アリスの事情アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 2.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/05〜12/07

●本文

 最近やたらご機嫌の峰崎 龍雄(みねざき・たつお)に首を傾げながらも、峰崎 竜牙(みねざき・りゅうが)は台本の続きに視線を落とした。
 今回は不思議の国のアリス‥‥なのだが‥‥
「どこがアリス?」
「何言ってんだ、立派なアリスじゃないか。白ウサギの導きに従って、アリスが旅をする!」
「猫と?」
「チェシャ猫はあれだな、桃太郎で言うならお供の雉とか猿とか犬と言うか‥‥」
「勝手にお供にするなよ!あんなぁ、何度も言うけど、名前がアリスなら良いってもんじゃねぇだろ?!」
「まったく、竜牙は細かいなぁ。小姑か?」
「誰が小姑だっ!」
「年より老けて見えるぞ〜?ほら、竜牙も最近の若者らしく若者言葉を使ったらどうだ?」
「は?若者言葉?」
「最近流行ってるんだろ?“チョベリバ”」
 凄く久しぶりに聞いた懐かしいフレーズは、既に流行を通り越している。
 もはや死語だ。聞いただけで恥ずかしくなる言葉を堂々と流行ってるんだろ?と言う龍雄はある意味では大物だ。


 今回の主人公は皆川 有栖(みながわ・ありす)と言う女子高生だ。
『ねぇ、猫ちゃん。私思うに、啓兎君は私を不思議の国に導いてくれる兎さんだと思うの』
『はぁ?』
 猫ちゃんと呼ばれた少女、鮭川 峯子(さけかわ・みねこ)が首を傾げる。
『ってゆーか、猫ちゃんって呼ぶな!私の名前は峯子!み・ねこじゃなくて、みね・こなのっ!』
 もう何度言ったのか分からない台詞を言いながら、盛大な溜息をつく。
『んっもー、細かいことは言いっこなし!』
『全然細かくないって‥‥大体、啓兎のどこに兎なんてファンシーな雰囲気がある?』
『しいて言えば名前?』
 うふ☆っと、顔が可愛いから許される種類のぶりっ子笑顔を浮かべる有栖。
『名前って、白川 啓兎(しらかわ・けいと)?あぁ、“と”が兎だから‥‥?』
『そう!私がアリスでしょ?猫ちゃんがチェシャ猫さんでしょ?啓兎君は白ウサギさんなんだよ!』
『待って。啓兎の白ウサギは分かるとして、何で私がチェシャ猫?』
『だって、猫ちゃんだし』
『猫じゃないっつの!』
『それに、シャケとチェシャって似てるし』
『似てないっ!!』
『啓兎君は、白川啓兎で略して白ウサギさんだし!』
『略すなっ!!』
 毎度毎度のボケとツッコミのやり取りに、峯子が頭を抱える。どうしてこんなにネジが飛び散っているのだろうか。有栖の頭の中がどうなっているのか見てみたい。
『それに啓兎君、学校終わったら直ぐに帰っちゃうじゃない?』
『あぁ、そうだね。急いでるっぽいよね。バイトかな?』
『きっとハートの女王様の仕業よ!首を切れ!って言ってるんだわ!』
『あのねぇ、どうしてあんたはそう考えが突飛なわけ?』
『よし、決めた!私明日、啓兎君の後をつけてみる!そして、不思議の国に行って横暴な女王様を止めるのよ!』
『ナチュラルにストーカー宣言するなっ!!』
『ストーカーじゃないわよ!啓兎君は白ウサギさんなのよっ!だって、腕時計持ってるし』
『誰でも持ってるだろっ!それに、ウサギが持ってたのは懐中時計じゃなかった!?』
『そう言えば啓兎君、懐中電灯持ってたわね、鞄の中から落ちたの見たわ』
『へー、なんで学校に懐中電灯なんて・・・・って、関係ないだろっ!!』
 有栖と峯子の言い争いはその後小一時間続き、結局粘り勝ちで有栖が勝利した。
 勿論、有栖が変な事をしないようにと峯子もついて行く事になったのだが‥‥?


