蒼月の事情4アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/31〜06/03

●本文

・物語り憑き
 それは、物語の登場人物達と触れ合う事の出来る、神秘の職業
 それは、親から子へ、子から孫へと受け継がれる伝統の職業
 それは、物語憑き本部からの指令により、日々物語の安全を守る、名誉ある職業


*蒼月家*

 物語憑き本部から届いた指令書にザっと目を通した岬は、蒼の横顔をチラリと上目遣いに見つめた。
 暫しジっと視線を固定した後で、手元の指令書に落とす。そして再び視線を上げ‥‥無言で数度繰り返す。
「岬ちゃん、俺様がカッコ良いのは知ってるけど、惚れられても、ほら、俺女の子のが好きだし」
「蒼さんなんかに惚れるくらいなら、ゴリラにプロポーズした方が数百万倍マシです」
「酷いや岬ちゃん‥‥ってか、え?ちょい待って。何、俺ってゴリラと同レベルなの!?それって酷くない」
「‥‥すみません。ゴリラに失礼でしたね」
「いやいや、待て待て。俺ってゴリラ以下!?」
「そんな事は置いといて、蒼さんって外見だけは色っぽい二枚目ですよね」
「なんだよ、やっぱり岬ちゃん俺の事‥‥」
「テメーのツラに見とれてたわけじゃねぇよ」
「岬ちゃん、口調が凶悪‥‥」
「蒼さんって、女性口説くの趣味でしたよね?決して上手くはないですが」
「趣味じゃないけど、一応女性には優しくと、紅斬から言われててな」
「その紅斬様から直々に指令書が届いてます。読み上げますが、良いですか?」
「あぁ」

『本日夕方5時、とある物語の登場人物の接待をする事』

「へ?接待?‥‥はっはーん、それが女の人なわけね?いーよいーよ、俺様にまっかせっなさーいっ!で、それって誰?シンデレラ?人魚姫?茨姫?それともアリスちゃん?」
「いえ、もっと北の方の人で‥‥」
「雪女ちゃん!?」
「おしいですね。雪女さんに、王がつきます」
「雪女に王?雪の女王‥‥」
「正解です」
 岬が指令書を蒼に手渡し、後は任せましたよと言って出て行こうとするのを引き止める。
「無理無理無理!だって、女王だぜ!?しかも、雪の女王だぜ!?噂に聞くところ、女王様だって言うじゃないか!」
「女王様で合ってますよ!だって、雪の女王ですもん」
「そうじゃない!そうじゃないんだ!俺は女王様は苦手なんだ!」
「あんた、その無駄な外見活かすところなんてホストくらいしかないんですから、せいぜい接待頑張ってくださいよ!」
「いやだぁぁぁ!!一人にしないで岬ちゃん!」
「僕なんかいても足手まといになりますって!僕は蒼さんみたいにフェロモン垂れ流してませんし!」
「大丈夫、岬ちゃん可愛いし!とにかく、俺と一緒に接待してくれ!」
「イヤです!」
「‥‥イヤとか言うと、無理やり女装させて写真撮りまくって町中にバラまいてやる」
 蒼が目を据わらせながらポツリと呟き‥‥あまりの真剣な面持ちに身の危険を感じた岬が、小さな溜息と共に「仕方がないですね」と呟いた。


≪映画『蒼月の事情4』募集キャスト≫

*蒼慈(通称:蒼)外見年齢21〜25
 高身長の色っぽい二枚目。いたってお馬鹿のボケ属性
 物語り憑き特殊部隊始まって以来の天才
 武器は木刀orプラスチック製の玩具の刀
 相手を無闇に傷つける事を嫌い、動きを封じて説得か、気を失わせて強制送還と言うスタイルをとっている

