試練の時アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
宮下茜
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
なし
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/07〜01/09
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●本文
アイドル・ユナのマネージャーであり彼女の良き理解者である錦下は、ユナから渡された紙に目を丸くしていた。
「え、これって‥‥」
「パーティの、お誘い、です」
「それは見れば分かるんだけど、なんでこんな大量に?」
手元の招待状は1枚や2枚と言う量ではない。
「‥‥錦下さんのお友達も、呼んでどうぞです」
「て、言うか、なんで急にパーティ?」
「昨年は大変お世話になりました。と、今年もどうぞ宜しくお願いいたします。と言う意味を込めて」
「はーん、新年会みたいな感じ?」
「‥‥知りませんよぅ。パーティなんて初めてやるんですから」
「あぁ、ユナって友達少な‥‥」
言いかけた錦下の前で、ユナが絶対零度の微笑を浮かべる。
ものすっごーーーく怒っているのだ。
「す、すみません‥‥」
「新年会と言っても、小さな会場を借りての小規模のものです。お料理だって、私が作ります」
頬を染めたユナがそう言って、プイと顔を背ける。
「ユナって料理作れたんだ!?」
「作れますよ。‥‥私って、錦下さんにどう思われているのか凄く気になるのですが」
「あ、あはは。それじゃぁ今度ご馳走になろうかな」
錦下はそう言うと、知り合いに配ってくると言ってその場を後にした。
「それにしても、あのユナが新年会ねぇ」
随分と社交的になったものだ。それが、マネージャー心として非常に嬉しかった。
数日後
錦下は、ユナが作ってくれた夕食を前に硬直していた。
とても美味しそうなハンバーグが乗っているお皿。とても美味しそうな匂いは食欲をそそる。
それなのに、それなのに‥‥
何故こんなにも不味いのか!!!
「ユ、ユナ、こ、これは‥‥」
「どうですか?自信作なんですよ」
煌く笑顔でそう言われては、美味しいです以外に言葉が返せない。
しかも、ユナは期待のこもった瞳でジーっとこちらを見ている。これは、食べるしかない。
うっとなりそうになるのを堪えて黙々と食べ進める。
「あの、ユナ。当日の料理だけど‥‥」
「もうレシピは考えてあるんです!頑張って作りますね」
輝く笑顔は無邪気だ。
「俺も手伝うよ」
その言葉に、ユナが首を振る。どうやら彼女はお客が揃う前に料理を作り終える気らしい。
錦下さんは会場のセッティングとか、早めに来たお客さんのお相手をして下さいと、言いつけられてしまった。
(どうしよう。‥‥お客さんに食べてもらえないのは当たり前としても、その後のユナのフォローをどうしたら良いんだ!?)
絶対落ち込むと分かっているからこそ、錦下は苦悩していた。
(あぁぁ、どうせなら俺の個人的な友達とか呼んでおけば良かった。そうすれば、不味くても食べるように言えたのに‥‥)
後悔しても今更遅かった。
この際、ユナのフォローは後で考えるとして、お客にこの不味い料理を食べないようにどうやって注意を促そうか、そちらを考え始めていた。
見た目と匂いは美味しそうなのだ。うっかり食べてしまったら大変だ‥‥
(当日は会場の近くの総菜屋とか、お菓子屋を調べとこう)
そうすれば、来てくれた人にお持て成しが出来る。
(後のフォローの事も考えて、当日ユナの作った料理は出来る限り俺が食べよう。それがマネージャーとしての勤めだ)
そう心に決めていた。
●リプレイ本文
それほど広くない会場に集められた参加者は、錦下から真剣な面持ちでユナの料理の味を聞かされた。白いクロスのかかった丸テーブルの上には既に何品かの料理が置かれており、錦下の話が途切れた丁度その時、真っ白なワンピースを着たユナが姿を現した。
