鏡花水月鎮魂歌アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
宮下茜
|
芸能 |
2Lv以上
|
獣人 |
フリー
|
難度 |
難しい
|
報酬 |
3.3万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
06/19〜06/22
|
●本文
鏡に掌を合わせ、私はワタシとの会話を始めた。
「その誰かって言うのは分からないの?」
『残念ながら、そこまでは分からないの』
鏡の向こうのワタシが切なそうに呟いた。
これは正真正銘の鏡。決してマジックの道具でも何でもない。そこら辺で売っている、ただの鏡。
でも、この鏡は決して『私』を映し出しはしない。鏡に映っているのは、もう1人の『ワタシ』
掌を合わせて、視線を合わせて。私はワタシと話をする事ができる。
重なった掌が、こちらとアチラと繋ぐ架け橋になる。
『鏡月が無理に鏡花になろうとすれば、双方とも滅びる運命』
「鏡月は鏡月でしかなく、鏡花もまた鏡花でしかない」
『そう、鏡花が鏡月になれないのと同様、鏡月も鏡花にはなりえない。その縛りを無理に解こうとは、愚かな事』
「滅びの時までは、どのくらいあるの?」
『陽が2度昇り、月が2度地上を照らした後』
「つまり、明後日の夜には決着をつけないといけないのね?」
『3度目の陽は昇らない』
「分かった。他の鏡花と協力してその鏡月を見つけてみるわ」
『鏡月を見つけ次第、ワタシが私の身体を借り、鏡月をコチラの世界に引き入れ身体を鏡花に返します』
「了解。それじゃぁ、何か分かり次第連絡するわ」
≪アチラの世界(鏡の世界)とこちらの世界(現実世界)≫
→アチラの住人とこちらの住人
・鏡の世界の住人(アチラの住人)は、鏡月(きょうげつ)と呼ばれます
・現実世界の住人(こちらの住人)は、鏡花(きょうか)と呼ばれます
→アチラの世界とこちらの世界を繋ぐ術
・鏡に手を合わせ、鏡の中の自分の瞳(=鏡月の瞳)を覗き込みます
・鏡は本来こちらの世界を忠実に映し出しますが、鏡花が上記のような行動をとった場合のみ、鏡はアチラの世界を映し出します
→鏡月
・鏡月は全員自分の鏡花の存在を知っています
・鏡花が世界を繋ぐ行動をとっても、特に理由が無い限りは鏡花と接触をもとうとしません
→鏡花
・鏡花の中で鏡月の存在を知っている者はごく少数です
→鏡月花(きょうげっか)
・鏡月・鏡花関連の事件を、鏡月の存在を知らない鏡花(=一般人)に知られないうちに処理する組織です
・鏡月との接触を持つ事の出来た鏡花達が互いに結びついて発展させて行った組織です
・ほとんどの鏡月と接触を持つ事の出来た鏡花達は鏡月花に所属していますが、所属していない者もいます
・所属していない者は、鏡月・鏡花関連の事件に関わる際の権限を持っていません
・12歳以下の鏡花は事件へ出向く事を禁じられています。鏡月との入れ替わりも出来ません
→入れ替わり・乗っ取り(どちらも鏡月と鏡花の入れ替わりの事をさす)
・鏡月の存在を知らない鏡花(=一般人)が世界を繋いだ時、鏡月の判断で両者が入れ替わる事が出来ます
・鏡月がこちらの世界へ、鏡花がアチラの世界へと移される事になります
・鏡月花に所属する者のみ、鏡月と鏡花双方の了解があれば任意で入れ替わる事が出来ます
・鏡月と入れ替わった際、身体のどこかに何かを模した(花や月など)痣が浮かび上がります
・痣と言うよりは刺青に近く、色も人によって違います(黒や紫、金の人もいます)
・鏡花に戻った際には消え去ります
→鏡月の判断
・鏡月の一存で:鏡月が自分の身体を持ちたいという強い意志の元に動きます(鏡花の意思の介入はありません)
・鏡花の精神状態によって:鏡花が現実逃避をしたいと切に願い、鏡月がその願いを汲み取った場合に双方が入れ替わります
・前者は『乗っ取り』後者は『入れ替わり』と呼ばれます
→こちらの世界の鏡月
