Golden Eye 幸を狩る者アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
宮下茜
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
6.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/05〜06/08
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●本文
通された部屋で、1人の女性が横たわっている。
顔に乗せられた白い布が、彼女の魂の居場所を克明に語っている。
「お願いいたします」
彼女の母親だと言う女性が涙ながらに頭を下げ、隣に立っていた厳格な男性も深く頭を下げる。
「零君、早速だけれど『仕事』をお願いします」
白衣姿の庵が零の肩を叩き、両親が部屋から出される。
白い布をどければ、綺麗に整った顔がまるで眠っているかのように目を閉じていた。
零は彼女の瞼をクイと開けると、自身の左目に嵌めていたカラーコンタクトを外し、琥珀色の瞳を覗き込んだ。
鮮明な映像が脳内に流れる。
夜、暗い道。街灯は疎らだ。右手には公園、左手にはカーテンの引かれた窓。
コツンコツンと、ヒールの音が響く。遠くからは車のクラクション。
夜風が頬を撫ぜ、ふっと背後に人の気配がする。
唐突な気配の出現に戸惑い、振り向く。
ザクリ、熱い痛みが背中にはしる。
ぬるりとした液体が太ももを伝い、足元に落ちる。
薄れ行く意識の中、振り返る。暗い街灯では、男の顔までは見えなかった。
『また1つ、幸を狩った』
恍惚とした声は良く響く低音だった。
ゆっくりと息を吐くと、零は左目を掌で押さえた。疲労感を何とか抑えながら、首を振る。
「やはり、顔までは見てませんか。台詞も同じでしたか?」
「あぁ」
「困りましたね。これでもう5人目の被害者ですよ。彼女、来月には結婚する予定でしたのに」
「影の能力者ってとこから絞込みは出来ないのか?」
「能力者の全てがウチに登録されているわけではありませんから」
「かなり高度な能力を持ってるヤツだぞ?普通登録されてるだろ!?」
「現在調査中ですとしか言えませんね。何か他に気づいたことはありますか?」
「野郎、人を刺すの慣れてやがる」
「裏の者なら、見つけるのはなおさら困難ですね」
零は顔を顰めると、庵の脇を通り抜けて部屋の外へと出た。
心配そうに待っていた優が駆け寄り、青白い顔を覗き込む。
「零‥‥大丈夫?お茶飲む?」
「いや、今は‥‥」
「零君、1つ新し君を発見してみませんか?」
零の後を追って部屋から出て来た庵が、不思議な笑みを浮かべる。
「は?どう言う事だ?」
「私と、結婚してください」
ポカンとする零と優の間に割って入ると、人差し指を唇に押し当てる。
「犠牲者達は皆、結婚間近の女性でした。そして時間は大抵夜中」
「それがどうして俺がお前なんかと結婚しなくちゃならない事になるんだ?」
「上が、早いところ事件を片付けろとせっついて来ているんです。私もこの作戦はあまりやりたくなかったのですが‥‥」
「嘘つけ!顔が笑ってんぞ!?」
「この中で女性を演じられるとすれば、零君以外にはいません♪」
「だからってなぁ‥‥」
「‥‥まぁ、なんでしたら優君に零君の代わりをしてもらっても良いのですが」
零の瞳が細められ、射抜くような視線を庵に向ける。
不穏な空気を感じ取った優が、零がそんなにいやなら僕が代わりにやろうかと言おうとして‥‥
「能力者でもないコイツが、あの銃を使う事なんて出来ない。丸腰でヤツと戦わせるつもりか?」
「零君の答え次第です」
「‥‥分かった。俺がやる」
苦々しく呟くと、唇をきつく噛んだ。
≪映画『Golden Eye 幸を狩る者』募集キャスト≫
*零(ゼロ)
華奢で低身長、伏せ目がちでどこか危うい雰囲気
外見年齢は14〜18程度
金瞳を嫌っており、長い前髪と琥珀色のカラーコンタクトで隠している
表面上では俺様で人使いが荒いが、内心は繊細で優しい
依頼人に対しては敬語を使うが、それ以外の者には基本的に使わない
『俺』『お前』
*優(ゆたか)
高身長で常にふにゃりと笑っている。ボケっとした雰囲気
天然でお馬鹿だが、力が強く、やる時はやる人
外見年齢16〜20程度
零の雰囲気に惹かれ、彼についてきている
『僕』『〜さん』(零は零君、最終的には呼び捨て)
*庵(いおり)
高身長で優男風、いつも白衣を着ている
外見年齢20以上
零に依頼を持ってくるが、彼が普段何をしているのかは謎に包まれている
政府の秘密機関の所長、医者、研究員、弁護士、占星術師などなど、聞けば毎回答えが違う
『私』『〜さん』(零は零君)
*幸を狩る者
外見年齢20以上
その他
・被害者の家族や友人
・優の友人 など
*零の家族は既に他界しています
≪シーン≫
・零と優
渋々ながらも庵の言うとおりに女性として振舞う零
庵から支給された銃の手入れをしている時に優が部屋に入って来る
僕に出来る事があれば手伝うよと協力の意を示す優を突っぱねる零
→お前なんかいても邪魔なだけ
冷たい零の瞳に、落ち込む優
・優と庵
落ち込む優に声をかける庵
邪魔だと言われた事をそっと告げ、自分が本当に零の傍にいても良いのか悩む
→私が責任を持って護ってあげますから、零君の仕事ぶりを間近で見ますか?
