ブバル外伝 〜魔術師〜アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 8.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/08〜12/11

●本文

 千明 千秋(ちぎら・ちあき)は成績優秀、品行方正、眉目秀麗、お父様は大会社の社長、お母様は女優、お姉様はモデル、お兄様はヴァイオリニストと言う家庭で育った。
 習い事はお茶にお習字、お琴にピアノ、ヴァイオリンに英会話にテーブルマナーに華道、歌にダンスに何から何まで、とにかく彼女は完璧だった。
 ただ、そんな完璧な彼女にある1点の汚点、それは‥‥超現実主義だった。
 幽霊なんて存在しない、超能力なんて有り得ない、全ては科学が解明してくれる。
 そんな彼女が突然こんな事を言い出したらどうだろう。
「ここはどこ!?貴方達は誰!?それより、早く逃げないと魔王の僕が襲ってくるわ!ヤツラは既にこの近くに迫ってきているはずよ!ここの巫女は誰!?聖なる壁を作り出さないと!」
 驚きを通り越して呆然としてしまう。
 目の前に居るコレは誰なのだろうか。
 千明千秋?違う。彼女はこんなファンタジー、夢一杯、冒険一杯な思考回路は持ち合わせていない。
「あの、貴方ダレですか?」
 俺、長壁 卓磨(おさかべ・たくま)は意を決して千明千秋(仮)に声をかけた。
「私の名前はリズ・リンガード。ブバルディアの宮廷魔術師よ」
「ブバルディア?」
「もう、ド田舎ね!ブバルも知らないの!?西のインディリアと対を成すブバルディアよ!ここはどこの村なの!?」
「村じゃなく、学校ですけれど‥‥」
「魔術学校ね。それなら、貴方も魔術師見習いかしら?そうは見えないけれど」
「や、普通の高校ですけれど」
「高等魔術学校なの!?ド田舎なのにやるわね。未来のエリート養成学校ってわけね。それなら私の手伝いが出来るかもしれない」
「や、だから‥‥」
「ド田舎の何も知らないような村人ならともかく、高等魔術学校の生徒なら私の名前くらいは知ってるでしょう?グラディアと一緒に旅をしているリズよ」
「ダレですか?」
「グラディアくらいは知ってるでしょう!?この世を救う勇者よ!?魔王に対抗できる唯一の存在よ!」
 千明千秋改め、リズ・リンガードはそう言うと教室の中を見渡し、窓辺に近づくと真っ白なカーテンをひいた。
「魔王って、そんなのこの世には‥‥」
「な、何あれぇぇぇぇっ!!!あの巨塔はなに!?」
「巨塔?あぁ、マンションですよ」
「魔王の僕の仕業ね!ふん、その挑戦受けてやろうじゃない!私をこんなところに飛ばしてくれたんだから!グラディア達と合流する前に魔王の僕を1人片付ける、そう難しいことじゃないわ」
「ですから、ここには‥‥」
「貴方も手を貸しなさい。あそこに居るのは魔王の僕No12のディセムよ。あいつは氷の‥‥」
「だから、俺の話を聞けっ!!」
 これを他の生徒が聞いていたら驚くだろう。
 大人しい卓磨は、滅多に怒ったりしない。まして、怒鳴るなどは彼の人生でも数えるほどしかない。
「ここは東京!魔王とかいないし、ブバルディアでもない!魔術学校なんてないし、マンションに魔王の僕とかいない!」
「何ですって!?って言う事はアイツ、私を違う世界に飛ばしたのね!?」
「千秋さん、さっき頭を打ったから‥‥保健室行きますか?」
「頭打ったとかじゃない!きゃぁぁぁっ!!なにこの服!」
 初めて自分の格好を見たリズが叫び声を上げ、千秋の鞄を漁ると中から鏡を取り出す。
「だ‥‥誰コレっ!!!」
「だから、千明千秋さんって‥‥」
「ディセムのヤツ、チェンジを唱えたのね。しかも、次元まで弄って。つまり、私がこの世界にいるって事は、この体の持ち主はあっちにいるのよね?‥‥大変!」
 リズが目を見開き、口に手を当てる。
「早く戻らないと、その子が危険だわ!幸い、ディセムはまだこの近くにいる気配がする。学校の中‥‥きっと誰かに憑いてる。ディセムを引き剥がして倒せば術が解ける!」
「何だか良く分からないんですけど、保健室行きますか?」
「だーかーらー!あぁ、もう!これで信じる!?」
 リズはそう言うと、右手を高く上げて何かを唱えた。そして次の瞬間、卓磨の目の前に小さな炎が現れた。
「私は炎の魔術師。これで分かったんならとっとと案内しなさい!この下に気配がするわ!」
「この下って、保健室、ですよ??」


