鶴の事情アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
宮下茜
|
芸能 |
2Lv以上
|
獣人 |
2Lv以上
|
難度 |
難しい
|
報酬 |
2.7万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
11/26〜11/28
|
●本文
峰崎 竜牙(みねざき・りゅうが)は鼻歌交じりに編み物をしている峰崎 龍雄(みねざき・たつお)の後頭部をマジマジと見詰めた。
出来上がったばかりの台本は、どこからツッコんで良いのか分からないものの‥‥とりあえず、彼が今現在何を思ってマフラーを編んでいるのか、そのことからツッコム事にした。
「なんでマフラー?」
「今が旬だろ?」
「旬だろ?って、だろ?って、俺に訊くな。大体、誰のだよ、ソレ」
「竜牙」
アッサリと言われた台詞に、ある程度の予想をしていたとは言え脱力する。
ファンシーなピンク色のマフラーを首に巻いた自分の姿を思い、大ダメージをくらう。
今回の主人公は四宮 樹(しのみや・いつき)と言う男子高校生だ。
彼の不幸は、道端で行き倒れていた不思議系少女・鶴岡 岬(つるおか・みさき)と出会ってしまった事だった。
お腹が空いて動けないと言う彼女のために、コンビニでおにぎりを買って来てあげると、突然抱きつかれた。
『貴方が私の王子様だったんですねーっ!!』
『うわぁっ!!何言ってんだお前っ!!』
慌てて岬の手を振り解く樹。
『私の事をお忘れですか!?鶴ですっ!貴方に400年ほど前に助けていただいた鶴です!』
『400年!?』
よくよく話を聞くと、彼女は鶴の化身だと言う。
どう見てもただの不思議系少女だが、彼女が鶴と言い張っているのなら鶴なのだろう。
彼女は400年ほど前のある冬の日、うっかり罠にかかってしまい動けずに居た。
『そんな時、白馬に乗った王子様がマントを翻して‥‥』
『日本の話しだよな!?』
そんな時、近くの農家の息子が通りかかり、鶴を逃がしてくれたのだ。
爽やかな笑顔で、もう罠にかかってはいけないよと優しく言い‥‥
『私、恩返しをしようと思ったんです。でも、あまりにも傷が深く、うっかり眠ってしまって、気付いたら何時の間にかこんなにも時間が流れていたんです』
うっかりで眠るような長さではない。
『あの時の恩を返すためにあの方を探しているのですが‥‥』
『生きてたら怖いよな』
『いいえ、私には分かります。あの方は、この時代に転生なさいました』
はっきりとした口調は、確信を持って言っているのだと言う事が良く分かる。
『貴方かと思ったんですけれど、ちょっと違うみたいですし。彼はもっと繊細な身体つきで穏やかな人柄で、言葉遣いだって丁寧でしたし、儚気でしたし‥‥』
延々と続く岬の言葉に、樹が溜息とともに腰を浮かせる。
変な子にこれ以上付き合っている時間は無い。
『それじゃぁ俺はこれで‥‥』
『一緒に捜してくださらないんですか!?』
『だって、捜すっつったって』
言いかけた樹の言葉が飲み込まれる。
岬が大きな瞳に涙を溜めて、ウルウルとこちらを見ているのだ。
これは非常に断り難い‥‥。
樹はいたって現実的志向を持つ少年だが、女性の涙には弱かった。
『わ‥‥分かった。でも、今日だけだからな?』
『有難う御座います!』
こうして樹と岬の不思議な人捜しが始まったのだった。
≪映画『鶴の事情』募集キャスト≫
*四宮 樹
学校での成績は中の上程度
いたって現実的な思考の持ち主で、非現実的な事は好かない
女性や老人、子供や動物に弱い
『俺』『〜さん、〜ちゃん、お前』親しい人は呼び捨て
→岬の事は『岬さん』
*鶴岡 岬
鶴の化身だと言う不思議系少女
王子様(助けてくれた人)だと思う人にはとにかく抱きつき!と言う行動派
実年齢は不明だが、外見年齢は10代〜20代前半程度
『私』『〜さん、〜ちゃん、〜君』
→樹の事は『樹君』
*王子様(岬談)
400年ほど前に岬を助けたと言う青年の転生後の姿
詳細はお任せいたします
→樹役の人がやる事は不可
・その他
岬に王子様だと間違われる人
樹の友人
学校関係者 など
●リプレイ本文
樹【大海 結(fa0074)】と岬【湯ノ花 ゆくる(fa0640)】が歩き出して数分、何故か2人は喫茶店で2人の女性と向かい合って座っていた。
「それにしても本当に良かったわぁ。おば様が、彼女がいるような気配もないしって心配なさってたんだけれど、無用の心配だったみたいね〜」
