かぐや姫の事情アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 2.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/22〜10/24

●本文

 峰崎 竜牙(みねざき・りゅうが)は父親である峰崎 龍雄(みねざき・たつお)の持ってきた台本をパラパラと捲るとパタリと手を止めた。
「・・・竹取物語、だよな?」
「そうだぞ、竜牙!竹取物語だぞ!かぐや姫の出てくる、あの竹取物語だぞ?」
「ってかさ、竹取物語ってこんな話だっけ?」
 お笑い芸人である龍雄が心機一転、映画監督として走り出したのは良いのだが・・・未だに芸人時代の思考が抜け切っていないようだった。
 そもそも、竹取物語と言えば竹だ。竹から生まれたかぐや姫と言うくらいなのだから・・・
「はは、馬鹿言っちゃいけないよ竜牙!どうやれば人間が竹から生まれるんだ。思いっきり規格外サイズの竹じゃないとダメだろ?」
「や、でも・・・竹を伐ってかぐや姫を見つけるんだろ?」
「馬鹿だなぁ。これは現代版竹取物語だぞ?それに第一、光る竹って時点で怪しさ大爆発じゃないか。俺ならそんな竹には近づかないね。しかも、万が一手元が狂ってみろ?竹の中に人が居たら・・・」
 その先は、あえて言葉を濁す龍雄。こっちだって、そんな話は聞きたくない。
「まぁ、竹は置いといて・・・かぐや姫、高校生設定なんだ?」
 竜牙の言葉に龍雄が頷く。
 ・・・もっとも、台本通りに言えば“月里 神倶夜”(つきさと・かぐや)だが・・・。思いっきり当て字なのが痛々しい。
「そもそも、かぐや姫って女だろ?なんで男設定なんだよ?」
 そうなのだ。龍雄の書いた竹取物語の台本では、主人公である神倶夜は“家の掟により20まで女性として育てられることとなった男子”となっているのだ。
「5人のセレブから求婚されて、それをことごとく振るんだ・・・それなりの理由があるからだろう?」
「かぐや姫は月の世界の人だから・・・」
「はは、本当にお前はファンタジーが好きだなぁ。月に人なんて居るわけないだろ?居たとしてもそれはきっと、宇宙飛行士の人だよ」
 恐るべし現代版竹取物語・・・月の住人設定すらも打ち砕いてしまう・・・。
「神倶夜の出す難題も、おかしなものばっかなんだけど?」
 竜牙がそう言って、台本の上に指を滑らせる。
 “池田さん家の麺棒”“川野さん家の庭にある桃の木の枝”“大田さんが持っている毛皮のコート”“大野さん家のポチの首についている迷子札”“山根さん家の蜂の巣”
「いやいやいや、池田さんって誰?川野さんって?」
「池田さんは、神倶夜の隣の家の人で、趣味は・・・」
「そんな詳細設定イラナイし。そもそも、そんなピンポイント、取ってこれるじゃん」
「ところが、池田さん家に麺棒はないんだ。何故なら、麺を・・・作らないから・・・」
「・・・は?」
「川野さんの庭にあるのは桃ではなく柿なんだ。大田さんは毛皮のコートをすでに処分してしまっているし、大野さんの家の犬はポチではなく太郎だ」
 要約すると、絶対に持ってこられないものを頼んでいることになる。
「最後、これが1番悲劇なんだ・・・山根さんの家の蜂の巣は、なんと・・・前日に業者の人によって・・・」
 全然感動ポイントでもないのに、何故か龍雄は目に涙を溜めている。
「でもさ、結末をどうするわけ?本物の竹取物語では、かぐや姫は月に帰っちゃうわけでしょ?」
「・・・親衛隊だ」
「はぁ?」
「神倶夜を守ろうとする親衛隊が、神倶夜を無事に月里家に送り届けるんだ。何とかもう少し話をしたいと頑張る男達を押しのけて、親衛隊が彼を家へと連れて行ってしまうんだ」
 力を入れながら話す龍雄だったが、そんなに興奮して喋るような内容でもない気がする。
「親衛隊の何人かは神倶夜が男だと知っていて手を貸しているのだ・・・!」
「ってか、神倶夜、男だって知られてるのか!?」
「一部の女子には気付かれるだろう。幾ら女性として育てられているとは言っても、神倶夜の心は男性だ!いくら外見が美少女だったとしても、分かる人には分かるんだ!」
 力説されてもどうしようもない。
 竜牙は深い溜息をつくと、最後に1つだけ・・・疑問を投げかけた。
「不死の薬はどこにいったんだよ?」
「・・・そんな薬、あるわけないだろ?」
 ―――――笑顔が眩しかった・・・・・


