Eternal Blood 指輪アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 3Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 難しい
報酬 10.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/28〜01/01

●本文

 扉を開けた。その先は、眩い光に包まれた真っ白な空間だった。
 誰かが、何か言っている声が聞こえた気がした。
 何を言っているのかまでは聞き取れなかった。
 けれど確かにその声は、笑っていた‥‥

【里奈の日記】

 ふわりとした柔らかい感触を手に感じ、私はゆっくりと目を開けた。
 ぼやける視界の中、真っ白な天井が見えた。
「ここは‥‥」
「起きたか?」
 顔を上げれば、隣には隼人の姿があった。
「隼人!?他の皆は!?」
「分からない。俺とお前しかいないんだ」
 その言葉で初めて周囲を見渡した。
 綺麗に並べられた椅子と、壁際には自動販売機。
 ツンと鼻につくこの臭いに、私は覚えがあった。
「病院?」
「の、待合室みたいなんだ」
 体を起こし、周囲を確認する。隼人の言うとおり、病院の待合室に間違いはなかった。
「また変な場所に飛ばされたみたいだな」
「そうだね。皆もココに飛ばされて来てるのかな?」
「分からない」
 隼人はそう言うと、軽く首を振った。
「メモを探そう」
 私は隼人の言葉に頷くと、綺麗に磨かれた床に視線を落とした。
 ワックスでもかけられているのか、ツルリとした床の上に私の顔が映りこむ。とても不安げな表情に、思わず苦笑し‥‥背後に黒い影が映りこんだ。
 隼人?いや、違う。隼人は視界の端でメモを探している。それなら一体‥‥
 咄嗟に振り向けば、ボロボロの看護服を着た女性が1人、手に何かを持って佇んでいた。
「っ‥‥きゃぁぁぁっ!!!」
「里奈!?」
 隼人が走って来て、私の手を思い切り引っ張った。私が隼人の方へと倒れこんだ瞬間、女性はその場に崩れ落ちた。
「なに‥‥いつの間にいたの!?ねぇ、誰!?」
『‥‥びわ』
「え?」
 息も絶え絶えと言った様子の女性の言葉に、耳を寄せる。
『指輪、子供、隠した、2階、行く、102号室、105号室』
「どう言う事なの?」
『危険、死、武器、女性の霊、知ってる』
「ねぇ‥‥貴方霊じゃないわよね!?ねぇ、大丈夫!?」
 どうやら生身の人間らしい。そう悟った私は彼女にに手を伸ばそうとした。けれどその指先が体に触れるか触れないかの刹那、磨かれた床に鮮血が広がった。
 女性の腹部から、ジワリと広がって行く赤色の池に私は息を呑んだ。


【隼人のメモ】

・仲間を捜せ・子供の隠した指輪を探せ・霊には気をつけろ
・外には出るな・102号室と105号室には行くな・ダイヤのネックレスをしている女性の霊を探せ
・武器はまだ使うな


≪映画『Eternal Blood 指輪』≫

・募集キャスト
*主人公
 必須キャストになります。この世界に飛ばされて来てしまった人で、性別や年齢などは問いません
 主人公視線の物語になりますので、一人称は『私』『僕』『俺』等が適切です
 性格は、冷静沈着な設定の方が無難です
*仲間
 必須キャストになります。主人公同様、性別や年齢などは問いません
・霊
 必須キャストではありません。設定や詳細などはお任せいたします。
・女性の霊
 ダイヤのネックレスをしている霊で、友好的な霊です
 詳細はお任せいたします