三波南美【ジュディス・アドゥーベ(fa4339)】がおっとりとした口調でそう言って、樹と岬を交互に見る。南美は樹のお隣の家のご長女で、家族ぐるみの付き合いがある。兄弟のいない樹にとっては実の姉のような存在だが、少々頼りなく天然で思い込みが激しい。現在も岬を樹の彼女だと思っており、いくら否定しても「またまたぁ、そんなに慌てて誤魔化さなくても良いのに」と、こんな調子だ。岬の摩訶不思議な鶴の話も、苦しい言い訳としかとっていない彼女はある意味大物だ。
「でも、王子様が男の子に生まれ変わったとは限らないんじゃない?」
それまで、樹と南美の不毛な言い争いを黙って聞いていた竜崎峰子【竜華(fa1294)】がそう言って、ストローでアイスティをかき回す。峰子は樹の学校の先生で、スーツの上に羽織った白衣がクールな印象を受ける。口調のためか、適当な人に見えるが実際は生徒からの悩みに真摯に対応する良い先生だ。ただ彼女、様々なトラブルの遠因を作る達人だ。今だって何気ないその一言で岬が目から鱗が落ちたと言うような表情をして固まっている。
「でも‥‥王子様はきっと王子様で、運命の赤い糸が‥‥」
「だから、王子様でも転生後は王子様じゃないかも知れないでしょう?」
峰子の鋭いツッコミに岬が口を閉ざし、なにかを深く考え込む。深く、深く‥‥グラスの中は空っぽであるにも関わらず、岬は未だにストローを銜えている。
「ちょっと先生!変な事吹き込まないで下さいよ!」
「だって、本当の事だし」
「あぁもう!話をややこしくしないで下さい!と言うか、ほら、さっさと行こう岬さん!今日中に見つからなかったら俺はもう手伝わないからなっ!?」
「わ、分かってますよ」
樹に促された岬が渋々立ち上がり、ここの会計は私がと言って南美がハンドバッグの中から財布を取り出す。深々と頭を下げて走り去って行く背中を目で追いながら、南美と峰子は視線を合わせた。
「こっそり、ついて行ってみましょうか」
「アホ毛がピョコンと立った時、王子様が姿を現すの〜♪」
即興過ぎてなんの捻りも無い歌を歌いながら岬が歩く。注目を一身に浴び、樹は居たたまれない気持ちだった。大体、その歌はなんなのだろうか。アホ毛が立った時に王子様が現れるなんて、夢が無いにも程がある。樹が深い溜息をつきながら岬の頭をチラリと見た時だった。突然アホ毛が立ち上がり、岬がピクリと反応すると脱兎のごとく駆け出して行く。
「見つけました、私の王子様!」
「ゲ!幽!?」
岬に抱きつかれた魂野 幽【角倉・雨神名(fa2640)】が困惑した表情を一気に明るくする。
「樹君?偶然だね。この子は君の友達?」
「友達と言うか‥‥」
「こんなところにいたんですね、王子様!」
「王子様?そうとも、僕が闇のプリンスだよ」
にこやかに対応する幽だったが、随分とズレた返答の仕方だ。また厄介なのが増えたとばかりに樹が頭を抱える。オカルト部に所属している幽は、幽霊を信じない樹を何とか入部させようと奮闘している真っ最中だ。女の子のような顔立ちで、繊細で儚げな容姿、まさに岬の言う王子様のイメージにピッタリだ。もしかしたら幽が王子様なのでは?そう思った樹が今までの経緯を説明する。
「なるほど‥‥確かに鶴だね」
「何で断定?」
「僕くらい力があると、人の前世なんて軽く見えるよ」
「で、お前はなんだよ?」
「僕の前世は偉大なる魔女だったんだ。そのせいで女顔だけど」
ボソリと呟いた幽。実は結構気にしているのだ。王子様ではないと知った岬がガッカリしたような表情で肩を落とし、幽がそっと優しく背中を撫ぜると一緒に同行すると申し出る。
「何ならもう、幽と岬さんと2人だけで‥‥」
「私を捨てるんですか!?酷いです!」
「ちょ‥‥変な言い方するなよ!!」
山田 彩子【泉 彩佳(fa1890)】は目の前を通り過ぎて行った人物に大声を上げた。
「岬さんっ!もう、捜しましたよ!?ご両親から貴方を捜すように依頼が入って、ずっとこの町を彷徨ってたんですから!」
プンプンと怒る彩子に、変な子オーラを感じ取った樹が1歩引き気味になる。
「貴方達が彼女を保護してくれてたんですか?」
「保護って言うか、王子様を捜してたんですよ」
「王子様?」
「それよりアンタ誰?」
「私は美少女探偵、山田・クリスティ・彩子です。探偵なので本名は明かせません」
「そっか、山田彩子さんね。で、ご両親から依頼が入ってってどう言う事?」
