お嬢様の事情アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
宮下茜
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
6.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/29〜12/31
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●本文
白雪 可憐(しらゆき・かれん)は英国風庭園を見下ろしながら真っ白なカップを口元に持っていった。
甘い香りを放つ紅茶にほっと溜息をつき、隣に立つ“ジイヤ”に視線を向ける。
「ジイヤ、薫り高い紅茶と言うものは、優雅に飲むのが一番美味しく感じますわね」
「仰る通りに御座います」
真っ白な肌に、艶やかな長い髪の毛、薔薇色の唇の端は微かに上がっている。
大きな二重に、頬に薄っすらと影を落とす長い睫毛、誰が見ても美しいと叫びたくなるような“可憐な外見”をした可憐は、カップをそっとテーブルの上に置くと立ち上がった。
「ジイヤ、本日はわたくし、用事があると申しましたわよね?」
「はい、お聞きしております。しかし、旦那様と奥様が‥‥」
「‥‥ルッセーな!言い訳がましくゴチャゴチャ言ってんじゃねーよ!」
凛とした甘い声は、幾ら低音でドスを聞かせても若干その名残が感じられた。
ちなみに、今凄まじい暴言を吐いたのは“ジイヤ”ではない。
「ちっ。ったく、つっかえねージジイだな」
「お嬢様、何度も言いますが私はお嬢様と同い年で‥‥」
「俺の世話役やってんだから、ジジイで十分なんだよ」
“ジイヤ”事、大胡 信也(おおご・しんや)はかなりの美少年だった。
芯の強そうな真っ直ぐな瞳をした、可憐と並べば誰もがほっと息を呑むほどの美少年。
まるで王子様か勇者様みたい‥‥な、外見の信也。それなのに、その性格はいたってヘタレだった。
「見合いとか言って、いっつも俺は口開くな、だぜ?正直やんなっちまうよな」
「お嬢様のそのお言葉遣いと粗雑な振る舞いが‥‥」
「ほう、お前は俺にそんな事言うわけか。へー」
可憐の絶対零度の笑顔に、信也がガタガタと震え出す。
「も、申し訳すみませんでしたぁっ!!わたくしめがでしゃばった事を‥‥!!」
土下座しながら謝る信也。無駄に良いその外見が可哀想だ。
「んじゃぁ、ジイヤ。ちょーっと俺様の言う事聞いてもらおうか」
「なんなりとお申し付けくださいませ!」
機嫌が直ったらしい可憐に、信也がピシっと敬礼する。どんな無理難題でも切り抜けて見せると言うその表情は、痛ましい。
「ココ最近この近所で猫が行方不明になる事件が相次いでるの、知ってるよな?」
「はい。確かお隣の奥様の愛猫ペペロンチーノ様も行方不明になっていると」
「‥‥石松のおばさん、ネーミングセンスねぇな」
「それと、高田様のお嬢様の愛猫のブリリアント・サンシャイン・イリアーノ・クリスティン・ネイビス・コン‥‥」
「もうその長ったらしい名前は聞きたくねぇっ!不細工猫で十分だ!」
「お嬢様、全ての名前の頭だけ取って略すのはあんまりでは‥‥」
「現に不細工だからいーじゃねぇか」
ミもフタもない。
「ンで、その猫行方不明事件なんだけどよぉ、どーも誰かが盗んでるっぽいんだよな」
「それは確かな目撃情報があるんですか?」
「まぁな。っつっても、犯人を見たわけじゃねぇ。でもよぉ、白猫ばかり行方不明になるんだぜ?なーんかおかしくねぇか?白猫家出事件なんて、洒落にもなんねーぜ」
「言われれば、確かに行方不明になる猫は白猫ばかりですね。けれど、どうして犯人は白猫ばかりを?」
