ラクーンチェンジ!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや易
報酬 1.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/01〜06/03

●本文

 ここは東京下町。
 閑静な住宅が建ち並ぶ中、何故か周囲の慎ましい家々の雰囲気をぶち壊すような巨大な洋館がデンと建っている。
 そこは何も隠していないが、何を隠そう(決まり文句ですから)マッドサイエンティストの堤野さんの御宅なのだ。
「はぁ〜、で・き・たぁんっ♪やっぱり私って凄いヒ・ト♪」
 ちなみに彼はれっきとした男性だ。
 本名は堤野 厳と言う、おそらく立派な人になって欲しくてご両親はつけたであろう、素敵な名前だ。
 しかし彼は両親のそんな切なる願いを無視し、周囲には『ゴンちゃん♪』と呼ぶように強要している。
 語尾の『♪』は必須であり、もし♪がなかったり厳と本名で呼ぼうものならばいつの間にか1人の人間が街中から消えていると言う事になる。
「これでぇ、お洗濯嫌いな子もお洗濯好きにだいへんし〜ん♪」
 鼻歌でも歌いそうな様子でクルクルと部屋の中を回ると、つぅっと窓に擦り寄る厳。
「あ〜!あそこにいるのは、いつも泥だらけのユニフォーム着てる芯ちゃんよぉ〜!ナイスタイミーング☆」
 厳が嬉しそうにそう叫び、クスリの入った弾をセットすると引き金を引いた。
「芯ちゃんってぇ、ちょーっとワンパクだけど顔自体は可愛いのよねぇ〜」
 可愛ければ男の子だろうが女の子だろうがワンコだろうがニャンコだろうが『超好み〜♪』となる厳。
「これでそのワンパクさの象徴でもある泥だらけユニフォームも綺麗になるのね〜!」
 はしゃぐ厳の眼下では、芯が青紫色の不気味な煙にむせている。
「な、何だよコレぇっ!うっ、気持ちわるっ‥‥」
「ハロロ〜ン、芯ちゃんお・ひ・さ・し・ぶ・りっ♪」
「い‥‥ゴンちゃん♪さん!?はっ!!まさか、コレゴンちゃん♪さんの!?」
「そうよぉ〜ん☆名付けて、ゴンちゃん♪特製!アライグマになっちゃうよクスリー!」
 ネーミングセンスが最低だ。
 芯がツッコミを入れようと口を開きかけ‥‥むずむずと、手が動き始める。
「な、なんか、すっごく‥‥」
「お洗濯がしたくなっちゃうでしょう?」
「うわーん、俺洗濯なんてした事ないのにぃー!!ってか、この服汚っ!洗濯したーいっ!!したくないのにぃー!!」
「さぁ、私のお家にいらっしゃい☆お洋服は私のを貸してあげるわね〜!そんな汚い服は脱いで、お洗濯しましょぉ〜!」
「でも俺、洗濯機の使い方なんて知らないっ!!」
「大丈夫よ!だって、手で洗うんですもの♪」
「ヤだぁぁぁっ!!そんな日本昔話みたいなのっ!」
「川で洗えって言ってるんじゃないのよぉー!私の家のお風呂でどうぞ?」
 洗濯をしたい衝動としたくない衝動の板ばさみ状態に半べその芯。
「何で俺が洗濯なんか‥‥」
「あれ?芯、どうしたの?」
 道の向こうから走って来た少女が首を傾げ、厳と芯を交互に見つめる。
 三つ編にした長い髪を肩に垂らし、セーラー服の胸元には大きな赤いリボンが飾ってある。
 清楚な雰囲気の美少女は、芯の姉の栞だ。
「栞姉ぇ!助けて!ゴンちゃん♪さんが俺に洗濯物を押し付けようとしてるの!」
「まぁ、それは良いことじゃない。あ、もしかしてゴンちゃん♪さん、新しい薬の実験をしたんですか?」
「そうなのよぉー!アライグマのクスリ!芯ちゃんは今、無性に洗濯がしたくなってるのよ☆」
「良かったわねぇ、芯。これでお母さんに汚れたユニフォームの洗濯させないですむわね。あ、どうせならゴンちゃん♪さん家のお洗濯物もしてあげたらどう?」
「何で仕事増やそうとしてるの栞姉ぇ!?」
「そうだわ♪この際だから、いろんな人に洗濯物ありませんかーって聞いてくるわね」
「え、何で?」
「‥‥だって芯、お洗濯したいんでしょう?」
「したいけど‥‥したいけど、したくないんだってばーーーーっ!!!」