サラリと彩子の自己紹介を流した樹が首を傾げる。
「岬さんの両親が電柱に貼ってあった私の張り紙を見て依頼してきたんです。ちなみにソレは探偵ごっこで作ったやつなんですけれど」
そう言って彩子が張り紙を手渡す。コレに電話をかけたご両親の追い詰められた心理状況がよく分かる。
「この連絡先にかけると事務所につながるようになっています☆」
爽やかな笑顔とともに出された携帯電話。鞄に入る程度のソレを事務所とは言わない。
「さ、岬さん帰りましょう。ご両親が心配なさってますよ!」
どちらかと言えば、貴女のご両親の方が貴女を心配しているのでは?と思うのだが‥‥
「王子様‥‥王子様ですよね!?」
岬が彩子の手を振り解き、近くに立っていた少女へと駆け寄る。
「え?貴方大丈夫!?頭打ったの?平気?自分の家はわかる?」
いきなり知らない子に王子様と言われた皇 紗真【佐々峰 菜月(fa2370)】が困惑した顔で岬の顔を覗き込む。しかし、覗き込んだ先で岬も少々困惑したような顔をしており、微妙な空気が2人の間に流れる。そんな中、紗真の隣に立っていた栗原 美由【桐沢カナ(fa1077)】が何を思ったのか突然走り出すと樹に抱きついた。
「私の王子様!やっと私を見つけてくださったのですね!」
「また王子かよ!今度はなんの化身だ!?」
「この顔立ち、声、抱き心地‥‥なんて素敵な方なんでしょう。私、もう離れませんわ!」
「離れろ!ってか幽!彼女の前世はなんだ!?」
「えーっと、別に樹君と接点はないけれど。彼女の場合は前世とかじゃないと思うな」
「美由は思い込みが激しいから、好みの人がいると全部王子様になるの。ってか、そんな事よりこの子をなんとかしてぇーっ!」
「人を好きになるのに性別なんて関係ないです。まして鶴と人なら、これも神様の与えた試練です。この壁を乗り越えてこそ真実の愛がはぐくまれるんです!」
「あたしはノーマルなの!あなたの愛には応えられませんっ!」
紗真が悲壮な声を上げるが、樹も樹で抱きついたままの美由にオロオロしていてどうしようもない。
「普通は前世の記憶は表には出ないはずなんだけど」
「あ、岬さん数日前に転んで頭を打ったそうなんですよ。それ以来少し様子がおかしくなったんです」
「ふーん、それが直接的な原因かな?」
彩子の説明に頷く幽。その背後から、峰子と南美がそっと姿を現す。
「ほらね、私の言ったとおり」
「ですね」
「私、機織が得意なんです!鶴として当然のたしなみですよね♪なのでその特技を活かし、紗真さんの家に住み込みメイドとして恩返しをしたいと思います」
「恩返しなんていらないから!って言うか、機織の特技を活かす設備はうちにはないから!」
逃げ回る紗真と、それを追いかける岬。その隣では、美由が樹にベッタリとくっついて離れない。
「運命です!」
「こんな力ずくで人為的な運命があってたまるかっ!」
「でも、樹さんは私の運命の王子様なんです」
樹の厳しい口調に少しだけしょんぼりとしながらも、美由がそう言ってウルリと瞳を潤ませる。
「わわ、キツク言い過ぎて悪い。でもな、俺は王子様じゃ‥‥」
「優しいです!やっぱり樹さんは美由の王子様です!」
「だぁかぁらぁっ!」
「四宮はなんだかんだ言って人が良いからな」
エンドレスで続く樹と美由の会話に峰子が溜息をつき、その隣で彩子が必死に今回の調査費を計算している。
「そう言えば君、この町を彷徨ってたって言ってたけど」
「そうなんですよー。道に迷っちゃって、紗真さんと美由さんに助けられたんです」
「それって全然調査してないじゃない」
「えーっと、必要経費を計算して、それから調査費を上乗せして‥‥」
峰子の鋭い指摘を聞こえないふりをしてかわす彩子。紗真が渋々岬を自分の家でメイドとして迎え入れることを承諾し、美由と樹が携帯のメールアドレスを交換しているのを見ながら、南美は少し複雑な気持ちを抱えていた。
「あんなに小さかった樹君がこんなに大きくなって彼女が3人も‥‥」
「岬は王子様の彼女です!」
「あたしは彼の彼女じゃないよ!?」
「私は樹さんの彼女に立候補します!」
「南美さん!変な事言わないで下さい!しっかり!!」
南美の天然を通り越して大丈夫か?!と言いたくなるような発言に、それぞれがツッコミを入れる。峰子と彩子が苦笑し‥‥幽がポツリと口の中で呟いた。
「前世の前世はここにいる全員、仲間だったんだよね」
「運命って不思議だなぁ‥‥」