・こちらの世界に現れた鏡月を探すのは、そう難しい事ではありません
・鏡花も鏡月も同じ姿形をしていますが、鏡月は笑う事が出来ません
・泣いたり怒ったり、笑顔以外の表情は可能です
・鏡月は口調が素っ気無く、やや堅苦しくなります(劇的には変化しません)
・身体のどこか(パっと見では分からないところ)に痣が出来ています
・一人称はカタカナになります
→鏡月の能力
・鏡月の存在を知りえない鏡花(=一般人)を消す力があります
・一般人の瞳を数秒間力を込めて見つめ続けると、その人間を消し去ることが出来ます
・消し去られた人間は行方不明者として扱われます
→鏡月に出会った場合
・鏡月には、鏡月の存在を知りえる鏡花を消す力はありません
・ただし、鏡花では鏡月をアチラの世界へ送り返す事は出来ません
・鏡月は、相手の鏡月を強制的にアチラの世界へと送り返す事が出来ます
・相手の鏡月の能力の強さによっては、数人で能力を使わないと送り返せない事があります
・鏡月が鏡花に身体を返す時は、入れ替わった時と同じ事を行います
→鏡月の強制送還
・鏡月を強制的にアチラの世界に帰した後、鏡花はこちらの世界に帰ってきます
・その際、アチラの世界の事は全て忘れています(=一般人)
→鏡月の期限
・鏡月が鏡花と入れ替わっていられる期間は1週間です
・8日目の朝日が昇った時、鏡花の身体は滅び、鏡月も鏡花(の魂)も消えてしまいます
・鏡月の能力で消されるわけではありませんので、身体はこちらの世界に残り、不審死として扱われます
→一般人と鏡月
・一般人(鏡月の存在を知りえない鏡花)は鏡花が鏡月と入れ替わったとしても、気づく事はありません
・笑顔が作れない鏡月を不審に思うことは無く、素っ気無い口調も特に気に留めません
・何かがおかしいと不思議に思う人も中にはいますが、気のせいとして処理してしまいます
→一般人と鏡花
・鏡月の存在を知っているかいないかの違いだけで、外見上も生活上も変わりはありません
・鏡花は体質や遺伝ではありませんので、一般人がいつ鏡花になってもおかしくありません
・ただ、ほとんどの鏡花は5歳位までには鏡月との接触を持っており、それ以上の年齢の一般人が鏡花になる事はほとんどありません
・鏡花は一般人に鏡月の存在を知らせてはいけません
→鏡月と鏡花
・鏡月も鏡花も、根底では同じ性格ですが、個々に別の人格を持っています
・根底は同じですので、鏡花が派手好きならば鏡月も、鏡花が優しい性格ならば鏡月もそのようになります
・派手好きで自己主張の強い鏡花がアチラとこちらの世界を繋いでしまった場合、鏡月に乗っ取られる危険性があります
・優しい性格の鏡花が現実逃避をしたいと願った場合、鏡月がそれを受け入れ、強制的に入れ替えを行う危険性があります
≪映画『鏡花水月鎮魂歌』募集キャスト≫
*鏡月
→鏡花と入れ替わった、もしくは鏡花を乗っ取った
*鏡月花に所属する鏡花
・一般人
・鏡月花に所属しない鏡花
*鏡月は外見年齢12歳以上でお願いします
*鏡月花に所属する鏡花は、事件に関わらない形であれば12歳以下でも問題はありません
*上記の他は、性別・年齢共に不問です
*苗字か名前のどちらか一方でOKです(1文字か2文字のものを推奨いたします)
●リプレイ本文
○鏡花
泉(姫乃 舞(fa0634))は静奈(DESPAIRER(fa2657))との通話を終えると、窓から身を乗り出して校庭を横切って行く祐(大海 結(fa0074))の姿を見つけ、鞄を肩にかけ、教室から飛び出した。
(大人しい性格の祐さんは苛めを受けていた。コレは、乗っ取りじゃなく入れ替わりだわ)
階段を駆け下り、タイル張りの廊下を滑りながらも疾走する。鏡月から警告を受け、泉はすぐに祐に目をつけた。
(最近、イジメの主犯格の男の子が数人失踪した。恐らく、祐さんが消したんだわ)
駐輪場を抜け、正門をくぐろうとした時、不意に目の前に小さな女の子が姿を現した。
「こんにちは」
