fantasy 紅葉アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
宮下茜
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
易しい
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報酬 |
0.5万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/09〜12/11
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●本文
アイドル・ユナの1st写真集『fantasy』の撮影を前に、原平 真(はらひら・まこと)はスタッフを集めるとスケジュールの最終確認を行った。
「最初の撮影は屋外で行う。紅葉がまだ残っているところで、風の具合によっては葉が舞い落ちる中での撮影になる」
「写真集の名前に似合うような絵が撮れれば良いですね」
「あぁ、そうだな。君達には主に、ユナのフォローや撮影進行の補佐をしてほしい」
ユナの着る衣装は長袖だが、薄い生地を使っていると言う事を前置きした後で、風邪をひかせてしまわないように撮影時以外ではユナの体調に気を遣って欲しいと告げる。
「お茶やカイロ、コートなど必要に合わせてすぐに持って来れるように準備をして欲しい。それから、カメラマンの助手やメイクのなおし、衣装着用時の乱れなども随時なおしていって欲しい」
撮影進行時の補佐程度なので、それほど難しいことはないと言うと、真は不思議な笑みを浮かべた。
「使いっぱしり程度かとガッカリする必要はない。こう言う下積み時代も必要だと思う。それに‥‥今回の働き次第では何かあるかも知れないだろう?」
「どう言う事ですか?」
若い女性がそう言って首を傾げる。
彼女はカメラマンを目指しているのだが‥‥
「ユナが突然、貴方に次のワンカットを撮ってほしいのと言い出したら如何する?」
「え?そんな事、言われるわけないじゃないですか!私なんてまだまだで‥‥」
「そうとも言い切れないんじゃないか?」
クスリと微笑を浮かべると、真は立ち上がった。
「それじゃぁ、時間厳守で集まってくれよ?当日、ユナよりも到着が遅れるような者がいないように、各自目覚まし時計はしっかりかけておくこと」
「分かりました」
「それから、なるべく皆で場を盛り上げていこう。ユナのイメージからして無理に笑わせる必要はないが、リラックスして撮影に挑んでほしい。こっちが楽しくなくちゃ、撮られる方だって楽しめないからな」
最後にそう告げると、右手を振りながら部屋から出て行ってしまった。
●リプレイ本文
まだ暗いうちからロケ場所に着くと、真が鼻を啜りながら各自きちんと防寒をしてきたかと声をかけ、それぞれが当然だと言うように頷く。各自が機材をチェックし、ユナの到着まで後10分足らずと言う時間になって、樫尾聖子(fa4301)はやっぱりなと、心の中で呟いた。カメラの具合をチェックしていた真の背中に声をかける。
「どうした?」
「野次馬なんですけど、如何しましょう?」
「あー、やっぱり来たか。流石と言うかなんと言うか。どっから情報集めてくんのかなぁ」
「やっぱユナちゃんやし、ぎょーさん来てますね」
「樫尾さん、だっけ。君にそっちを一任して良いかな?」
「了解しました」
「頼りにしてるよ」
真はそう言うと手の空いたスタッフを数人呼び寄せ、彼女の指示に従うようにと指示を飛ばした。アンリ ユヴァ(fa4892)はカメラマンの牧野の指示に従い、機材をセットしていた。外見が幼く見られるため、首から常にスタッフカードを提げている。黙々と働く姿は地味だったが、真面目さがよく伝わってくる。撮影の場所を確認する牧野の隣では、斉藤 真雪(fa2347)がその手元をジっと見ていた。試し撮りをしてみたいとの言葉に、犬神 一子(fa4044)がレフ版を持ち、多々納義昭(fa3917)が興味深そうに見詰めている。背景確認を終えたその直後、ユナの乗った車が現場に到着した。
