桃太郎の事情アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 2.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/10〜11/12

●本文

 桃から生まれた桃太郎。
 まぁ、親父の性格からして「はは、竜牙。桃から人が生まれるわけないだろ?思いっきり規格外サイズじゃないか」と言うのは目に見えていた。
 でも‥‥だからって‥‥。
 峰崎 竜牙(みねざき・りゅうが)は天を仰ぐと喉の奥で低い声を上げた。
「親父‥‥桃太郎は悪役じゃねぇ」
「そんな事は知ってるさ」
 峰崎 龍雄(みねざき・たつお)はそう言うと、親指をグっと立てた。
「これ、思いっきり悪役じゃねぇか」
「悪役じゃないだろう。鬼を倒しに行くんだぞ?」
「そもそも、鬼が悪役じゃねぇじゃねぇか!何だよこの桃太郎!えらい迷惑な性格じゃねぇかっ!」

 今回の主人公は桃太郎、ではない。
 鬼島 雷(きじま・らい)と言う高校生の男の子が主人公だ。
 話は超お金持ちの桃島 太郎(ももしま・たろう)と言う男子生徒が転校して来たところから始まる。
 彼は部下の犬井(いぬい)猿野(えんの)雉里(きじさと)を引き連れて突如として平穏な学校生活を送っていた雷の前に立つとビシっと人差し指を突きつけた。
 『人々を苦しめている鬼島!僕と勝負しろ!』
 『は?』
 ちょい不良系の雷は一匹狼で整った外見をしており、女の子の憧れの的。校内でも1、2を争うほどの美少女、宝田 要(たからだ・かなめ)までもが雷に好意を寄せていると言う!
 これは明らかな独占禁止法違反‥‥じゃなく、明らかに人を困らせている!
 『宝田さんを放すんだ!』
 『あの、別に私は鬼島君に捕まってるとかじゃなくて‥‥』
 『待っててくださいね、宝田さん!貴方の事はこの僕が助けてみせます!人々の希望の光になるんだ!』

「人々の希望の光っつーか、ごく一部の男子生徒だけだろ!?」
「雷と太郎は熱い男と男のぶつかり合いを‥‥」
「ぶつかりあいとかじゃなく、太郎がアホらしい僻み根性ぶつけてるだけだろ!?」
「これぞ青春の‥‥」
「こんな青春なんてヤだっ!!」
 竜牙が頭を抱え込んでその場にしゃがみ込み、どうしてもっとまともな話を書いてくれないんだと小さな声で嘆く。そんな痛ましい姿の息子の肩にポンと手を置くと、龍雄が優しい笑顔を向ける。
「正義は、必ず勝つんだ」
「わっけわかんねぇよっ!!こんなん太郎のが悪じゃねぇかっ!」
「しかし、未だに勝負方法が思いつかないんだよな」
「いきなり話し変えんなよっ!」
「竜牙、なにか良い案はないか?ほら、力勝負だと雷が勝つのは目に見えてるだろう?」
「正々堂々スポーツで勝負すれば?」
「太郎は運動神経が‥‥あぁ、そうか。太郎には部下がいるし、それに太郎を応援する男子生徒は沢山いるんだな」
「やっぱ太郎が悪じゃねぇかっ!!!」


≪映画『桃太郎の事情』募集キャスト≫

*鬼島 雷
 硬派な一匹狼で男女どちらにもクールに接する
 そのため、一部の女生徒には熱狂的なファンがおり、一部の男子生徒からは猛烈な反感をかっている
 冷たい感じの外見で素っ気無い態度だが、実際は人付き合いが苦手なだけ
 誰にでも優しく細やかな気遣いが上手いのだが、口調がキツイので分かり難い
 一人称は『俺』二人称は『お前』
 太郎の印象→変なヤツ

