猫の願いアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 2.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 01/05〜01/08

●本文

 僕の名前は『ユウ』
 3歳のオスの猫
 僕は寒い雪の日に生まれた
 ママは僕を愛してくれたけれど、何時に間にかいなくなってしまった
 僕には同じ日に生まれたお姉ちゃんと妹がいたけれど、どちらもいなくなってしまった
 寒くて、冷たくて、悲しくて
 もう、眠くて、眠くて‥‥
 眠ったら、皆に会えるかな?
 そう思った時、急に誰かに抱きかかえられた
 甘い匂いと、温かい腕
 顔を上げれば、傘を差した人間の女の子が1人立っていた

『貴方も、1人なの?』
‥‥ニャーン
『そう。1人で寂しかったね。寒かったね。辛かったね』
‥‥ニャー
『私と一緒に来る?』


 彼女の名前は『桃』ちゃん
 とても可愛くて優しい女の子なのだけれど‥‥
 僕の名前を呼ぶ時の桃ちゃんの顔はいつも悲しそう
「ユウ君。ユウ君」
 甘く響く彼女の声はいつだって、噛み締めるように僕の名前を呼ぶ
「ユウ君、だーいすき」
 ギュっと抱き締めて、そう言ってくれる
 明るい声。でも、その声が、泣くのを我慢しているみたいに震えている事を知っていた
 そう言えば、僕と初めて会ったあの日も‥‥桃ちゃんは、泣いていた‥‥


「ねぇ、ユウ君。私ね、大切な人がいるの」
 ある日、桃ちゃんはそう言うと僕の頭を優しく撫ぜた
「幼馴染の子でね、ユウ君と同じ名前なんだよ」
 ポタリ
 僕の頭の上に桃ちゃんの涙が1粒落ちた
「とっても大切だったんだよ?大好きだったんだよ。それなのに‥‥。もう、会えないなんて‥‥」
 桃ちゃんは本当に苦しそうで、辛そうで‥‥見ている僕も、悲しくなった
 きっと、その人はもういなくなってしまったんだ
 僕のママや、お姉ちゃん、妹と同じように‥‥
 その辛い気持ち、分かるよ。悲しい気持ち、分かるよ。もう一度会いたいって気持ち、分かるよ


『神様、お願いです。僕を人間にしてください。この姿じゃ桃ちゃんに、伝えたい事が伝わらないから。お願いです、神様』
『その願い、聞きましょう。貴方を1日だけ人の姿にしてあげましょう。ただし、12時が過ぎれば貴方は猫の姿に戻り、そして‥‥』
『分かってます、神様。僕は桃ちゃんに救われました。だから、僕も桃ちゃんを救ってあげたい。恩返しがしたいんです。いっぱい、有難うと大好きを言いたいんです』
『桃が、お前の本当の姿に気付かずに、更には避けられる可能性がある。それでも、か?』
『桃ちゃんが僕を分からなくても、例え避けられても‥‥僕は、桃ちゃんが大好きだから』

 神様は優しく微笑むと、僕を外に連れ出した。
 そして‥‥僕を人間の男の子の姿にしてくれた‥‥


≪映画『猫の願い』募集キャスト≫

*桃
 普通の高校生。外見年齢15〜18程度
 優しい性格で、子供や動物が大好き
『私』『貴方、〜さん』女の子っぽい口調

*ユウ
 桃が拾ってきた猫
 神様の力によって、高校生程度の外見年齢に
 桃の想い人とそっくりな外見
『僕』『〜さん』(桃はちゃんづけ)少々子供っぽい口調

・その他
 桃の同級生
 桃の家族
 外で出会う人    など

●今回の参加者

 fa0826 雨堂 零慈(20歳・♂・竜)
 fa1689 白井 木槿(18歳・♀・狸)
 fa3285 氷咲 水華(35歳・♀・猫)
 fa3742 倉橋 羊(15歳・♂・ハムスター)
 fa4181 南央(17歳・♀・ハムスター)
 fa4579 (22歳・♀・豹)
 fa4909 葉月 珪(22歳・♀・猫)
 fa5313 十軌サキト(17歳・♂・一角獣)

●リプレイ本文

 気付くとユウ(倉橋 羊(fa3742))は道の真ん中に立っていた。いつもよりも視線が高い。見れば桃(白井 木槿(fa1689))が通う学校の制服に身を包んでいた。周囲を確認し、少し考えてから呟く。
「桃ちゃんは、朝『ガッコ』に行きます。僕はいい子に待ってます。んと、ガッコってなんだろ?」
 桃の居ない、その時間は寂しい時間。でも『ガッコ』がどんな場所なのかは分からない。不安そうに顔を上げたユウの視界に、桃の後姿が映った。酷く急いでいるらしい背中を追いかけ、小さな公園の前で追いつくと声をかける。
「会いたかった、桃ちゃん」
 にっこり、微笑んだ先の桃の表情は、驚きに固まっていた。
「ユウ‥‥?」
「あ、桃ちゃんガッコ、チコクするよ?僕終わるまで大人しく待ってるからね」
 そう言って、公園を指差す。桃は腕時計に視線を落とすと、何度もユウを振り返りながら学校へと走って行った。