銀杏(fa3122)とトシハキク(fa0629)が作業の手を一旦止め、車から降りてきたユナに頭を下げる。味鋺味美(fa1774)もその輪に加わると挨拶の言葉を述べた。
「本日は宜しくお願いしますね」
ユナが笑顔でそう声をかけ、スタッフに手を引かれると現場近くに借りた部屋へ衣装を着替えに去って行った。
邪魔にならないようにと、銀杏は部屋の隅で大人しくユナの衣装合わせやメイク、ヘアメイクを見ていた。
「これでOKね。それじゃぁそこの貴方、ユナちゃんを連れて行ってくれる?足元とか見え難いからフォローしてあげて」
「僕、ですか?」
突然指名された銀杏が驚いて左右を見るが、その場には自分一人しかいない。足首まで裾のあるスカートを持ち上げて歩くユナだったが、足元はやや心もとなさそうだ。撮影前のアイドルに怪我をさせては大変だと、細心の注意を払いながら撮影現場まで誘導する。その際、衣装の乱れやスカートにほつれがないかなども注意して見てみる。
「寒いわね」
ユナが肩を震わせながらそう呟く。袖は手首まであるとは言え、この季節には寒すぎる薄い生地だった。スタッフが機材を運んでいたトシハキクにカイロとコートを直ぐに持ってくるようにと指示を出し、走って取ってくるとユナに手渡す。
「有難う。さすがに撮影中に鼻水がタラ〜なんてなったら、大変だものね」
見かけこそ冷たい雰囲気で無表情なユナだったが、意外と気さくにスタッフに声かけをしている。と言うのも、別にユナが特別社交的だからではない。スタッフがユナにあまり声をかけてこないために、彼女自らが現場の雰囲気を良くしようとわざわざ声をかけて回っているのだろう。自分の持ち場に必死になるのも分かるが、あまりそちらのみに拘ると逆に雰囲気がピリピリしてしまう。
それなりに場数を踏んできているトシハキクが、ユナの気遣いを敏感に感じ取り何か声をかけようとするが、なかなか言葉が出てこない。そうこうしているうちに、撮影前だと言うのに妙な気を遣ったユナが表情に少しだけ疲労の色を滲ませている。
「それじゃぁ、ユナ、入って」
「はい」
コートとカイロをトシハキクに返したユナがカメラの前に立ち、牧野の言われるままに表情を変えていく。黄色く色付いた紅葉が舞い落ち、風が吹く度に髪が、スカートが揺れる。落ち葉を拾い上げ、憂いの表情をつくり、吹いた風に葉を攫われて髪を押さえながら後方を振り返る。その様子を少し遠くで見ていた聖子は、興奮するギャラリーの気持ちが分からないでもないと思いつつも何とかそれを鎮めようと必死になっていた。
(はーい、写メは控え目になー、ブログに載せたらあかんのやでー知っとったか〜?)
などと面と向かって言えるはずもなく、心の中で呟きながら「撮影はお控えください!」と声を張り上げる。
順調に行っていた撮影だったが、途中から不意にユナの表情が硬くなり始めた。牧野も何とか話題を振って表情を取り戻そうとするのだが、どうにも上手く行かない。どうかしたのだろうか?そんな疑問が浮かんだ時、遠慮がちに銀杏が真の裾を引っ張った。
「えーっと、銀杏さんだっけ?どうかした?」
「メイクに隠れて分かり辛いですけれど、ユナさんの顔色が悪いように思います」
キッパリとした言葉に、真が慌てて撮影の中断を求める。トシハキクがコートを掴み、その肩にかける。ふと触れた手が思いのほか冷たくて、確かに近くで見ると顔色が悪かった。
「一旦休憩を挟もう」
真の言葉に、張り詰めていた空気が緩む。それぞれが持ち場を整理し、一子がスタッフ達やユナのためにと暖取り用に焚き火を燃やす。それを見ていた味美が一子に焼き芋でも出来ないかと相談し、煙がこちらにこなさそうなところでならやっても構わないと真に許可を得ると少し離れたところまで歩いて行って焼き芋の準備に取り掛かる。義昭がソレを受けて豚汁でも作ろうと、用意を始める。真が聖子を呼ぶと、人数分のお弁当を何処かで調達してきて欲しいと言って財布とメモを無造作に投げ渡す。