*桃島 太郎
 超がつくお金持ちの一人息子
 甘やかされて育ってきたために我侭で勘違いが激しく、その上自意識過剰
 自分を桃太郎の生まれ変わりだと信じており、雷は鬼の生まれ変わりだと決め付けている
 要は雷に捕らわれているだけで実際は自分に助けを求めているんだ!と妄想も甚だしい
 黙っていればそれなりに整った外見だが、口を開くと‥‥
 一人称は『僕』二人称は『君』
 雷の印象→ここで逢ったが百年目!(印象ではない)

*宝田 要
 父親はモデル、母親は女優、姉は歌手、弟は子役モデルと言う美形家族の次女
 黙っていればキリとした美少女だが、おっとりとした性格で結構な天然
 階段から転げ落ちそうになったところを助けてもらって以来雷に好意を寄せている
 一人称は『私』二人称は『貴方』
 2人の対決について→平和的解決を望みます‥‥

・犬井、猿野、雉里
 太郎の部下で、詳細はお任せします
 必須キャストではありませんので、いない場合はぬいぐるみなどで代用する予定です
 部下とは言っても、太郎の父親に雇われているだけです
 忠誠を誓うも、心の中では『何でこんなことに‥‥』と思っているのも自由です

・その他
 主要メンバーの友達
 太郎の支持者
 雷のファン
 学校関係者      など

●今回の参加者

 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa0509 水鏡・シメイ(20歳・♂・猫)
 fa0642 楊・玲花(19歳・♀・猫)
 fa2370 佐々峰 菜月(17歳・♀・パンダ)
 fa3092 阿野次 のもじ(15歳・♀・猫)
 fa3386 硯 円(15歳・♀・猫)
 fa4619 桃音(15歳・♀・猫)
 fa4717 金緑石(21歳・♂・狐)

●リプレイ本文

 毎休み時間、勝負を申し込んでくる太郎【阿野次 のもじ(fa3092)】に雷【水鏡・シメイ(fa0509)】は我慢の限界に来ていた。
「正義の十手に願いを託し!掴め平和な学園生活!学園風紀を乱す不埒な鬼め。ここで会ったが百年目!」
 意味が分からない。第一、風紀を乱しているのは自分の方ではないか?襷は服装違反、十手は持ち物違反だ。雷は盛大な溜息をつくと、立ち上がって太郎を指差した。
「わかった、勝負してやる。ただし俺が勝ったらきちんと女子の制服を着ろ!お前、女だろ」
 実は太郎、本名を果実と言う。正真正銘の女の子だが、桃太郎の生まれ変わりと信じて疑わない彼女にツッコム勇気のある者はおらず、そのままスルーされている。妙な緊張感が流れる2人の間にマイク片手に割って入ったのは越丹 黍【硯 円(fa3386)】だ。
「さて始まりました、桃島VS鬼島!宝田さん、現在の心境は!?」
 突然振られた要【楊・玲花(fa0642)】がどうしてこんな事になってしまったのかと首を傾げながらも真面目な顔で言葉を紡ぐ。
「正々堂々と戦ってくださいね。そうじゃないと、私はその結果を認めませんから」
「ふっお嬢さん。僕が来たからには‥‥貴方は学園の宝!」
 何時の間にか擦り寄ってきていた太郎がそう言って要の手を取り、パチンと指を鳴らす。
「犬井、猿野、雉里、桃島!」
 壮大なBGMと共に現れた猿野【九条・運(fa0378)】雉里 雛【佐々峰 菜月(fa2370)】犬井 正一【金緑石(fa4717)】がポーズをキメ、太郎が“私が大将”と書かれた襷を翻す。
「全員そろって、桃太郎特選隊!」
 太郎の声が響いた瞬間、背後で爆発が起こった。校舎の中で何をやっているんだ。しかも1人だけ火薬の量を間違えて爆炎に飲まれ、悶絶する猿野。
「あ〜あ、先生火薬の量ちゃーんと説明したのになぁ‥‥ってしたっけ?」
 そう言いながら猫目 りん【桃音(fa4619)】が歩いてくる。学校一ミニマムな眼鏡のこの人は科学の先生だ。
「先生は止める気ゼロだから〜。犬ちゃんも参加してる事だしね?」
 そう、彼はれっきとしたこの学校の教師だ。教師なのに何をやっているのか‥‥
 アフロブラックになった猿野を保健室へと運び込むと、太郎が雷に勝負方法を提示する。
「正々堂々、男と男の勝負!まずは犬井とかけっこ対決!」
 確かに雷と太郎では男と女の勝負になってしまう。犬井とやる事によって男同士の勝負になるわけだが、根本的に何かが違う気がする。