≪映画『ブバル外伝 〜魔術師〜』募集キャスト≫

*千明千秋(リズ・リンガード)
 千秋:可憐な外見
 リズ:サバサバとした性格で男勝り
 運動音痴な千秋に対し、リズは運動神経抜群
 見た目以外は全てリズの能力が使えるので、炎の魔術も使用可能
 →ただし、かなり威力制限を受けている
 破天荒で行動派

*長壁卓磨
 成績優秀、柔軟性のある男の子
 千秋とリズの事情を理解し、リズとともに行動する
 流石に周りの目もあるのでリズに千秋に成りすますように注意をする
 →勿論リズの性格的に頑張っても千秋にはなれませんのでフォローは必須です
 千秋とは幼馴染だが恋愛感情はない

*ディセム
 保健の先生に憑いてます
 先生の詳細はお任せいたしますが、ディセム自体は女性です
 『私』『貴方、坊や、お嬢ちゃん、』『〜わよねん、〜かしらん』
 →色っぽい喋り方をします
 威力制限を受けているリズの炎と違い、ディセムの氷は威力制限を受けていません
 まともに戦えばリズに勝ち目はありませんが、ディセムには弱点があります
 弱点→可愛らしい男の子

・その他
 卓磨や千秋の友人
 学校関係者     など
*ブバルから来たのはリズとディセムのみになります

●今回の参加者

 fa0142 氷咲 華唯(15歳・♂・猫)
 fa2370 佐々峰 菜月(17歳・♀・パンダ)
 fa2957 ぇみる(19歳・♀・パンダ)
 fa3386 硯 円(15歳・♀・猫)
 fa3393 堀川陽菜(16歳・♀・狐)
 fa3599 七瀬七海(11歳・♂・猫)
 fa4181 南央(17歳・♀・ハムスター)
 fa4852 堕姫 ルキ(16歳・♀・鴉)

●リプレイ本文

 宇和 皐月【佐々峰 菜月(fa2370)】は卓磨と千秋(リズ)【南央(fa4181)】が内緒話を繰り広げる教室の前でしゃがみ込むと、そっと中を窺った。放課後の教室、密談する男女。しかも、男子生徒の憧れの的、高嶺の花の千秋とその幼馴染の卓磨だ!一時期2人は付き合っているのでは?と言う噂も流れたが、その時はどちらも否定していた。それなのに、今のこの状況はどうだ!?どう見ても甘酸っぱい青春の恋の匂いがするではないかっ!
「もしかして、2人は‥‥」
 その先の言葉を飲み込むと、こちらに向かって来た2人に気付き身を隠す。走って行く背中を見詰め、追いかけなくては損だと思い立つと後を追う。“捜索も(情報)操作も足が基本”と言う信条を忠実に守って、こっそりとはとても言い難い音を立てながら追う皐月。運動音痴の千秋にしては軽快な走りっぷりだと疑問に思うが、持ち前の天然さでそれをカバーする。
「やっぱり、恋っていうのは人を変えるもんなんだよね〜」
 実際に人が変わっているのだが、その原因は恋などと言う甘いものではない。


 バタバタと走って来る千秋と卓磨の姿に、氷上 宙【硯 円(fa3386)】は足を止めた。何かを言い争っているらしい2人の声が耳に届く。恐ろしいくらいの地獄耳の宙にとって、少し遠くで囁くようにして喋っている2人の声を拾うことくらい簡単だった。ジっと耳を澄ませ‥‥その言葉の中に彼女が言うにしてはあまりに不似合いな単語を聞き取り、思わず顔を輝かせる。
 実は宙、ファンタジーや非科学的な事、百合から薔薇まで何でも有り!と言うやや暴走気味の元気っ娘なのだ。大人しくて非現実的な事を信じない性格の千秋とは正反対だが、卓磨も含めた3人は中学からの腐れ縁で仲が良い。
 やっと千秋もファンタジーの素敵さに気付いたのね!と、勘違いが暴走した宙が、2人の背中を追いかける。千秋の突然の思考転換がどうしてなのか、非常に気になったのだ。