≪映画『かぐや姫の事情』募集キャスト≫

*月里 神倶夜
 男性だが、女性として育てられている
 かなりの美少女外見。外見年齢15〜18歳程度
 何とか女性として振舞おうとしているのだが、男言葉になったり一人称が俺になったりする
 →何とか取り繕いバレることはない
 あだ名は“かぐや姫”だが、そう呼ぶと笑顔が崩れる

*神倶夜に好意を寄せる人
 原作通りですと5人ですが、それ以上でも以下でも構いません
 性別・年齢共に特に指定はありません
 ただ、表向き神倶夜は女性ですので、女性として好いていると言う場合に限ります

・神倶夜親衛隊
 年齢・性別共に指定はありません
 神倶夜親衛隊の中で、神倶夜が男だと知っている人はごく少数です
 他の大部分の人は神倶夜を“美少女”として守ろうとしています

●今回の参加者

 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa0892 河辺野・一(20歳・♂・猿)
 fa2539 マリアーノ・ファリアス(11歳・♂・猿)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)
 fa4263 千架(18歳・♂・猫)
 fa4559 (24歳・♂・豹)
 fa4619 桃音(15歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 神倶夜【千架(fa4263)】は、通行妨害よろしく目の前で花束を差し出してきた4人の人物に柔らかい笑顔を向けると心の中で思った。
(毎回毎回、俺の家族を花粉症にする気かってくれぇ花贈ってくんな!鬱陶しいっ!!)
 けれど、それを口に出してしまったならば彼女‥‥彼の持つ秘密はバレてしまう。隣に控えていた御影【MAKOTO(fa0295)】と小夜【桃音(fa4619)】が神倶夜の前にサっと出て、両手を広げた。両者の間で火花が飛び散る。
「毎日ご苦労様です。皆さんの気持ちはとてもよく分かりますけれど、やはり誠意を示していただけませんと」
 神倶夜の言葉に身を乗り出すセレブ4人。その様子を柱の影から見詰めながら、ゆくる【湯ノ花 ゆくる(fa0640)】がぶつぶつと何かを呟きメロンパンを鞄から取り出す。
「怪しいです‥‥怪しい匂いがぷんぷんするデス‥‥」
 そう言っているゆくるが1番怪しいのは、ご愛嬌だろう。


 誠意を見せろ、その要求は決して楽なものではなかった。現に『池田さん家の麺棒』を持って来てくださいと、素敵な笑顔で言い渡されたディエゴ・モリーナ【マリアーノ・ファリアス(fa2539)】は、そんな簡単な事で良いのかと意気揚々と池田家のドアを叩き、愕然とした。そう、池田さんは麺棒なんて持っていないのだ。焦ったディエゴは早速手数料込みで6桁の金額を渡し、池田家の夫人に買って来てもらうように頼むのだが‥‥事前にそのことを察知した鷹司光輝【笙(fa4559)】の手によって買い占められていた後だった!なんとかツテを辿り麺棒を取り寄せ、池田家に贈呈した後で神倶夜の元へと戻る‥‥
「その麺棒は買ったばかり!池田さん家の味と魂が篭ってない!」
 御影がディエゴから受け取った麺棒を見てそう言い、小夜が詰まらなさそうに麺棒をペイっとディエゴに投げ返す。
「反則ですのー!」
 ディエゴが恐る恐る視線を上げ、ブリザード級の冷視線を向けながら微笑む神倶夜に思わずときめく。盲目的な愛とはこの事を言うのだろうか。
「その麺棒で根性叩き直します?」
 勿論、神倶夜のそんな乱暴な言葉はディエゴには聞こえていなかった。