にっこりと微笑んだ少女に、泉は見覚えがあった。
「鏡月さんを探しているんですよね?」
「えぇ。貴方、祐さんを知っているの?」
「あたし、柳って言います」
柳(美森翡翠(fa1521))はふわりと柔らかな笑顔を浮かべたまま頭を下げると、祐の隣の家に住んでいる事、自分も鏡月を知る鏡花であるという事を早口に伝えた。
「腰に痣があったの、あたし見ました」
「そう、やっぱり祐さんが‥‥」
「あっちに行ったの、見ました。多分『最後のお仕事』に向かうんだと思います。あたしの鏡月が、そう言ったから」
「最後の仕事‥‥」
「お願いお姉ちゃん、祐ちゃんを止めてあげて‥‥2人を、消さないで」
「‥‥うん。今度こそ、私は祐さんを救わなくちゃ‥‥」
苛められている彼を見て、心が痛まない日はなかった。けれど、たった一言『止めなよ』と叫ぶ勇気はなかった。もし自分が標的にされたら?もし自分が彼の立場だったら?そう考えると、恐ろしくて言葉は喉で支え、視線は足元に落ちた。
「祐さんが苦しんでいるの知ってたのに、見て見ぬフリをしていてごめんなさい。ずっと気になっていたんだけど、勇気がなかったの。今まで辛かったよね、苦しかったよね」
「今更そんなこと言われたって、遅い」
「そんなことない」
「遅いんだ。既にボクは、取り返しのつかない事をした」
祐が空を仰ぎ、そっと目を瞑る。両手を胸の前で組み、つい数分前に消した人物がいた場所に意識を集中させる。
「イジメの元をなくさない限り、ずっと苦しみは続く。そう思ったんだ」
「けれど、消したら消したで新たな苦しみが生まれたのね」
泉の背後から現れた静奈が、辛そうに眉根を寄せると小さく溜息を吐いた。
「でも、このまま入れ替わっていたら2人とも消えてしまう」
「それで苦しみから解放されるならば、本望だ」
「ダメよ祐さん!お願い、このまま消えたりしないで!」
泉の懇願に、軽く首を振る祐。一番辛かった時に傍にいながら何も出来なかった彼女の言葉は、決してカレの心には届かない。
「‥‥昔ね、とても弱い女の子がいたの。引っ込み思案で、暗くて、苛められていて、友達は自分の鏡月しかいなかった」
静奈が胸の前で手を組み合わせ、空を仰ぐ。日が没した空には無数の星が瞬き、月が淡くも力強い光を地に広げている。
「鏡月と入れ替わった彼女は、苛めっ子を消して行った。他人を攻撃することでしか、自分を守れなかった。‥‥最終日、彼女は消えても良いと思った。自分の犯した罪に、決して戻ってこない命に、耐えられなかった」
「その子は、どうなったの?」
泉の問いかけに、静奈は寂しそうに微笑むと「今も生きている」と小さく呟いた。
「ある1人の鏡花が、彼女を救った。‥‥いいえ、違うわね。彼は、彼女を許さなかった。3人もの命を吹き消した彼女は、生きてその罪を償う必要がある、そう言ったの」
「それは、キミの事だね」
「‥‥本当に辛い時まで『いい子』でいる必要はない。辛い事を隠せば、気づいて助けてくれる人はいなくなってしまう」
静奈がそっと祐の頭を撫ぜると、優しい笑みを浮かべる。
「アナタを消させはしない。アナタは、償う必要がある。アナタにしか救えない人を‥‥助けるために」
●水月
岩重(マサイアス・アドゥーベ(fa3957))は紗雪(角倉・雪恋(fa5003))からの報告を受け、眉根を寄せた。
「つまり、原因は君のお兄さんにあると?」
「えぇ。葵眞さんってどこかで聞いた事があると思ったら、兄の親友だって紹介された事があるのを思い出したの」
紗雪の兄・雹真は派手な遊び人タイプで、大切なのはいつだって自分だけだった。そんな彼は葵眞(橘・月兎(fa0470))を親友だとは言っていても心の底からはそうは思っていなかった。だからこそ、あっさりと彼を裏切ることが出来た。
「自殺寸前に陥り、鏡月に乗っ取られたか。で、お兄さんは今どこに?」
「さぁ。分からないわ」
「‥‥それはマズイな。妹さんが危ない」
