赤ずきんの事情アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 2.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/12〜12/14

●本文

 峰崎 龍雄(みねざき・たつお)の台本に登場する女性は、可憐な外見なのに性格は男前だとか、美人さんなのにどこか抜けていたり、そんな人が多い気がする。
 峰崎 竜牙(みねざき・りゅうが)は、早速上がってきたばかりの台本に目を通すと思わず驚きの溜息を洩らした。
「大分普通の子だ‥‥」
「そりゃそうだろう。普通の子しか書いた事がないからな」
「や、親父の書く女の子はいつもぶっ飛んでる子が多いぜ?」
「そんなことないだろう」
 唇を尖らせる龍雄。良い歳をした大人がそんなことをしてもちっとも可愛くない。
「しかも、話し的にも今までの中で一番まともかも‥‥」
「まともって‥‥俺は今までまっとうな青春映画しか撮って来てないぞ?」
「‥‥親父のまともって、お笑い路線なのか?」
「なにわけ分からないこと言ってるんだ竜牙?」
 今日も親子間での会話はかみ合っていない。
 まぁ、親子喧嘩に発展しないだけまだマシなのかも知れないが・・・・


 今回の主人公は、赤坂 梓(あかさか・あずさ)と言う高校生だ。
 ‥‥高校生とは言っても、とても可愛らしい外見をしており年齢よりも年下に見られる事が多々あると言う設定になっている。
 彼女のあだ名は『アズ』ちなみにこれは、梓から取られたものではなく『赤ずきん』を縮めたあだ名だ。
 どうして彼女が赤ずきんと言うあだ名をつけられたのか。それは、赤い頭巾を被っているからではない。小学校の時の学芸会でたまたま赤ずきん役をやったのが梓だったのだ。
 それがあまりにもはまり役で、高校生になった今でもその当時のあだ名が定着している。
『ねぇアズ、今日はグランマお休みだってねぇ』
 自分よりも背の低い梓の頭を撫ぜながら、立川 南(たちかわ・みなみ)が溜息をつく。
『そうだね、風邪ひいちゃったみたいだって先生言ってたね。ママの風邪がうつったのかなぁ?』
『そんな事ないでしょー。グランマに限って、私如きの風邪でやられるとは思えないよ』
 ママと呼ばれている南だが、無論梓のママではない。それと同時に、グランマと呼ばれている河野 喜美(こうの・きみ)も南と梓の祖母ではない。
 小学校の時からの腐れ縁で繋がっている3人は、当時のあだ名を未だに使っているのだ。
『お前の風邪菌にやられたら、河野だって寝込むっつの。なぁ、アズ?』
『なんですって!?か弱い私に向かってなんて事言うのよ、わんこ!』
『だぁぁっ!!わんこじゃねぇっ!』
 怒鳴りながら立ち上がる、わんここと拝島 涼(はいじま・りょう)と南の仲裁をする梓。
 涼も、梓や南、喜美と同じく小学校からの腐れ縁で今に至っている。ちなみに、劇中の役は狼だ。
『ママも涼君も落ち着いて!ね??」
 オロオロとする梓の可愛らしい仕草に胸を締め付けられた南が、小さな頭をわしゃわしゃと撫ぜる。
『やーもーっ!!かーわーいーっ!!』
『けっ、女同士でいちゃいちゃしやがって』
『あら〜?涼もアズに構いたいんじゃないの〜?狼役やった時だって、アズの事かわい‥‥』
『わぁぁぁっ!!るっせーぞ南っ!』
『うん、2人とも仲直り、だね?』
 ふにゃんとした笑顔を向けられて顔を背ける涼と、蕩けたような笑顔になる南。
『一家に一人ほしいわぁ〜』
『ばっか、アズは物じゃねぇっ!』
『わぁかってるわよぅ』
『ふふ、涼君もママも仲良しで良いなぁ〜。‥‥あ、そうだ。あのね、今日グランマの家に行ってみようと思うんだぁ。課題沢山出されちゃったし、ノートも昼休みにグランマの分写したのあるし』
『え?!アズ、グランマのためにノートとってあげたの!?』
『うん。だってグランマ、前にアズが休んだ時にとってくれたし』
『アズは良い子だな』
『ノートと、なにかお見舞い持って行こうと思うんだ。何が良いかなぁ?』
『え、待って!アズ1人で行くの!?グランマの家って遠いじゃん!』
『でも、ママは塾、涼君はバイトでしょう?』
『私は1日くらい休んだって・・・・』
『ダーメっ!塾はちゃんと行かないと!それに、そんなに遠くないよぉ。あ、そうだ!確かグランマって駅の隣にあるケーキ屋さんのショートケーキ好きだったよね?』
『え、うん。そうだけど、あそこのはホールで‥‥』
『あと、風邪だから、スーパーでのど飴とニンニクとネギを買って、お花屋さんでお花買って行こう』
 可愛らしい笑顔で頷く梓だったが、買うものにバラつきが見られる気がする。
『グランマ、そんなに風邪が酷くなければ良いんだけど』
 ポツリとそう零し、心配そうに眉を顰めると、梓は立ち上がった。
『それじゃぁ、涼君はバイト、ママは塾頑張ってね!また明日ね〜』
 手を振りながら鞄を片手に走って行く梓。教室の段差で躓きそうになり、なんとか体勢を整えるとチョコチョコと走って行く。
『私、今日塾休む。アズを1人で行かせるなんて出来ないっ!だって考えてもみてよ!もしも途中でリアル狼に出会ったら!?』
『なんだよ、リアル狼って。街中に狼なんて歩いてるわけ‥‥』
『アズは可愛いのよ!?あんなに可愛い子、男が放っておかないわ!アズを護衛するのよ!』
『え、でも‥‥』
『アズが他の男に取られても良いの!?』
 南の言葉に、涼の表情が一変する。
 傍らに置いてあった鞄を掴むと、南と涼は梓の後を追って教室を出た。


