雪女の事情アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 2.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/27〜10/29

●本文

 峰崎 竜牙(みねざき・りゅうが)は困っていた。
 彼の父親である峰崎 龍雄(みねざき・たつお)の持ってきた台本の、いったいどこからツッコんで良いのか分からなかったのだ。
「えーっと、雪女の話を書きたいっつってたよな?」
「この話はな、竜牙。冬から春にかけての雪解けを想像しながら書いたんだぞ」
 ・・・雪が溶けてしまったら雪女は消えなくてはならないではないか。
 そう思った竜牙だったが、龍雄の持ってきた台本の設定を思い出してそのツッコミをなんとか飲み込む。
「雪女達ねぇ・・・」
 “雪女達”・・・そうなのだ。龍雄が書いてきた台本には雪女が3人居たのだ!
「生徒会長の冬木 雪奈(ふゆき・ゆきな)にバレー部エースの冬里 雪野(ふゆさと・ゆきの)に最後、運動音痴で引っ込み思案の冬山 雪音(ふゆやま・ゆきね)」
 安易と言えば安易な名前付けだ。
「眉目秀麗、黙っていれば高嶺の花の雪奈に、明るく元気な雪野。天然でドジで目立たない雪音・・・この3人は、主人公である香坂 真(こうさか・まこと)に思いを寄せる・・・いわばライバル同士なんだ!」
 熱く語っているが、そんなに力を入れて説明されてもどうしようもない。
 ・・・台本の最初は、雪音が真に告白をするシーンから始まる。
 その様子を遠くで見ていた雪奈と雪野がいきなり乱入し、その返事ちょっと待ったー!と言う展開になる。
「・・・すっげー迷惑行為だよな、この2人」
「それだけ真への思いが強いのだろう」
 強ければ良いと言う問題でもないと思うのだが・・・
「3人にはそれぞれに特技があるんだ。まず雪奈・・・早食いが得意だ。次に雪野、大食いが得意だ。最後雪音、トロ食いが得意だ」
「食ってばっかじゃねぇか!」
 そもそも、眉目秀麗・高嶺の花である雪奈が早食いをしている姿など見たくはない。
 挙句、トロ食いとは何なのか。それこそ特技ではない。
「まぁ、それは設定の1つなだけであって・・・」
「設定にすら組み込むなっ!」
「本当の特技は、雪奈はお金、雪野は怪力、雪音はよく転ぶ・・・だ」
「だぁぁっ!!雪奈も雪音も特技じゃねぇっ!!」
「3人はその特技を駆使して真のハートを射止めようとするんだ!」
「どうやってだよっ!!」
 せいぜい雪音の“ドジ”くらいしか使えない気がするのだが・・・?
 雪奈のお金は言わずもがな、雪野の怪力は・・・。
「むしろ、雪奈なんか黙ってた方が可能性があんじゃねぇ?なにせ高嶺の花って言われるくらいに外見が良いんだろ?」
「そんなの、他の2人だってそうだ。雪女は美女・美少女でないと」
 とんだ偏見だ。
「・・・つか、どこが雪女?名前に雪があるからとか言うのはナシだぞ?」
「3人とも、体温が低いから体が冷たいんだ」
 ・・・そんなのは雪女ではない・・・



≪映画『雪女の事情』募集キャスト≫

*香坂 真
 優しい性格で、滅多に怒らない
 一人称は『僕』で丁寧な口調で話す
 3人に対して恋愛感情は今のところなく、どうやって断ったものかと困っている

*冬木 雪奈
 黙っていれば美少女だが、高飛車で我が儘
 お金持ちのお嬢様で、指パッチンで現れる取り巻きが多数いる
 一人称は『わたくし』語尾に『ですわ』をつける
・口調例
 「あーら、そんなに言うんでしたら付き合ってやっても宜しくってですわ!」
 「とっとと決めやがれってんですわっ!」
 語尾に『ですわ』さえつければ丁寧な口調になると勘違いをしている様子
 思い込みが激しい
 自分から告白したのに何故か『付き合ってやっても宜しくってですわ』な態度

*冬里 雪野
 爽やかな容姿の少女
 一人称は『僕』で少々ボーイッシュ
 常に笑顔を浮かべており、物事はパッパと決めたがるたち
 とんだ怪力で、グズグズしている人を見るのが嫌い

*冬山 雪音
 とても可愛らしい美少女だが、引っ込み思案で凄まじいドジっ子
 一人称は『雪』で語尾に『なの』をつける
 すぐに何かに躓いて転びそうになる
 何もないところでも器用に自分の足に躓いて転びそうになる
 人よりも3テンポは遅れている

・その他
 雪奈の取り巻き
 真の友達     など

●今回の参加者

 fa0824 ベクサー・マカンダル(13歳・♀・鴉)
 fa1396 三月姫 千紗(14歳・♀・兎)
 fa1889 青雷(17歳・♂・竜)
 fa3846 Rickey(20歳・♂・犬)
 fa3957 マサイアス・アドゥーベ(48歳・♂・牛)
 fa4263 千架(18歳・♂・猫)
 fa4350 苅部・愛純(13歳・♀・蝙蝠)
 fa4614 各務聖(15歳・♀・鷹)