 草薙・千草【ぇみる(fa2957)】は走って来る千秋と卓磨、その後に続く宙と皐月の姿を目に留めると声を張り上げた。
「廊下は走ってはいけませんよ!」
 しかし、4人はいっこうに止まる気配が無い。それどころか、加速している気さえする。
「もう!角で誰かにぶつかったりしたらどうするんです!?」
 忠告を言いながら走る千草。
「廊下は走らないって、変なルールね」
 千草の声に反応した千秋が呟く。ブバルでは急いでいる時はどこでも走って良い事になっている。まぁ、この世界での緊急とブバルでの緊急では重要度がまったく違う。ブバルでの緊急と言えば、生命にかかる事が第1だろう。
「先生も走ってるじゃないですか」
 宙の鋭いツッコミに、千草が「うっ」と言いながら胸を押さえてしゃがみ込む。ベタな落ち込みのリアクションだったが、優しい宙はそこにはツッコまなかった。
「そう言えば、2人は何処に行くつもりなの?」
 何時の間にか隣に来ていた宙が千秋と卓磨を交互に見ながら首を傾げ、千秋が正直に「魔王の僕をたお」と言いかけて卓磨に口を塞がれる。
「どこだって良いだろ?」
「だって、私は知りたいのよ!どうしていきなり千秋が魔術なんて非現実的な言葉を口にしたのか」
「聞いてたのか?」
「私の耳を馬鹿にしないで」
 自慢気に笑う宙に、地獄耳過ぎるだろと頭を抱える卓磨。聞いちゃってたんなら仕方がないじゃないと、楽観的な事を千秋が言い‥‥その一連の様子を後ろから見ていた皐月が、ハタと足を止める。
「あれはもしかして‥‥恋敵!?それとも、浮気相手との修羅場!?」
 どちらが卓磨の恋人になるのか。私としては千秋に1票なんだけど、などと勘違いを大暴走させると、皐月は“ある物”を作りにいったんその場から離れた。


 保健室の前にたどり着くと、千秋は思いっきりドアを開けた。大きな音が廊下中に響き、中に居た小瀬霞【堕姫 ルキ(fa4852)】が驚きの表情でポカンと口を開けて固まっていたが、直ぐに気を取り直すと優しい笑顔を浮かべる。
「あらぁ、元気のいいお嬢ちゃんねぇん。如何したのぉ?特に悪いところは無さそうだけどぉ?」
「黙りなさい、ディセム!」
「ディセムぅ?やぁねぇん、私そんな変わった名前じゃないわよぉ」
「いい加減に正体を現したらどう?ねぇ、この人って元々こんな喋り方なの?」
 その問いに答えたのは宙だった。軽く首を振り、霞先生はもっと大人しい喋り方だと証言をする。その言葉に確信を得た千秋改めリズは、霞改めディセムに向かって小さな炎を創りだして攻撃を仕掛ける。が、ディセムが創りだした氷の盾によってあえなく消されてしまう。
「あらぁん?随分萎え萎えな炎ねぇん。そんなので私を倒せるワケ無いって分かってるハズでしょぉん?」
 小馬鹿にするような笑みに舌打ちをすると、憑依解除の魔法をかけようと呪文を紡ぎはじめるが、本領発揮のディセムは氷礫を創りだしてぶつけて来るために詠唱は中断してしまう。運動神経の良いリズはともかくとして、他の2人はベッドの下にもぐりこむと何とかその攻撃をやり過ごす。
「それにしても千秋、魔術も使えるまで成長してるなんて父さん嬉しい♪」
 宙が嬉しそうにそう呟くが、隣に居た卓磨に「呑気な事言ってんな!」と一喝されてしまう。そうこうしているうちにやりたい放題のディセムは吹雪を起こし、リズを追い詰めていく。
「丸焼きにするわけにもいかないしってか、今の私には出来ないし」
 ブツブツ呟くリズの背中に、この状況が本当に理解できているのだろうかと疑いたくなるような事を宙がまくし立てる。
「実は私も魔術士の素養があって、いたぶられる千秋を見てその力を開花させてピンチを救うとか、師匠に絶対使ってはいけないと言われてる禁断の超!超!超絶古代魔法があるとか言う展開はないの?ないの?」
「あぁっ!!五月蝿いっ!」
「って言うか、そう言う展開がポンポン起きるんだったら人生苦労しないよね、アハ♪」
「さて、もうお遊びはお終いかしらん?」
 ディセムがそう言って残酷な微笑を浮かべ、リズを死に至らしめるべく彼女の周囲に絶対零度の空間を形成した‥‥


