天女の事情アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
宮下茜
|
芸能 |
2Lv以上
|
獣人 |
2Lv以上
|
難度 |
やや難
|
報酬 |
2.6万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
11/04〜11/06
|
●本文
天女と言うからには、おしとやかで美しく、儚いイメージなのだろう。
そう思って読み進めていた台本は意外な内容で、峰崎 竜牙(みねざき・りゅうが)は途中まで読むとそれをくるくると丸め、峰崎 龍雄(みねざき・たつお)に投げつけた。
「あいたっ!!竜牙!家庭内暴力か!?俺はそんな子に育てた覚えはないぞ!?」
そうだろう。まともにあんたの言う事を聞いていたらとんでもない子供に育っていたところだ。
龍雄が聞いたら反論しそうな事を思いながら、竜牙はふらふらとその場にしゃがみ込んだ。
「親父、いい加減普通の話を書いてくれ」
「十分普通の話じゃないか」
「普通の天女は『ちょっとそこのヤツっ!』とは言わない‥‥」
「言わないって、お前天女に会ったことあるのか!?」
興奮した口調でそう言って目を輝かせる龍雄。
「ないに決まってるだろっ!!」
今回の主人公は天女‥‥天音 乙女(あまね・おとめ)高校生だ。
バーゲンで買った可愛いストールを教室に置いてきてしまい、慌てて戻ったのだが、ストールがなくなっていたのだ!
折角可愛いのをバーゲンでGETしたのに‥‥!!!!!
誰が持ってったんだぁぁぁっ!!!!
乙女はキっと顔を上げると、校内に残っている人がいないか片っ端から探し始めた。
一方、学級委員の黒田 基(くろだ・もとい)は教室内に忘れ物があるのに気付き、職員室に届けようと淡い色のストールを右手に歩き出した。
「そして、2人は運命に導かれて出会うんだ」
龍雄がうっとりとした表情でそう言い、竜牙が盛大な溜息をつくと頭を抱える。
『ちょっとそこのヤツっ!!なんで私のストール持ってんの!?』
怒鳴り声が聞こえ振り返る基。そこには髪を振り乱しながら走ってくる乙女の姿!
咄嗟に身の危険を感じた基が走り出し、逃走した基を追って乙女も走り出す。
‥‥2人の恋はここから始まるのだった‥‥
「おい!!おいおいおいおいっ!!!変だろっ!どう考えてもおかしいだろ!?なんで恋が生まれるんだよ!基は命の危険じゃねぇかっ!」
「恋の始まりはいつだって突然さ」
「そう言う意味じゃぇっ!!」
「まったく、お前も彼女の1人もつくってだなぁ‥‥」
ぶつぶつと小言を言い始めた龍雄に聞か猿精神でなんとか耐える竜牙。
どうしたら基と乙女が恋におちるのか、竜牙は必死に考えをめぐらせていた。
≪映画『天女の事情』募集キャスト≫
*天音 乙女
外見は校内で1、2を争うほどの美少女だが、かなりの行動派
明るい性格で友達が多く、話し上手で聞き上手
勉強よりも運動の方が得意
乙女に好意を寄せる人は多いが「そう言うの、あんま興味ナーイ」とバッサリ
基の印象→頭の良い子、大人しい子
*黒田 基
美少年と言っても良い外見だが、分厚い眼鏡のせいで全てが台無しになっている
大人しい性格で人見知り、友達はいないが意外と聞き上手
運動もそこそこ出来るが、勉強の方が得意
乙女の印象→派手で可愛い子、ちょっと怖い
・その他
乙女の友達
乙女に好意を寄せている人
学校の関係者 など
●リプレイ本文
「そこの男子!止まりなさいっ!!」
乙女【阿野次 のもじ(fa3092)】は制止も聞かずに走り続ける基【忍(fa4769)】の後を追って走り出した。ビン底眼鏡にお団子頭、見るからに体育会系ではない基だが、それでも高身長の男の子。歩幅が乙女の2倍はある。このままでは追いつけない、そう感じた乙女がグっと足に力を入れると加速し、基を追い越すと廊下にポツンと置かれていた用具箱に追突した。
「だ‥‥大丈夫ですか!?」
乙女のあまりの剣幕に逃げていた基だったが、流石に女の子が転んでしまったのを見捨てるわけにはいかない。しかも、用具箱の扉が開いて中から箒や塵取が飛び出してきている。乙女に手を差し出しつつ物をどかし‥‥乙女のスカートが基の手に引っかかり、ペラリとほんの少しだけ捲れた。
「な!?」
「ごっ、ごめんなさい!捲ろうとしたわけじゃないんです‥‥!」
基の言葉を遮り、乙女はすっと立ち上がると足元に転がっていたモップを拾い、振り上げた!