≪映画『ラクーンチェンジ!』募集キャスト≫

*芯(しん)
 サッカー部所属の元気な男の子
 無性に洗濯がしたくてたまらない状態になってる
 『時間がたてば効き目はなくなると思うわよ、多分』と言う曖昧な厳の発言に涙する
 ツッコミ系
 外見年齢13〜18程度

*栞(しおり)
 清楚な美少女で天然系
 弟が大好きで、弟のためを思ってそこかしこから洗濯物をかき集めてくる
 お洗濯物の山を前にして泣く芯を見ても『嬉し泣きね☆』と、勘違い
 外見年齢15〜20程度

・堤野・厳(つつみの・いわお)
 ロクでもない研究&実験に勤しんでいる男性
 実年齢は不明だが、外見年齢は20代後半
 可愛い物が大好きで性格はいたって乙女チック

・その他
*お洗濯物を持って集まった人達
→芯や栞の友人、家族などお任せ
→急に洗濯好きになった芯に驚かないと言う寛大な人限定

●今回の参加者

 fa0075 アヤカ(17歳・♀・猫)
 fa0642 楊・玲花(19歳・♀・猫)
 fa1715 小塚さえ(16歳・♀・小鳥)
 fa3285 氷咲 水華(35歳・♀・猫)
 fa3393 堀川陽菜(16歳・♀・狐)
 fa4584 ノエル・ロシナン(14歳・♂・狸)
 fa5487 ヒノエ・シオン(12歳・♂・狼)
 fa5625 雫紅石(21歳・♂・ハムスター)

●リプレイ本文

 厳(雫紅石(fa5625))にお風呂場に引っ張っていかれた芯(ノエル・ロシナン(fa4584))は、手渡された洗濯板と石けんに溜息をついた。もの凄く洗濯がしたい。けれど、本音を言えばしたくない。そんな葛藤を悶々と続けながら、厳の『洗濯板を使ったお洗濯のワンポイント講座』を右から左へと聞き流す。‥‥何故か肝心なところは耳が勝手に言葉を拾い、脳が勝手に蓄積していくのだが。
「先輩、先輩いるんでしょ〜?ゴンちゃん♪さん、勝手に上がりますよ〜?」
 玄関からバタバタと音を立てて入ってきたのは、後輩の想(ヒノエ・シオン(fa5487))だった。
「さっき栞お姉さんに聞いたら、ここだって言ってたんで。遊びに誘おうと思ったんですけど‥‥」
 何してるんですか?と、首を傾げる想。その視線が芯から厳へと移り、足元の洗濯板と石けんの上で暫し止まる。
「洗濯、したくないけど、したいんだ」
 素っ気無い芯の言葉を補う厳。想が可愛らしい顔をコクコクさせながら真剣に話を聞き、暫し目を伏せた後でゆっくりと顔を上げた。
「何だか楽しそうですね。僕も手伝った方が良いですか?それとも、お洗濯物持って来て一緒に洗って貰った方がいいのかなぁ‥‥」
 想が真剣に悩み始め、後者だけは止めてくれと言おうとした芯が口を閉ざした。再び玄関からパタパタと誰かが入ってくる音がする。声もかけずに入って来た足音に芯が眉根を寄せ、厳が「陽菜ちゃんよ」と言って肩を竦めた。
「芯君、栞ちゃんから聞きましたよ〜!お洗濯するんですって?」
 スカートの裾を翻しながら入って来た陽菜(堀川陽菜(fa3393))は厳と想に明るく挨拶をすると、芯の足元に転がっている洗濯板と石けんから、親友から仕入れたばかりの情報が間違いでなかった事を確信した。
「洗濯ばかりでは溜まってっちゃいますから、お手伝いできればなーと思って来たんです。何でも、ゴンちゃん♪さんのクスリのせいだとか」
「素敵なクスリでしょう?」
「最低なクスリですよね!」
 洗ったものを干すお手伝いをすると言う陽菜と、それならお風呂場から外まで洗濯物を運ぶ役目をすると言う想。
「雨が降らないといいですね〜」
「あら?外、曇ってたかしら?」
 陽菜は厳の質問に爽やかな笑顔を浮かべると、軽く首を振った。
「いいえ、雲1つ無い良い天気ですよ〜」
 洗濯物を集めるために宣伝しまわっている栞(楊・玲花(fa0642))と陽菜は、不思議なプチ天然で、似た者同士の親友同士だった。


