一寸法師の事情アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 2.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/17〜11/19

●本文

 一寸‥‥それは約3cm程度らしい‥‥
 その大きさの人間がいれば、流石の俺だって驚く。そもそも、寸と言う単位自体今となってはあまり聞き慣れない。だからこそ、一寸が何センチなのかわざわざ調べたりもしたわけだ。
 でもきっと、親父の事だから“寸”は単位としては使わないと思っていたんだ。一寸法師だから、例えば“一寸”と言う名の少年を出したりするんだと思ってたんだ。
「神田 青(かんだ・せい)」
 峰崎 竜牙(みねざき・りゅうが)は驚きの意味も含めて主人公の名前を口に出した。
「どこが一寸法師?」
「なんだ竜牙。まだ内容読んでなかったのか?今回は凄いんだぞ!これぞ青春の‥‥」
「親父の明後日の方向に行ってる青春話なんてどーでもいーから」
 そんな冷たい息子の言葉に、峰崎 龍雄(みねざき・たつお)がその場にしゃがみ込み、床に“の”を書き続ける。今時そんないじけ方をする人は珍しい気がする。
「で?どこが一寸法師なわけ?青は普通の男の子なんだろ?」
「当たり前じゃないか竜牙。一寸の人がいたら怖いじゃないか。いつプチっとしてしまうか」
 それには同感だ。
「青が一寸なのは身長じゃない。勇気、だ」
 まるで重大な事を伝えるように、こっそりと耳打ちされた竜牙が顔を顰める。
「勇気は長さじゃねぇだろ」
「一寸は“ちょっと”とも読むんだぞ!?ちょっとの勇気。良く聞くじゃないか」
「じゃぁ“いっすん”じゃなくて“ちょっと”って読ませろよ。わざわざルビふって“いっすん”って書くなよ!」
「馬鹿だなぁ、竜牙。それじゃぁ一寸法師の意味がないだろう?」
 お前は本当に可愛いなぁ。そんな優しい瞳でそう言われ、竜牙は台本を床に叩きつけた。


 今回の主人公は先ほど竜牙が言ったとおり、神田 青と言う人物だった。
 勿論、身長は一寸ではない。小さいのは身長ではなく勇気だ。
 大人しく引っ込み思案で控え目な青は、とある女の子に恋心を抱いていた。
 姫宮 聖羅(ひめみや・せいら)と言う、上品で大人しそうな名前に見合うだけの外見は持ち合わせているにも関わらず、性格はいたって男前だ。と言うか、並大抵の男よりもよほど男らしい。
 聖羅は青の幼馴染で、小さい頃から大人しい青を守り続けていた。
 弱虫だとからかう輩には鉄拳制裁を加え、青ちゃんは女の子みたいだから〜と馬鹿にする輩を蹴散らし‥‥
『でもさぁ、聖羅は青の事は弟としか思ってないと思うよ?』
『だよなぁ。でもよー、どうにかして伝えるだけでも出来ねぇかなぁ』
『青が?聖羅に?告白?無理無理無理無理無理。ぜーーーーったい無理』
『ンな力いっぱい否定しなくても良いだろ‥‥』
『だって‥‥第一、青が告ったところで聖羅は罰ゲームか何かだと思うんじゃない?きっとアンタんとこに怒鳴り込んでくるよ。“青になにやらしてんだよっ!ちょっとこっちこいやぁっ!!”って』
 放課後の教室で、青と聖羅の友人の牧野 百合(まきの・ゆり)と鬼崎 丈治(おにざき・じょうじ)は溜息をついた。
 この2人、青と聖羅を何とかしてくっつけようと思っているのだが、どう考えたって難しい。
『聖羅ってさ、弱点ねーの?虫が怖いとか、雷嫌いとか』
『雷は普通に平気だし、虫は素手で触れるし。むしろ、青のが苦手なんじゃない?‥‥あー、でも1個だけ。幽霊が怖いんだよね、確か。お化け屋敷は平気なのに、私が怖い話したら顔引きつらせてたし』
『お前のその無表情さが原因な気がするが、それで行こう!確か、変な洋館みたいなのあったじゃん!そこに青と聖羅を連れて行って、外に出られないようにして、俺らが色々と幽霊っぽいことをする。んで、聖羅は青を頼りにする!俺の作戦、完璧じゃねぇ!?』
『じゃ、ねぇよ。青だって苦手じゃん』
『甘いな、百合ちゃん。男はやる時はやるんだぜ?』
『‥‥んじゃぁ、もし青が失敗して聖羅が逆上した場合、全部あんたの責任ね』
『え!?ちょ‥‥』
『青と聖羅の将来を考える会議、これにて終了!』
 百合はそう言うと立ち上がり、丈治が止めるのも聞かずに教室を後にした。



