闇夜に迫る少女の声アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
宮下茜
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/30〜06/02
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●本文
新しい家に引っ越す際に捨てた1体のお人形。
ジっと見つめる青色の瞳にお別れを言うと、ゴミ捨て場に背を向けた‥‥
新しい家に住み移り、最初は気がかりだった人形の事を忘れかけた頃、突如1本の電話が少女の部屋に鳴り響いた。
『もしもし?』
『あたし、メリー。今ゴミ捨て場にいるの』
甲高い声はひび割れており、少女の背筋に冷たいものが走る。
誰かの悪戯だろう。そう思いつつ、受話器を置く。
受話器から手を離し‥‥突然の呼び出し音にビクリとしながらも、おずおずと手を伸ばす。
『あたし、メリー。今駄菓子屋さんの角にいるの』
恐怖に駆られながらもカーテンを開け、窓の外を見る‥‥しかし、誰の姿もない。
終話ボタンを押し‥‥再びの呼び出し音に、反射的に通話ボタンを押す。
『あたし、メリー。今あなたの家の前にいるの』
だっと駆け出し、玄関のドアを開ける。暗闇が支配するソコには、誰の姿もない。
握ったままだった受話器がけたたましい呼び出し音を鳴らす。
少女は恐怖のあまり、通話ボタンが押せずにいた。
1コール・2コール・3コール・4コール・5‥‥プツリと勝手に通話状態になる電話。
『あたし、メリー。今、あなたの後ろにいるの‥‥』
どこの学校でも、噂話の1つや2つはある。
小学校から高校までを同じ敷地内に有するココ、海瑚学園にも幾つかそう言う話がある。
その中の1つに、この学園は墓地だった場所に建てられていると『噂』がある。
‥‥そう、ソレはただの噂であるべきだった。事実無根の、生徒達が自由気ままに作り出す嘘であるはずだった。
しかし、この学園の土地は以前‥‥墓地だったのだ‥‥
この学園の名前は海瑚ではない。本来は、怪呼と書くべきであったのだ‥‥
その事実を知っているのは、学園内でもごく一部の者のみだ。
3階の北側、一番端の小さな部室に集まる者‥‥怪呼学園秘密結社倶楽部のメンバーのみが知る事であった。
しゃっくりが38回、しゃっくりが39回‥‥
「英の寿命は後しゃっくり61‥‥あー、もう後60回分だわー」
「んな‥‥っく、馬鹿な話が‥‥ひっく、あるかってんだ‥‥っく!」
「ほら、水飲んで。多分止まるから」
怪呼学園秘密結社倶楽部部長の萌が、腰まである緩いウェーブがかった髪を背に払う。
整った愛らしい横顔が夕日に照らされ、黙っていればモテルだろうにと思いつつ、英は有難く水の入ったコップを受け取るとゆっくり飲み干した。
「っはー、落ち着いた」
「しゃっくりって息苦しくなるからイライラするのよねー」
「ああも続くとな」
「‥‥続く、イライラすると言えば‥‥英、最近うちの学園で話題になってる迷惑悪戯電話って知ってる?」
「さぁ?どんなんだ?」
「あたし、メリー。今どこどこにいるの〜ってわざわざ電話かけてくるんだって!」
「‥‥そ、それって‥‥」
英がゴクリと喉を鳴らす。
「そう!ストーカー迷惑悪戯電話!」
「はぁ!?」
まったく、迷惑なのよねーと言いつつ溜息をつく萌と、突然の突拍子もない単語に面食らう英。
「そもそも『あたし、メリー』って、知った事かっつーの!オメーの名前なんて知りたくねぇんだよ!」
「いや、ちょ、待てよ萌。落ち着けって」
「毎回毎回最初に言う事は『あたし、メリー』って、さも知り合いみたいなフレンドリーなこの態度!数分置きに電話してきてんだから、毎回名乗るなよ!イタ電のくせに!」