・指輪

 学校から飛ばされてきた先は、綺麗な病院の待合室でした
 里奈の日記の中では、女性が色々と教えてくれましたが、皆様は里奈の日記と隼人のメモを待合室の中で探す必要があります
 待合室で里奈の日記・隼人のメモを探し、他の仲間を捜し、子供が隠したと言う指輪を探し出し、2階へと続く扉を開けると言う流れになります
 2階へと続く扉の前には白い靄のようなもの(指輪の持ち主の思念)があり、扉には近づけなくなっています
 指輪を手にして戻ってくれば、靄は消えるようになっています
 ダイヤのネックレスをしている女性の霊役の方がいれば、主人公達に霊と戦える武器を渡す事が出来ます
 武器と言っても、弾が1つだけ入った銃が1丁です。これは主人公役の方に持っていていただきます
 霊の役の方がいれば、霊との戦闘シーンが入る可能性があります
 →今回、1回だけ攻撃が出来ます(銃に弾が1発入っていますので)が、隼人のメモにはまだ使うなの文字があります
 →この銃は襲ってくる霊を撃てるものであって、指輪の持ち主の思念は攻撃できません
 武器を使用しない場合はひたすら逃げるだけになります
 里奈も隼人も、皆さんが来る前にこの世界に飛ばされて来てしまった人ですのでキャスティングの必要はありません
 →主人公が病院に飛ばされてきて目覚めるシーンからの撮影になります
 →主人公が目覚めた場所は『待合室』になります

●今回の参加者

 fa0190 ベルシード(15歳・♀・狐)
 fa0484 林檎(18歳・♀・鴉)
 fa3066 エミリオ・カルマ(18歳・♂・トカゲ)
 fa3571 武田信希(8歳・♂・トカゲ)
 fa3764 エマ・ゴールドウィン(56歳・♀・ハムスター)
 fa4591 楼瀬真緒(29歳・♀・猫)
 fa4905 森里碧(16歳・♀・一角獣)
 fa4909 葉月 珪(22歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 漆黒の空に浮かぶ赤い月が点滅した瞬間、意識が闇に呑まれた。どこか遠くで、誰かが笑っている。私、神谷 玲(葉月 珪(fa4909))は呟くような声に目を覚ました。
「やっぱりか。それにしても出られないどころかまったく違う建物に来たとなると、この先の長さも見当もつかないな」
「まだ、この夢みたいな事から抜け出せてないんですね‥‥」
 起き上がれば、見知らぬ少女が2人神妙な面持ちで何事か話していた。1人が私に気付くと困ったような笑顔を向けてきた。
「貴方も学校から飛ばされてきたの?」
「何の事ですか?」
 顔を見合わせて不思議そうな顔をする2人の少女。そして‥‥私は2人の口から恐ろしい事を聞かされたのだった。


 2人は此花 桜(ベルシード(fa0190))さんと遠木悠(楼瀬真緒(fa4591))さんと言い、この世界に初めて来た私に、何をすべきか丁寧に教えてくれた。そう、この世界で重要なのは『里奈の日記』と『隼人のメモ』。この部屋のどこかにあるはずだと言う桜さんの言葉に、必死になって探し始めた。そう広くない待合室の中、電話コーナーで2つに破れたメモを発見した。
「仲間を捜せ、子供の隠した指?霊には気をつ、外には出る、102号、ダイヤ、武器?破れていてよく分かりませんけれど、武器なんて何処に?」
「それをもう片方のメモで補わなくちゃ」
 桜さんの正当な意見に、私はメモの片割れを手に床に這いつくばった。暫くそうしているうちに、悠さんが屑篭の中から探し当て、桜さんが雑誌の束から日記を発見した。
「とりあえず、これで揃ったわ。先に進みましょう」
 桜さんの言葉に、私達は待合室を後にした。