≪映画『一寸法師の事情』募集キャスト≫


*神田 青
 引っ込み思案で大人しく、成績優秀で品行方正
 黙っていればイイ男、口を開けばヘタレ
 聖羅に淡い恋心を抱いているが、告げることが出来ないでいる
 『僕』『(苗字)さん』聖羅と百合はちゃんづけ、丈治は呼び捨て
 『です』『ます』口調ではっきりとした発音だが声が小さい

*姫宮 聖羅
 黙っていれば儚気な美少女、口を開けば体育会系男子
 特技は格闘技全般、趣味は筋トレ、強きを挫き弱きを助ける
 青の事は可愛い弟分と思っており、かなり過保護
 『私』『苗字呼び捨て』百合と丈治は呼び捨て、青はちゃんづけ
 怒った時は男の子口調、普段は女の子口調で大きな声でハキハキと喋る

*牧野 百合
 大人っぽい外見で常に無表情。クールで近寄りがたいイメージ
 中身は結構腹黒で天然
 頭はかなり良いが、世間知らずの常識知らず
 人間、気合があれば空も飛べると信じているから恐ろしい
 『私』『あんた、貴方』親しい友人は下の名前呼び捨て
 素っ気無い口調で淡々と喋る

*鬼崎 丈治
 青と聖羅の将来を考える会の会長(自称)
 フェミニストで天然タラシ、特技は女の子を口説くこと!
 可愛い女の子はとりあえず口説いてみると言う性格で、そのたびに百合から冷たい視線を向けられる
 黙っていれば二枚目、喋ると三枚目
 『俺』『お前、君』女の子は下の名前にちゃんづけ、男の子は下の名前呼び捨て
 普段は元気な口調だが、可愛い女の子を前にするとナルシスト口調に変わる

・その他
 主要キャストの友人
 主要キャストの兄妹
 学校関係者
 洋館の関係者     など

●今回の参加者

 fa0142 氷咲 華唯(15歳・♂・猫)
 fa2657 DESPAIRER(24歳・♀・蝙蝠)
 fa3831 水沢 鷹弘(35歳・♂・獅子)
 fa4203 花鳥風月(17歳・♀・犬)
 fa4361 百鬼 レイ(16歳・♂・蛇)
 fa4578 Iris(25歳・♂・豹)
 fa4823 榛原絢香(16歳・♀・猫)
 fa4909 葉月 珪(22歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 集まった役者達に視線を向けると、龍雄は厳しい表情で台本の最後の部分に赤ペンで罰印をつけた。
「シャンデリアを落とすって言う案は予算的に無理だからカットさせてもらうね。シャンデリア1つ壊す予算も、それを上手くCGで処理する予算も出せないんだ。それで良いよね?」
 監督からの指示に逆らえるはずもなく、一同は頷くとカメラの前に歩み出た。


 桐生 香澄【葉月 珪(fa4909)】は百合【花鳥風月(fa4203)】の“お願い”で館の管理会社に連絡を入れると、ガラリと教室の扉を開けた。上手く行ったのかと問いたげな視線に微笑を返し、右手の人差し指と親指をくっつける。歓声を上げる百合と丈治【百鬼 レイ(fa4361)】に、香澄が注意の言葉を向ける。
「でも、お借りしただけですから、物を壊したりしない様に気をつけて下さいね」
「分かってるよ、香澄ちゃん!それじゃぁ丈治、後はあんたの出番。聖羅と青のこと頼んだわよ!」
 百合がそう言って脱兎の如く教室を飛び出して行く。丈治が香澄と歓談しながら丁度良い頃合を見計らうと、中庭へと飛び出した。
「大変だっ!百合が古びた洋館に入ったきり戻ってこないんだ!一緒に探してくれ!」
 息せき切って走って来た丈治と、その後ろから心配そうな表情でついてくる香澄。丈治だけの言葉ならば、また何か企んでいるのだろうと警戒するところだったが、香澄までそんな顔をしているとは‥‥
「百合が?それ本当?」
 聖羅【榛原絢香(fa4823)】は隣にいる青【氷咲 華唯(fa0142)】に視線を向けた。
「百合ちゃんが?探しに行かないと」
 小さい声ながらもはっきりとそう言った青を慌てて聖羅が止める。
「危ないって!青にそんな事させられないわよ」
「でも、百合ちゃんが‥‥」
「本当、聖羅は過保護だなぁ。大丈夫ですよ、ママ。僕がキチンとお坊ちゃんの面倒を見ますから」
 わざと聖羅が逆上するような言葉を選ぶ丈治。勿論これは計算のうちだ。
「誰がママだよ!つか、丈治に青を任せてられるかよ!私も行く!」
「良かったでちゅねー、青ちゃん。ママも一緒に行くそうでちゅよー」
「青を赤ん坊扱いするなっ!」
 聖羅の重い右ストレートは丈治の鳩尾に綺麗に入った。