「おい、萌!?」
「さらには『ゴミ捨て場の近くに居るの』って、知った事か!!オメーの母親じゃねぇんだ、いちいち居場所伝えなくて良いっつーの!!」
「だから、それって都市伝説の‥‥」
「極めつけは『今あなたの家の前にいるの』だって!紛れもないストーカーじゃん!危ない人じゃん!」
萌が腹立たしげにそう叫ぶと、鞄の中から1枚の紙を取り出した。
『メリーさんの電話:金曜日の23:44』そう書かれた紙を英に突きつける。
「って事は、今日の夜中の11時44分に萌の所に電話が来るって事なのか?」
「そう!ぜぇーーーったいこのストーカーイタ電女をとっ捕まえてやるわ!英、部員に連絡を入れて!」
「あ、あぁ‥‥」
携帯電話を引っ張り出してアドレス帳を検める英の隣で、萌が真剣な声色でポツリと呟く。
「‥‥イタ電に遭った子達、ここ数週間休んでるの。どうやら、コレは人の仕業ではなく怪の仕業みたい。だから、部員には気を引き締めるように言って」
「怪の仕業‥‥」
「これ以上被害者が出ないためにも、ここで食い止めるわ。‥‥ストーカーイタ電女なんかに負けないんだからねっ!!」
≪映画『闇夜に迫る少女の声』募集キャスト≫
*萌(もえ)
外見年齢14〜18程度
怪呼学園秘密結社倶楽部の部長
海瑚学園理事長の孫だが、周囲には特に言っていないため、英すらも知らない
→秘密にしているわけではないので、問われれば答える
小学校は普通の公立だった
腰まである緩いウェーブの髪をしている
『私』『呼び捨て』
*英(はなぶさ)
外見年齢14〜19程度
怪呼学園秘密結社倶楽部のメンバー
萌の幼馴染で、ツッコミ気質
『俺』『呼び捨て』
*メリー
普通の人間ではなく、怪そのもの、もしくは怪に憑かれた人間
年齢は不問、性別は女性
・怪呼学園秘密結社倶楽部の部員
→外見年齢6〜20程度まで
・萌の家族
●リプレイ本文
「ここが部長の家ね、初めて来たよ」
黄色い道服姿の陽(青雷(fa1889))が室内を見渡した後で持ってきた法具の中から八角形の鏡・照魔鏡を取り出すと、これで怪の正体が分かると言って萌(角倉・雨神名(fa2640))に差し出すが、適当にそこら辺に置いといてと素っ気無い。
「徐々に近付いてくるなんて『だるまさんが転んだ』みたいですよね。振り向いたらすぐ後ろに‥‥」
ブルリと震える渓(倉瀬 凛(fa5331))気弱な彼は、こういう話に滅法弱い。
「なぁなぁ、メリーって『メリーさんの羊』のメリーと違うん?それやったら、うち羊が喋るもんやて知らんかったわー」
空(橙瓜(fa5735))が明るい声でそう言って、英(氷咲 華唯(fa0142))が休んでいる生徒の様子を報告するのを一旦止め、空に気のきいた突っ込みの言葉をかけようとするが、萌に先を促されて断念する。
「しかし萌にそんな電話をする方もする方だよな」
「うちの部長、三国志で天下取れる位の豪傑ね。英、俺の占いだとあなた部長の尻に敷かれる宿命ね♪」
陽がご丁寧に忠告をしてくれるが、もう遅い。既に尻に敷かれてペシャンコになってしまっている。
「メリーさんなんて、そんな変なのはただのイタズラに決まってんだろ!何だったら俺がボコボコにしてやるよ」
萌の弟の勇(月岡優斗(fa0984))がシャドーボクシングをしながら名前に負けない勇ましい事を言い‥‥萌に鼻で笑われる。姉弟として長く一緒に暮らしていると、彼の性格もきちんと心得ている。つまるところ、彼は実の姉とは違って、そんな威勢の良い豪傑ではないのだ。
時計の針が予定の時間に合わさり、緊張が走る。誰かがゴクリと喉を鳴らした時、呼び出し音が響いた。待っていても電話なんて来ない、ただの性質の悪い噂だと言い張っていた勇がビクリと肩を上下させ、部屋の隅まで後ずさりする。同じく渓も部屋の隅に飛びのき、涙目になりながら2人で手を握る。
