御伽草子 迷路館アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 3.2万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 10/10〜10/13

●本文

 それは、家の扉だったはずだった。
 学校から帰って来て、元気良く銀色のドアノブを回し・・・入った先は知らない場所だった。
 右を見ても左を見ても長く続く廊下には、真っ赤な絨毯が敷かれている。
「・・・ここ、どこ・・・?」
 咄嗟に背後を振り返ればそこには入ってきたはずの扉はなく、前に続く廊下と同じものが横たわっている。
 廊下の両側には天井にぶら下がっている小ぶりのシャンデリアと同じ数だけ扉があり、金色のドアノブには繊細な彫刻が施されている。
「どうしよう・・・」
 そう呟いた時だった。
 不意に隣の扉が開き、中から真っ白な着物を着た髪の長い女性がぬっと顔を出した。
「うわぁぁぁっ!!!」
「な・・・なにぃぃぃぃっ!!!??」
「ゆ・・・幽霊!!幽霊っ!!」
「え!?えっ!?どこどこどこどこっ!!??」
「貴方ですよっ!」
「あ、私か」
 苦笑しながらそう言って頭をかく女性に思わず脱力する。幽霊なのに、全然怖くない・・・。
「ここは何処なんです!?貴方は誰なんです!?僕、もしかして死んでしまったんですか!?」
「そんな矢継ぎ早に聞かないでくれるかなぁ。そもそもキミ、死んでたら私と同じ幽霊じゃない」
「そうですけど・・・でも僕、ただ家の扉を開けただけなのに・・・」
「ふむ、迷子ね。あ・・・そうか。今日は“あの日”だったんだ」
「あの日、ですか?」
「んんー、ちょっとね。ここは迷路館ってところ。あの世じゃないから心配しないで」
「良かった。僕まだ死んでないんだ・・・。それで、貴方は誰ですか?」
「私?私は浮遊霊の鈴。この館を徘徊している1人よ」
「鈴・・・さん。僕は荻野 悠って言います」
「そ、悠君ね。キミ、丁度“魔の刻”に扉を開けちゃったわけだ。なんと言うか、不憫な子としか言いようがないのよねぇ」
「魔の刻・・・!?」
「この世界とキミのいる世界とを繋ぐ時間ってトコかな?凄いね、コンマ単位まで同じ時間に開けちゃったわけだ」
「そんなので凄いって言われても全然嬉しくないんですけど」
「それで、キミは元の世界に帰りたいんだよね?」
「はい。でも・・・どうしたら帰れるんですか?」
「帰るための扉は1つだけなんだなぁ、コレが。それでもって、結構奥まった場所にあるんだ。ま、これも何かの縁。私が連れて行ってあげるわ」
「有難う御座います・・・鈴さん、良い幽霊なんですね」
「んんー、まーねー。困ってる人は放っておけないって言うか・・・。でも、安心しない方が良いよキミ」
「え?」
「ここはね、幽霊や妖怪が巣食ってる場所なんだ。それでもって、皆が皆良い人ってわけじゃないのさ。私は非力な幽霊だから、キミがたとえ鬼に襲われてても助けてあげられないわけなんだね。あ、勿論危ないところは避けて進もうと思うけれど、運悪く遭遇しちゃうってこともあるかも知れないんだよね」
「えぇ・・・」
 不安そうになった悠の顔を見て、鈴がニカっと安心させるように微笑むとその頭を撫ぜた。
「ま、そんな心配そうな顔しないしない。ここには優しい幽霊やら妖怪やらもいるんだから。もしかしたら、力になってくれるかも知れないしさ」
「・・・はい・・・」
「さてと、外へ続く扉はどっちの方角だったかなぁ・・・何せ入り組んでるからなぁ、ココ」
「そう言えば鈴さん、扉すり抜けたりとかしないんですね」
「そんな人外な技、出来るわけないじゃない。幽霊になっても人、人は人」
「そうなんですか!?えぇ・・・なんかイメージ違いますね・・・」

 陽気で面白い浮遊霊の鈴と迷子の悠。
 外へと通じる扉を目指し、2人は迷路館の奥へと足を踏み入れるが・・・??