●リプレイ本文

 真坂夕子【ベクサー・マカンダル(fa0824)】は木の影から雪音【三月姫 千紗(fa1396)】を応援していた。
「えっと、僕に用って何かな?」
 真【青雷(fa1396)】が首を傾げながら雪音に問うが、引っ込み思案で内気な雪音は中々言い出せないでオロオロとしている。
「ゆ、雪は‥‥」
 そう言っては恥ずかしそうに頬を染めて俯いてしまう。先に進まない話は酷くイライラするものだったが、優しい性格の真は雪音が言い出すまで気長に待つつもりだった。
「雪は、その‥‥真さんの事が、大好きなの‥‥」
 意を決して告白の台詞を紡げた雪音だったが、語尾がシュンと小さくなってしまっている。校舎裏に呼び出された時点でおおよその推測はついていたが、コレほどまでに時間がかかるとは思ってもみなかった。真が何かを言おうと口を開き‥‥
「ちょっと待ちやがれですわ!わたくしというものがありながらどう言う事か説明しやがれですわ!」
 超高飛車な台詞とともに現れた雪奈【千架(fa4263)】の背後から雪野【苅部・愛純(fa4350)】と取巻・笑【各務聖(fa4614)】も顔を出す。ずんずんと大またで真に近づく雪奈。
「浮気ですのね!?なんて酷い!!」
「え!?雪奈さん!?」
 何の事か分からずにうろたえる真。その様子を見ていた雪音が唖然とし、夕子が思わず木の枝を折る。
「良いですわ。そんなに仰るんでしたら、本格的に勝負ですわ!」
 雪奈が雪野と雪音を指差してそう言うが、2人は何も言っていない。
「誰が真に相応しいか、決着をつけてやるですわ!」
「素晴らしいです。雪奈さん」
 笑がそう言って手を叩き、呆然と立ち尽くす3人をその場に残して雪奈が高笑いをしながら去って行った。
「な、なんだったんだろう」
「勝負か。よし、僕も負けないぞ!誰が真君に相応しいか勝負だ!」
「ゆ、雪も負けないの」
 雪野と雪音がそう言って気合を入れ、真が何かを言う前に去って行ってしまう。
「なんだったんだ‥‥?」


「それはさ、告白じゃん?」
 神 律樹【Rickey(fa3846)】はそう言うと、ニヤっと笑って真の肩を叩いた。
「いや〜、3人の美少女から好かれるなんて、真ちゃんってば羨ましいねぇ!」
「僕が好かれる理由が分からないよ」
 律樹の言葉にそう返すと、真は今朝の一連の事を思い出していた。
 まず朝1に雪音に会った。手には可愛らしい包みを持っており、クッキーを焼いてきたんですと言って手渡された。受け取れないと断ったものの、半泣きになられてはどうしようもない。包みを開けて1つつまみ、雪音が嬉しそうに何かを言おうと1歩踏み出し、何故かは分からないが器用に自分の足に躓くと此方に倒れてきた。助けようにも手には鞄とクッキーの包みを持っており‥‥その時、さっと背後から何者かが飛び出してくると雪音の体を受け止めて立たせた。
「大丈夫ですか?足元にはお気をつけくださいね?」
 笑がそう言って可愛らしい笑顔を浮かべ、雪奈の元へと帰っていく。おそらく彼女が指示を出したのだろう。それにしても素晴らしい身のこなしだった。
「それより真さ、腹空かねぇ?パン買いに行こうぜ」
「そうだね」


「わたくしのお抱えシェフ自慢のランチですわ!一緒に食べてやっても宜しくってですわ!」
 購買に来てみれば、雪奈が廊下にテーブルと椅子を置いて真を待っていた。とんだ通行妨害だが、誰も何も言わない。生徒達は眉目秀麗な雪奈に一目置いているし、教師達はお金持ちで聡明な雪奈には頭が上がらない。
「ごめんね、気持ちは嬉しいけれど僕には食べられないよ」
 真がやんわりと断って購買のパンを買おうとするが、雪奈が指パッチンで全てを買い占めてしまう。買い占めたパンは生徒達に無料配布と言うのだから流石お金持ちとしか言いようがない。心底困り果てた真は、それでも雪奈のランチを食べるわけには行かないとその場を走り去った。
「お腹が痛いのかしら」
「きっとそうです」
 雪奈の言葉に笑が頷き、律樹が2人の立つとにっこりと微笑んだ。
「お嬢さん、真に振られた時は俺もいるから安心してアタックするといいぜ☆」
「あら、あんた誰ですわ」
 律樹の言葉は瞬殺された。