 廊下に出ると、1人の男性がこちらに走ってきた。彼はロイ・ブライアン(エミリオ・カルマ(fa3066))と言い、友人と廊下の端で目を覚まし、現在は2手に別れて捜索中なのだそうだ。彼も私と同じようにメモと日記の内容に半信半疑と言った様子だったが、桜さんと悠さんが強くその正当性を訴えた。
「本当は俺は2階を見るつもりだったんだけど、行けなかった」
「やっぱり指輪を探さないといけないのね」
 桜さんがそう言って、一番手前にあった扉を開いた。診察室と書かれたプレートに気を取られていた時、悠さんの悲鳴が上がった。ロイさんの肩越しに中を覗けば、半透明な女性の霊(江崎 幸(エマ・ゴールドウィン(fa3764))が机の前で佇んでいた。驚いて駆け出そうとする私と悠さんを引き止めると、桜さんが霊の胸元を指差した。キラリと光るダイヤのネックレスに、はっと息を呑む。
「もしかして貴方、武器を持っている?」
 桜さんの言葉に、霊は顔を上げるとポケットの中からメスと針のついた注射器を差し出した。
『医者の私が持つ武器は、これかしら?‥‥それより、彼に謝らないと』
 独り言を呟く霊はもうこちらを見ようとはしなかった。私達は霊をそのままに部屋を出て、トイレを見た後で101号室の扉を開けた。誰かがいたらしき形跡があったが、それ以上は何もない。私達は次に102号室へと足を向けた。


 102号室の前には、可愛らしい少女が立っていた。こちらを振り返り、満面の笑みで手を振る。
「桜さんに悠さん!」
「沙耶?」
 彼女は角館沙耶(森里碧(fa4905))さんと言い、桜さんや悠さんと一緒に学校の中を探索した仲間だった。桜さんが嬉しそうな顔をして近寄ろうとして、ふと真顔になると足を止めた。
「皆こっちに飛ばされてたんですね。良かった。そうだ、私メモの意味が分かりましたよ!105号室です!そこに子供の霊がいるんですけれど、あの子が何か知ってるんだと思います。霊と言っても、私が出入りできましたし大丈夫です」
 無邪気な沙耶さんの口調や表情から分かる。彼女は『分かっていない』のだ。
「沙耶、さん?確か、亡くなったんじゃ?」
 悠さんが戸惑いながらそう言い、桜さんが「死体はなかった。でも、状況的には死んでるはずだ」と言って目を伏せる。その瞬間、沙耶さんの顔から表情が失われた。そして、徐々に感情が溢れていく。
『何故私だけ霊になったの?何故貴方方だけ生き延びてるの?嘘、嘘です!私自身が殺戮の罠なんて!』
 沙耶さんが絶叫しながら悠さんの腕を掴む。その様子に、桜さんが私の腕を掴んだ。
「ロイも玲も、走って!!」
「けれど、悠さんが‥‥」
「早くっ!!!」
『私が霊なら貴女も死んでなければなりません!』
 悠さんの叫び声と、扉が閉じる音が重なる。私は桜さんに引きずられながら、102号室の曇りガラスに鮮血が飛び散ったのを、見た。


「死体が無かったのはそう言うことなの!?悠、沙耶‥‥」
 噛み締めるように名前を呟いた桜さんが、思い切り壁を殴った。学校の悪夢を一緒に経験した仲間なのだ。辛さは計り知れない。ロイさんも声をかけられずにいる。
「行こう」
 桜さんはそう呟くと、私の手を取って103号室と104号室を順番に見て行った。そして、105号室の前に来た時、不意にロイさんが口を開いた。
「そう言えば、俺の友達が見つからないんだ。これで全ての部屋は行った事になる。‥‥
多分あいつ、この部屋に入ったんじゃ?」
「でも、ここはメモに入るなと書かれていたところです。子供の霊がいるとか‥‥」
「そうだけど、やっぱり放っておけない。これは俺1人の事情だから、2人はここで」
「ダメです!1人でなんて行かせられません!」
 悠さんの最期が脳裏に過ぎり、私はロイさんの袖を引っ張っていた。
「こうなれば、運命共同体だよ。ロイが行くなら、私達も行く」
「‥‥ありがとう」
 ロイさんは優しい顔でそう言うと、105号室の扉を開いた。小さな子供の霊(上杉桂(武田信希(fa3571))が顔を上げ、私達を見て不思議そうな顔で首を傾げた。沙耶さんの言った通り、害のない霊なのかも知れない。そう思った時、私の手元に視線を向けた霊が急に表情を変えた。私の持っているメスと注射器に反応しているらしい。霊が私を睨みつけた瞬間、小さな風の刃が私の腕を切り裂いた。
「扉が!」
 まだ部屋の中に入っていなかった桜さんがそう叫んで扉に手をかけるが、そのまま引きずられていく。このままでは扉が閉まってしまう!細かい風の刃に目を閉じた時、ドンと誰かに突き飛ばされた。目を開ければ、ロイさんが力強い瞳で私に何かを訴えた。声は聞こえなかった。けれど、唇の動きで分かった。
『生きろ』
 廊下に転がり出た瞬間、足元で扉が閉まる。そして‥‥扉の向こう側で、何かが切り刻まれる音が響き、曇り硝子に鮮血が飛んだ。