「絶対許さなぁぁいっ!!」
再び開始された鬼ごっこは武器持ちで、しかも乙女の叫び声は廊下に響き、残っていた生徒の耳へと届いた。
三郷光太【氷咲 華唯(fa0142)】は突然聞こえた乙女の声に振り返った。何となくダラリと残っていた放課後、そろそろ帰ろうと思い廊下に出た矢先の事だった。基が必死の形相で走っており、その後を乙女が続く。実は光太、乙女に告白して振られた数多の男子生徒のうちの1人なのだ。まぁ、乙女が今のところ誰とも付き合う気がないようなので、時間をかけてゆっくりともう1回アタックをしてみるつもりなのだが。
「待ちなさいっ!許さないんだからぁっ!!」
怒っている様子の乙女と、今にも泣きそうな基。その2人が背後からこちらに近づいてきて、協力とばかりに隣を通り過ぎようとする基の足を引っ掛けた。
「えっ!?」
いきなり足元がすくわれ、体勢を立て直そうとつんのめり、階段手前でベシャリと転ぶと数段転げ落ち顔面で着地した。
「げっ!!大丈夫か!?」
足をかけた張本人である光太が慌てて駆け寄ろうとするが、基はむっくりと起き上がると眼鏡の無事を確かめて再び走り始めた。それを見ていた乙女が階段を駆け下りるのは面倒とばかりに手すりにお尻を乗せ、一気に滑り落ちると華麗に着地して基の後を追う。
「何だったんだ?」
光太は首を傾げると、2人が去って行った方向をいつまでも見詰めていた。
因幡真琴【咲夜(fa2997)】はバタバタと走ってくる2人に足を止めた。全速力で走りすぎて行った男の子は誰だかわからなかったが、後続の女の子は誰だかわかった。
「男の子に興味無いって普段から言ってる乙女にも、ついに気になる男の子が出来たのか!これは是非にもその顔を拝まなければならないよね」
真琴はそう呟くと走って行く乙女を追いかけて走り出した。距離は直ぐ縮まり、必死な形相で追いかける乙女に声をかける。ちなみに、この追いかけっこの原因が色恋沙汰だと信じて止まない真琴の目には乙女の手にしたモップは見えていない。
「彼のどこが気に入ったの?いつから好きになったの?って言うか、彼は誰?」
「そんなんじゃないってば!」
「うんうん、乙女の性格はよく分かってるから。この恥ずかしがり屋さん♪で、本当のところはどうなの?」
「だから‥‥」
息の上がった乙女にこれ以上の詮索は無理だと感じた真琴が最後に相手の名前だけを聞いて足を止める。一緒に追いかけていても仕方が無い。
「ふーん、基君か」
月野 玲香【悠奈(fa2726)】は追いかけっこを繰り広げる乙女と基の姿を遠くで見て、優秀な頭を回転させ始めた。すなわち、どうすれば基に乙女を押し付けることが出来るのか。乙女と基の追いかけっこに真琴が加わり、途中で戦線離脱する。基を追いかける乙女が曲がり角で柔道部の部員とぶつかり基の姿を見失う。けれど、遠くから見ていた玲香は基が何処に逃げたのかキチンと見えていた。必死に頭を回転させ、綿密な計画を練ると顔を上げ、手始めに近くを歩いていたクラスメイトにこう話し掛けた。
「ねぇねぇ、知ってる?今、乙女が好きな子追いかけてるらしいよ?」
秋葉馨【千架(fa4263)】と後藤 浩【Iris(fa4578)】は追いかけっこを繰り広げていた基を保健室の中に引きずり込むと一瞬だけ2人で顔を見合わせてニヤリと笑った後で表情を引き締めた。事の次第を基から聞きだし、湧き上がってくる悪戯っぽい笑みを押し殺し至極真面目な顔を作ると馨が口を開いた。
「それはきっと恋ですよ〜。胸がドキドキしませんか〜?」
基が驚いて自分の胸に手を当てる。走ったから動悸が激しいのは当然だが、プチ天然な基は気付かない。
「こ、この緊張感が初恋‥‥そうなんですか」
その緊張感は恐らく、生命の危機を感じての事だろう。
「そうだ、恋に違いない」
浩が畳み掛けるようにそう言った時、ガラリと扉が開き保険委員である玲香が入ってきた。無表情で「秋葉先生、お手伝いに参りました」と言い、瞬時に頬を赤らめると浩に視線を向ける。
「浩ちゃん‥‥き、奇遇ですね♪」
「ヘロー」