そんな彼らとは違い、空はいたって明るかった。電話だ!と声を上げ、パァっと顔を輝かせる。萌が英と陽と顔を見合わせ、ゆっくりと受話器を持ち上げる。
『あたし、メリー。今ゴミ捨て場にいるの』
メリー(タブラ・ラサ(fa3802))の明るい声に勇が蒼白の顔で萌を真っ直ぐに見つめる。何かを言おうと口を開きかけた時、再び呼び出し音が響き、萌がすかさず受話器を上げる。
『あたし、メリー。今コンビニの前にいるの』
「もうコンビニの前だって。あと何分くらいで来るのかしら。てか勇、怖いなら‥‥」
「び、びびびってなんかねーよ!だ、だだだだけどちょっと体調が悪くて‥‥後は姉ちゃん達に任したから!」
矢継ぎ早にそう言うと、隣の部屋へと駆け込む勇。派手な音を立てて扉が閉まり、ベッドに潜り込んだらしい衣擦れの音がする。一瞬の静寂の後に、薄い壁越しに聞こえてきたのは「電話怖い、電話怖いよぉ‥‥」と言う、なんとも情けない声だった。
「可愛いでしょ、うちの弟」
萌が複雑な表情でそう言った時、再び電話が鳴った。
『あたし、メリー。今駅の前にいるの』
「え!?ちょ、待っ‥‥」
驚いた萌が声をかけようとするが、相手は既に切った後だ。
「どうして!?何で駅前まで戻ってるの!?」
不可解なメリーの行動に嫌な沈黙が流れる。近付いては遠のく、まるでジワリジワリと恐怖を与えているかのような‥‥呼び出し音に思わず躊躇する萌だが、取らなければ仕方が無い。緊張しながらも受話器を上げる。
『あたし、メリー』
そこまで言って止まる声。先ほどまでとは違った雰囲気に、張り詰める空気。
「何よ、どこにいるのよ!言っとくけどねぇ、私は貴方なんて全然怖く‥‥」
『あたし、メリー。今、道に迷ったの。あなたのお家どこー?』
今にも泣き出しそうな声に脱力すると共に、萌は電話の向こうに怒鳴った。
「事前にちゃんと調べてから電話かけて来い!!」
方向音痴メリーに丁寧に場所を教えた後で電話を切った萌。教えなくても良いのではないかと言う渓に、萌は首を振った。今メリーを止めなければ、また被害者が出る可能性がある。
『あたし、メリー。今、あなたの後ろにいるの‥‥』
玩具の携帯を片手にすーっと入ってきたメリーに渓が意味不明な叫び声を上げ、陽が結界を展開させようと動き出すのを萌が制する。
「この萌様の背後を取ろうなんて、甘いのよ!」
パサリと天井から降ってきたネット。そこにはしっかり御札が貼られている。
「現実はね、御伽噺のようにはいかないのよ。さぁ、理由を聞かせてもらうわよ、場合によってはタダじゃ済まさないんだから!」
「そ、そうですよ。な、何故こんな事してるんです?」
渓が勇気を出して話しかける。金髪のメリーは暫し空虚な瞳を床に落とした後で、ゆっくりと口を開いた。
「あたしは、あたしを見つけて大事にしてほしかっただけなの」
「貴方、本当はどこにいるの?」
まだ熱っぽい口調ながらも、萌はメリーの瞳を覗き込んだ。
「あたし、メリー。ここは暗くて、息苦しいの‥‥」
ふっと消えた姿。どうやら苦しんでいるらしいメリーを何とか救えないものかと英が提案しようとした時、萌が彼のポケットから携帯を抜くとどこかに電話をかけ始めた。
「助っ人を呼ぶの。こう言うのに向いてる人材、必要でしょ?」
「今回は別に俺の灰色の脳細胞を当てにせずとも大丈夫かと思えば、やはり俺様ナシではダメだったか!」
「五月蝿いわよ館山。少しは静かにしなさい。お口にチャック!」
俺は幼稚園児か!とツッコミたいのをグっと我慢すると、館山(森里時雨(fa2002))は萌から乱暴に手渡されたスコップに目を丸くした。