≪映画『アリスの事情』募集キャスト≫

*皆川 有栖
 私はアリスの生まれ変わりなのよ♪と言う、不思議系天然少女
 口を開かなければ美少女、口を開けばネジが飛びまくった不思議っ子のため、美貌が霞んで見える
 白ウサギの後を追って不思議の国に行き、ハートの女王を止める事が夢
 『私』『〜ちゃん、〜君、〜さん、貴方』・峯子は『猫ちゃん』啓兎は『啓兎君』
 可愛らしい口調で、どこか憎めない雰囲気

*鮭川 峯子
 有栖の幼馴染。有栖のツッコミ&ストッパー役
 成績は常にトップクラス。有栖以外の人には優しく親切
 有栖がまともな人になってくれる日を夢見、今日もひたすらツッコミツッコミ‥‥
 『私』『〜君、〜さん、貴方』・有栖も啓兎も呼び捨て
 世話焼きで姉御肌な苦労人

*白川 啓兎
 峯子と同じくらいの秀才で、峯子とは塾仲間
 学校が終わった後、急いで何処かに行っているようだが‥‥?
 有栖の事は純粋に可愛い子だと思っている(性格を知らない)
 『俺』『〜さん、君』・峯子は『鮭川』有栖は『皆川さん』
 ボケでもツッコミでもない普通の人のため、有栖と峯子の会話についていけるかどうか‥‥

・その他
 学校の友人
 学校関係者   など

*注意事項
・峰崎映画はそれほど制作費の出せる映画ではありません
・高価なものを壊す
・CGを多用する
・大掛かりな舞台を作る  などは費用の関係で出来ません。
・また、役者さんが体をはったシーンを撮る場合もご注意下さい。

●今回の参加者

 fa0074 大海 結(14歳・♂・兎)
 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa1105 月 李花(11歳・♀・猫)
 fa1689 白井 木槿(18歳・♀・狸)
 fa2806 淡紅絆(17歳・♀・狐)
 fa3887 千音鈴(22歳・♀・犬)
 fa4181 南央(17歳・♀・ハムスター)
 fa4832 那由他(37歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 有栖【白井 木槿(fa1689)】のナチュラルストーカー宣言を受けて、峯子【千音鈴(fa3887)】は困っていた。それまではまぁ、変人でもギリギリ犯罪ではなかった。それなのに‥‥ズキズキと痛む胃を押さえながら、隣で上機嫌に鼻歌なんて歌っている有栖をジロリと睨む。が、当の本人はまったく気が付かない。目の前を急ぎ足で歩いて行く啓兎【大海 結(fa0074)】の背中に向けて気付くなオーラを発しながら慎重な足取りで、かつ周囲に不審がられない態度で後をつける。
 やや小走りだった啓兎がふと立ち止まり、入って行った先は小さな喫茶店だった。不思議の国でなくて良かったと思いつつ峯子が有栖の肩を叩く。
「ね、バイトだったでしょ?」
「‥‥やっぱり、啓兎君は白ウサギさんだったんだわ」
 うっとりとした視線の先を追えば、喫茶店の看板が目に入る。『喫茶店Wonder Land』そう書かれた金色の文字に峯子が愕然とする。
「な、何も有栖の奇行に拍車をかける名前じゃなくてもいいだろっ!」
 頭を抱えながら溜息をつく峯子の視界の端で、有栖が嬉々とした表情で扉を押し開けるのが映った。