「だからよぉ、この俺様が調べてやろーってんじゃねぇか。そこでよ、お前に相談が1つ2つあんだよ」
可憐の言葉に、信也が首をすくめる。何となく、言われる言葉が分かっているのだ。
「お前ん家の白憐(はくれん)ちょーっと貸してくれよ。モチ、怪我させるような事はしねぇからよ。もうここらの白猫はほとんど行方不明になってるからな」
「ですが‥‥」
「それともう1つ、俺は今からその猫泥棒を捕まえに行く。お前はここに残って親父とお袋にグチグチ文句を言われるか、それとも俺と一緒に猫泥棒探しに行くか、どっちか選ばせてやるよ」
‥‥最後の選択肢を与えてくれる、可憐様は(多分)優しい人です【信也談】
≪映画『お嬢様の事情』募集キャスト≫
*白雪 可憐
泣く子も黙る、超絶美少女。外見年齢15〜18程度
ふわりと天使の微笑を向けられたがために卒倒した男性がいるとかいないとか
性格は腹黒で大雑把で俺様。猫かぶりの術に長けているため、お嬢様演技も完璧
お嬢様時は『わたくし』『〜様』『ですわ、ですの』信也は『ジイヤ』または『信也さん』
俺様時は『俺』『お前、てめぇ』『〜だぜ、だよな』信也は『ジジイ』または『信也』
*大胡 信也
女性ならば思わずキュンとしてしまうほどの王子様&勇者様外見。外見年齢15〜20程度
控え目な笑顔(困った時)と凛々しい表情(夕食のメニューを考えてる時)に卒倒する女性がいるとかいないとか
性格はいたってヘタレ。お嬢様に散々いびられた過去を持つために、絶対服従
通常時『俺、私(可憐に接する時)』『〜さん』『です、ます』可憐は『お嬢様』または『可憐様』
ヘタレ時『わたくしめ』『〜様』『です、ます』可憐は『お嬢様』
・その他
*猫泥棒
・可憐と信也の友人
・猫泥棒探し中に出会う人
・可憐や信也の家族 など
*注意事項*
・その他のキャストの性格を決めるにあたって以下の事を厳守下さい
*見た目と性格のギャップ
例1)超美少女でお嬢様外見なのに俺様口調で凶暴な性格(可憐)
例2)王子様か勇者様かと思うほどの外見なのに、ヘタレで腰の低い性格(信也)
●リプレイ本文
「猫を赤く染めるの可哀想だからNG。でも、赤の部分は採用して‥‥」
峰崎はそう言うと、赤いサンタ衣装(猫用)やポスト衣装?(猫用)を取り出して役者一同の前に並べた。
「これなら終わった後に脱がせば大丈夫だからな」
可憐(阿野次 のもじ(fa3092))の優しい選択肢に、信也(玖條 響(fa1276))は一緒に行くと言う選択をした。どちらにせよ、後で旦那様からお叱りを受ける事になるだろう。けれど、お嬢様を野放しにして何か重大な事件を起こした場合、旦那様の『お優しい』お叱りどころでは済まなくなる。お嬢様のお叱りは、命の保証がない。
「俺の縄張りで好き勝手する奴が存在するのが許せん!」
「お嬢様、くれっぐれも外ではお嬢様モードでお願いします」
「わぁってるって。それと、俺様の目の黒いうちは信也はともかく白憐には手を出させねぇ。安心しろ」
とりあえず、自分の身は自分で守ろう。信也はそう心に誓った。
可憐がヒラリとベランダから下に飛び降り、早く来るようにと合図を出す。運動神経の良い可憐には簡単かも知れないが、ヘタレの信也には大変な作業だった。恐る恐るベランダの手すりに足をかけ‥‥
「あら?可憐ちゃんじゃない?」
「見つかっちまったじゃねぇか!信也のボケ!!」
「す、すすすみません!申し訳御座いません!わたくしめがトロくさいばかりに!」
信也が慌てて可憐の元に駆け寄り、土下座でもしそうな勢いで謝る。
「2人とも、どうしたの?」
ボーイッシュな外見の可憐の姉・真琴(四条 キリエ(fa3797))はキャルン♪とした笑顔を浮かべると首を傾げた。
「おや、可憐様に信也さん。お嬢様もご一緒で、どうなされました?」
