Eternal Blood 扉の鍵アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 3Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 難しい
報酬 8.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/09〜12/12

●本文

 ‥‥空を見ていた。
 町のネオンにも負けないくらいに輝いていた、月を見ていた。
 風が冷たい、そう思いながら窓を閉めようとした時だった。
 月の隣に小さな赤い点が突如として現れ、だんだんと大きくなっていった。
 それは月と全く同じ大きさになると横へとスライドし、月と重なった。
 チカリ、チカリ、チカリ‥・点滅は3回。
 3回目の点滅の後、目の前が真っ暗になった‥‥

【里奈の日記】

「おい、おい、大丈夫か!?」
 真っ白な空間を切り裂くようにして聞こえて来た声に、私は目を覚ました。
 ボンヤリと滲む視界の中に映し出された顔。同じ歳くらいの、若い男の子‥‥?
「だ‥‥れ‥‥?」
「お前もここに飛ばされてきたんだろ?赤い月を、見ただろ?」
「そうだ、あの月はなんだったの?」
「分からない」
「ここは!?ここは何処?」
「‥‥分からない。どこかの学校だと思うんだけど‥‥」
 語尾を濁して視線を背ける彼。私は上半身を起こすと、部屋の中を見渡した。
 電灯の灯っていない中、薄暗い部屋の中は確かに教室のようだった。
「外を見れば何か分かるかも」
「ダメだっ!!!」
 立ち上がりかけた私の手を引っ張ると、彼は首を振った。
 チラリと、彼の背後に見えたソレは、明かりが無くても何なのか‥‥分かった。
 失われていた嗅覚が戻る。ツンと鼻につくその臭いは、直接胃に届いた。
「ダメだ、見ちゃダメだ‥‥」
 口元を手で押さえる私の手を引っ張って、彼と私は外に出た。
 むき出しの蛍光灯が淡い色の光を発しており、廊下は幾分見通しがきいた。
「アレ、何?どうして?何で?」
「分からない。俺が起きた時には‥‥もう‥‥」
 そう言って顔を背ける彼の右手に握られた白い紙に、私の視線は釘付けになった。
「ソレは?」
「あぁ。教室で見つけたんだ。丁度俺が倒れてた隣に落ちてた」
 差し出された紙を広げる。
 “2階へ行く鍵を探せ”“霊には気をつけろ”“仲間を見つけろ”“諦めるな”“生きろ‥‥”
 乱雑な字で書かれたソレは、筆跡に統一性が無かった。おそらく、何人かの人間が書いたのだろう。
「霊?2階に行く鍵?仲間?どう言う事なの?生きろって!?」
 私の質問に、彼は分からないと言って首を振った。どうしてこんな事になってしまったのかと、此処は何処なのだろうかと、私は廊下に並ぶ窓から外を眺めた。
 べっとりとした真っ白な霧がかかる外の様子は分からない。
 諦めて視線を彼に戻そうとした時、突然窓に真っ赤な手形がビシャリと音を立ててついた。
 1つ、また1つと増えて行く手形のせいで、窓は真っ赤に染め上げられた。

 ‥‥コレは、私がこの世界に迷い込んでしまった最初の話。きっと私と同じようにこの世界に無理矢理飛ばされてきてしまうであろう貴方達のために、私はここで起きた事を書き記しておく。なるべく詳細に書けるように、冷静に書けるように、小説調になってしまうがそこは我慢して読んでほしい。
 終わりの見えないこの世界で、どこに繋がるのか分からない扉が存在するこの世界で、少しでも貴方達の脱出の手助けになれば良いと思う。


【隼人のメモ】

・仲間を捜せ・霊に気をつけろ・懐中電灯を探せ
・外には出るな・1−Bの教室には戻るな・鍵を手に入れたら真っ直ぐに2階に続く扉の前に行け


≪映画『Eternal Blood 扉の鍵』≫

・募集キャスト
*主人公
 必須キャストになります。この世界に飛ばされて来てしまった人で、性別や年齢などは問いません
*仲間
 必須キャストになります。主人公同様、性別や年齢などは問いません
・霊
 必須キャストではありません。設定や詳細などはお任せいたします。