 厳の洋館のすぐ近くに建っている、シンプルながらも品の良いアパートで一人暮らしをしている女子大生の綾佳(アヤカ(fa0075))は、シーツの上にできた醤油の染みに頭を悩ませていた。つい先日買ったばかりの真っ白清潔なシーツは、悲惨な状態になっていた。
「やっぱり、ベッドの上で寝転がってお刺身を食べたらダメだよねぇ」
 また新しくシーツを買うのも馬鹿馬鹿しい。かと言って、わざわざクリーニングに出すすのも‥‥自分で洗えれば良いのだが、染み抜きの方法は実家の母親に尋ねなければ分からないだろう。そうすれば、必然的に母親の質問攻撃に悩まされる事になる。勉強はしっかりしてる?食事はちゃんととってる?出来合いのものばかりじゃダメよ、自分でちゃんと作らないと。戸締りはちゃんとしてる?大学にお友達は出来た?夜遊びはしてない?等等‥‥考えただけでも溜息が出る。
 本当に盛大な溜息をつきかけた時、外が騒がしい事に気づいた。とは言え、厳の洋館が騒がしいのはいつもの事だ。
「あ、そうだ。もしかしたらゴンちゃん♪さんなら染み抜きのクスリくらいちゃちゃっと作ってくれるかも」
 綾佳は近くにあったビニール袋の中にシーツを乱暴に放り込むと、ピンク色の可愛らしいミュールをひっかけて外へと飛び出した。アパートの急な階段を慎重に下り、厳の洋館のチャイムを押す。
「何か御用ですか〜?」
 庭から突然現れた陽菜が綾佳の手元に視線を移し、いらっしゃいませと愛想の良い笑顔で言うと手を引っ張って中へと連れ込む。長い廊下を進み、お風呂場の前で立ち止まる陽菜と綾佳。中には、少々不機嫌そうな顔をした芯と、満面の笑みの厳が立っていた。
「あらぁ、綾佳ちゃんじゃない。お洗濯物ね、はい、こっちに貸して」
 何が何だか分からない綾佳の手からビニール袋を取ると、中身を風呂場に広げる厳。染みのついたシーツがバサリと落ち、その上に使用済みの下着が数枚丸まって落ちる。芯がギョっとした目で綾佳を見つめ、厳が慣れた手つきでビニール袋の中に戻すと綾佳の手元に戻す。
「ごめんなさいね、今日は純粋な少年がクリーニング屋さんなの。刺激的なものは、また今度ね」
 厳が茶目っ気たっぷりにウインクをすると、シーツを握る芯の背中をポンと叩いた。