真琴の背後から、庭の手入れをしていた風峰・靭(ケイト・フォーミル(fa5280))が姿を現した。男装の麗人である彼女は、長い髪を1つに括り、スーツにモノクル着用の知的でクールなイメージの女性だ。ジジイがグズグズしてたせいで!と、睨みつけるような可憐の視線に怯えながらも、信也が2人に事情を説明する。
「色々とご苦労様ですね‥‥信也さん」
可憐の破天荒ぶりを知っている靭が同情の眼差しを向ける。自分は真琴のおつきで良かったと思った時、ファンシー真琴がとんでもない事を口走った。
「私も猫ちゃん探しに協力するわ!」
「ま、待ってくださいお嬢様!そ、その様な危険な事は‥‥」
「でも、可憐ちゃんも信也ちゃんもいるし、大丈夫だって☆」
「だ、だだだダメです!き、きっと怪我しちゃいますよぅ!入院しちゃいますよぅ!あ、あたしく、もう心配で心配でしん(以下略)」
パニックになってその場でグルグル回りだす靭。クールな外見が台無しだ。
「ね、靭ちゃん。お願い!危ない事はしないから!ね?」
真琴がウルウルとした瞳でそう言い、靭が仕方なく折れる。が、心配なので自分もついていくと言う事でなんとか話をまとめる。
「ちっ。たく、信也のせいで‥‥」
「も、申し訳ござ、ございませ‥‥」
まだ白雪家の敷地内から出ていないのに、既に信也は半べそ状態だった。
可憐一行が最初に出会ったのは高田麗子(ティタネス(fa3251))だった。
「あーら、可憐さんじゃありませんか」
高笑いとともに現れた麗子は、大柄で筋肉質、優しそうな顔をした少女だった。が、性格は我侭で高飛車なお嬢様だ。金髪のタテロールに、ヒラヒラのワンピース。明らかに時代を間違えている彼女は、ファッションをとっても猫の名前をとっても、非常にセンスがない。
「あら高田様。ご機嫌よう」
「聞きましたわよ。猫泥棒を捜してるんですって?それなら私も手伝わせてもらいますわよ。どのような理由があれ、私の大事なブリ(以下略)ちゃんを盗むなんて許せませんわ!」
ちなみに、猫の名前はかなり長い。名前を言っている間に信也は可憐の命令でジュースを買って来ており、真琴は道端に咲いていた花を興味深げに眺めては靭に名前を聞いていた。
「と、言うわけで行きますわよ!私の可愛いブリ‥‥」
「さぁ、早く行きましょう高田様」
「その前に、喉が渇きましたわ。ちょっと飲み物を買って来て下さいませんこと?」
信也を指差す麗子。あれだけ長い名前を言い続けていたのだから喉が渇いて当然だろうが、そんな事ではなかなか猫探しにいけないではないか。
「信也、さっきのお前の失態は帳消しにしてやろう。だから、逃げるぞ!」
「し、死ぬ気で走りますです!」
言うが早いか、信也と可憐は駆け出した。その様子に真琴が驚いて後を追い、真琴が転ばないか心配で心配でしん(以下略)な靭が半狂乱になりながら追う。そして、麗子が般若の如き表情で追って来て‥‥
木田真(氷咲 華唯(fa0142))はずり落ちてきた眼鏡を親指で押し上げた。ダボダボのジーパンにTシャツ、地味な外見の彼は必死に愛猫を探していた。
「あれ?木田様じゃないですか?」
不意に聞こえた声に振り向けば、可憐と信也が立っていた。穏やかで清楚な笑顔を浮かべる可憐だったが、心なしか息が切れているような気がする。
「白雪さんと大胡さん」
慌てて立ち上がり、砂のついた両手を払ってポケットにねじ込む。
「随分必死に何かお探しでしたけれど?」
「別に、何も。それより、白雪さん達はどうしてここに?」
「木田様は、最近白猫ばかり行方不明になっている事件をご存知ですか?わたくし、誰かが盗んでるんじゃないかと思ってますの。それで、その犯人を見つけられないかと‥‥」
心臓が高鳴る。真の猫の毛色も白だ。可憐と信也が、御機嫌ようと言って去って行きそうになるのを、思わず引き止める。