 ケヴイン・黒岩【マサイアス・アドゥーベ(fa3957)】は完売した購買のパンに愕然とした。聞くところによると、真のために雪奈が全て買占め、無料配布したそうだ。
「なんと言う事だ‥‥」
 ジャージに竹刀と言う、レトロどころか現在では問題になりそうな服装をした体育教師は、全ての原因は真であると考えた。通常ならば雪奈に怒りの矛先を向けそうなものだったが、彼は一味違った。パンを買い占めたのは雪奈だが、雪奈にそうさせた原因は真だ。竹刀を肩に担ぎ、教室へと向かう。
「こぉぉぉうさかぁぁぁぁぁっ!!!」
 担任である黒岩に怒りを含んだ声で呼ばれ、真は驚きながら席を立った。
「何か?」
「お前は、どうして購買のパンを買い占めたりするんだ!他の生徒の事もだなぁ‥‥」
「あの、先生。パンは‥‥」
「言い訳はするな!」
 黒岩が一喝する。
 ジャージ・竹刀姿が由緒正しい日本の体育教師のあり方と信じてやまない黒岩だが、昨今の世論には勝てないのか竹刀を振り回したところは1度も見た事がない。


 休み時間中に夕子が雪音の良いところを紙に書いて渡して来たり、色々と裏工作を頑張っていたようだったが、真はそれをいちいち丁重に断ると何とか放課後まで乗り切った。
「真、あんなに必死になってんだから、少しは相手にしてやれば〜?」
 律樹の言葉にも首を振り、正門を出ると滑るようにして目の前に1台の黒塗りの高級車が停車した。窓が開けられ、雪奈が顔を出す。
「偶然ですわ。送ってやっても宜しくってですわ」
「有難う。でも、僕は歩いて帰るよ」
 律樹もいるからと言う意味でチラリと視線を向け‥‥
「シャイですわ」
 勝手に納得した雪奈が車を降り、笑と黒服を大勢連れて後をついてくる。
「凄いな、大名行列みたいなことになってるぞ」
「そうだね」
 その言葉に真が苦笑し、律樹がふっと真顔になると言葉を紡いだ。
「で、真の本命は一体誰なんだよ?」
「え?」
「お前、このままで良いなんて思ってないだろ?3人は本気なんだし、曖昧に誤魔化すのは失礼だぞ」
「うん、分かってるよ」
 雪奈の大名行列に気付いた雪音がこちらに走って来‥‥転びそうになったところを夕子がなんとか受け止める。教室の窓からそれを見ていた雪野が走り出し、合流する。
「あの」
 背後から呼ぶ声に振り向けば、そこにはシュンと肩を落とした笑が立っていた。
「お昼の時もそうですが、雪奈さんがご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ありません」
「いや、迷惑だなんて‥‥」
「本当に、真さんには申し訳ないと思っております。でも、雪奈さんは一途な方なものですから、思い込むと1つの事にしか目が行かなくて。‥‥優しくて何事も一生懸命な方なんです」
 目を輝かせながら言う笑に、律樹が何の気なしにツッコミを入れる。
「そう言えば取巻ってなんでいつもメイド服着てるんだ?」
 服装違反を黒岩に咎められないのは、ひとえに雪奈の力なのだろう。
「とても素敵な方なんです。ですから、どうか雪奈さんを悪く思わないでくださいね?」
 律樹の素朴なツッコミを完全無視しながら笑がそう言い、真が何かを思い立ったようにグっと顔を上げると雪音と雪野、そして雪奈に視線を向けた。
「ごめん、雪野さん。雪野さんはとても素敵な人だと思うけれど、その思いには応えられない。雪音ちゃんも、可愛くて大切にしたいと思うけれど、友達としか考えられないんだ。雪奈さんも、お友達としか考えられないんだ」
 スッパリと断りの言葉を入れた真に、律樹が頷き、雪音がふっと意識を遠退かせる。
「それで、僕は‥‥その、僕が好きなのは‥‥」
 いまいち踏ん切りがつかない真に、イラっとした雪野が壁を叩いて怒鳴る。
「はっきりせんかい!!」
 壁が一部分だけ抉れ、その場にいた全員が顔色を変える。
「その、僕は君の事が好きなんだ!」
 そう言って頭を下げた相手は笑だった。
「って、そっちかよ!」
 律樹がツッコミ、笑が戸惑いの視線を揺らす。
 そんな中、雪奈だけが妙なポジティヴ思考で「やっぱり真はわたくしが好きなんですわ!」と勝利を確信していた。彼女の脳内を覗けば『笑は取り巻き→取り巻きはわたくしの一部も同然→わたくしの一部を真が好き→真はわたくしが好き』と、どこからツッコンで良いのかわからない事を考えていた。
「あの、すみません‥‥私は雪奈さんが好きなんです」
「しかもそう来るか!?」
 笑がゴメンナサイの意味を込めて真に頭を下げ、雪奈にチラリと視線を向ける。
「わたくしも嫌いではなくってですわ」
 どうして自分の一部を嫌いになれるのか、そんな考えからの言葉だったのだが、何かがズレている気がする。いまいち展開についていけていない雪音と夕子が顔を見合わせ、なんとか丸く収まったと雪野が伸びをする。彼女にとってみれば、スッキリさっぱり全てが上手く行くに越した事はない。
 全員振られた形だが、それはそれで良いのではないか?

   めでたし、めでたし‥‥??