*時岬(通称:岬)外見年齢16〜20
 クールで落ち着いた雰囲気の少年。身長は普通。常識的でツッコミ属性
 武器は二丁拳銃。弾は3種類あり、状況にあわせて変えている
・結界弾:打ち上げ場所から半径1km以内の一般人や物を保護する
 →空に向かって打ち上げる
 →物語の登場人物が魔法や何かしらの特殊能力を使える場合に使用
 →物語り憑きや物語の登場人物、岬や蒼は結界に守られない(あくまで一般人のためのもの)
・捕縛弾:対象をネットで捕らえる
 →発射後、対象に当たる前に弾が破裂し、中からネットが飛び出して捕獲する
 →対象との距離が近いほど命中率があがる。遠いと逃げられる可能性有
・眠弾:対象やその周囲にいる人物を眠らせる
 →発射後、一定の距離を進むと弾が破裂し、中から薄い煙が出る
 →岬以外は例外なく全員、その煙を吸い込めば眠りに落ちる
 →通常は対象が風下に居る時に使用

*雪の女王
 冷たい美貌の女王様(外見年齢20以上)
 高飛車で我が侭、男好き。男は全て自分に傅くものだと思い込んでいる

・その他
・蒼と岬と共に雪の女王を接待する人(物語り憑きor物語の登場人物)
・雪の女王のおつき

●今回の参加者

 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa2726 悠奈(18歳・♀・竜)
 fa3846 Rickey(20歳・♂・犬)
 fa4263 千架(18歳・♂・猫)
 fa4559 (24歳・♂・豹)
 fa5404 橋都 有(22歳・♂・兎)
 fa5480 ヒノエ カンナ(22歳・♀・猫)
 fa5662 月詠・月夜(16歳・♀・小鳥)

●リプレイ本文

 蒼色のスーツを着た岬(千架(fa4263))は、ネクタイを結びながら鼻歌を歌っている蒼(笙(fa4559))に冷たい視線を向けた。白いスーツはどこからどう見てもホストにしか見えない。鏡に向かって無駄に流し目をキメる蒼に溜息をついた時、晴日(橋都 有(fa5404))が息を弾ませながら入って来た。
「僕がドンマイ隊さんから頼りにされるなんて!」
 喜びを全身で表現する晴日。蒼が、極秘任務として彼を召喚したのだと岬に告げ、同情の視線を向けつつも彼が加われば自分の精神的負担も大分減るだろうと計算した岬が、精一杯の感謝の言葉を告げながら店内へと引き入れる。
 任務内容を知らされていない不憫な青年に概要を伝えながら、自分の予備のスーツを押し付ける岬。蒼が爽やかな笑顔でドンマイ☆と言って親指を立て‥‥外をうろうろする月野(月詠・月夜(fa5662))の姿に、扉を開け放つ。蒼の色っぽい笑顔に一瞬だけグラリとした月野が手に持った分厚い鋼鉄製のアイテム入れに頭を打ち付け、何とか正気を取り戻そうと奮闘する。
「月野、今日は休日で暇なんです。何かするみたいですが、暇つぶしに手伝ってあげても良いですよ」
 月野の発言に眉根を寄せる岬だったが、蒼がそれを押し止めると大歓迎だと言って彼女を引っ張り込む。
「言っておきますが、蒼慈さんの自宅の障子に糸電話を仕掛けて盗み聞きしてたとか、そう言う事はありませんから」
 岬が内心で舌打ちをしながら、表面上では穏やかな笑みを取り繕う。今は、ストーカーの手も借りたいくらいの状況なのだ。
「う〜ん、微妙に寸足らずだけど‥‥どんまい!」
 慌てて眼鏡を探す晴日と、不憫そうな顔をして岬と晴日を交互に見比べる蒼。遠まわしに小さい事を改めて指摘された岬が青筋を立てながら拳銃を掴む。
「今、僕に対して言いませんでした?」
「き、気のせいだよ岬ちゃん。あ、それより君はコレ着て。岬ちゃんに着せようとしてたチャイナ‥‥」
 月野に鮮やかな色のチャイナドレスを手渡そうとした蒼の後ろ頭を、岬が銃のグリップ部分で殴った。