 そんな絶体絶命なリズ達を不本意ながら助ける形になってしまう勇者が、重い足取りで保健室の前に立っていた。正門の前で転んでしまい怪我を負った彼は名前を九瀬九海【七瀬七海(fa3599)】と言う。たまたまその場にいた千草が心配してくれ、保健室まで連れて来てくれたのは良いのだが‥‥なんだか嫌な予感がする。そう思いつつも、九海は保健室の扉をあけた。そして、自分の感じていた予感が決して間違いなどではなかった事を思い知らされたのだった。
 何故か冷たい保健室。氷の柱まで立っている。保険医らしき女性が生徒らしき少女に詰め寄っている。果たして何が起こっているのか?常識ならざる事に千草がふっと意識を失い、動揺した九海が立ち竦む。そんな彼に視線を向けたディセムの顔が不意に崩れた。
「あらあらぁ〜♪可愛い坊や。ねぇ、私と遊びましょぉん♪」
 完全にリズ達の事は忘れてしまったらしいディセムがいたいけな九海少年に近づき、言い寄り始める。
「あ、あの。僕はただ治療してもらいたいだけで」
 怯える九海少年。そりゃぁそうだろう。いきなり見ず知らずの保険医に迫られるなんて怖いったらない。しかも、何故か保健室内は氷漬けになっている。謎が謎を呼ぶ状況に適応できるのは、諦めた人(卓磨)か何か勘違いしている人(宙)くらいだろう。
 ちなみに現在、諦めた人はどうやって九海少年を助け出そうかと思案しており、勘違いしている人はなにやら妄想を逞しくしているらしく幸せな顔をしながら小声で「行け!そこだ!」などと呟いては卓磨に呆れた顔をされている。しかも、携帯を取り出して写真まで撮っているのだからどうしようもない。
「イ・イ・コ・トしてあげるからぁ」
 ディセムがそう言って顔を九海少年に近づけた瞬間、リズの詠唱が完了して強制的に憑依を解除させられる。ディセムが霞の体から強制的に追い出される前に彼女は姿を消した。恐らく、ブバルに戻って行ったのだろう。リズが勝利の雄叫びを上げ、卓磨と宙、そして九海にお礼を言おうとした瞬間ふっと目を閉じると倒れこんだ。卓磨が驚いて抱き起こすと、そこにはもうリズの意識は無く千秋が怯えた目をしながら周囲を確認する。
「私、戻ってきたの?」
 千秋がそう言った時、今まで意識を喪失していた千草が起き上がると保健室の惨劇を目の当たりにし「やっぱり見なかったことに」などと今更の事を呟いている。そんな千草の背後から、突然皐月が飛び出してきて手に持ったビラを撒き始める。
「やっぱり二人は付き合ってたんだね!号外!号外だよ〜!」
 廊下に響き渡る皐月の声に卓磨が頭を抱え、宙が「そうだったの!?」と言って目を見開く。千草が放心したようにしゃがみ込む九海に手を差し伸べる。
「それで結局、どう言う事だったの?」
 宙の質問に、千秋と卓磨が視線を合わせて頷く。溶けていく氷の柱を見ながら、宙と千草、そして九海は不思議な世界から現れたと言う魔術師と魔王の僕の事を千秋と卓磨から聞かされたのだった。