・扉の鍵
 
 赤い月と月の重なりを見てしまった貴方は、突然見知らぬ場所に飛ばされてしまいます
 わけが分からないながらも立ち上がると、そこには1体の死体‥‥そして、里奈の日記と書かれたノートと乱雑な字で書かれた1枚のメモ
 傍らに眠っていた仲間とともに、他の仲間を捜し、鍵を探し出し、2階へと続く扉を開ける、と言う流れになります
 霊の役の方が居れば、霊との戦闘のシーンが入る可能性があります
 戦闘とは言っても、主人公側は霊に対しての攻撃手段を持っていませんのでひたすら逃げるだけになります‥‥
 里奈も隼人も、皆さんが来る前にこの世界に飛ばされて来てしまった人ですのでキャスティングの必要はありません
 →主人公が学校に飛ばされて来て目覚めるシーンからの撮影になります
 →主人公が目覚めた部屋は『1−B』になります

●今回の参加者

 fa0190 ベルシード(15歳・♀・狐)
 fa0484 林檎(18歳・♀・鴉)
 fa2385 霧島・沙耶香(18歳・♀・パンダ)
 fa2657 DESPAIRER(24歳・♀・蝙蝠)
 fa3831 水沢 鷹弘(35歳・♂・獅子)
 fa4391 夜野月也(25歳・♂・犬)
 fa4591 楼瀬真緒(29歳・♀・猫)
 fa4905 森里碧(16歳・♀・一角獣)

●リプレイ本文

 赤い月が点滅した瞬間、意識が闇に呑まれた。混沌とした闇の中、微かに誰かが笑っている声が聞こえた気がした。私、此花 桜【ベルシード(fa0190)】はゆっくりと目を開けると起き上がり、周囲を見渡した。陰鬱とした闇の中、窓の外からは遠慮がちに淡い光が入ってくる。照らし出された机と椅子は、私にとって馴染み深いものだった。学校だ、そう直感的に感じた時、カサリと右手に何かが触れた。メモのようなものと1冊のノートだ。
「ここは何処なんだ?一体どうなっているんだ」
 突然隣で誰かが起き上がる音がし、見れば1人の男性が不思議そうな顔で周囲を見渡していた。彼は一先ず私に視線を向けた後で、隣で倒れていた少女に手をかけて揺り起こした。まだ状況が理解できていない彼女をそのままに、男性がもう1人彼女の隣に倒れていた女性に手を伸ばし、数度呼びかけた後で私を振り返ると青い顔をして一言「死んでる」と呟いた。少女がその一言に悲鳴を上げ、男性が冷静に「外に出よう」と言った。私は放心している様子の少女に手を貸しながら教室を後にした。


 男性は一関 隆幸【水沢 鷹弘(fa3831)】、少女は角館沙耶【森里碧(fa4905)】と名乗った。彼は残業中に赤い月を見てからこの場所に飛ばされてきたようだと、非現実的なことも受け入れるような酷く冷静な事を言ったのに対し、沙耶は校内で人が死んでいるので教員や警察に連絡を入れなくてはと主張した。彼女は自分が貧血か何かで倒れてしまったものと思い込んでいるらしいが、それは違うと思う。現に、私はこの場所を知らない。私が通っている学校ではないし、彼女もまた、違うようだと言って首を振った。
「キミ達は大丈夫か?怪我は?」
 一関さんが心配そうに私と沙耶の顔を覗き込んでそう尋ねるが、2人とも怪我などはなかった。それより、この状況を如何すれば良いのか。そう考え込もうとした時、私は室内から持って来てしまった日記とメモの存在を思い出してそれを開いた。里奈の日記と隼人のメモと書かれたその2つに目を通した後で、一関さんが苦々しそうに唇を噛んだ。
「何だ、このメモは。外には出るなだと?この建物から出さないつもりか?馬鹿馬鹿しい」
 そう、ここからの脱出を考えた場合、2階へ行くと言う選択肢は良い選択肢とは言えない気がした。それこそ、一関さんの言う通りに動くのが最善の策な気がしたのだ。
「やっぱりここは玄関から出るのが一番の近道だね」
 私の意見に、一関さんも沙耶も頷いた。メモと日記を完全に否定しているわけではないけれど、この場所から脱出するのに2階へ行けとはあまりに変な話しだと思ったのだ。