「芯君がお洗濯したがってるって栞お姉さんに聞いたの。でも、芯君お洗濯できたんだね」
 幼馴染の真乃(小塚さえ(fa1715))の言葉に、芯は首を振ると真乃が持ってきた座布団のシーツをお風呂場のタイルの上に広げた。日本舞踏を教えている家の1人娘である真乃は、爽やかな色の着物を着ていた。
「じゃぁ、実践で覚えていくんだぁ。えらいねぇ、すごいねぇ」
 心底感激しきっている真乃に、事情を説明する芯。唇を尖らせて自身に起きた不幸を愚痴りながらも、目は手元の洗濯物から一時も放さない。
「へぇ〜、ゴンちゃん♪さん、また凄いおクスリ作ったんですねぇ。お洗濯の基礎を覚えるために実践から覚えたくなるおクスリ!凄いですよね、流石ゴンちゃん♪さん☆」
 褒められて良い気分の厳。真乃が現在、発表会前でお弟子さん達が忙しくてお洗濯物が溜まっているとこぼし、特にお布団のシーツと足袋は問題だと呟く。
 シーツの隣に並べられた足袋約20足分に視線を移し、足袋は洗いにくいからイヤだと拒否する芯。シーツならばゴシゴシと洗えるが、足袋を下手に洗濯板で洗えば悲惨な事になりそうな気がする。特に、金具部分の処理に困る。洗濯狂ながらも、洗濯検定初級すら取れていない芯にとって、足袋は太刀打ちできない相手だった。
 芯の訴えを聞き、それじゃぁと言って足袋を一旦は遠ざける真乃だったが、隙を見て頼もうと虎視眈々と狙う目は、肉食獣のソレと似ていた。


「良かったわね、芯。こんなにたくさんの洗濯物が洗えて」
 他意の無い栞の言葉を背後に、母親の美智(氷咲 水華(fa3285))が持って来た家の洗濯物を必死に洗う芯。勿論、美智と栞の下着は抜いてある。普段どれだけ自分が汚しているのか身をもって体験すればもう少し気にしてくれるかしらと期待を抱きつつ、息子の奮闘ぶりを見つめる美智。
「そんなにゴシゴシ洗っては生地を傷めるでしょ?もう少し優しく揉み解すように洗うのよ」
 栞のアドバイスに苦い顔をする芯。
「あっ、そっちはもっと力を込めて。そうしないと汚れが残るから!」
「ちょっと黙っててよ!」
 芯がヒステリックに叫び、美智が苦笑しながら息子の肩をそっと揉む。ずっとしゃがんで洗濯をしていたために、少し身体が辛そうだ。いくらサッカーでセンターフォワードを務め、日頃から運動をしているとは言え、長時間の中腰は辛い。手の方も限界に近くなっているようだった。泡だらけの手をそっと包み込み、水で流すと芯の目を真っ直ぐに見つめる美智。
「当たり前のように汚れた洗濯物を置いてくけど、誰が洗うって決まってるわけじゃないんだから、いつもこうしてくれると助かるわ。でも、流石に全部を手洗いで任せるわけにはいかないわね」
 美智が苦笑しながらそう言った時、芯のクスリの効果が切れた。パァっと顔を輝かせながら、自由の身になった事を喜ぶ芯。
「え?おクスリの効果切れちゃったの?‥‥ゴンちゃん♪さん、このおクスリ、延長ってできます?」
「もう1度クスリを撃てば‥‥」
「もう絶対イヤです!!」
 厳の言葉を遮り、叫ぶ芯。真乃が心底残念そうに溜息をつく。
「久しぶりに足袋、手洗いでと思ったのに‥‥あ、でも、気にしないで。残りはお家で洗濯機で洗うから。芯君、どうもありがとうね」
 にこっと微笑んだ真乃が、足袋を持ってきた風呂敷で包む。
「ねぇ、洗濯もやってみると楽しいでしょ?これからは自分の洗濯物くらい自分で洗おうね」
「栞もね」
 すかさず母親に突っ込まれ、苦笑する栞。汚すのは元気な証拠だけれど、洗う事を考えると頭が痛いのよねと美智が厳にこぼした時、外から想と陽菜、綾佳が飛び込んで来た。
 お洗濯はちゃんと干しました!と報告する3人を前に、厳が芯の顔を覗き込むと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「お洗濯は洗うだけじゃなく、干して乾いた物を畳んで初めて終わるのよ!お洗濯物を畳み終わるまで、帰さないんだからね?」