ヒラヒラと浩が気の抜けた挨拶をし、玲香がそれに笑顔を向けると基を見詰める。
「唐突だけど基君、乙女の事好きなの?」
「よく分からなくて‥‥」
「恋って自分がよく分からなくなるものですよ〜」
「好きなタイプは?」
「素直でおとなしい子」
「素直さにかけては右に出る者は居ないわね。それに乙女、ああ見えて大和撫子よ!」
後半部分は明らかに無理のある設定だったが、とにかく基をその気にさせれば良いのだ。
「人生の先輩としてアドバイスだ基。お前は乙女にときめいているんだ」
浩の言葉に馨と玲香が強く頷く。段々と言葉の魔術に嵌り始めた基に、押しの一手とばかりに言葉を畳みかけようとした時だった。ガラリと扉が開き乙女が入ってきたのだ!馨が咄嗟に基の手を引き「ここから逃げてください〜」と言いつつ基を窓から押し出し、手を振る。
「恋には障害がお約束。頑張ってくださいね〜」
「花壇には落とすなよ馨」
お茶を啜りながらそう言う浩。馨が大丈夫だと言うように首を振り、乙女が基の後を追おうとするのを何とか止めると廊下へと押し出す。
「基君はよほど乙女の事が好きなのね。照れて逃げ出すなんて」
玲香が走り去っていく乙女の背中にそう声をかけるが、果たして聞こえただろうか。馨がいそいそと2人に取り付けた発信機で位置を確認し、玲香が浩に手を振るとそっと保健室を抜け出す。
「玲香はいつも愛想がいいなあ」
「そうですか〜?」
馨が曖昧に首を傾げた時、ガラリと音を立てて保健室の扉が開き、真琴が事の成り行きを聞きに入って来たのだった。
馨に落とされた基は見事に顔から着地し、たまたま通りかかった担任の一条・聖人【水鏡・シメイ(fa0509)】にうっかり遭遇してしまった。落下地点の少し横に立っていた聖人に慌てて基が頭を下げる。
「そんなに慌てて降りたら危ないですよ。降りる時はちゃんと階段を使ってくださいね」
「はい‥‥今度からは気をつゲフッ」
流石に2階から顔面着地は効いた様だ。けれどのんびりはしていられない。乙女の気配を察した基が走り出し、基を見つけた乙女がその後を追う。廊下を走り階段を上り、着いた先は屋上だった。
「ふふふ、ここまでのようね。覚悟!」
フェンス際へと追い込んだ基に飛び掛り、基がそれを避ける。基を通り過ぎた乙女の体を、脆くなっていたフェンスが受け止められるはずも無く、大きな音を立てて外側へと外れてしまう。乙女の軽い体が宙に投げ出され、基が慌ててその手を掴む。乙女・基応援隊(自称)達が到着し、いきなりのシリアス展開に言葉をかける。
「基君頑張って下さい〜。流石にここから落ちたら僕の手当てじゃ間に合いませんから〜」
だったら助けてくれと叫びたいが、玲香が冷静に「この位の危機は己で対処できないと」と言葉を続ける。人一人の命がかかっている時に、ンな悠長な!と言う話である。そんな玲香の背後から、乙女が好きな子を追いかけていると言う噂を聞いた光太が屋上に到着し、乙女を助けようと走り出そうとする。が、その腕はガシっと玲香に掴まえられた。
「駄目よ‥‥邪魔しては」
「離せー!!」
暴れる光太を総出で押さえ込む。
「すぐ引き上げるから‥‥じっとしてて!」
基が渾身の力で乙女を引き上げ、その瞬間‥‥おだんごが解け眼鏡が落ちた。基の今までの行動を考えると忘れてしまいがちだが、だんごと眼鏡さえなければ基は美少年だ。
「ごめん‥‥け、怪我ない?痛いとこある?」
オロオロとする基の手からストールをぶんどると、低い声で「携帯のメール教えて」と乙女が声をかける。何故?と思いつつも素直にアドレスを教える基。アドレスを入力し終えた乙女が屋上から駆け出し、馨がさっと、つけていた発信機を回収する。
何が何だか分からない基が眼鏡を探し出してかけ‥‥その瞬間、携帯が振動した。パカリと開ければ乙女からの有難うメールが1通。何時の間にか背後に回っていた玲香と真琴が手を合わせ、馨と浩が笑みを交わす。光太だけがガックリとその場に膝をつき、何時の間にか屋上に来ていた聖人がその肩を優しく叩く。
「青春ですね〜」
照れて言えなかった言葉は文字に変えて
それでもきっと、伝わったよね?