「1人じゃ大変だろうから、そこの君と君!」
真に呼ばれたのはトシハキクとアンリだった。力持ちそうなトシハキクと、自分に与えられた仕事はキチっとこなすアンリを指名したのは勿論、2人の仕事を見ていたからだった。
「それじゃぁ、樫尾さん、頼みますね」
「分かりました」
今回も真に信頼されて頼まれる聖子。野次馬にいち早く気付いたところが真の信頼を得たらしい。現場に残った真雪がシュークリームにワッフル、チョコクッキーなどを鞄の中から取り出すとテーブルの端に並べていく。糖分は脳の働きを良くするからとの細やかな心遣いでのチョイスだった。
椅子に腰掛けたユナに、銀杏が持ってきた水筒を手渡す。ストロー式ならばこぼしにくいし、口紅もあまりとれないだろうと思っての配慮だったのだが、ユナはキョトンとしている。
「あの、ストローで温かい紅茶は、ユナさん、平気です、か?」
「これ紅茶なの?紅茶は大好きよ。でも、どうして水筒?」
銀杏はその理由を分かりやすく答えると、ユナの言葉を待った。しかし、彼女よりも先に真が細やかな気遣いに拍手を送った。
「そこまで考えてくれてたなんて、凄いね。これなら銀杏さんにユナを任せても大丈夫かな?」
「そんな‥‥」
そう言いかけた時、買出しに行っていた3人と焼き芋を作っていた2人、そして豚汁を作り終わった義昭が帰って来た。お弁当を広げ、お菓子をつまみながら雑談タイムとなる。
「トシハキクさん、ですよね?とても繊細な大道具を作っていらっしゃる方だとお聞きして、いつか一緒にお仕事が出来たら良いなと思ってたんです」
突然ユナに話を振られて戸惑ったトシハキクだったが、直ぐに普段のペースを取り戻すと軽い謙遜と共に、撮影に興味があると言う事を告げる。
「こちらこそ、ご一緒できて嬉しく思います」
牧野と真、そしてユナに視線を滑らせる。牧野がトシハキクの隣に座りなおすと、撮影のどんなことに興味が有るのか、何になりたいのかと質問をぶつける。牧野なりに、彼に何かを光るものを感じたのだろう。そんな2人の向かいの席では、一子が出されたお菓子を美味しそうに食べていた。アンリが持ってきた唐辛子煎餅を食べたスタッフがあまりの辛さに水をがぶ飲みし、真雪が持っていたカメラでその様子をパシャリと写す。後で編集して皆に記念にプレゼントしようと思って撮っていたのだが、それとは別にユナのプライベートスナップも撮っていた。自然な表情で笑うユナには華があった。無意識のうちにカメラが向いてしまうのは、カメラマンの性なのだろうか。
ユナは果物が好きと言う情報を事前に仕入れていた銀杏が、果物味のお菓子を差し出しながらも、目の前に置かれた沢山のお菓子に満面の笑みをつくる。当然、真雪のカメラはこの瞬間もバッチリ収めた。
この後もスケジュールが埋まっているユナのため、午後の撮影は急ピッチで進められた。衣装を数度変え、少しずつ場所を変えながら撮影を進めていく。ピリピリと張り詰めた緊張感の中、最後のカットを撮る前にユナが銀杏を呼ぶと衣装やメイクの最終チェックをしてくれるように頼み、銀杏はやや緊張しながらもチェックを済ませると牧野にOKのサインを出した。結局撮影は時間通りに終わり、やや疲労した様子のユナが次の仕事に向かうのを見送った後でゴミを拾い、機材を撤収して行く。忘れ物は無いかとチェックした後で、真がスタッフを呼び寄せた。
「今回はご苦労様。良い絵が撮れたと思う。ただ、自分の仕事に真剣になるのは良いが、あまりピリピリしすぎると撮られる側も緊張する。現場の空気はスタッフが作るものであって、撮られる側に気を遣わせてはダメだ」
些細な気遣いが大事、真はそう締めくくると解散を告げた。