 園田 伊織(南央(fa4181))は桃の様子がおかしい事に気付き、声をかけた。既に今日の授業は全て終わり、後はSHRを残すばかりだった。
「桃ちゃん、何かあった?」
 突然話し掛けられて驚いた桃が、暫く何かを考え込むように視線を落とし、儚い笑みを浮かべると首を振る。2人に気付いた湊 大地(十軌サキト(fa5313))が伊織の隣に立つと、何かあったのかと声をかける。伊織と大地は学年でも有名な仲良しカップルだ。
「何でもないの。あ、先生来たよ?」
 のっそりと現れた担任教師に、伊織と大地が席に着く。明日の予定を簡単に聞かされた後で、号令がかかり、バラバラに教室から出て行く。伊織は出て行こうとする桃の手を掴むと、何かを言おうとして‥‥口を閉ざすと軽く手を振った。
「バイバイ、桃ちゃん。また明日」
「うん。また明日」
 弱々しい笑顔を浮かべて去って行く桃を見送りながら、伊織はこみ上げてくる無力感に唇を噛んだ。ユウが逝ってしまったあの時も、何も言葉をかけられなかった。
「何があったんだろう。桃ちゃん、ユウ君を飼い始めてから明るくなったのに。急にあんな顔するなんて‥‥」
「伊織さん、桃さんは大丈夫です、きっと」
 大地がそう言って、伊織の肩にそっと手を乗せる。桃とは凄く仲が良いわけではない彼は、伊織以上にヘタな慰めの言葉はかけられなかった。
「比べるんじゃないけど、私だったらって思うと‥‥元気出してなんて簡単に言えない」
「桃さんは、僕らが思ってるよりしっかりしてます。伊織さんこそ、気に病んじゃいけません」
 大地はそう呟くと、伊織の頭を優しく撫ぜた。
「僕、伊織さんが一番大事だから‥‥」
「有難う‥‥」


(あれは、確かにユウだった。でも、ユウはもうこの世にはいない人。あれは、私の心が見せる幻だったの?)
 半信半疑のまま公園へと向かった桃の目に、ユウの姿が飛び込んでくる。やっぱり、幻ではない。
「貴方は、誰?」
「僕、ユウだよ?」
 きょとんとした顔は無邪気で、ユウの生前とダブって見える。ユウが桃の手を取り、公園を一周すると近くの商店街をゆっくりと歩いて行く。一生懸命桃に喋りかけているユウと、何かを考えているらしく黙りこんでしまった桃。ユウはそんな桃に寂しい思いを抱きつつも、見つけたペットショップのウィンドウ越しにカラフルな丸いボールを見つけて目を輝かせた。
「僕、あれ好き!コロコロ音がするんだよね」
 その言葉に、桃は猫ユウを思い出していた。確か、前にあのボールを買ってあげた事がある。汚くなって捨ててしまったけれども‥‥。目の前で微笑むユウは、桃の事を優しく撫ぜてくれたユウと同じ顔。でも、中身は猫ユウに似ている気がした。
(もし、ユウ君が人間だったらこんな感じかな?)
 ユウが桃の手を引っ張って、商店街を端まで歩いて行く。桃が転びそうになれば、手を差し伸べてくれて「大丈夫?」と首を傾げるユウ。お魚屋さんの前で目を輝かせるユウ。
(ユウは今、生きていて目の前にいる)
 そう思って目を開ければ、優しい顔。会いたかった、大好きな人。
(でも、ユウはもう‥‥)
 商店街を抜け、2人は色々な場所を歩いた。公園で少し休んだり、ゲームセンターで遊んだり。そして、2人は静かな住宅街へと来ていた。このまま真っ直ぐに進めば、桃の家だ。夕日は既に沈み、深い夜の闇が周囲を覆っている。ふと足を止めた桃に気がつき、振り返るユウ。哀しそうな顔の桃に、目を伏せる。
「桃ちゃんがかなしいと、僕もかなしいよ」
 そっと、桃の腕を引き寄せて髪を撫ぜる。
「笑って?」
「‥‥貴方は、私が乗り越えなくちゃいけない壁かも知れないね」
 突然不思議な事を言い出した桃に、ユウが首を傾げる。
「寂しくないよ。僕はずっと、桃ちゃんと一緒。ね?」
「‥‥私、もう帰らなきゃ。私の事、心配して待っててくれる人がいるから」
 そっと、ユウの手を振り解く。目の前にいるユウは、きっと過去から来てくれた人。ずっと引きずっていたこの気持ちに決着をつけさせてくれるために現れた、過去の人。
「ううん、人だけじゃないの。ユウと同じ名前の、大事な友達がいるの。だから‥‥有難う。大好きだよ、ユウ。今も、これからも、ずっと‥‥」
 桃はそう言うと、振り返らずに走り出した。