 電車の屋根に乗り足元にカセットを置いて、BGMを流しつつやけに壮大な登場をした川村泰蔵【河辺野・一(fa0892)】だったが、性格はかなりヘタれていた。小夜が嫌々手渡した紙に書かれていた指令は『大田さん家の毛皮のコート』超特急で大田家に向かったものの、返事は「捨てた」と素っ気無い。本当に捨てたのかと地味な聞き込み調査をするが、捨てたものは捨てたもの、推理もなにもない。再び迷惑にも大田家に転がり込み何とかとんちの利いた推理を展開しようとするが、その考えが既におかしい。
「あの、さっきから気になっていたのですが。大田さんの頭の上にあるナイロンの毛皮、それはいったいなんの動物の毛皮でしょうか‥‥?」
 極めつけにはそんなとんでもない事を言い出し、ペっと頭の上のものを引っつかむと一目散に神倶夜の元へと走って行った。
「それは親父殿の!?」
 御影が驚きながら泰蔵の持ってきたヅラを手に取る。そう、彼女の本名は大田御影、大田さん家のご長女だ。毛皮のコートは既に処分していたため、安心していたのだが‥‥
「‥‥どこのコートだっ!」
 そもそもこれはヅラだ。思わず蹴りを入れ、泰蔵が吹っ飛ぶ。
「え!?蹴られた!?」
「幻聴幻覚ですの。疲れているんじゃありませんの、オーッホッホ」
「そうですよ」
 小夜が遠い目をしながら取り繕い、神倶夜がその言葉に頷く。
「冷静に考えれば鬘は帽子だ、コートではない」
 御影がそう言い、勝手にヅラを持ってきた泰蔵にデコピンをくらわす。


 『大野さん家のポチの首についている迷子札』を所望された光輝はグループのネットワークを駆使して大野家のポチを全国捜索していた。せっかくのネットワークをこんなことに使うとは、なんとも悲しい話である。しかし、情報の無駄遣いも虚しく大野家にポチと言う名の犬はいなかった。しかし、ここで引き下がるような男ではない。何のためにライバルの妨害までしたと言うのか!光輝は月見里家近所に住む大野老人のもとを尋ねると、テーブルの上に現金を積み上げた。
「大野さんの飼っている太郎と言う名の犬を、ポチと言う名に改名していただきたい」
「は!?あんだって!?」
 大野老人は少々耳が遠かったが、光輝は了承の言葉と受け取るといそいそと太郎の首に掛かっていた迷子札をポチと訂正し、それを持って神倶夜の元へと急いだ。
「大野さん家の犬はポチではなく太郎だ」
「改名していただきました」
 御影の言葉に爽やかに返答する光輝。その言葉に神倶夜と御影がブチっと切れる。
「ふざけるな!名前は魂に宿る物!早々変えて良いわけがない!」
「お前こそオスカル太郎にでも改名しろ!」
 あまりにもふざけた言葉に怒った神倶夜が光輝の死角から跳び蹴りをし、すかさず御影が身代わりポジションに立つ。大野老人と老犬太郎の絆を金で片付けようとは‥‥
「そうですのー!自分こそ改名すれば良いですの!アンドレ山田、花岡トーチラス」
「そうだ!貴様もなるか!?チョチョリーナ光やプードル関西に!?」
 総攻撃にダメージを受けてしょんぼりと落ち込む光輝。
「このくらいでダメージ受けるなんて、ひよっこですのねー?根性の無い輩にかぐやちゃんは渡せませんの!」
 小夜が追い討ちをかけ、光輝はその場にしゃがみ込むと電柱相手にいじけ始めた。