 血が滲む腕を押さえながら歩いていると、先ほど会った女性の霊が目の前に現れて、私の腕の傷を見ると顔色を変えた。
「止血するわ」
 手持ちの包帯で腕を治療してもらっている間、私達は子供の霊の話を口にした。
「‥‥貴方達に、1つお願いがあるのだけれど」
「何でしょう」
「これを、あの子に返して欲しいの。これは、私が彼から取り上げてしまったもの。私はあの部屋の中には入れない。だから‥‥」
 あの部屋にもう一度入るのは気が引けた。けれど、治療してもらった彼女の頼みを無下には出来なかった。玩具の銃を受け取ると、彼女は何かに気が付いたようにはっとした顔をするとポケットから不思議な文様の入った銀の玉を取り出した。
「そう言えば、前に来た人がこれを置いて行ったわ。とても大切な物だからって。もしかしたら、コレは貴方達に必要なのかも知れないわ」
 彼女はそう言うと、姿を消した。これから先、どうしようか。そんな事を話し合っていた時、不意に玄関から叫び声が聞こえた。
「どうして開かないの!?こうなったら、強行突破!」
 玄関の前には、箒を手にガラスを叩き割ろうとしていた少女が1人立っていた。


 彼女は小林 畔(林檎(fa0484))さんと言って、私と同様初めてこの世界に飛ばされて来てしまった人なのだと言う。
「聞けば聞くほど不可解な話だけど、尋常じゃない事態である事は確かね。同行させてもらうわ」
 私達はあの子供がいた部屋に戻ろうと廊下を歩き始めた。長い廊下を歩けば、不意に右手前方に病院には不釣合いな豪華な扉が現れ、先を塞いでいた。
「これが2階へと続く扉でしょうか?」
「そうよ」
 桜さんがキッパリと肯定すると、扉の前に渦巻いている思念を見て軽く首を振った。私達はその前を通り過ぎると、105号室の前に立った。ロイさんの血が付着している扉を、ゆっくりと開ける。先ほどと同じ場所で玩具箱をひっくり返して遊んでいた少年が振り返り、私の手元の銃を見ると顔を輝かせた。可愛らしい笑顔で走って来て、私から銃を受け取るとふっと消えてしまった。銃だけが足元に落ち、私はそれを拾うと室内を物色していた桜さんの背後に回った。
「こんなところに指輪が‥‥」
 指輪は玩具箱の下の方に入っていた。よく見れば『0』の文字が刻んである。私達は急いで先ほどの扉の前に戻ると、渦巻いている思念の中心にその指輪を投げた。
 一瞬の輝きの後に、ゆっくりと扉が開いて行く‥‥あまりの光の強さに、桜さんと畔さんの手を握った。けれど、何時の間にかその手は離れてしまっていた。


 これが私、神谷玲がこの世界に迷い込んでしまった最初の話
 悠さんの笑顔、ロイさんの優しさ、未だに鮮明に覚えている
 桜さんと畔さんは今、どうしているだろうか
 ‥‥私はまだ、この悪夢のような世界で生きている‥‥