庵の言葉に頷く優
・幸を狩る者
暗い夜道を1人歩く零。それを遠くから見つめる庵と優
突然零の背後から幸を狩る者が現れる
咄嗟に身を翻し、ナイフを避ける零。銃を構えるが、叩き落とされる
一瞬判断が鈍り、ナイフが振り下ろされそうになった時、背後から誰かに突き飛ばされる
・護るべき人
零を突き飛ばした優の腕にナイフが刺さり、血が滴り落ちる
パニックを起こす零と、冷静に落ちた銃を拾って幸を狩る者を撃つ庵
どうして優を連れてきたんだと怒鳴る零に、彼がいなければ貴方は死んでいたでしょうと冷静に返す庵
どうして俺なんか助けたんだと言う零の問いかけに、暫し考えた後で言葉を紡ぐ優
→僕になら、零を護れると思ったから
護ると言われた事がないため、どう対処したら良いのか分からない零
微妙に変化する零の様子、2人の関係に不敵な笑みを浮かべる庵
→この先どう転がるのか、楽しみですね‥‥
●リプレイ本文
「次の零さんのお仕事、命の危険があるみたいです。助けの手、情で結ばれし者」
タロットカードを捲る梨(美森翡翠(fa1521))は手を止めると庵(星野・巽(fa1359))を見上げた。そっと頭を撫ぜられ、微かに口元に笑みを浮かべる。
「心に留めておきましょう」
庵が含みのある表情でそう呟いた時、背後で扉が開き飄(ブリッツ・アスカ(fa2321))が頼まれた物を持って来たと言ってトランクを足元に置いた。
「で、この子がそうなのか?」
突然指をさされ、戸惑う梨。頷いた庵に眉を上げつつも、自分達に手を貸して欲しいと低い声で呟く。梨が暫し髪を風に靡かせ、目を瞑った後で軽く首を振る。
「後見人の方にこれ以上心労をかけるわけには参りませんので、家からはそう出られません。それでも宜しいのならば‥‥」
「勿論それで構わない。現場に出る必要は無い」
求められた握手に応じる。小さな手を離し、庵に目配せをすると飄は外へと出た。
「で、どの程度の能力だと思ってるんだ」
「良くてAでしょうね。ただ、Cではない。俺が見ている限り、占いが外れた事はない」
「‥‥兄貴がいるんだろ?そっちは?」
飄の問いかけに、庵はただ意地の悪い笑みを浮かべただけだった。
清楚で可愛らしい衣装を前に、零(千架(fa4263))は唖然としつつも黙って袖を通した。式場の下見に行く道すがら、可愛いを連呼する庵にブチリと切れる。
「先行く!」
ずんずんと歩く零に追いつく庵。歩幅の違いはどうにもならない。
「おや?マリッジ・ブルーですか?」
神経を逆撫でする発言に脱力する零。何か言い返そうと口を開きかけ、思い直すとにっこりと青筋を浮かべたまま微笑んだ。
「そうかもねっ!」
ちなみに、足はしっかり踏みにじっている。鋭いヒールが庵の足の上に突き刺さり、悶絶する。ざまぁ見やがれと口の中で呟き‥‥見知った顔を前に、表情を引き締める。
「零さんに、庵さん」
「おや、貴方は綸さんでしたっけ?」
涙目ながらも、庵が記憶を手繰り寄せる。幸を狩る者事件の2番目の被害者の妹・綸(花香こずえ(fa5563))が涙ながらに犯人を見つけて欲しいと言う事を言い、頭を下げる。何度も2人の前に現れてはこうしてお願いをする綸は、目が真っ赤だった。
「奪った幸せの分の不幸は、かならず返ってくる。‥‥悪い事する子は、みんないなくなっちゃえ」
吐き捨てるように言って走り去る綸。
「ありゃヤバイな」
「‥‥見張りをつけますよ」
