Welcome to wonderlandアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 2Lv以上
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 2.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/24〜06/27

●本文

 腰まである長い髪を風に靡かせながら、有栖はぷぅっと頬を膨らませた。
「私この服きらぁい!水色なんてヤぁだ〜!私、深緑が好きなの!」
「我が侭言わないでください!」
 白兎はピシャリと有栖の我が侭を封じ込めると、溜息をついた。
「良いですか、有栖。女王様が若返り大作戦をしだして国が傾きそうなんです。これ、一大事ですよ!?」
「若返り大作戦って、具体的にどんなことしてるの?」
「エステにサプリに体操に、洋服も若々しく、メイクもパステルで!」
「‥‥女王様、もう結構な歳だもんね」
「そんな事本人に言わないでくださいよ」
「え〜?どうして?」
「当たり前でしょ!もっと有栖は常識を学んでください!」
「‥‥そう言えば『じょうしき』ってどう書くんだっけ。『上式』だっけ?」
「貴方、外の世界で学生やってるんですから常識くらい書けるようにしてください」
「今はパソコンの時代なんだよ♪」
「有栖はパソコンも使えないでしょ?携帯だって、メールも打てないし」
「でもさぁー、こういう時にこそ苣ちゃんの力は発揮できないわけ?苣ちゃん、ホストスキルがあるじゃない」
「その苣のせいで女王様は若返り大作戦をしだしてるんですよ!」
「えぇー。また苣ちゃんのせいなのー!?」
「そうですよ!女王様は苣に気があるんです!それなのに、俺は有栖が好きだなんて‥‥」
 そこまで言って、自分の失言に気づいた白兎がはっと口を閉ざす。
「えーっと、有栖が好きって言うのは、何て言うかその‥‥」
「苣ちゃん、水色好きだもんねー」
「(良かった、有栖がアホの子で)えーっと、つまりその、女王様は若返れば苣のハートを射止められると思ってるんです」
「ふーん、そっかぁ。それじゃぁ、若くなくてもそのままの女王様が好きだよって苣ちゃんに言わせれば良いのね!」
「い、いや、流石にそれは‥‥」
「よぉっし!頑張っちゃう!私の可愛い制服のため、女王様と苣ちゃんの恋の為!」
「ちょ、有栖!?苣は女王様の事は好きでは‥‥!!」


≪映画『Welcome to wonderland』募集キャスト≫

*有栖(アリス)
 不思議の国の主人公。外見年齢14〜18程度
 脳みそが溶けているのではないかと心配されているほどに話が通じない
 可愛い天然タイプではなく、見ていて心配になるボケタイプ
 考えている事は大抵斜め方向に逸れている
 蜂蜜入り紅茶が大好き
 『私』『貴方』(白兎は君づけ、苣はちゃんづけ、女王は様づけ)

*白兎(ハクト)
 不思議の国の住人。外見年齢14〜18程度
 キビキビとしており、ツッコミ体質
 落ち着いたお兄さん風で常識人。物腰は柔らかい
 『僕』『貴方』(苣も有栖も呼び捨て、女王は様づけ)

*苣(チシャ)
 不思議の国の住人。外見年齢16〜22程度
 本業がホスト、副業がチェシャ猫と言い張っている
 ホストを天職だと思っており、男女構わず口説きまくる
 色っぽい二枚目だが、有栖に密かに想いを寄せている時点で何か間違っている
 『俺』『君』(有栖はちゃんづけ、白兎は呼び捨て、女王は様づけ)

*女王様
 不思議の国の女王様
 苣に思いを寄せており、苣の「有栖が好き」発言を「若い子が好き」と勝手に脳内で変換
 猪突猛進、妄想の世界で生きているような人
 『私』『貴方』(有栖も白兎も苣も呼び捨て)

*不思議の国の住人
 女王様命令で『女王様若返り大作戦』を手助け中
 「苣は若い子が好きなのよ!」の言葉に心中ツッコミを入れる者もいる
 苣が有栖を好きと言うのは不思議の国の住人ならば誰でも(女王様を除く)知っている

●今回の参加者

 fa0117 日下部・彩(17歳・♀・狐)
 fa0142 氷咲 華唯(15歳・♂・猫)
 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa2726 悠奈(18歳・♀・竜)
 fa2807 天城 静真(23歳・♂・一角獣)
 fa3797 四條 キリエ(26歳・♀・アライグマ)
 fa4614 各務聖(15歳・♀・鷹)
 fa5404 橋都 有(22歳・♂・兎)

●リプレイ本文

「全く、急に蜂蜜と月桃茶持って来なさいなんて、女王様も相変わらずね」
 眠(各務聖(fa4614))が城門前で諦めを含んだ言葉を漏らした時、突然背後でガサリと音がした。低く刈り揃えられた植え込みの木が揺れたのだろうと思ったのも束の間、不自然に木が動いているのを発見し、息を呑む眠。歩く木がこちらに近寄ってきて‥‥
「ちょ、えぇ!?何―っ!?ま、待ってーーーっ!!」


