ぶっつけ本番ミニライブアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 普通
報酬 0.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/05〜07/09

●本文

「なんだって・・・??」
「ですから、予定されていた・・・」
「ふざけるな!」
 ガンと、デスクに拳を叩きつける音が狭い部屋に響く。その音に、思わずビクリと肩を震わせると目を瞑った。
「事故って来られないなんて、言い訳にならないだろ!?」
 そう言われても、どうすることも出来ない。
 現に向こうは身動きの取れない状態だし、こちらだって・・・どうにも出来ない。
 自動車同士の玉突き事故を、誰が予測できたのだろうか?誰が、それに本日のメインを勤めるアイドルの少女が巻き込まれると予測できたのだろうか?そして、渋滞に巻き込まれて出演者達が来れなくなると、誰が予想できたのだろうか?
 幸い少女は軽傷で、擦り傷とうちみ程度らしいのだが・・・
「開演まで、あと3時間も無いんだぞ!?今から代えを見つけるなんて無理だ!延期するしかないのか!?・・・でも、子供達は今日を楽しみに・・・。どうしたら良いんだ・・・」
 頭をかきむしりながら、デスクの上に散らばった書類を床に落とす。


 都心から少し離れた緑豊かな場所にある小学校。そこが今回のコンサートの舞台だった。
 夢見る少年少女たちに、素敵な歌とダンスの贈り物を・・・
 先生達の粋な計らいで、売り出し中のアイドルを数人呼んでのミニライブをやる予定だったのだが・・・メインを勤める少女が事故に巻き込まれ、他の出演者たちも渋滞にはまって身動きが取れなくなっているらしい。
 小学校の校庭には、ステージが着々と造られていっている。
 今日を楽しみにしていた子供達が、暫くすればやってくる・・・。
「・・・俺、なんとか連絡つけてみますよ。急遽・・・出られる人がいないか」
「だが、もう・・・リハーサルを1回出来るか出来ないかですぐ本番だぞ!?全体を通すことだって出来ない・・・ぶっつけ本番も良いところだ」
「そんなの分かってます。でも、悔しいじゃないですか!折角この日のために色々計画を立てて、子供たちだって楽しみにしてて・・・」
「しかし・・・」
「俺、探します!見つけますよっ!絶対・・・やってくれる人、いるはずです!」
 もう半べそ状態だった。
 ここまでむきになる理由なんてないのかも知れない。延期すれば良いのだけの話ではあるが、それでも・・・子供たちの笑顔が見たい、それだけは確かな願いだった。


◆補足
・舞台は鉄筋で組まれたそれほど大きくないものです。
・ソロでもグループでも参加可能です。
・もしもバックバンドが必要だと言う方がいらっしゃいましたらスタッフに言えば必死になって探してくれるかも知れません(が、スタッフ内でそれらをやったことがある人になる可能性大です)
・曲はお任せいたしますが、オリジナルに限ります。
・子供たち相手のライブですので、歌以外にもダンスやちょっとした技(バクテン等)があれば披露してください。

●今回の参加者

 fa0074 大海 結(14歳・♂・兎)
 fa0133 凪代繭那(21歳・♀・鴉)
 fa0585 畑下 雀(14歳・♀・小鳥)
 fa0634 姫乃 舞(15歳・♀・小鳥)
 fa2172 駒沢ロビン(23歳・♂・小鳥)
 fa2726 悠奈(18歳・♀・竜)
 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)
 fa2870 UN(36歳・♂・竜)