庵が肩を竦めた時、不意に背後から狂気を含んだ視線を感じた気がした。零と庵が咄嗟に振り向くが、そこに人の姿は無い。気のせいかと安堵し、歩き始める2人。建物の影から1人の男性が姿を現し、ねっとりと唇を舐めると微笑んだ。
『幸、みーつけた』
「調子はどう?」
銃の手入れの最中に入って来た優(Rickey(fa3846))を一瞥すると、零は肩を竦めた。ちょこんと隣に座った優には何も言わず、黙々と手入れを続ける。
「僕に出来る事があれば手伝うから、何でも言って」
「お前なんか、いても邪魔なだけ」
間髪いれずに返された言葉と冷たい瞳に、優が思わず視線をそらす。
「そっか。でも、もし僕の力が必要になった時は遠慮なく言ってね?」
明るい口調だが、浮かぶ笑みは寂しそうだった。立ち上がり、部屋から出て行く優の背中に、小さく舌打ちをすると銃を放り出した。
例え優があの場に来ても、役に立たない事は分かっていた。でも、それ以上に危険に巻き込みたくは無かった。距離をとれば、安全は確保される。
「優しい言葉なんて知らねぇし、そう思われる資格もねぇしな」
自嘲気味に呟いた言葉はガランとした部屋に広がり、霧散して行った。
壁にもたれかかり、寂しそうな顔をして溜息をつく優を見つけ、庵はそっと近付いた。
「零君と喧嘩でも?」
唐突にかけられた声に驚きつつも、庵の姿を見て安堵する優。
「零に邪魔だって言われてしまったんです」
床に視線を落としたまま、先ほどの出来事を語る庵。曖昧な笑みを浮かべる横顔を見つめながら、庵は満足げに微笑むとそっと優の肩を叩いた。
「零の為に何かしてあげたいのに何も出来なくて、僕、本当に零の傍にいても良いのかな‥‥」
「零君との距離を縮めてみませんか?私が責任を持って護ってあげますから、零君の仕事ぶりを間近で見ますか?」
パっと顔を上げ、静かに頷く優。嬉しそうな顔にほんの少しの後ろめたさを感じつつも、庵はこの先に待ち受けているであろう展開を思い、喉の奥で低く笑い声をもらした。
「やはりあの情報は流されたモノだったか」
銀髪を夜風に靡かせ、朧(ベイル・アスト(fa5757))はコートの前を掻き合わせた。足元では、零が何かを考え込みながら歩いている。朧から少し離れた位置では零を心配そうに見守る優と、飄々とした表情の庵が立っている。『勝負にならない』朧はそう思うと、そっとその場から離れた。
朧が姿を消した次の瞬間、零の背後に白(虹(fa5556))の手と顔がすっと浮かび上がった。右手に持っていたナイフが光り、優が身を乗り出す。背後に感じた殺気に零が振り返り、ナイフを避けようと右に体を捻る。履きなれないヒールが動きを邪魔し、顔を顰めつつも銃を構える。
「お前にやる程の幸せなんざ持ってねーよ!」
虚ろな瞳と張り付いた笑みを浮かべ、零の手から銃を叩き落す白。間合いを一気に詰め、にんまりと微笑む。
「その幸、僕にちょうだい?」
振り上げられたナイフに目を瞑る零。優の叫び声が遠くで聞こえ、鈍い衝撃が零の身体を吹っ飛ばした。
流れる鮮血が、嫌な思い出を否応なしに引きずり出す。赤・血・臭い・叫び声・死・『あんたのせいよっ!!』憎しみの籠もった声‥‥
優が痛みに顔を顰めながらも「零、怪我は無い?」と不安そうに瞳を覗き込む。意外そうに2人を見つめて固まった白に冷静に銃を向けて撃つ庵。
「どうして優なんか連れてきたんだ!!」