「頑張ってください。応援してますから、必ず勝って下さいね」
 要が雷にお弁当を手渡し、頬を赤らめながらそっとその場を後にする。そんな少し良い雰囲気の2人の背後では、犬井が微笑をたたえながら立っていた。職権乱用して得た競技場には、既にトラップを仕掛け終わっている。太郎を溺愛している彼にとって、雷は今や生徒ではなく敵だ。まぁ、明日から生徒として扱えば良いだろう(良くない)
 自信満々にスタートラインに立ち、黍が空砲を空へと打ち上げる。雷が勢い良く走り出し、犬井が口元に笑みを浮かべる。その先に行けば落とし穴が‥‥しかし雷はポイントを通過して凄まじいスピードで走り去っていく。
「あー、ごめんね犬ちゃん。片付けちゃった♪」
「アイツの仕業かぁぁぁぁっ!!!」
 ケロンとした笑顔を浮かべるりん。開始前に犬井の仕掛けたトラップを見つけ、全て撤去していたのだ。知性派を気取る犬井に勝ち目はなく、雷があっさりとゴールする。要が嬉しそうな表情で飛んできてタオルを差し出し、良い雰囲気を醸し出す。
「違う、断じて私は負けた訳ではない!」
 負け惜しみを言う犬井の肩を叩いたのはりんだった。
「犬ちゃん、ドンマイだよ」
「なっ!!キミが言うなぁぁぁっ!!!」


 雷ファンクラブメンバーと共に語らっている要の前では、既に2回戦目が始まっていた。犬井さんの犠牲は無駄にはしません(注:死んでません)とばかりに名乗り出たのは雉里だ。
「あたしが頑張りますから!太郎さん、ちょっと頼りないし‥‥」
 思わず本音が漏れる雉里。その後で小さく「そこが可愛いのですけど」と付け加えた事は、声が小さすぎて聞こえていない。
「あ、頼りないあたしに言われたからって落ち込まないでくださいね!?」
 太郎は何も言っていない挙句、さして気にしている様子も無いのに雉里が矢継ぎ早に言葉を次げ、ずーんと落ち込む。
「頼りない、あたし‥‥」
 自分で言って自分で落ち込んでいたらどうしようもないが、直ぐに気を取り直すと雷に指をつきつける。
「覚悟してください!」
 勝負方法は早押しクイズなのだが、運動神経皆無の雉里には反射神経も皆無だった。
「なんだよ、大した事ねぇな」
 そう呟き、ふと隣を見ると雉里が目を潤ませながら雷を見、太郎を見、そして再び雷に視線を移す。唇を噛み締め、眉を寄せながら次の問題を待っている。
(皆さんのため、負けられないのですっ!)
(おぃ、そんな顔されたら押せねえじゃねぇか)
 心の中でそれぞれが葛藤し、雷がガクリと項垂れる。
「あぁー、女の子泣かせたぁー」
 しかも、黍がジト目で此方を見ているのだからやるせない。結局最終問題で雷はボタンを押せずに雉里が十分すぎる時間を経て回答した。
「まったく、不器用な子だよねぇ‥‥」
 りんがそう呟き、口の中で小さく「そこが良いんだろうけどね」と付け足す。


 爆発でアフロになった猿野だったが、何とか自分の出番までには回復したらしく、屋上に仁王立ちになった。
「俺の‥‥猿‥‥」
 屋上で何やら叫んでいるが、風が強いので聞こえない。プールサイドに微妙な沈黙が流れる中、突然猿野が屋上からバンジージャンプをしだした。が、着地寸前でブチリと嫌な音が響き、冷たいプールの中に落ちる猿野。足だけが水面に突き出している中、りんと犬井が『暫くお待ち下さい』と書かれた紙を掲げる。