 困ったことはお金で解決☆わたくしの一番の武器はお金なんですの♪と言う性格の西園寺カノン【敷島ポーレット(fa3611)】はお姉様のご所望された『川野さん家の庭にある桃の木の枝』を取ってくるべく川野家を探し‥‥そこに桃の木がない事を知ると、とんでもない大技に繰り出した。手っ取り早く近くに桃の木のある家の庭を金に物を言わせて買い取り、川野家に押しかけると土地の権利書にハンコを押させた。そしてその足で桃の木の枝を1本折ると神倶夜の元へと急いだ。
「お姉様、お持ちいたしましたわ」
「川野さんの家に桃の木はないはずですが?」
 金髪縦巻きロール、ゴージャスなドレスと言う場違いな格好のカノンが神倶夜の言葉に説明を入れ、証人にと川野さんを呼び寄せる。川野さんがカノンの言葉に頷き、電柱と仲良くしていた光輝が立ち上がると川野さんに向かって無償不動産取得の贈与税や固定資産税の話を長々と繰り出し、カノンには不動産登記の必要時間云々と知的なツッコミをいれるが‥‥
「要求は『川野さんの“家の庭”にある桃の木の枝』であって『川野さんの“庭”にある桃の木の枝』ではない!」
 光輝よりもあっさりとした言葉に、神倶夜が拍手を送る。
「家の庭の桃の木ですものね」
 カノンが肩を落とし、分かりやすい説明は長々しい説明よりも千倍近い価値がありますと言う神倶夜の言葉に光輝が再び電柱と友達になる。


 結局全て失敗に終わったセレブ達だったが、どうしても諦めきれない。我侭カノンが黒服に神倶夜を攫わせようとするが、御影が撃退し、泰蔵が神倶夜の隣に立つと
「実は料亭とか行った事ないんですよ、神倶夜さんと一緒に行ってみたいです!」
 とマシンガントークを繰り出し小夜に適当にあしらわれる。これではラチがあかない、そう思った神倶夜は4人に最後の難題を言い放った。即ち、山根家の蜂の巣だ。一目散に駆け出していく4人の後から神倶夜と親衛隊も走り出し、じっと様子を見守っていたゆくるが行動を開始する。先程から神倶夜の正体をつかめそうなシーンは何度もあったが、そのたびに地味なドジをやらかしていた。
 派手に山根家に乗り込んだ4人は、盆栽を弄っていた老人に蜂の巣を出せとばかりに詰め寄る。そんな命令口調なのは余裕がないからであって、隣に居るライバルを何とか蹴落とそうと必死だ。あまりにも生意気な態度の4人に山根老人がブチ切れると和室の奥に飾ってあった日本刀をスラっと抜いた。
「お祖父様、殺傷沙汰は‥‥」
 その展開に小夜が声をかける。そう、小夜の本名は山根小夜。目の前で日本刀を抜いた山根老人のお孫さんなのだ。山根家には蜂の巣がないと知ったディエゴが落ち込んでその場にしゃがみ込み、他の3人は山根老人に追いかけられて走り去ってしまう。あまりにも落ち込んでいるディエゴの肩を小夜が叩き‥‥その瞬間、ディエゴは小夜に恋した。
「これは全てあなたに出会うための試練だったのでスネ!」
「すり込み式に惚れんじゃねーっ!!!」
 小夜がディエゴを足蹴にし、蹴られた場所をさすりつつ更に暴走を繰り広げる。
「愛が痛いヨ‥‥」
「愛じゃなくてアンタが痛いわー!!!」
 小夜のパンチはクリーンヒットした。

 さて、そんな2人とは打って変わって外では大変な事態が起きていた。外に逃げようにも御影が拳を鳴らして退路を断っているし、家からは山根老人が迫ってきている。光輝が神倶夜の肩に手を置き「どんな事があっても貴方を守ります」と、状況が理解できていないらしい発言をする。神倶夜がそんな光輝を殴り‥‥
「2人とも、やっちまいなっ!」
 決定的チャンスとばかりにゆくるがその光景をカメラに収めようと頭に乗せた猫カメラを‥‥地面に落とした。