≪映画『御伽草子 迷路館』募集キャスト≫

・荻野 悠(おぎの・ゆう)
 外見年齢小学生〜高校生程度の男の子
 学校帰りに迷路館へと引き込まれてしまったために、小学生ならばランドセル、中高生ならば制服のままです。
 素直で純粋な性格ですが、頭は良く運動神経もそこそこあります。
 口調『僕』『貴方・〜さん』『です・ます』
 →丁寧な言葉遣いです。

・鈴(すず)
 外見年齢10代後半〜20代の女性
 真っ白な着物を着ており、黙っていれば美人です。
 悠が外に帰れるようにと案内役を申し出ますが、結構な方向音痴です。
 口調『私』『キミ・(年齢によって)君、ちゃん、さん』『だ・だね』
 →何かを誤魔化す時に『んんー』と言います。

・その他
 迷路館に住み着いた幽霊や妖怪
 悠と同じく迷路館に迷い込んでしまった人

●今回の参加者

 fa3487 ラリー・タウンゼント(28歳・♂・一角獣)
 fa4181 南央(17歳・♀・ハムスター)
 fa4263 千架(18歳・♂・猫)
 fa4361 百鬼 レイ(16歳・♂・蛇)
 fa4578 Iris(25歳・♂・豹)
 fa4579 (22歳・♀・豹)
 fa4622 ミレル・マクスウェル(14歳・♀・リス)
 fa4840 斉賀伊織(25歳・♀・狼)

●リプレイ本文

 複雑に入り組む屋敷内を、鈴【南央(fa4181)】と悠【百鬼 レイ(fa4361)】が1歩1歩慎重に進んで行く。時折ふっと廊下の先に人影が現れては消えていくが、鈴が言うところの『人外の事が出来る幽霊』らしい。ただ、悠の感覚的に言えばソレが普通の幽霊なのだが・・・それを言うと、鈴が困ったように眉を顰めながら言うのだ。
「幽霊を偏見の目で見ないでくれるかなぁ〜」
 随分長い間屋敷内を彷徨っていると、2人は楓【斉賀伊織(fa4840)】と言う幽霊の少女に出会った。悠が迷子の人間だと気付いた楓が、2人に同行を申し出ると3人は歩き始めた。


