥?」
「私ね、約束を守らない女なの。毎回約束の時間には1分遅れて来ちゃうしね」
「お前の場合、守る努力をしないからな」
黒が冷たいツッコミを入れ、セキュリティ管理室の扉を蹴り開ける。部屋の隅で丸くなっていた修が顔を上げ、近付いてくる2人に「ひっ」と息を呑む。怯えた視線を伏せ、耳を塞いで固く縮こまり‥‥
「おい、お前は孝仁社長の息子、修で間違いないな?」
黒の言葉に、こくこくと頷く修。
「やっぱガキってほどガキじゃないじゃん」
「そう怖がらなくて良い。俺達はお前を助けに来たんだ」
「そうそう。あんただけは何があっても傷付けないから、そんな怯えなくて良いよ」
白が優しく修の頭を撫ぜ、黒がポケットの中から淡い桃色の飴玉を取り出すと修の口の中に放り込む。一瞬驚いて吐き出そうとした修だったが、優しい味にふっと表情を緩め‥‥目を伏せるとぐったりと壁に背中を預ける。
「‥‥黒?」
「ただの睡眠薬入りの飴だ。依頼主の大切なご令息に、人殺しの現場を見せられるとでも思ってるのか?」
黒の言葉に、白は少しだけ首を竦めると漆黒に染めた髪を背に払った。
「B、仕事の時間だ」
静かに響いた恒の声にB(ティタネス(fa3251))は寄りかかっていた壁から身体を離すとサングラス越しに目を細めた。
「任せな」
ニヤリとBが口の端を上げた瞬間、扉が内側に乱暴にこじ開けられた。黒が室内に颯爽と駆け込み、Bがホルスターから銃を抜き出すと構える。恒と篁がその隙に部屋から出て行こうとして‥‥扉の影に隠れていた白がナイフを篁へと投げつける。篁が力なく恒の足元に跪き、白が恒めがけて投げようとしたナイフを撃ち落とすB。
「しっかりしろ‥‥!篁!」
「私の事は、構わず‥‥お逃げ下さい、恒‥‥様‥‥」
「くそ、まさか2人もいるとは‥‥どうしてこんな事に‥‥」
嘆く恒に首を振り、早く逃げろと鋭い視線を向ける篁。何とか彼も一緒に部屋から運び出そうとするが、どうにも上手く行かない。鮮血が床を染め上げ、恒の手を赤く色づける。悔しさに唇を噛みつつも、恒は篁に背を向けて走り出した。
その様子に白が舌打ちし、Bの銃弾を受けてスカートに穴が開く。黒が銃を構え、白がナイフを投げつけ‥‥するりと攻撃をかわすB。
「もしかして、あんたたち白と黒?一度手合わせ願いたいと思ってたんだよね」
「俺もアンタの事は聞いた事あるぜ。まさかここの会社に雇われてたとはな」
「時給が驚くほど良くてね」
白がナイフを右手の人差し指と中指の間に挟み、黒に何かを言いた気な瞳を向ける。黒が拳銃を構えて小さく頷き‥‥白がBの顔めがけてナイフを投げ、それを避けたB目掛けて銃を撃つ黒。防弾チョッキが銃弾を防ぐが、衝撃に少しだけ動きが鈍る。その隙を逃さずに白がナイフを3つ同時に投げて更にBの動きを限定し、黒が懐から小型の爆弾を取り出すとBに投げつけ、部屋から脱出した。
「‥‥俺は、苦しませるような無慈悲なマネはしたくない。だから、そこから動かないでくれると助かるな」
背後から聞こえた声に、恒はふっと微笑むと振り向いた。
「どうして逃げなかった?」
大きな月が頭上で恐ろしいほどに美しい光を放つ。静寂の夜、風が恒の銀色の前髪を揺らす。
「屋上からどうやって逃げれば良いんだ?」
「こういう時に備えて何かしらの策を講じているだろう?」
「まさかこんな物騒な連中が客としてくるとは思わなくてな」
恒と黒が視線を合わせ、ふっと微笑むと黒が白に合図を出した。白がコクリと頷き、長い髪を靡かせながら階下へと走って行く。
「爆弾でも仕掛けたのか?用意周到だな」
恒がクスリと微笑み、黒が銃をホルスターから抜くと照準を合わせる。ゆっくりと引き金を引き‥‥倒れ込んだ恒を暫し見つめた後で走り出す。
「苦しませるような‥‥無慈悲なマネ、してる‥‥じゃねぇか」
まだ息のあった恒がゴボリと鮮血を吐き出し、肩で荒い呼吸を繰り返す。
「俺も、ここまで‥‥か‥‥」
安堵と苦笑、どちらにも取れる表情で呟き、ふっと瞳を閉じる。今までに起こったことが走馬燈のように蘇り‥‥ジャリっと、砂を踏む音に重たい目を開ける。
「まだ何もしてねぇうちから逝ったところで、果たして歓迎されるかね?」
ザンバラの長髪に白いコートを着たR(茜屋朱鷺人(fa2712))が脇に抱えた黒いバッグの中から手術道具を取り出すとニィっと口の端を上げる。
「俺なら、お前を助けられる。金さえ出せば、だがな。‥‥どうする?」
「‥‥死んだ人間が復活する‥‥か、面白いな」
「交渉成立、だな‥‥」
髪が痛むからと早々に撤退した白とは違い、黒は修が目を覚ますまでじっとその場で待っていた。目覚めた修はまず、眼下に見えていた建物の無残な様子に目を見張り、固い表情で黒から携帯電話を受け取ると父親へ報告をした。
『そうか、お前が無事なら良かった‥‥ならもう、ヤツラは用済みだな』
「うん、そうだね」
口元に微かな笑みを浮かべ、修は終話ボタンを押すと黒へ電話を返した。
「父が、お2人にお礼を言っていました。『正式な御代』は、また後日と‥‥」