●リプレイ本文


 共演者やスタッフの姿を見つけては、畑下 雀(fa0585)は短い挨拶を交わし、深々と頭を下げると、持って来た可愛らしいバッグを片手に校舎へと走って行く。
「あれ〜?どうしたのかなー??」
「着替えに行ったみたいだよ♪」
 首を傾げる柊ラキア(fa2847)の問いに、悠奈(fa2726)がニコっと爽やかな笑顔を浮かべながら答える。
 緊急の出演要請を受け、快くそれに応じたのは全部で8人。
「1人1人歌うのも良いが、それだと時間が足りないな」
 UN(fa2870)の言葉に、それならグループを作れば良いと最初に言ったのはラキアだった。直ぐに数名が名乗りを挙げ、今日限りのスペシャル・グループが完成する。
「僕はソロで、最初に歌うよ。小学生だし、もしかしたら知ってる子がいるかも知れないし」
 トップバッターを引き受けたのは大海 結(fa0074)だ。マスターテープをスタッフに手渡し、歌い慣れているデビュー曲なのでぶっつけ本番でも大丈夫だと言って微笑む。
「それでは、デボ子が2番目を務めさせていただきます・・・」
 戻ってきた雀がそう言って、持っていたテープをスタッフに渡しに行く。その姿は先ほどまで着ていた服とは違い露出が多くなっていた。
「曲は、1つ持ってるけど」
「私も・・・」
 凪代繭那(fa0133)の言葉を受け、悠奈も言葉を続ける。それならば、その2つで行こうと話はまとまり、楽譜を受け取ると必死に頭に叩き込む。楽譜片手に歌っていては様にはならない。ソロの2人が先に歌うと申し出てくれた分、猶予は出来たがそれにしても時間は足りない。
 必死に楽譜と格闘する姫乃 舞(fa0634)の隣で、不意に駒沢ロビン(fa2172)が顔を上げると近くを通りかかったスタッフを呼んだ。
「すみません。後日、当初予定されていた方によるライブはあるんでしょうか?」
 呼び止められたスタッフは困惑した顔で、軽く首を振ると走り去って行った・・・。


 外が騒がしくなり、子供達が集まって来る。若い教師が、予定されていたアイドルが来られなくなったと告げると、明らかな落胆の声が聞こえて来た。
 結はそんな声を聞きながら、気持ちを落ち着けていた。最初に歌う人は緊張する。雰囲気作りをしなくてはならないのは大変な作業で、無邪気な子供相手なら殊更大変だった。
 結の名前が呼ばれ、ステージに上がる。元気なポップス系の曲が流れ、子供達から「ユイちゃんだ!」と言う歓声が上がる。

【ソラ翔る想イ】

どうしたらこの気持ちを君に伝えられるんだろう
想いは遠く空の向こうへと続いている

初めて会った時からきっと始まっていた
小さな出来事が重なって
いつの間にか大きな出来事になった。

知れば知るほど止められない想い
君と居られることを何よりも願ったから

どうしたらこの気持ちを君に伝えられるんだろう
想いは遠く遙か向こうへと翔ていく

 ダンスをあわせてステージ上を動き回り、子供達の声援に笑顔で応える。白のクロップドパンツが陽の光を受けて、色鮮やかに目に飛び込んできた・・・。


 雀がステージに上がった時、既に雰囲気は出来上がっており、子供達は引き込まれるようにこちらに注目していた。ピンクのチューブトップにフリルのついた短いスカートを穿き、半獣化した雀は露出の高い衣装への恥ずかしさはどこへやら、子供達に手を振る。

【トマトの気持ち】

Chu!Chu!Chu!Chu!ChuChuChu!
トマトの気持ち

熱い太陽SunSun降り注ぐ
恋人達が集まるSummerBeach
弾む心のUkiUki止まらない
あなたといっしょのSummerDays

DokiDokiして欲しくて
とっておきの水着選んだけど
全然効果ないみたい
どうして気づいてくれないの?

真夏の海はOpenHearted
ふたりの恋もちょっぴり進めたい
だけどあなたは無邪気に笑うだけ
真っ赤なトマトはもう食べ頃なのに

Chu!Chu!Chu!Chu!ChuChuChu!
トマトの気持ち

 夏らしくアップテンポで明るいその曲には、派手なフリがついていた。雀は笑顔を崩さずに全て歌いきると、深々と頭を下げた。


「初めまして『Cheerfully note』です!」
 そう言って頭を下げた後で、所定の位置へと着く。ロビンはキーボードの前へ座り、繭那はスタッフが近くの楽器店から借りてきたドラムの前に腰を下ろした。
 即興で考えたグループ名は『楽しげな声』と言う意味を込めてつけた。

【微風】

アナタはのんびりしてて
ワタシはせっかちで
風が涼しくて少し駆け足で

キミは早足で
ボクはゆっくり歩く
青空を見上げながらゆっくりね

アナタが見上げてるから
足を止めて空を見上げる
柔らかな日差しが気持ち良い

キミが急ぐから
少しだけ歩みを速めてみる
頬を撫でる微風が気持ち良い

やがて二人で一緒に歩き始める
青空を見上げて
微風に身を包まれて
二人同じ歩調と歩幅で

ねぇ、これからも一緒に並んで歩こうね

 ポップス調のジャズっぽい曲調のメロディは、スローテンポで入り途中から段々とアップテンポに変わっていった。メインボーカルを務めるUNが伸びのある力強い声で歌い、舞の繊細な歌声と重なる。それを支えるのがサブを勤めるラキアと悠奈の歌声だった。ドラムを叩いていた繭那が着ていたミリタリージャケットを脱ぎ、バサリと脇に落とした。

【羅針盤】(作詞作曲/BLUE−M)

凹んだまま ドアを蹴ったって 何も出ないよ!
探してみなよ ほら目の前に転がってる宝石の原石
追い求めること 忘れたら駄目さ Don‘t give it up!(諦めるな!)