「彼がいなければ貴方は死んでいたでしょう?」
「それでも構わねぇよ!!‥‥どうして俺なんかを助けたんだ?」
一瞬目を瞬かせ、視線を落とす優。流れた血がアスファルトに落ちて広がる。
「僕になら、零を護れると思ったから」
柔らかく微笑む優に、戸惑ったように視線を彷徨わせる零。庵が優の手当てを施す間に冷静さを取り戻した零が「幸せは何処?」と呟き続ける白に報復しようと左目に手を当て、庵にその手を止められる。
「使い物にならなくなったら困りますから」
「‥‥お前の‥‥兄貴を殺した俺が、誰かの罪を責める資格なんざねぇのにな」
自嘲気味な台詞に、優は唇を噛んだ。何を言っても零を傷付けてしまいそうで、もし今傷付けてしまえば、それは彼の一生のモノとなってしまいそうで‥‥
「それでも、僕は零が好きだから‥‥」
熟考の末にポツリと呟く優。零が複雑な表情で口を開きかけた時、飄が暗がりから姿を現した。
「で、あれがそのフィアンセか?すげぇ美人じゃん。いっそこのまま本当に結婚しちゃえよ」
白を引き受けながらも軽口を叩く飄をあしらう庵。相変わらず面白くないヤツだと唇を尖らせる飄の耳元で、庵はある警告をすると微笑んだ。飄の表情が引き締まり、携帯を取り出すと梨に電話をかける。白の動機が何なのかを尋ね、恋人がどうたら、死神がどうたらと言う話を聞いた後で終話ボタンを押した。
「で、邪魔者はどうすれば良い?」
「既に手はうってあると思いますよ。零君が」
「あぁ、お前のフィアンセ?‥‥待て、お前今『零』って言ったのか!?」
「えぇ、そうです。貴方にとっては、黎人(れいと)と言った方が分かり易いですか?」
「やはり、おまえには分かるんだな」
「お前の気配を読めない能力者なんざぁいねぇよ」
闇に沈んだ公園で、背後に立った零に不敵な笑みを投げかけると手を上げた。
「おまえとやりあう気はない。おまえに勝った例は無いからな。白の事は、諦めよう。ただ、あと3分ほどすればあの車が事故に巻き込まれる可能性がある」
朧の言葉に顔を顰めると、零は携帯を取り出した。飄の番号を短縮から呼び出し、去って行く彼の背中に鋭い視線を投げかける。
「そう睨みつけるなよ黎人。『あの日の事』を、思い出すだろ?」
にやり‥‥悪意の籠もった笑みに、零は吐き気を堪えると飄に警告を発した。
彼は裏の世界しか知らず、影と共に生きて来た。けれどそんな彼の人生に、一筋の光が差した。1人の女性との出会い、彼は幸せを覚え、裏の世界を抜けようと決心したのだが、それを快く思わない何者かに彼女は殺されてしまった。自責の念と、幸を知ってしまったが故の孤独。狂う心を止める術は無く、恋人と重なる結婚前の女性を屠り、幸を狩る事で幸を取り戻したような幻想にとり憑かれていった‥‥
「とまぁ、こう言う事らしいです」
庵からの報告に、零は興味がなさそうに頷くと「話はそれだけか?」と問いかけ、彼が頷いたのを確認すると腰をあげた。
「‥‥貴方に1つ尋ねておきたい事があるのですが」
「何だ?」
「どうしてあの時、避けようとしなかったんです?」
「‥‥体が、竦んじまっただけだ」
「貴方は逃げようとした。この世界から、その能力から」
庵がツカツカと近付き、零の腕を乱暴に掴む。
「逃げられるなんて思ってはいけません。貴方は既に人ではないのですから」
零と言う番号をつけられた、ただの殺人人形でしかないのですから‥‥