 燕尾服の裾をなびかせながら、手馴れた様子で紅茶を淹れる帽子屋・服田(天城 静真(fa2807))は苣(橋都 有(fa5404))に笑顔を向けると白いカップを差し出した。
「本日は有栖殿がお見えになるとのことですが」
「知ってる」
「私めも後ほどご挨拶に伺いませんと」
 苣が有栖にご執着だと言うのは、不思議の国では言わずと知れたことである。それを知らないのは、有栖と女王様くらいなものだろう。だからこそ、服田は遠まわしに苣を誘ってみたのだが、彼は気乗りしない様子でティースプーンで紅茶をかき混ぜるとまだ熱い内に口に運んだ。猫舌ではないのだろうかと服田は心配になるが、チェシャ猫だから猫舌と勝手に決め付けるわけにも行かない。無事に飲み終えた苣がネクタイを直し、鏡を一瞥した後で窓へと近付く。
「おや、お出かけで御座いますか?どうぞお気をつけて行ってらっしゃいませ」
「あぁ」
 ヒラリ、苣の姿が窓の下に消え、服田は胸元から出したハンカチを名残惜しげに振ると壁にかかっていた丸時計を見上げた。


「まあ大変!お腹に余分なお肉が!」
 揃いのミニスカゴスロリ衣装を身に纏った3色の少女達が、オーバーなリアクションで不恰好なダイエットマシーンを必死にアピールしている。派手な音楽は耳を劈くようで、城内にいる人々が迷惑そうに眉を顰めている。
「この商品は1日5分でみるみるスタイルが良くなるんですよ!気になるあの子も愛用してます!」
「買ったわ!」
 女王様(四條 キリエ(fa3797))が本日何度目かの買ったコールを繰り出し、トランプシスターズの3人が黄色い歓声を上げる。パニエによって膨らんだスカートが更に広がりを見せ、編み上げブーツの踵が軽快な音を立てる。
「お次の商品はこれ!トロピカル栽培ハウスから新たに入荷したマンゴーパックです☆」
 灰色の服に袖を通した彼女は‥‥眠!?人々が目をこすってマジマジと見てみるが、どう見ても眠だ。何か妙な術にかかっているとしか思えない変貌振りだ。
「肌の新陳代謝を高めるんです♪」
「買ったわ!」
 女王の足元にまた1つ、国家予算で購入したくだらない物が積み重なった。でも、こんな買い物ならまだ良い方だ。若返り効果があるからと言って山葵や糸瓜、トロピカルフルーツを栽培しまくり、マイナスイオンの若返り効果を狙って人工滝を建造、女王と違ってクソ忙しい国民達を美容体操に参加する義務を押し付けたりと迷惑極まりない。
「最近苣が若く美しくなった私を密かに見つめてくれてるのよ!」
 神出鬼没な彼は、特に女王を見つめているわけではない。もっと言えば、すれ違わない限り女王の存在を気にも留めない。彼の心を占領しているのは、有栖なのだから‥‥
「そんな女王様のために、今日はとってもキュートでラブリーな衣装を持ってきたの!」
 黒子(悠奈(fa2726))が背後からレース襟のブラウスと膝丈の花柄スカートを取り出す。背中がリボンで編み上げられており、夏の太陽の下では凶器にすらなりそうな、目に痛い純白仕様だ。
「わーお、素晴らしいわ!」
 紅子(日下部・彩(fa0117))が手を叩き、黒子がリボンとフリルが満載のピンクのお姫様ワンピースを背後から取り出す。胸元から首にかけてのリボンとフリルは、長時間着ていたら窒息するのではないかと心配になる代物だ。
「これは、ベリーキュートでスイートなあの方もご愛用なの!これは見逃せないわね♪」
 女王様の落とし文句は『あの方もご愛用』だ。女王が目の色を変え、買いコールを入れる。
「国民が視線をそらすのも、若返った私が美しすぎるせいね!」
 買い込んだ品物を恍惚の表情で見つめながら溜息を漏らす女王。おめでたい性格だ。


 不思議の国の変貌ぶりに、白兎(氷咲 華唯(fa0142))は開いた口がふさがらなかった。有栖(姫乃 唯(fa1463))が大して動じていなさそうな乾いた口調で「わー、変わったねぇー」と呟くのをどこか遠くで聞きながら、白兎は頭痛に顔を顰めた。
(どうしてうちの国の女王様はバカなんだ‥‥)
 絶対に声には出せないが、心の中では思いっきり叫ぶ。それが彼流の偏頭痛の治し方だった。有栖が突然押し黙った白兎にいぶかしげな視線を向け、あっと小さく叫ぶと脱兎の如く走り出す。
「苣ちゃん!一緒に女王様の所に行こう?」
 ガシリと有栖に腕をつかまれ、苣が少しだけ頬を染めると視線をそらす。意外と純情な反応に白兎が笑いを必死に堪える。
「やあ有栖、こんな辺境で会うなんて運命的だね。やっと俺のお嫁さんになる気になった?」
「変今日?今日は普通だよ〜?それと、お嫁さんじゃないもん、有栖だもん!それより、苣ちゃん、一緒に女王様の所にいこーよーっ!」
 今日も有栖は変だ。考えていることが斜め方向にずれていると言うか、言葉の意味を理解していないというか‥‥
「俺の可愛いキティちゃんはまだまだ子供で困ってしまうな。男におねだりをする時はそれなりの態度を取らないと」
「私の名前は有栖だってば!それから、コレはおねだりじゃなくてお願い!」
 プゥっと膨れた有栖ににっこりと微笑みかけると、スルリと腕を抜いて姿を消す苣。有栖が腰に手を当て、むぅっと口を引き結ぶと白兎に視線を向けた。
「私の服が可愛くないのは苣ちゃんのせいなのにぃ!ねぇ!?」