「まだこの近くにあると思うの」
「確かに、電話の始まりはいつもゴミ捨て場。だからメリーがここにいるかもって言うのは分かる。ただ‥‥」
「もう収集されて焼却されてるって可能性もありますよね」
「今は一生懸命探すしかないわよ。もしなかったらその時で、また別の案を考えましょ」
萌の言葉で各自がゴミ捨て場をうろうろと歩き始める。空が小声でメリーの名前を呼びながら探すが、何かに躓き、派手な音を立ててゴミ溜まりの中にダイブする。
「アイタタタ、すまへん、足元よう見とらんかったわ」
陽が苦笑しながら手を差し出し、館山がこのゴミ捨て場を利用した時に何か心当たりは無かったかと萌に質問を向けるが、彼女はただ首を振った。
「あら?これはラブレターかしら‥‥ちゃんと読んで供養してあげなきゃ」
足元から1通の手紙を拾い上げ、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる萌。英と館山がダブルツッコミをキメようとした時、渓が何かに気づくと顔を上げた。ガサガサとゴミ捨て場を漁る1匹の野良犬に視線を向け、犬が何かを咥えている事に気づく館山。
「ちょ、待てその犬!!」
どこかに走り去ろうとした犬に声をかけ、余計に驚かせてダッシュされる館山。萌が館山に対して悪態をつき、館山は犬に対して悪態をつく。犬はゴミの積まれた空き地に姿を隠し、必死になって探すうちに口に咥えていたものをどこかに隠し終えたらしく、一目散に走り去る。
「とにかく、探すわよ!特に館山!あんたは肉体労働要員なんだからしっかり働きなさい!」
萌に言われ、渋々動き出す館山。渓が必死に地面を観察し、何かを埋めたらしい場所を見つけた。柔らかくなった土を手で掻き分け、中から金髪のお人形を取り出す。
「見つけた」
その言葉に反応するように、暗がりからメリーがすぅっと現れた。人形をジっと見つめるメリーに、萌が暫く口を閉ざすと不意に「仕方が無いわね」と呟いた。
「私の所に来る?人形にも興味あるし、貴方をこのままにしたらまた同じ事を繰り返す可能性があるし‥‥で、でも、勘違いしないでよね!怪呼学園秘密結社倶楽部の部長としてって意味なんだから!」
「ありがとうなのー」
にっこり、微笑んだメリーに涙ぐむ渓。物にも命有り、安易に捨ててはいけないのだと呟く彼の隣では、空が羊ではなかったメリーに肩を落とす。
「さて、事件は終わったし俺は帰るね♪」
去って行く陽に手を振り‥‥渓が自分の身体を見て蒼白になり、ウルリと目に涙を溜める。
「こんな格好で家に帰ったらお母さんに叱られます‥‥」
「見つからないように家に入ってお風呂場で洗っちゃえばOKよ」
萌が悪魔の助言をし、メリーに手を差し出す。
「さぁ、帰りましょう。弟もね、人形好きで‥‥きっと仲良くできると思うわ」
貴方がメリーって知らなければの話だけど。心の中で付け加える萌。例え勇がメリーの存在に気づいても、仲良くするように言うつもりだ。未来の怪呼学園秘密結社倶楽部部長候補が、怪が怖いままではダメだ。
萌が渓から人形を受け取った時、不意に館山の携帯電話が軽快なメロディを奏で始めた。眉を顰めながらも通話ボタンを押し‥‥
「はぁ!?オレオレ、今ゴミ捨て場にいるんだぜ?なんの詐欺だボケっ!‥‥いや、待てよ。ゴミ捨て場!?」
ブツリと切れた電話に、館山がゆっくりと顔を上げる。薄っぺらい笑顔を浮かべながら、すでに後ずさりを始めている部員達。
「今度は俺が呪われる番デスか?」
「館山、幸運を祈る」
にへらと微笑み、駆け出す萌。それに続けとばかりに部員達が駆け出し‥‥
「待て!俺を見捨てたら、お前らのところに三本足のメリーが電話かけてくるからな!絶対だぞ!ちょ、待てって!部員を見捨てるのは‥‥待てぇぇぇっ!!!」