 長い廊下を進んだ先で、突然何かが壊れる音が響いた。自分達以外にも誰かいるのか、そう思い駆け出した先で、私は初めて霊と言う存在を目の当たりにした。外に出ようとドアを押したり引いたりしていた少女が、開かないと察してこちらに叫びながら走って来る。その背後には青白い半透明な姿をした少女の霊【林檎(fa0484)】が1人、物を投げつけながら追って来ていた。
『貴女も、一人でいるあたしを笑いに来たの!?』
「やめてぇぇっ!!」
 こちらに走ってくる少女に一番早く反応したのは一関さんだった。驚いて足の止まった私達の前に飛び出すと、霊と対峙するように手を広げた。
『迎えがいるなんて、羨ましい‥‥』
「皆、早く逃げろっ!」
「一関さん!?」
 沙耶の声に反応して振り返った一関さんの表情は、きっと生涯忘れないだろう。私は一関さんの笑顔を胸に、沙耶と少女の手を取って走り出した。無我夢中で走る最中で、重く鈍い音と、沙耶と少女の悲鳴が重なって聞こえた。
「いやぁぁぁぁっ!!!!」


 私達は再び1−Bの教室の前に来ていた。勿論、メモの内容に従って中には入っていない。先ほど出会った少女は霧香【霧島・沙耶香(fa2385)】と名乗った。一関さんの死の直前を見てしまった彼女は、生気のない顔をして押し黙り、時折聞こえる音にも過剰な反応を見せていた。私は思い切り壁を叩くと、一関さんの最期の笑顔を何度も思い出した。助けられなかった自分が、不甲斐なかった。
「どうやらメモに従うしか道は無いみたいだね」
 それなら鍵はどこにあるのか、ここに留まっていても仕方がない。私達は事務室に向けて歩き出した。先ほどの霊がいるかもしれないと警戒しての前進だったけれど、霊は姿を見せなかった。それどころか、一関さんの体も消え失せていた。ただ、廊下に飛び散った生々しい血がそこで何があったのかを訴えかけていた。私は震える霧香の手を握りながら事務室の扉を慎重に開けた。整然とした事務室の壁に取り付けられた四角いキーボックスの中を見ると『1階・階段前』と書かれた鍵はなくなっていた。どうやら誰かに持ち出されてしまったらしい。考える私の横で、沙耶が何かに気付くと突然事務室を飛び出して行った。霧香も同じものに気付いたらしく、その後を追う。私は先ほどまで2人が見ていた机の上に視線を向けると口を閉ざした。里奈のメモと書かれたそこには『鍵は私が持っている』とだけ綴られていた。里奈の日記を実際に手にしている私には、それが里奈の文字でない事は直ぐに分かったけれど、一度見ただけの沙耶と霧香は『里奈』と言う名前に惑わされてしまったようだ。そう冷静に分析していた時、1−Bの方から霧香の叫び声が上がった。私はメモをそのままに走り出すと、廊下に尻餅をついてドアを指差して震えている霧香に駆け寄った。
「何があったの!?」
「あ‥‥あっ‥‥沙耶ちゃ‥‥」
「沙耶がこの中に入ったの!?何があったの!?」
「沙耶ちゃん、沙耶ちゃんが‥‥」
 泣きじゃくる霧香をそのままにして扉に向かおうとした時、突然廊下から誰かが走りこんできた。男性と女性の2人だった。その場の様子を瞬時に理解したらしい女性は、キっと鋭い視線を向けると低い声で呟いた。
「メモにここに戻るなとあったでしょ?」
 彼女の友人も沙耶と同じように、1−Bに入って亡くしてしまったのだと言う。