 雨の降ってきた神社で、猫になったユウは神様(檀(fa4579))に撫ぜられながら今日の事を振り返っていた。猫に戻る時は、桃ちゃんと初めて会ったこの場所でと、心に決めていたのだ。
『満足は出来ましたか?』
『お話できて嬉しかった。‥‥桃ちゃん、僕がいなくなっても笑っててくれるかなぁ』
 優しい神様の手の温もりは、桃のものとソックリで。ユウは涙を1粒零した。


 玲子(氷咲 水華(fa3285))は娘の遅い帰宅に、特に叱りつける事はしなかった。ただ、どこか気落ちした様子の桃にかけるべき言葉を探して‥‥ふと、気になっていた事が口をついて出た。
「そう言えば、まだユウ君が帰って来ていないみたいなのよ」
「え?」
 桃の瞳が大きく見開かれ、窓の外へと移される。外は雨だった。桃が血相を変えて立ち上がり、玄関へと走って行く。玲子はその背に声をかけることはせずに、ただ、自分も急いで身支度を整えると雨の降る夜の街に走り出した。


 衰弱していく体に、容赦なく落ちてくる冷たい雨。ユウは神様に桃との思い出を語りながら、静かにその時を待っていた。
『僕ね、桃ちゃんと会えた事が一番嬉しかった。幸せだった。‥‥もっと、一緒に、いたかったなぁ‥‥』
 思い出すのは、優しい桃の顔ばかり。出会いから今日の事まで、ユウは1つだって忘れていなかった。桃との思い出は、どんな些細な事でも大切な宝物だった。
『もっと、一緒に‥‥』
 ユウの言葉が途切れる。小さいけれど、確かに聞こえたあの声は‥‥
「ここに居たんだね。やっと見つけたよ」
 傘もささずにビショビショになってユウを探し回っていた桃が、瀕死のユウを抱き上げる。神様がすっと身を引き、去って行く2人の背中を見詰めた後で空に向かって微笑んだ。
『貴方達も、もう心配しなくて大丈夫ですよ』


 ユウを抱いたまま当ても無く走っていた桃を見つけ、伊達 恭介(雨堂 零慈(fa0826))は声をかけた。彼はペットショップの店員で、桃がユウを拾った時も丁寧に飼い方を教えてくれた人だ。恭介は桃の手の中で衰弱しきっているユウを見ると、知り合いの獣医のところへ案内すると言って走り出した。
「どんな事があっても最後まで見届けろ。いいな?」
 恭介はそう釘を刺すと司竜 舞架(葉月 珪(fa4909))の病院の門を叩いた。舞架は虫の息のユウを見て驚きながらも、速やかに治療に取り掛かかった。桃が玲子を呼び、恭介も祈るような面持ちでユウの治療を待つ。
 重苦しい沈黙を破ったのは、治療室から出てきた舞架だった。
「出来る限りの事はしましたが、後はユウ君次第です」
 出来れば桃がついていてほしいと言葉を次げ、桃が強く頷く。
「目を覚ました時にまず、桃ちゃんに会いたいでしょうから」
 桃は胸の前で手を組むと祈った。
(どうか、元気になって‥‥)


 遠くから、優しい声が聞こえて来る。僕の名前を、呼ぶ声。大好きな、声。
『ユウ君。ユウ君』
 大好きな桃ちゃんの言葉は、いつだって僕に伝わってる。でも、僕の言葉は届かない。だから、最後でも良い。僕は桃ちゃんに伝えたかったんだ。『有難う』と、『大好き』って。ねぇ、伝わったかな?僕、桃ちゃんに伝えられたかな?いつだって、貰ってばっかりの僕が、桃ちゃんを笑顔に出来たかな?僕、桃ちゃんが笑ってくれると嬉しいんだ。


 目を開ければ、桃ちゃんの顔があった。先生がよく頑張ったねって、褒めてくれた。桃ちゃんが僕の頭を撫ぜて泣きながら笑っていた。
「たくさん心配かけてごめんね?もう、泣かないよ。ユウ君がいるもの。皆が、いるもの。ユウ君、有難う。大好きだよ‥‥」
 桃ちゃんのお母さんが、笑ってる。ペットショップのお兄さんが、桃ちゃんの頭を撫ぜて何か渡している。桃ちゃんと同じ服を着た女の子が入って来て、桃ちゃんに抱きつきながら涙を浮かべて笑ってる。一緒に入って来た男の子も、笑ってる。
 皆、笑ってて、桃ちゃんも笑ってて‥‥
「ニャーン」


   桃ちゃん、とってもとっても、大好きだよ
   僕の気持ち、ちゃんと伝わってる‥‥?