 妃宮恋【淡紅絆(fa2806)】は今しがた入ってきたばかりの啓兎の姿を見つけると、思わず持っていたメニューで恥ずかしそうに顔を隠した。しかしそれは一瞬の事で、さっと表情を変えると啓兎に厳しい言葉をかける。
「遅い!遅刻よ遅刻!」
「あ、妃宮さん。すみません、ちょっと学校で‥‥」
「言い訳は良いから、さっさと着替えてきなさいよ!」
 すみませんと言いながら頭を下げる啓兎に素っ気無い視線を向ける。啓兎が奥へと消えると、途端に眉を顰めて唇を噛み、搾り出すような低い声を出す。
「ぁ〜〜もう、何でもっと可愛く話せないかなぁ‥‥私のバカ」
 実は恋、啓兎に淡い思いを抱いているのだが、素直になれずに辛く当たっては後で相当凹んでいる。その後悔を次に活かせば良いものの、現実としてなかなかそううまくは行かない。カランと言う乾いた鈴の音に視線を上げ、営業スマイルを作ると入って来た2人の高校生にオクターブ高い声をかける。
「いらっしゃいませ。2名様で宜しいでしょうか?」
「あの、白ウサギさんはいますか?」
「あ!バカ有栖!!ち、違うんです。あの、こちらに白川と言う名の‥‥」
「あれ?鮭川に、皆川さん?」
 制服に着替えた啓兎がキョトンとした顔で2人を見詰める。
「白ウサギさん、私ずっと貴方を‥‥」
「あぁぁっ!!ほら、啓兎!席に案内して!ね!?」
 有栖の口を塞ぎながら峯子が矢継ぎ早にそう言う。恋に引きつった笑顔を浮かべ、ペコペコとお辞儀をしながら有栖を引きずって行く。


「それにしても、啓兎がバイトしてるなんて思わなかった。だって、塾の模試だってトップクラスだし」
「寝る間も惜しんで勉強してるからね。夢があるから」
「夢ですか?」
 キョトンとした表情で首を傾げる有栖の前に水の入ったコップを置きながら、啓兎が柔らかく微笑むとポツリと言葉を零す。
「留学したいんだ。その資金のために今から貯めとかないとね」
「ふーん、啓兎も結構考えてるんだ。なんか尊敬しちゃ‥‥」
「啓兎君も、不思議の国を探していたのね」
 峯子の言葉を遮って、有栖が潤んだ瞳を啓兎に向けながらそっと呟く。
「えっと、うん。世界って不思議だからね、そう言う色々な不思議を見てみたいなって」
 妙な発言にも余裕で対応する啓兎だったが、有栖の言葉を自分なりに解釈した結果がそう言う答えになっただけで、特別頭を悩ませながら言葉を返したわけではない。
「やっぱり、不思議の国には憧れるわよね!?」
「そうだね、自分の器を大きくしてくれる、そのために不思議にはたくさん触れておきたいなって」
「あのさ、全然かみ合ってないんだけど、どうして話が盛り上がるのかな!?」
 有栖と啓兎のまったくかみ合っていないながらも双方の天然さのおかげで成り立っている会話に、峯子が我慢できずに口を挟む。その時だった。啓兎の背後からパタパタと走って来た可愛らしい少女【月 李花(fa1105)】がチョンチョンと背をつつき、恋を指差す。
「呼んでるよぉ〜?」
「可愛い子だね。啓兎、この子誰?」
「あー、オーナーの娘さんだよ。それより、妃宮さんどうしたんだろう?」
 挙動不審な様子の恋に首を傾げながらも啓兎が2人のテーブルを離れる。啓兎に代わってオーダーを取りに来た山根 澄子【南央(fa4181)】がのんびりとした口調で言葉を紡ぐ。
「ご注文はお決まりですか?」


「啓兎、あれ、誰?」
 突然現れた可愛らしい少女に動揺を隠せない恋。持っていたコップを床に落としてしまう。
「わ、妃宮さん大丈夫ですか!?塵取と箒‥‥」
「平気よ!それよりアレは誰なの!?」
「同じクラスの子ですよ。それが何か?」
「同じクラスって、あんなにベタベタ‥‥」
 言いかけた言葉を慌てて飲み込むと、恋がさっと身を翻して仕事に戻る。結局割ってしまったコップは啓兎が全て片付け、恋が深い溜息をつくと有栖と峯子の様子を窺う。有栖が近くを通った啓兎を呼びとめ、談笑し‥‥優し気な啓兎の表情に、恋の中で何かが弾けた。啓兎が席を外すのを待ってからツカツカとテーブルに近づく。
「貴女、いい加減にしなさいよ!わ、私の‥‥啓兎にべたべた引っ付かないでよね、見苦しい!」
 ポケっとした表情で首を傾げる有栖。その視線が胸元で光るネームプレートに注がれ、不意に表情を変える。
「妃宮恋?恋愛、ハート、妃‥‥女王!?そう、貴方ハートの女王の生まれ変わりなのね。これは運命?えぇ、避けられない運命なんだわ。ここがWonder Landなのも全て運命!ハートの女王!貴方は私が止めてみせるわ!」
「何でそうなるのよ!もう、あんたの頭がWonder通り越してDangerよ!」
 峯子が頭を抱えながらそう言うが、爆裂妄想娘の勘違いは止まらない。それどころか、恋までもが妙な勘違いをしだす。
「ちょ、まさか貴女も啓兎狙いなの!?ダメよ、そんなの絶対ダメ!!啓兎は私が一番好きなんだから!」
 こちらの妄想も甚だしいが、有栖よりはマシだ。騒ぐ2人に何事かと啓兎が走って来るが、どうにも騒ぎは収まらない。そんな時、窓際の席で1人まったりとティータイムを楽しんでいた頭野法子【那由他(fa4832)】が立ち上がり、2人の間に割って入ると素敵な提案をしだした。
「どちらも譲れないものがあるのなら、いっそ勝負して決めたらどうかしら?」