「あの、僕も一緒に行って良いですか?」
それから暫く聞き込みを続けたのだが、収穫はなかった。可憐は、最終手段を使う時かきたとばかりに、白憐を地面に下ろした。チリンと、鈴の音を響かせながら走っていく白憐の後を追う。白憐は狭い所を通ったり屋根に上ったりと意地の悪い行動を繰り返していた。飼い主である信也をはじめ、白憐には手を出させないと豪語した可憐、猫好きの真が必死で後を追う。が、ついにその姿を見失ってしまった。
「そう遠くには行ってねぇだろ」
「お、お嬢様!木田さんが‥‥」
「ルッセー!この緊急時にお嬢なんてやってられっか!真、とにかく聞き込みだ!」
「わぁってるよ!白憐が心配だ」
真がそう言って走り出す。実は真、こんな地味な格好をしているが中身はヤンキーだ。猫以外には優しくない男なのだ。状況についてこられなくてポカンとする信也をそのままに、2人は着物を着た純和風な女性(草壁 蛍(fa3072))に声をかけた。しっとりとした清楚な様子の彼女は、2人の言葉に頷くと口を開いた。
「Come to think of it!そう言えば!赤い服来たサンタさんが白猫を抱いて不気味なsmile浮かべながらあっちに去って行くの見ましたデス」
その後で、何故か陽気に自分の近況報告を語ってくる女性にお礼を言って、3人は駆け出した。
猫泥棒(三田 舞夜(fa1402))は嫌がる猫に赤い衣装を着せるとニヤリと笑んだ。
「好きな相手を自分色に染めたくないか?」
「わー、猫ちゃん可愛い♪」
「お、おお嬢様!!そちらに行ってはダメですぅぅっ!!」
「人の猫になんて悪趣味なものを!」
猫を撫ぜようと手を伸ばす真琴を必死に引き止める靭。悪趣味な赤い衣装を着せられた愛猫に怒り狂う麗子。後から到着した可憐と信也がその修羅場に溜息をつき‥‥
「人様の猫に何してくれてんだよお前!!返せよっ!」
真が眼鏡を外して睨みつける。服装はアレだが、顔立ちが綺麗な分妙な威圧感がある。
「既に貴様らの猫はオレの愛しのラブパワーで洗脳済みだ。ははは‥‥我が愛しい赤猫軍団よ。敵を粉砕せよ」
低い声で命令を出す猫泥棒だったが、猫達はいたってのんびり屋さんだ。ボールにじゃれ付いたり、欠伸をしたり。
『敵?ニャんの事かニャ?そんニャの、ニャーが行けば良いニャ』
猫の心はこんなもんだろう。
「いいねこの状況。心が和むよ。猫こそ心の宝」
和んでいる猫泥棒の背後に、可憐と麗子、真が立つ。可憐の手にある消火器に気付いた信也が猫達を集めて靭と真琴に手渡す。それを見届けた瞬間、消火器を噴射した。
「てめぇには人を染める資格なんてねぇっ!!まずはてめぇが白くなりやがれってんだ!」
「ふふん、なかなかやりますわね。あなたの事認めてあげてもよろしくってよっ!」
麗子が可憐の背中を叩く。猫泥棒もなかなか奮闘するのだが、多勢に無勢。ヤンキー真が怒り心頭とあっては勝ち目はない。猫泥棒はボロボロになりながら、猫から脱がせた衣装を片手に何処かへと去って行った。
「些細な見識の違い故に人は争わないといけない。哀しい事件でしたわ」
「お嬢様。本当にそう思ってらっしゃいます?」
「それにしても、やっぱり可憐ちゃんと信也ちゃんは仲良しさんだね☆」
白雪邸への帰り道、真琴が輝く笑顔でそう言う。彼女は2人が凄く仲良しだと勘違いしているのだ。
「えぇ、それはもう昔からお嬢様には痛いくらいによくしていただいて‥‥涙の出るばかりです」
「やはり俺が世界の認識〆とかないとな」
「お嬢様、私は胃に穴が開きそうです」
信也はそう言うと、夕陽を見上げた。
(こんなに綺麗な夕日が見ていてくださるのです。きっと、明日も頑張れる‥‥)
こちらが泣きたくなるくらいに健気な考えだった。