 神出鬼没な苣を追いかけて半刻あまり、有栖と白兎は城門前に到着した。有栖が背後を振り返りながら「途中でお昼寝でもしてるのかなぁ。先にゴールしちゃったよぉ」と呟く。それは別の物語りだとツッコミを入れようかどうしようか迷い‥‥城の中に入って行く有栖を慌てて追いかける白兎。
 城の中は若返りグッズがひしめき合い、見るも無残な姿になっており、城で働く人々は皆、やつれている。やつれたメイドに女王の部屋の扉を開けてもらい‥‥トランプシスターズのやけにテンションの高い出迎えを受ける。白兎が再びぶり返してきた頭痛に唇を噛み締め、有栖が目を輝かせながら3人の隣に並ぶ。
「お次の商品はこちら!魅惑のプルプルリップグロス!これをつければ殿方の視線を独り占め!」
「私も早速使ってみたよ。気分がうきうきしてとってもいいんだよ〜」
 有栖が棒読み気味に台詞を言い、女王が買ったコールを入れる。このままズルズルと通販テンションになだれ込むのを避けたい白兎が有栖の耳元で「水色ドレス」と魔法の言葉を囁き、有栖がサっと表情を変えると女王の前に仁王立ちになった。
「女王様はオトナノミリョクがあるんだから、若返らなくたって平気だよぉ」
「でも苣はさっき有栖と一緒にいて、とても楽しそうに‥‥」
 女王の言葉を遮るように服田が人数分の紅茶を乗せたトレーを片手に入ってくると有栖に深々と一礼し、挨拶を述べると蜂蜜入り紅茶を手渡す。大好きな蜂蜜入り紅茶のにおいに有栖が微笑み、女王があっと叫ぶと服田の手から紅茶を取り、ぐいっと一気に飲み干す。熱い紅茶をよく一気飲みできたものだ。
「有栖は蜂蜜が好きよね!きっとそれが苣のハートを掴む秘訣なんだわ!蜂蜜パックでもやろうかしら!服田、蜂蜜を買い占めて私の所に運ぶのよ!」
「待ってよ女王様!それじゃぁ蜂蜜紅茶が飲めなくなっちゃうよ!」
 有栖が服田にウルウルとした瞳を向けるが、女王様のご命令には逆らえない。心底困ったという顔をする服田の背後から突然苣が姿を現し、服田に蜂蜜のビンを手渡すと「有栖に新しいお茶を」と言ってウインクをする。そのウインクを間近で見ていた眠がトランプシスターズの呪縛から開放され、自分の着ている服を見て顔を赤くすると紅子の背後に隠れる。
「女性は美しいのが一番だけど、女王はそのままでも十分素敵ですよ」
 今にも泣きそうな有栖の頭をポンと撫ぜ、女王にホストスマイルを向ける苣。『そのままでも十分ス(テ)キ』と、女王が脳内で間違った言葉に変換し、顔を輝かせると目をハートの形にして苣の腕を取る。
「若返り作戦、やめるわ」
 あっさりとした言葉に白兎がすんでの所で突っ込みを飲み込み、服田がお茶会の準備が整いましたと言って一行を庭へと導く。苣の見事な立ち回りを眠から聞かされた服田が熱っぽい視線を苣に向ける。黒子がゴスロリ衣装を持って白兎の背後にそっと近付き、やんわりと断られる。何時か寝込みを襲おうと心に決める黒子。訴えられないうちに止めておく事をお勧めする。
 有栖が白いテーブルの上に置かれたカップを持ち上げ、嬉しそうに一口飲むと満面の笑みで苣を振り返った。
「やっぱり(蜂蜜紅茶)大好き♪」
 苣がかたまり、女王がクラリとその場に膝を着く。服田と眠が、恐らく有栖は紅茶の事を言ったのだろうと見当をつけ‥‥
「有栖さんも、皆と一緒にずっとこっちで暮らせれば良いのに」
 紅子の呟いた一言に、白兎は目を伏せると小さく溜息をついた。
(いつになったら有栖の水色ドレス嫌い病は治るのでしょうか‥‥)
 それは、神のみぞ知る―――