「あの、兄は元からああ言う性格で、なんて言うか、お姉ちゃんと私とは違う世界の人って言うか‥‥」
霧雨(角倉・雨神名(fa2640))がそこまで言って、無表情の葵眞を見上げると唇を噛んだ。
「あの、葵眞さん、ですからどうかそんなに思い詰め‥‥あれ?その痣どうしたんです?」
肩口に赤い三日月のような形をした痣を見つけ、霧雨が目を丸くする。葵眞がゆっくりとその瞳を覗き込み‥‥
「大変よ霧雨!ひいおじいちゃんが倒れたわ!」
「え!?ひいおじいちゃんが!?‥‥って、ひいおじいちゃん!?」
「良いから、早くしなさい!タクシーを呼んで帰るから!」
突然現れた紗雪が霧雨の腕を取り、無理やり葵眞の前から引き離す。その後姿を見送りながら葵眞が立ち上がり‥‥岩重が彼の行く手を遮る。
「経緯は紗雪君から聞いた。確かに葵眞君に同情の余地はあるとは思う。だが、キミが強制的に代わって彼の身体を好き勝手に動かして良い理由にはならない」
「オレは、俺を救った」
「救い終わったのなら、身体を返せば良い」
「返したら、また自分を殺めようとする。俺は弱い。とても」
「‥‥それはどうかしら。アナタは、自分の鏡花の事を分かっていない」
霧雨を安全な場所に避難させた紗雪が硬い表情で視線を足元に落とし、岩重が鏡を取り出す。
「鏡花は、ワタシ達が思っているほど弱い存在じゃない」
「お前の鏡花は、自殺を考えたことがあるのか?」
「‥‥いいえ。でも、本気で人を憎んだことはある。だから、ワタシは彼女の手助けをしようとした。‥‥彼に止められなければ、きっとワタシは何人もの人を消した。そして、鏡花諸共消え行こうとした。そう、丁度今のアナタと同じように」
岩重が鏡月と代わり、2人が能力を開放する。
「言い忘れるところだったわ。ワタシの鏡花から伝言『兄のした事は許されることじゃない。贖罪し切れないかも知れないけれど、アナタをアチラの世界に帰し、彼を返してもらう。私になら、彼を救えると思うから』‥‥鏡花は、決して弱い存在じゃない。ワタシは、そう思うわ」
チカリ、鋭い光がほとばしる。夕暮れに沈みかけていた空が一瞬だけ輝き、あまりの眩しさに目を瞑り、開いた先には地面に横たわった葵眞の姿があった。肩口の痣は消え、口元には柔らかな笑みが浮かんでいた‥‥
○鎮魂歌
消え去った魂は決して戻っては来ない。彼らを失った人々の悲しみは、決して消えはしない。彼らは永遠に行方不明のまま時を重ねて行く‥‥
「つまり、僕達はみんな岩重さんに助けられたって事だよね?」
祐の言葉に静奈が頷き、紗雪も重々しく頷くが、視線は窓の外で楽しそうにお喋りをしている霧雨と葵眞に釘付けになっている。
「私は違うわ。岩重さんに救ってもらったのは妹の方」
泉が肩を竦め、祐が空き缶をゴミ箱に投げると席を立った。
「で、今日の仕事内容は?」
「鏡月の乗っ取りよ。もう5日目になっているから、早いところ探さないと危険ね」
「今朝方ソレっぽい人を見つけて、今岩重さんが確認してるところ。痣らしきものもあるし、表情も硬いし、ほぼ間違いないみたいな事を言ってたけど、最終連絡はまだ」
「‥‥そう言えば、岩重さんは誰かに助けられたことがあるのかな?」
ポツリと呟いた祐の言葉に、紗雪がグイっと缶を呷ると空いたソレをゴミ箱に投げた。綺麗な弧を描いてゴミ箱に吸い込まれていった缶に静奈が手を叩き‥‥
「彼を救ったのは娘さんよ」
「娘さんが岩重さんに手を差し伸べ、岩重さんが私達に手を差し伸べた」
「僕は静奈さんと泉さんに救われた。‥‥今度は僕が誰かに手を差し伸べる番‥‥か」
軽やかなメロディが室内に響き、紗雪がズボンのポケットから携帯電話を取り出すと耳に当てる。何度か頷き、分かりましたと言って終話ボタンを押すとクルリと振り返った。
「岩重さんからだったわ。やっぱり鏡月だったみたい」
行きましょうと目で合図を送り、それぞれが鞄を掴むと腰を上げる。扉の脇に設置された鏡を全員が覗き込み‥‥映し出された自分の顔にほんの少しだけ微笑みかけると、そっと目を伏せた。