 内装は紅斬の手によって品の良い雰囲気に仕上がっていた。外見も派手すぎず地味すぎず、品格を残しながらも華やいでいるのだが‥‥『歓迎☆雪の女王様御一行様』と言う横断幕に、旅館法被を着てニコニコと玄関前に佇む蒼と晴日は、全てをぶち壊していた。品格も華やかさも、間抜けな横断幕と法被によって無残にも砕け散っている。
「どこの旅館の出迎えだよ!スーツに法被って、チグハグにもほどがあるだろ!」
「お出迎えの基本スタイルだろ!?」
 もうすぐで雪の女王御一行がつく時間だ。こんな不毛な無駄話をしている暇はない。岬は少々手荒に横断幕を取り上げ、法被を脱がせ‥‥勿論、岬ちゃんったら〜と、余計な事を口走ろうとした蒼は岬の鉄拳に沈んだ。何とか全てを整えて安堵の溜息をついた時、女王の御付のエド(Rickey(fa3846))と純白の騎士風衣装に身を包んだユウ(悠奈(fa2726))が現れた。
「全能にして偉大なる女王陛下にあらせられます。くれぐれも失礼など御座いませぬよう、宜しくお願い致します」
「すみません、皆様。ご迷惑をおかけします」
 恭しく頭を下げたエドと、複雑な表情でお辞儀をしたユウ。ここで修行を積みなさいと女王から言い渡されたユウがその旨を告げた時、ユウの妹・ユマ(あずさ&お兄さん(fa2132))に付き添われて女王(ヒノエ カンナ(fa5480))が現れた。
「ようこそ『ブルームーン』へ」
 蒼がキラキラとした笑顔で女王の手を恭しく取る。ここまで女王を1人で連れてきたユマが、お姉ちゃん褒めて〜と言ってユウに笑顔を見せるが、お兄ちゃんでしょ!と一喝される。女言葉のお兄ちゃんにユマが戸惑いながらもお兄ちゃんと呼びなおし‥‥ドンマイ隊の仕事は、きっと物語世界の未来を左右する重大任務!粗相がないように!と意気込んだ春日が、店内に入ろうと振り向きざま、自分の足に躓いて派手な音を立てて転んだ。


 女王様が足が痛いと仰られ、跪きニコニコと靴を脱がせる晴日と、無駄に爽やかな笑顔&微妙な流し目&変なポーズで女王を魅了(?)する蒼。
「名前、雪の女王って言うんだ。じゃあ『じょうちゃん』って呼んで良いかな?」
 背筋が寒くなる蒼の物言いに岬が心の中で悪態をついた時、月野が料理を運んでくるとユマと女王の前に置いた。ユマが黙々と食べ始め、女王が一口食べて顔を顰めると、下げて頂戴と言って月野を真正面から睨みつける。
「こんなの女王様のお口に合うわけ無いじゃない!」
 それまで普通に食べていたユマまでもが手を止め、まるでゲテモノ料理でも食べさせられたかのように渋い顔をしている。月野が怒りを抑えながらも丁寧に謝罪をして料理を引っ込め‥‥ユウがついてくると、ペコペコと頭を下げ始めた。
「すみません!女王様は悪い人じゃないんです!お料理も凄く美味しそうですし、ユマも喜んで食べてましたし‥‥これ、詰まらないものなんですが、名物なんです。どうぞお納め下さい」
 差し出された雪の女王モナカを受け取ると、ひとまずこの件は水に流す事にした月野。月野の様子を心配して見に来てくれたらしい晴日に料理を手渡し、代わりに持って行ってもらうように頼む。女王が料理に手をつけ、晴日に色っぽい視線を向けると美味しそうに次々と食べて行く。どうやら女王は月野にケチをつけたかったらしい。鋼鉄製のアイテム入れから蒼月ぬいぐるみを取り出し、八つ当たりを開始する月野。その内、席を外した岬が裏に引っ込んできて、「やってられっかぁ!!」と叫ぶと卓袱台を返した。犬猿の仲と言っても過言ではない2人の間に、微妙な親近感が芽生えはじめた時、その様子を柱の影から見守っていたユウが蒼白の顔で近付いてくると再びペコペコを開始しだした。
「こんなにストレスを‥‥ゴメンナサイ。あの、片付けは私がやりますので、スミマセン」