≪映画『赤ずきんの事情』募集キャスト≫

*赤坂 梓
 誰が見ても可愛いと口をそろえて言うほどの美少女
 童顔で、ツーテールの髪が尚更幼い印象をあたえる
 一人称は『アズ』だが、あまり一人称は使わない
 可愛らしい口調で喋り、純粋無垢な妹系
 よく躓き、よく転ぶ。かなりの方向音痴‥‥

*立川 南
 梓を溺愛している姉御肌の少女
 頭の出来は良いのだが、梓のことが絡むと他が見えなくなる
 心の底では梓のような可愛らしい子になりたいと思っているが、なかなかそうはいかない
 一人称は『私』梓に危害を及ぼそうとしている人に対しては喧嘩腰の口調になる

*拝島 涼
 小学生の時から梓に思いを寄せているが、梓の性格的に言い出せないでいる
 思っている事が顔に出てしまうため、梓に好意を寄せていることは友人全員に知られている
 『俺』『お前』クールな口調だが、梓を前にすると柔らかい口調になる

・河野 喜美(必須ではありません)
 サバサバとした性格で、クールな印象を受ける少女
 言いたい事をスパっと言うタイプだが、梓にはかなり甘い
 ‥‥が、溺愛しているわけではないので梓が妙な行動を取ればそれなりにツッコミを入れる
 『私』梓も南も涼も呼び捨て

・その他
 学校の友達
 学校関係者
 街中で出会う人   など

●今回の参加者

 fa0634 姫乃 舞(15歳・♀・小鳥)
 fa0642 楊・玲花(19歳・♀・猫)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)
 fa4254 氷桜(25歳・♂・狼)
 fa4263 千架(18歳・♂・猫)
 fa4713 グリモア(29歳・♂・豹)
 fa4909 葉月 珪(22歳・♀・猫)
 fa4917 柚子(15歳・♀・犬)

●リプレイ本文

 玄関の段差からピョコンと飛び降りると、梓【姫乃 舞(fa0634)】はポシェットをポンと叩いた。お財布もちゃんと入れたし、買う物もキチンとメモした。
「えっと、一番近いのはスーパーかなぁ?」
 梓はそう呟くと、暫く考え込んだ後でスーパーとは反対方向に爪先を向けた。
「あぁぁぁっ!!!」
「え?」
 突然背後から聞こえた悲鳴に振り返ってみても、誰の姿も無い。気のせいかな?と思いつつも、梓は先ほどとは逆の道、即ちスーパーの方向へと足を向けた。
 去って行く梓の背中を見ながら、涼【千架(fa4263)】は安堵の溜息とともに南【敷島ポーレット(fa3611)】の口を押さえていた手を離した。
「あのなぁ、アズにバレんだろうがっ!」
「だって、アズったら反対の方向に行こうとしてたんだもの!ってかそんな事より、アズが行っちゃう!行くわよわんこ!」
「だぁぁっ!わんこじゃねぇっ!」