 霧香の口から告げられた事実に、私と彼女、遠木悠【楼瀬真緒(fa4591)】と彼、伊崎 紅楼【夜野月也(fa4391)】は目を伏せた。事務室で偽のメモを発見した沙耶は、1−Bに横たわっていた死体が何かを握っていた事に気付き、それが鍵ではないかと勘違いして教室の中に入った。霧香もその後に続こうとした時、突然死体【DESPAIRER(fa2657)】が起き上がり『帰って、来てくれたんだ?』と呟くと目の前で扉が閉まったのだと言う。閉まる直前に見えた死体の顔は笑っていたと、霧香は肩を震わせながら言った。沙耶が扉を開けようとするが開かないらしく、霧香が慌ててこちらから扉の取っ手に手をかけたのだがびくともしなかったと言う。扉の向こうで『一人は、嫌なの‥‥』と言う声と、沙耶の悲鳴が聞こえたと思った時、丁度霧香の顔の部分に嵌められた曇り硝子の向こうに血が飛び散ったのだ。
 見れば確かに曇り硝子には赤いものが付着していた。私は扉の前に立つと、取っ手に手をかけた。背後で悠さんが止める声がしたが、私は思い切って扉を開けた。暗い教室の中、血の臭いが廊下に押し出されて霧香が泣き始める。死体は来た時と変わらない位置で横たわっていたが、沙耶の姿はなかった。またしても、血の海だけが広がっていた。
 私は扉を閉める前に、死体が握っていたものに視線を向けた。銀色の小さなキーホルダーが、窓から差し込む光を受けてキラリと鋭く光った。


 1−Aの部屋には何もなく、私達は1−Cの教室に向かった。扉を開けた丁度真ん前、教壇の上に行儀良く鎮座してあった鍵を手に取る。こんなもののために、私達は2人もの犠牲を払わなくてはならなかった。霧香はただ呆然としており、私が手を握らなければ前にも進めないような状況だったし、紅楼さんは未だに状況をつかめていないのか夢だと思い込んでいるらしい。幸せなことだと、思う。これが夢ならばどんなに良いだろう。町でもう一度、一関さんや沙耶に会えたなら、どんなに素敵だろう。
 鍵にはよく見れば『6』と言う文字が刻んであった。2階へと続く階段のドアノブにも『6』と書かれており、私は鍵穴に鍵を差し込むと右に回した。錠の外れる微かな音がして、私は鍵をポケットにねじ込むと仲間達を振り返った。
「多分、この先も同じような、いや、これ以上の困難があるだろうね。けど、ここで犠牲になった人達の為にも絶対に皆で生きて帰ろう」
 誓いの言葉を紡ぐ。紅楼さんが勇ましく頷き、霧香が目に涙を溜めながら今にも消えそうな声で「うん」と呟いた。悠さんが目を伏せた後で、力強く前を向いた。私はそれを合図に、扉を押し開けた。まばゆい光が体を包み込み、意識諸共どこかへと強制的に連れて行こうとする強い力を感じた。右手に握っていた霧香の手が、何時の間にか離れてしまっていた‥‥


 これが私、此花桜がこの世界に迷い込んでしまった最初の話。
 今でも思い出すのは、一関さんの最期の笑顔と沙耶の明るい声
 霧香の華奢な掌も、今も手の中にあるように思い出せる
 そして、紅楼さんの爽やかな笑顔と悠さんの力強い眼差しも
 またこの世界で会えると信じ、私はまだ生きている
 ねぇ、これが夢ならどんなに幸せだろうね‥‥