 ブツブツ何かを呟きながらついてくる男性幽霊の存在は勿論知っていた。何せ何度も背後から「今の角・・・逆」やら「其方ですと、約32分遠回り・・・です」やら、もっと大きい声で言ってくれ!と思うような有り難い忠告が聞こえてくるのだ。と言うか、親切で言ってくれているのならばそんな背後にいないで正々堂々と姿を現して欲しい。パっと背後を振り向けばサっと何処かに隠れてしまう、彼は不思議な存在だった。
「彼はねぇ、ぬっしーさんだよ」
「ぬっしーさん??」
「この屋敷内を1番よく知ってる人なんだよ。だから、主って意味でぬっしー」
「それで、どうして背後からついてくるんです?」
「んんー・・・シャイだから?」
 絶対に違うと思いつつも、一定の距離を保ってついてくるぬっしー【千架(fa4263)】に思わず溜息をつく。
「・・・ちょっと鬱陶しい」
「そんなこと言わない言わない。良い人なんだしさ」
 鈴が宥めるようにそう言った時・・・どこからともなくシャキシャキと小気味良い音が響いてきた。続いて車輪が凄まじいスピードで回る音と、音程の良く取れた鼻歌が聞こえて来る。
「小豆シャッキシャッキふんふふーん♪はい、ヤマちゃんも!」
 シャーっと言う音が直ぐ背後から聞こえ、思わず振り返る。同じ顔をした2人の人物が、台車に乗りながらシャキシャキと小豆を洗っている。見た目は普通の人間だが、台車に乗りながら小豆を洗っている時点で普通の人間ではない。
「あら!?人が居るわ!ヤマちゃん止めて!」
 台車の上で上機嫌に小豆を洗っていたナカ【檀(fa4579)】の声に、ヤマ【Iris(fa4578)】が慌てて台車をストップさせる。
「小豆洗いの・・・ナカさんとヤマさんです」
 困った顔をして首を傾げた悠に、ぬっしーが解説を入れる。
「小豆ちょーだい!」
 不意にナカがそう言って悠に手を差し出す。そんなものを持っているはずもなく、首を振る悠にナカがキっとした視線を向ける。
「小豆愛が足りない子達!」
 そう言って問答無用でナカが小豆洗い講習会を開始し始める。悠や鈴を引っ張って小豆の入った盥の前に立たせ、シャキシャキとまずは自分がお手本を見せる。
「この講習会に合格した人には・・・小豆洗い初級の称号が・・・貰えます。ただし、合格ラインが高いため、なかなか合格する人はいません」
 ぬっしーの解説が入るが、それは合格ライン云々の前に、受ける人数の問題にもよるのではないかと思う。
「僕、小豆嫌いなんですよね。特に食感・・・」
 小豆洗い2人が必死に講義を行っているのを見ながら、思わず悠がそう零してしまう。
「ちなみに、小豆を馬鹿にすると・・・ヤマさんの方が・・・怒ります」
 ぬっしーの解説が言い終わるか終わらないかの内にナカが悲しそうな表情を浮かべ、ヤマの雰囲気が一変する。ボーっとした様子だったのが、妖力を放出し、敵意を前面に押し出した視線を悠に向ける。
「お前、今何て言った」
「あの・・・」
「ヤバイ!悠君、逃げるよ!」
 鈴がそう言って走り出し、悠も慌ててそれに続く。ヤマが台車を押して走ってきて、ナカがその上で小豆を洗っている・・・が、すでに表情は晴れ晴れとしている。小豆を10回シャキシャキしてしまえば、大抵の悩みは忘れられるのがナカの特技であった。


 何とか小豆洗いから逃れた時には、何時の間にか悠と離れ離れになっていた。ちなみに、逃れたと言う言葉には多少の誤解がある。ただヤマの怒りが静まって追いかけてこなくなったのだ。
「悠君を捜さないと・・・」
 そう言って廊下を曲がった瞬間、誰かと鉢合わせした。彼の名前はウィリアム・クレイグ【ラリー・タウンゼント(fa3487)】悠と同じくこの屋敷に彷徨いこんでしまった人なのだが、幽霊が大の苦手だったのだ。それこそ、失神するほどに。
「わぁぁぁっ!!!ちょっとキミ!大丈夫!?」
 鈴が幽霊だと直感で感じたウィリアムがその場で失神し、ばたりと倒れこんでしまう。

「さっき姿を見たよ」
 暫くしてから意識を取り戻したウィリアムに事の次第を説明すると、そんな言葉が返ってきた。
「僕でよければ案内する・・・けど、僕の前に立たないでくれると有難いな」
 幽霊が近くに居ると言う事実だけで意識を喪失しそうなのに、前になんて立たれたならば確実に失神してしまうだろう。なるべく鈴を見ないようにと視線をそらした先・・・ふっと、目の前に現れた可愛らしい少女に思わず意識が遠退きかける。
「あっ!!ちょっと!」
 鈴が今にも消えそうな幽霊の少女ミリー【ミレル・マクスウェル(fa4622)】の腕をガシっと掴んだ。
「男の子見なかった?悠って名前なんだけど、なんだかあの人頼りなさ気で・・・」
 ウィリアムがその言葉に反論しようと思うが、残念ながら幽霊×2の出現で視界が極端に狭まっており、立っているのがやっとといった状態だった。
「・・・あたしも迷子なの」
 拗ねたようなミリーの言葉に、鈴が「やっぱりあの人に頼るしかないかぁ」と呟く。酷い言われようだが、ウィリアムの方向センスは鈴の数百倍はあると言っても過言ではない。少し考えた後でミリーも2人についていくことにして、ウィリアムが先頭に立って歩き始める。そのヨロヨロとした背中を見詰めながら、ミリーが隣を歩く鈴にこっそりと耳打ちをする。
「あの人、生きてるんでしょ?あたし達、生気を吸われちゃったりしない?」
「んんー、逆ならあるかもねぇ」