 バッティングガーデンWhite&Redの看板にトキメク有栖に胡散臭い視線を向けながら、丹羽 志奈子【MAKOTO(fa0295)】がマシンの説明を簡単に行い、有栖と恋にバットを手渡す。
「猫ちゃんも一緒にやろ〜♪ほらほら、バット持って!」
 何故か有栖にバットを手渡される峯子。何で私がと文句を言おうとして‥‥有栖が飛び出した球にあわせるようにバットをフルスイングする。普通は真っ直ぐに飛ぶ球が、何故か志奈子の方へと飛んでいき頬を掠める。
「て‥‥テメエ!殺る気か!?殺る気なんだな!!」
 プッチーンと切れた志奈子がマシーンの設定を上げ、球威が凄まじくなる。だがそこは恐ろしいまでの天然娘有栖。速くなった球もなんのその、恋に勝つと言うコト以外は見えていないためにブンブンとバットを振り回す。弾く球弾く球が恐ろしい方向に飛んで行き、見ていた志奈子と法子、心配でついてきた啓兎が物陰に身を隠す。喫茶店の中からは澄子と少女が顔を覗かせ、あまりの展開に驚いて店内に引っ込む。バッティングもそつ無くこなせる恋だったが、流石にこんな展開は想定外だ。飛んで来た球に身を隠そうとして‥‥それまで無言だった峯子が不意にバットを構えると、叫びながらスイングした。
「何でいっつも私は巻き込まれるのよっ!!」
 カキーンと良い音が響き、綺麗な孤を描いて飛んで行く。
「猫ちゃんすごーいっ!ねね、これって猫ちゃんの勝ちよね?」
 バットを下ろした有栖に志奈子がブンブンと頷き、法子も肯定するかのように大きく頷く。
「すごいすごーい!えっと、猫ちゃんの勝ちってことは私の勝ちってことよね♪」
「ま‥‥負けた‥‥」
 ガクリと肩を落とす恋。有栖がそんな恋にビシリと人差し指をつきつける。
「さぁ、白ウサギさんを解放するのよっ!」
 勘違い大暴走の有栖の言葉に峯子が大きく溜息をついた後でその後頭部をペシリと軽く叩く。
「勝ったのは私!だから私の話しをきちんと聞きなさい有栖!!」
 キョトーンとした表情の有栖の勘違いをどうにか正しい方向に直すのに、峯子はその後1週間の時間を有した。


 可愛らしい制服に身を包んだ有栖と峯子。恋が有栖の姿に目を見開き‥‥
「なんで貴女がバイトしてるのよ!!」
「不思議の国にはやっぱりアリスがいないと、でしょ?」
「だからって何で私までバイトなんか‥‥」
「だって、チェシャ猫さんもいないと。ヤマネさんに帽子屋さんに、ハートの女王に白ウサギさん」
「チェシャ猫じゃないって言うとるだろーがっ!!もう、これは誰かの陰謀か!?私への挑戦状か!?」
「もう!なんでこうなるのよーーーっ!!」
 峯子と恋の声が合わさり‥‥その瞬間、カランと音を立てて喫茶店の扉が開いた。途端に笑顔になる3人。

『喫茶店Wonder Landへようこそ♪』