 何か楽しませる事をやってみなさいと言う女王様のご命令に、煌きラジオ体操を披露すると言う蒼と晴日。晴日は生き生きと、蒼は髪を掻きあげたり身体を捻りつつ流し目を向けてみたりと、勝手にホストアレンジを加えて踊る。岬が今までに無い以上に冷ややかな視線で見つめ、ユマが大はしゃぎで手を叩いて喜ぶ。
 曲が終わり、席に着いた蒼が「熱視線で俺のこと見つめて、岬ちゃ」と言いかけて、ぐぇっと変な呻き声を上げる。イライラ最高潮の岬が自己防衛ですからと言わんばかりに、言葉が皆まで終わる前にその足を踏みにじったのだ。
 涙目の蒼に近付き、楽しかった旨を伝えるユマ。ミニ女王様風の彼女に保育士気分の蒼が頭を撫ぜ、子ども扱いに膨れつつもちっちゃな女王様はあっさり彼に手懐けられた。
「私、シャンパンタワーって見てみたいのよね〜。出来るわよね?今直ぐにやって頂戴!」
 女王の言葉に蒼が腰を浮かし、するするとグラスを積み上げる。
「手馴れているようですけど、以前こう言ったお仕事をされてました?」
「さぁ、どうなんでしょう。ただ手先が器用だからと言われれば納得できますし、そう言う職についていたと言われても納得できます」
 月野に冷静に言葉を返しながらも、シャンパンが開くたびに1本何万円とブツブツ呟く岬。そんな彼の隣では、シャンパンタワーを初めて見たと言って晴日が目をキラキラさせている。その隣ではユマも同じような瞳でタワーを見つめており‥‥注がれるシャンパンに、女王が晴日の背中を押すと威圧的な視線を向けた。
「あなた、コレ全部飲みなさいよ」
「え、ええ?ぼ、僕お酒は‥‥」
「キミへの溢れる想いをこのタワーに。さあ受け止めて、晴ちゃん!」
 お酒は飲めないと言って抵抗する晴日を押さえつけ、無理やり飲ませる蒼。ユマがそれを煽り、女王の喜んでいる姿にエドが「女王陛下のお喜びはわたくしの幸せ」と自己陶酔気味に呟くが、内心では女王の関心を集める蒼と晴日に嫉妬の炎を燃やしていた。女王がどんな我が侭を言っても「流石は女王陛下、なんと素晴らしい!」と盲目的に彼女を支持してしまう彼は、自他共に認める女王信者だった。
「も、もうやだ〜!!ねばねばネット〜!」
 次々飲まされるお酒に晴日が泣きながらネット攻撃を開始し、一時騒然となる会場内。月野が何とか晴日を宥め、女王が酔った勢いで高笑いをしながらユマを手招きすると膝の上に乗せ、ギュっと抱きしめた。驚きのあまりパニックになりながらもお人形状態で顔を真っ赤にしたユマが、どうしたら良いのかと姉へ視線を向け‥‥パタリと、女王が眠りの世界へと旅立った。


 もう帰っちゃうんですか?と名残惜しそうな晴日がグスグスと泣きながらお見送りをし、月野が何故かボロボロな蒼月人形をお土産にと女王に手渡す。ユウが丁寧にお礼の言葉を述べつつも、国に帰ったらホストごっこをやらされるんだろうなと今からプチ鬱になりつつも、何とか笑顔を浮かべる。
「わたくしも、あの方々から『せったい』を覚えた方が宜しいのでしょうか」
 エドの本気の悩みに、自分が教えられるからその必要はないと呟くユウ。
「私の所に来ない?」
 女王が妖艶な笑みを浮かべながら蒼を誘うが、彼はただ首を振った。
「残念だけど、俺の永久指名権は既に岬ちゃ‥‥」
「勘違いするような台詞吐いてんじゃねぇよ!」
 岬の右ストレートが綺麗にキマった。