 紫藤 新【Iris(fa4578)】は頭を抱えていた。館の管理を任されている彼は、主人の帰宅に合わせて中を綺麗にしておこうと思いこの館に足を踏み入れたのだが‥‥一番最初に出くわしたのは、瞳をランランに輝かせながら悪戯を仕掛けまくる百合だった。
「ここはガキの遊び場じゃねぇぞ!?」
 そう言って追い返そうとするものの、会社から許可を得ていると言い張る百合。それなら確かめてやろうと思い電話を掛けてみたのだが、どうやら本当に許可を取っての事らしい。どうしてこんなわけのわからないガキに許可なんて出したのか。
「いいか、いくら許可貰ってるからってあんまり妙なマネするなよ?」
「分かってるわよ」
 見張りもかねて百合に同行し、どうしてこんな事をしているのかの経緯を知ると盛大な溜息をつく。友達思いと言うか御節介と言うか。
「ここの管理は俺の担当なんだ。何かあればコレだコレ」
 壁に穴を開けようとしていた百合の手を取り、首を切るジェスチャーをして訴えるもののさっぱり見ちゃいない。フローリングの廊下をしげしげと見詰め、鞄からごま油を取り出すと一気に撒き散らす。
「待てぇぇぇっ!!!」
 ツルリと滑る仕様の廊下は、掃除が酷く大変そうだ。途方に暮れる新の背後では、百合がなにやらいそいそと取り付けている。プルンと揺れる四角い物体。
「コンニャク?」
「そう。この高さでドンピシャね。聖羅の顔に当たるわ!」
「へぇ」
 素っ気無い新の相槌に、百合がグっと親指を立てると白い歯を見せる。
「これも日頃のスキンシップの賜物よ!聖羅の3サイズくらい知ってないと!」
「あ、そう」
 リアクションの薄い新の腕を掴み、ごま油廊下へと押し出そうとする。
「お‥‥落ち着けえええっ!!」


「何だか今、男の人の叫び声がしなかった?」
「ンなんするわけないっしょ?」
 青が怯えた様にそう言い、聖羅が苦笑しながら館の扉を開ける。何故か薄暗い洋館。香澄がスイッチを押すが、電気はつかない。丈治がそれとなく進行方向を決め、青は自分が守らなくちゃと意気込んでいる聖羅が先陣を切って進む。長い廊下を右に折れ‥‥突然顔にピタリと何かがはりついた。
「く‥‥くんなぁぁぁ!!!」
 コンニャクに驚いた聖羅が右手を振り回し、驚いた青が1歩後退る。見かねた丈治が苦笑しながら聖羅の腕を取り‥‥死角からの左ストレートが顔に炸裂する。
「聖羅ちゃん、それ丈治‥‥」
「え!?あ!丈治!悪い悪い!大丈夫か!?」
 タコ殴りにしといて大丈夫も何もない。丈治が大丈夫だと言いたげな儚い笑顔を浮かべ、親指を突き出す。
「聖羅ちゃん、今のは効いたぜ‥‥ガクッ」
「丈治ぃぃぃっ!!くそ、幽霊めっ!!」
「あの、今のは聖羅さんの‥‥」
「先生!丈治の犠牲を無駄にしないためにも頑張りましょう!」
「まだ丈治は生きて‥‥」
 恐怖のあまりネジが吹き飛んでしまっているらしい聖羅には、香澄の言葉も青の言葉も聞こえていないようだった。