 大型スーパーマーケットは、梓にとっては未知の世界だった。陳列棚は皆無表情で、先ほどから同じ場所をグルグル回っているような気がする。
「あれぇ?お野菜は何処に売ってるのかなぁ」
「野菜売り場ってあっちだよな?」
「そうね」
「あっちかぁ」
 見知らぬ2人組みの言葉に従って真っ直ぐ歩けば、そこには様々な種類の野菜が並べられていた。ネギだけでも長ネギや玉葱、万能ネギなど種類が豊富だ。
「どれがいいんだろう?」
「あー、右の方が良いよね、風邪には」
「そうだな。風邪には」
「ふーん、こっちが良いんだぁ」
 またしても見知らぬ2人組みの助言に従ってカゴに入れる梓。それで良いのか高校生。とは思うものの、梓は人を疑う事を知らない挙句に超がつく天然で、細かい事はいちいち気にしない大雑把さも兼ね備えている。お菓子やらなにやら、お見舞いには関係なさそうな品までカゴに詰め込むとレジへと向かう。ズシリとした重さの袋を抱えてヨロヨロとスーパーを出て行く梓。その足が何かにカツンとぶつかり、転びそうになったところを偶々近くにいた榛原 リク【グリモア(fa4713)】が支えるとジっと梓の顔を見詰め、笑顔を浮かべる。
「荷物が多くて大変だね。少しオレが持とうか?」
「え、手伝ってくれるのぉ?」
「勿論。それより、キミって可愛いね。ちょっとそこの店でやす‥‥」
 リクがそう言いかけた時、どこからともなく蜜柑が飛んできてその頭にヒットした。何で蜜柑が飛んでくるんだと不思議そうなリクと、蜜柑が飛んできた理由を考えているらしい梓。暫く妙な沈黙が流れた後で、梓がポンと手を叩いた。
「蜜柑も風邪にいいって言うよね。じゃぁ、お兄さんは蜜柑を持っててね」
 満面の笑みでそう行って歩き出す梓。何がどうなっているのかと首を傾げるリクの背後から謎の2人組みが近づくと、その背中に蹴りを入れた。


 桂木 華【柚子(fa4917)】は大荷物を抱えて入ってきた梓に目を丸くした。ヨロヨロと覚束ない足取りを心配しつつも、喜美のお見舞いのために花を買いに来たと言う言葉に頷くと、華はチラリと視線を上げた。
「そう言えば、喜美ちゃん休んでたんだっけ」
 視界の端に見えるのは見た事のある2人組みだ。眼鏡とマスクで変装していて怪しさ満点なのを除けば、恐らく涼と南ではないだろうか?同じクラスで仲の良い4人の事は、華も当然知っていた。梓を心配した2人が後をつけているのだろうと納得した華が、どんな花束が良いかと悩む梓に笑顔を向ける。
「花束じゃなくて、花篭がいいよ!赤ずきんの必須アイテ‥‥じゃなくて、腕に下げればいいから負担も減るでしょ?その荷物も貸してみなよ、まとめてあげるから」
 4人の過去の武勇伝を思い出して、面白がっているのが半分、梓のあまりの大荷物に心配するのが半分といった様子で華が手早く荷物をまとめて花篭を持たせてくれる。が、それにしても大荷物すぎる‥‥
「華ちゃん、有難う」
「お礼なんていいって、後でせしめ‥‥ううん、クラスメイトのよしみだよ」
 可愛い笑顔に手を振りながら、華はその背後をつけていこうとする2人組みをとっ捕まえると右手を差し出した。
「篭の御代、払ってくれるよね?」
「はぁ!?クラスメイトのよしみはどうした!?」
 驚く涼と、梓を見失ってしまいそうになって焦る南。今日のところはコレが御代だ!とばかりに手渡された品は、何の変哲も無い蜜柑だった。
「え!?ちょ‥‥」
「アズどっちに行ったっけ!?」
「こっちだろ!?」
 走り去って行く2人の背中を見詰めながら、華は仕方なくレジに自分のお財布から篭代を支払ったのだった。


 森野・狩人【氷桜(fa4254)】は、危なっかしい足取りで大荷物を抱えて歩く梓の姿にバイクを止めると声をかけた。
「‥‥大丈夫か?」
 自分に声をかけられたのかと、梓が狩人を見上げ首を傾げる。
「‥‥どこまで、行くんだ?」
「ケーキ屋さんまで」
「‥‥乗っていくか?」
「良いの!?」
 普通の人ならば絶対に乗らないシチュエーションだったが、梓は素直にその親切心を受け入れた。黒の上下にスカルペイントのフルフェイスは、どう考えても堅気ではなさそうな気がするが、梓はそんな部分は見ていない。無邪気にバイクの後ろに跨り、その光景を見ていた2人組みが叫び声を上げる。
「誘拐だーーーっ!!」
 その声に反応した梓が首を傾げ、何となく妙な事に巻き込まれそうな気配を察した狩人がバイクを発進させる。南が慌てて蜜柑を投げつけようとするが、先ほど不審人物に投げつけたのと篭の御代に払ったのと途中で食べたのとでもう手元にはない。それならばと取り出したのは桃缶だったが、流石にソレを当てては危険だし、万が一梓に当たったりしたら‥‥そう思った涼が必死に南を止める。
「アズがっ!!誘拐っ!」
「落ち着け南っ!」
 錯乱した南が携帯電話を取り出し、どこかへと電話を繋ぐ‥‥
「大変よっ!アズが誘拐されて身代金が1億って!」
 とんだ誤報だ。