「勝負だ鬼島!」
 先ほどのアクシデントを総無視で雷に宣戦布告する猿野。彼が出した対戦方法は“寒中水中チャンバラ”だ。
「なんでわざわざ水中なんだ?普通にやればいいじゃねぇか」
「寒中チャンバラを軽んじるな!それは古代シベリアから諸々の北方民族に伝えられた伝説の決闘法!本来ならば一糸纏わず手首を‥‥」
「変態だろ」
「案ずるな!今回は安全のために手首は切らず、毒の代わりに濃口醤油を飲み、得物も釘バットを使用!」
 猿野がそう言って濃口醤油を飲み、雷に手渡すが平然とした顔でプールに流される。
「釘バットもNGだよ。怪我しちゃったら、犬ちゃんの責任になるから」
「私のか!?」
「こんな寒い中、水中チャンバラなんて。もしかして2人ともM!?」
「違うと思いますけれど‥‥」
 黍の妙な想像を要が否定する。チアリーダーの格好で雷の即席応援団を結成した要は、今はポンポン作りに夢中だった。とりあえず勝負はポイント制とし、不死身の猿野の提案釘バットは犬井に却下される。雉里が買って来たビニール製のバットを手に、猿野と雷が対峙する。
 素早い動きと正確な攻撃、俊敏な回避と強固な防御。猿野と雷の勝負は一進一退の手に汗握る試合だった。が、こんな寒い中プールの中でチャンバラをしている時点で間抜けだ。
「何だか分からねぇけど、ここで負けちゃいけねぇ気がする。本気でやるしかねぇな!」
「何!?今までのは本気じゃ‥‥」
 雷がそう叫び、驚いて固まった猿野の頭にポスンとバットを振り下ろす。時計を見ていた要が「時間です!」と声をあげ、最終的なポイントの集計をりんと黍が急ぐ。結果は、紙一重で雷の勝利だった。


 1勝2敗と負け越した太郎チーム。だがしかし、太郎は諦めていなかった。
「まだ僕が残っている!勝てば官軍、逆転勝利!」
 往生際が悪い所か、太郎が勝っても2−2で同点だ。果敢に雷に向かってパンチをくりだす太郎。
「ていていてい!」
「お前は何だ」
 頭を押さえられていて腕の届かない太郎。リーチが違いすぎる。半べそをかきながらしゅんとする太郎だったが、言葉だけはまだ元気だった。
「今日はこのくらいにしといたる」
 そんな太郎の背後で、彼女が女の子だと聞かされた要が驚き、暫く何かを考えた後で太郎の手を握り締めた。
「負けたからって、それで何かが終わるわけじゃない。ねぇ、私達お友達になりましょう。戦いとか、そんな殺伐としたモノだけで終わる高校生活なんて、勿体無いわ」
 優しい言葉に太郎が笑顔を浮かべ、立ち上がると雷に敬礼した。
「今回は僕の負け。でも、また挑むから!」
「待ってるよ」
「あと、女の子の制服、ね。僕が負けたんだから仕方ないよね」
 そんな太郎の言葉に、犬井がバっと立ち上がる。
「破廉恥なっ!!!」
「犬ちゃん、太郎君の成長を喜びましょう」
 その言葉に、犬井が渋々と言った様子で頷く。内心、太郎に友人が出来た事が嬉しいのだ。りんが犬井に笑顔を向けながら、対決中ずっと回していた隠しカメラを回収する。主に雷中心で撮影したコレは、ほとぼりが冷めた頃にDVDに焼いて‥‥教師としてNGな気がするが、校長も雷DVD定期購入者の1人らしい。
 良い展開に感動している黍と雷ファンクラブの一同。その中にちゃっかり混じっている雉里は、早押しクイズで見た雷の優しさにキュンと来てしまったのだった。

 成長する生徒、それを見守る教師。学校は色々な人のドラマの場‥‥