 カチャリと音を立てて扉を開け、スルリと中に入る。先陣は聖羅から青に変わっており、その背中を聖羅が心配そうな面持ちで見詰めている。部屋の中は綺麗に片付いていた。壁一面には本棚が並んでおり、背表紙の文字が金色に光っている。書斎、だろうか?
「聖羅ちゃん大丈夫?僕がついてるからね」
 そう言う青の声が震えている。それを感じ取った聖羅が、怖いなら自分が先に行くからと名乗り出ようとして‥‥突然、青の上に真っ白なものが覆いかぶさった。
「うわっ!」
「青!!今助けるからなっ!ってか、白けりゃいいってもんじゃねぇだろ!」
 白いシーツを青の頭から振り落とし、ドアを蹴破って廊下へと脱出する。蝶番がおかしくなってしまった音に香澄が注意の言葉を向けるが、聖羅は気付いていない。そのままごま油で濡れている廊下に突進し、勢い良く滑る。
「わっ!!あいたた‥‥青、大丈夫か!?」
「大丈夫だよ」
「おい、2人とも怪我は‥‥」
 言いかけた丈治の言葉が途切れる。ふっと、目の前の廊下を1人の女性が横切った。百合かと思うが、そうではない。見知らぬ女性の登場に、百合の仕業か?と丈治が頭を働かせるが、それにしたってあんな女性は見た事がない。
「誰か居るのかな。でも確かここって無人だったような‥‥」
「き、気のせいじゃねぇ?誰もいなかったよ。ね、香澄先生?」
「もしかしたら、館の人かも知れないわ。でも、そしたら百合さんは‥‥」
「あの」
 不意に背後から聞こえた声に、ビクリと肩を震わせる。恐る恐る振り向いた先には、先ほど前を横切った女性と良く似た雰囲気の女性・遙【DESPAIRER(fa2657)】がボンヤリとした寂しげな笑顔を浮かべながら立っていた。
「で‥‥出たぁっ!!」
「あの、落ち着いてください。私はここの住人です」
「住人!?それじゃぁ、百合の事知ってる!?」
 幽霊ではないと知った聖羅が矢継ぎ早に百合の特徴を説明し‥‥遙が何かを考え込むように視線を落とした後で、ややあってからゆっくりと頷く。
「えぇ、知ってます」


 遙の案内で館の奥へと進む途中で百合と新に出くわした聖羅は、事の顛末を聞いて凄まじい視線を“丈治に”向けた。
「おーまーえー!!」
「せ、聖羅ちゃん、落ち着いて!カームダウン!」
「うるせぇっ!まずは遙さんに謝れ!ンなくだらねぇ事で悪戯仕掛けまくって!」
 仕掛けたのは百合だったが、怒りの矛先は丈治に向けられている。どんな弁解も聞き入れてもらえなさそうな雰囲気に、丈治が遙へと頭を下げ‥‥
「あれ?遙さんは?」
 不思議な顔で周囲を見渡す5人に、新が首を傾げる。
「あの人先生じゃなかったのか?そんな人、いないぞ?」
「またまたぁ、あらっちー、からかわないでよ」
「あらっちって何だ。大体、ここの主人は‥‥」
「これは何の騒ぎだ!?」
 怒鳴り声が聞こえ、振り向いてみればごま油で滑ったらしい様子の男性・綾瀬川 比呂之【水沢 鷹弘(fa3831)】が立っていた。彼の顔を知っていた新が、香澄にこの館の主人であると言う事をそっと伝えると、香澄が事情を話し始める。
「確かに、私がいない間はある程度好きに使って構わんとは言ってあったが」
 幽霊屋敷と呼ばれていると知って、表情が崩れる。
「あの、ここに遙さんって名前の人はいますか?」
「遙?さぁ。この館には今は誰も住む者はいないと思うが?」
 同意を求められた新がゆっくりと頷く。その瞬間、子供達にだけ甲高い女性の笑い声が聞こえた。顔を見合わせ、叫び声を上げると走り出す。
「全く、最近の若い者は」
 比呂之のボヤキを背に、駆け出した聖羅の手を青がそっと握る。丈治が隣を走る百合に右手を差し出し「俺らもちょっとやってみるかい?」とナルシスト風に言うが、百合の冷たい視線に引きつった笑顔を浮かべる。そんな4人の元気な様子を、遙がそっと館の中から見詰める。

   少しの勇気、少し近づいた心の距離
   小さく呟かれた聖羅の「有難う」の声が
   ほんの少しだけ、照れているように聞こえた‥‥