 ドラムスティックのカウント後、全楽器を鳴らして景気良く始まるイントロ。ギターがビートを刻み、ラキアと悠奈の声が合わさる。

ふて腐れて 掴み掛かっても どうもならない!
簡単なこと 一歩踏み出せば後は勢い任せて落ちる
自分の限界 追い越してみなよ Do be brave!(勇気を出せ!)

 軽快だった曲が徐々にヒートアップしていく。UNと舞のコーラスが入り、会場全体を1つの『何か』が支配し始める。

夢の彼方への片道切符 飛び立つ翼 手に入れ一直線に
飛んで行けるなら 恐い物なんて無いはずさ!

 不意にピアノの音が前に出てくる。伸びやかなピアノの音はステージの後方から響いており、キーボードを弾くロビンが身体でリズムを取りながら笑顔で歌っているのが見える。

進め!心の羅針盤の指すまま
道草、寄り道、回り道 全部必要!無駄じゃない 
全勝、圧勝、完全燃焼 全部纏めて掴み取れ!

 4人の声がハモる。曲は最高潮に達し、ドラムが、ギターが、タンバリンが、キーボートが、1つの巨大な音の波を創りあげる。

アクセル全開フルスロットル 消えること無い心の炎

 再びユニゾンに戻り、段々と曲のスピードが落ちてくる。ボーカル4人が身振りでしゃがむように指示を出し、先生方が子供達をしゃがませていく。いつの間にか雀と結もその中に混じっており、ロビンがキーボードを、繭那がドラムを気にしながら少しだけ後ろに下がる。

未来は君の為に ある!

 タイミングを合わせたジャンプは、まるでウェーブのようだった。小さな頭が一斉に空へ向かって飛び、突き出した拳が天を叩く。その瞬間、歓声がドっと広がった。


「おにーさん、おねーさん達に、貴方達の校歌を教えてー!」
 舞の言葉に、子供達が顔を見合わせて口々に何かを囁いた後で「いーよーっ!」と元気な声が上がった。音楽担当の先生がキーボードの前に座り、明るい旋律を紡ぎ出す。ラキアがハーモニカを持って子供達の輪の中に入り、他のメンバーも子供達と同じ場所に立つ。
 校歌は単調なメロディで、それでも『夢』『希望』『友達』と言った言葉がたくさん散りばめられていた。1番目が終わり、2番目に入ると子供達と一緒に歌い出す。1番目を聞けばそこはプロ、歌詞を見ながら難なく歌ってみせた。
 いつしか輪になり手を繋いで、明るい単語が踊る校歌を声を張り上げて歌っていた・・・。


「気をつけて帰れよー」
「お兄ちゃんとお姉ちゃん達もね!」
 帰っていく子供達の背を見詰めながら、大きく手を振る。
「喜んでいただけたようで、良かったです」
 子供達の背中に視線を固定したままでロビンが呟く。
「懐かしい思い出を思い出すよね」
「そうそう!僕も子供心を思い出したって言うか!」
 繭那の言葉にラキアが身を乗り出し、不意に何かを思い出したようにクルリと向きを変えるとUNを真正面から見詰めた。
「?」
「僕、今回一緒に出来て良かったー!」
 ラキアが地を蹴りUNに突進する、その1歩手前で頭を手で抑え込む。
「ラキ、組めたのは嬉しいが、お前に全力で突撃されたらいくら俺でも吹き飛ぶ」
「それじゃぁ、私が!」
 ラキアに習ってか、悠奈がそう言ってUNに飛びつき、それを難なく受け止めるとポンポンと頭を叩いた。
「アン酷い!どうして僕だけ!」
 抗議の視線を向けるラキア。それを真正面から受けるUN。微妙な修羅場の展開に、他の面々はただ黙って成り行きを見詰めているしかない。
「・・・愛と言う事にしておいてくれ」
 UNのそんな答えに、一瞬だけ場がシンと静まり返る。そして、一拍遅れて笑いの火種がつき、膨れ上がる。
 暮れ行く空の下、オレンジ色の天井に吸い込まれるように高く高く、笑い声は響いた・・・