 白石 舞【葉月 珪(fa4909)】は今しがた入ってきたばかりの可愛らしいお客様に頬を緩めながら注文されたケーキを箱に詰めていた。お使いではなくお見舞いのためのケーキだと言うのだが、注文されたのは何故かホールだった。
「グランマが風邪で寝込んでるんです」
 強面のお兄さんにお店の前まで連れてきてもらったツーテールの可愛らしいお客様に話し掛けてみたくなった舞が誰が病気なのか尋ね、梓が首を傾げながらそう返す。グランマと言うからには、お祖母さんが寝込んでしまっているのだろう。ケーキ好きのお祖母さんなのかしら‥‥なんだか不思議な子ねと思いつつも、箱詰めしたケーキを梓に差し出す。
「沢山のお荷物をお持ちですが、大丈夫ですか?」
 梓が曖昧に頷いた時、カランと音を立てて新たなお客さんが店内に姿を現した。


 時は梓がケーキ屋さんに入る前に遡る。喜美【楊・玲花(fa0642)】は南からのとんでもない連絡を受け、梓を駅まで迎えに行く途中にいた。誘拐に身代金と聞いて最初は驚いた喜美だったが、どうもそれは違うらしい。南ほどには理性をなくしていなかった涼が電話に出たのだが、それにしたって酷いうろたえぶりだった。
(まったく、私が風邪をひいて休んでる時くらいきちんと梓の面倒を見てくれないと困るんだけど)
 盛大な溜息と共に、今後の未来を思う。早く3人とも独り立ちしてくれないと、いつまでも自分が面倒を見なくてはならない。そんな愚痴を言いつつも、可愛い梓のために無理をしてお迎えに行ってしまうあたり、喜美も相当梓を甘やかしている。
 駅へと向かう途中、ケーキ屋さんの中にその姿を見つけた時、喜美は思わずほっと安堵の溜息をついた。まさか本当に誘拐だとは思っていなかったけれど、知らない人のバイクに乗ったとなれば誘拐されても文句は言えない。一度厳しく言っておいた方が良い、そう思いながら扉をあければ、舞と梓がこちらを振り返った。
「梓、あのねぇ、知らない人のバイクに‥‥」
「グランマ?どうして今日は眼鏡なの?」
 キョトーンとした顔の梓が首を傾げる。普段はコンタクト派の喜美だったが、調子が悪い為に今は瓶底眼鏡をかけている。そんな事は察してくれても良いものだが、喜美は丁寧に言葉を返した。
「どうして声がおかしいの?」
 それは風邪のためだ。
「どうして今日はそんな変な格好なの?」
 風邪の日にまでお洒落なんかしていられない。梓の天然ぶりに熱がぶり返すのを覚えながら、喜美は丁寧に対応してあげた。
「あの、グランマさん、ですよね?」
 若すぎる喜美の外見に舞がおずおずと質問し、喜美が丁寧に誤解を解くべく話し始める。納得して頷く舞の隣で、なにかを思い出したらしい梓が顔を上げて喜美の袖を引っ張る。
「風邪なんだから寝てなくっちゃ!」
 ‥‥今更である。


後日
「えっ!?涼君が風邪なの!?」
 梓の言葉に、無事に学校に出てきた喜美が頷く。南がポソリと口の中で「サボったのバレたくないからって寒い中長時間外にいたから」と呟く。
「お見舞いに行かなくちゃ!のど飴とニンニクとネギとお花と‥‥」
「ホールのケーキ」
 意地悪く喜美がそう言い、南も大きく頷く。
「涼君ってケーキ好きだっけぇ?」
「勿論。だーい好きだよ」
 涼はどちらかと言えば、甘いものは苦手な方だ。
 2人は梓にホールのケーキを渡されてうろたえる涼の姿を思い描き、にんまりと笑みを浮かべた。