 鈴の方ではなく、こちらに走ってきてくれたのは心底感謝している。でも、だからってコレはない・・・
 横座りで瞳を潤ませているぬっしーの様子に、悠は溜息をついた。
「ああ、小豆洗いに引き裂かれ哀しい2人・・・でも、私には引き裂かれる相手さえいませんわ!」
 なぜかスポットライトがぬっしーを照らし出し、なぜか紙吹雪が飛んでいる。ポルターガイスト現象だ・・・。運悪く戻って来てしまったウィリアムが目の前で髪を靡かせている美少女ならぬ美少年に「もー・・・いや・・・」と呟きながら失神してしまう。
「あぁ・・・これも私が美しすぎるのが罪なんですのね・・・」
「何これ!」
「眼鏡が落ちたらこうなってしまい・・・」
 鈴が顔を引きつらせながら、悠の手を引く。
「さっさと行くわよ!」
「お待ちになって!そちらは逆方向ですわ!」
 乙女ぬっしーに指摘され、鈴が苦笑いする。とんだ道案内人も居たものだと思った時、不意にミリーが走り出した。その先には、面立ちの良く似た女性【シヴェル・マクスウェル】の姿。ミリーが抱きつき、満面の笑顔で微妙なことを口走る。
「やっと逢えた!今回は早かったでしょ?1ヶ月くらい?」
「・・・まったく、道くらいいい加減覚えろ。・・・ん?生者か?」
 ふっと視線を上げた女性がそう言って、近くの扉を指差すと一言呟いた。
「出口ならそこだぞ?」
 あんまりにも淡白なその言葉に、思わず言葉を失う。2人が別の扉へと消え、失神中だったウィリアムが意識を回復し・・・悠とウィリアムは扉の前に立った。
「此処を抜けたらニューヨークの我が家・・・だと良いな」
 ウィリアムの言葉に悠が頷きかけ・・・ガシっと、その袖を掴んだ手に顔を上げた。今まで黙ったままだった楓が、顔つきを変えて立っていた。
「帰さない」
「楓さん?」
「私は帰れないのに!」
 彼女もまた、悠やウィリアムと同様にこの屋敷に迷い込んでしまい、外に出られないまま命を落としてしまったのだった。
 「それなら、一緒に帰りましょう・・・楓さん」
 悠はそう言うと、微笑んだ。楓が思いもよらない言葉にその場にへたり込み、頬を透明な涙が一筋流れ落ちる。
「ずっと帰りたかったの・・・。有難う、悠ちゃん・・・」
 心の迷いが晴れた楓が儚い笑顔を浮かべながら、段々と消えていく・・・
「悠君はきっと、あの子の扉を見つけてあげたんだね」
「え?」
「さぁ、行きなよ。・・・これで、サヨナラ」
 鈴が手を振り、ぬっしーがやっと見つけた眼鏡をかけ、ポツリと言葉をかける。
「・・・お元気で」
 遠巻きに見ている2人に礼を言うと、悠とウィリアムが扉の前に立った。
「何だか、不思議な場所でしたね」
「そうだね・・・」
 悠の言葉にウィリアムが苦笑しながら「僕は失神してばっかりだったけどね」と小声で呟き、そっと扉を開けた・・・


 気がつけば悠は家の前に立っていた。銀色に光るドアノブを握り、目を瞑ると一気に押し開ける。もしもまた、あの屋敷だったならば・・・そう思った悠の耳に、シャキシャキと小豆を洗う音が響く。まさか・・・そう思って目を開ければ、そこは見慣れた我が家だった。台所の方から、水を流す音と母親の調子はずれな鼻歌が聞こえて来る。

「帰って・・・来たんだ」

 悠は呆然とそう呟くと、台所に向かって走り出した・・・