「皆さんもうおそろいでしたか?」
無邪気な笑顔に、悠奈(fa2726)がダっと走って行って抱きつく。
「お招きありがと〜!ユナちゃん!」
「ユーナちゃん!来てくれて有難うっ!」
メル友の2人は、愛称で呼び合う仲になっていた。キャッキャとはしゃぐ2人に近づくと、椿(fa2495)が持っていた薔薇と霞草の花束をユナに手渡す。椿からの『招待有難うメール』によって、参加する事は知っていたユナだったが、まさか花束を貰うとは思っていなかったのか、頬を赤く染めると上目使いで椿を見た。
「ユナさん白が似合うカラ、全部花は白にしてみたヨ。どーぞ、お姫様」
にっこりと微笑まれ、顔を真っ赤にすると目を伏せて花束を受け取るユナ。
「あ、ありがとう、御座います」
耳まで真っ赤にさせて、ウルリと潤んだ瞳を椿と悠奈に交互に向ける。ユナとは顔見知りの犬神 一子(fa4044)が簡単な挨拶を述べ、初対面の神代タテハ(fa1704)とフォルテ(fa5112)、ゼフィリア(fa2648)と九条・運(fa0378)がバラバラに新年の挨拶と招待のお礼を口にする。その様子を少し離れた位置で見ていた慧(fa4790)が、ユナにそっと近づくと柔らかい笑みを浮かべ、お招き有難うと挨拶を口にする。
「少しご無沙汰してたからユナさんに会えて凄く嬉しいな」
純粋に思ったままを言っただけの慧だったが、その言葉の威力は凄まじい。ユナが悠奈の背後にコッソリと隠れ、恥ずかしそうに顔を赤くしつつも「私も、会えて嬉しいデス」とカタコトに言葉を紡ぐ。今回の隠れ蓑は悠奈の役目らしい。
先ずは余興にと、フォルテがジャグリングを披露し拍手喝采を受ける。次に椿がCM曲メドレーと言ってアコギの弾き語りを披露する。
笑顔はしあわせ呼び しあわせは笑顔呼ぶ
幸福の永久連鎖
繋いでいこう どこまでも
けして枯れない笑顔の花 咲かそう
思い出の曲ばかりが流れ、ユナが微かに笑みを浮かべながら手を叩く。その様子に椿がペコリと頭を下げ、ユナの前まで来ると顔を覗き込む。
「ずっと楽しく仕事も友達も宜しくデス」
「こちらこそ‥‥」
「友達以上でもいいんだケド」
言いかけたユナの言葉を遮るようにそう言うと、椿が意地悪な笑みを浮かべる。ユナが驚くほどの速さで悠奈の後ろに隠れ、情けない声で悠奈に助けを求める。
「もー、椿さん!」
悠奈が苦笑しながら腰に手を当て、ユナがヘナヘナと床にしゃがみ込む。モデルである椿のあの笑顔と言葉は、ある意味反則技だ。
錦下が不安そうな表情を浮かべる中、タテハがユナの作った料理に手をつけると「おーいしーい♪」と言って笑顔を浮かべる。彼女は味覚音痴なので、ユナの料理は普通に美味しく感じた。手土産にノンアルコールも数本混じったシャンパンをユナに手渡し、料理を片っ端から平らげて行く運。味音痴ではないながらも、姉の実験台となり何度も地獄を垣間見てきた彼にとって、ユナの創作料理は可愛いモノだった。育ち盛りと言う事もあって、すきっ腹にドンドン料理を詰め込んでいく。
そんな2人とは違い、まともな味覚を持つ人はユナの料理に悪戦苦闘していた。お腹の状態を心配しながらも、一生懸命作ったものだからと言って頑張って食べるフォルテ。子供の失敗料理には慣れている一子も、流石に笑顔は浮かべられないらしく、飲み込むまでの表情は壮絶だった。
「な、なかなか個性的な味だな」
と、簡単な感想を述べつつも無理に料理を減らしていく。錦下から料理の話を聞かされた時、まるで漫画やアニメのようだと思っていたゼフィリアが、好奇心からユナの料理に手をつけ、思わず「なんでやねん!」と口に出してしまい、驚いて目を丸くしたユナを何とか誤魔化す。料理はあまり得意ではないために味覚はそれなりに広い悠奈が、自分の料理を思い出しながら黙々と料理を食べていく。最初の一口を食べた瞬間に少し眉を顰めた慧が、直ぐに表情を戻すと錦下に料理の基礎本を用意するようにこっそり依頼する。
皆一様に美味しかったり悪戦苦闘しながら食べている中で、椿だけは真面目な顔で黙々と料理を平らげていた。四次元胃袋の彼は量がどれだけ多くても食べられる自信があったのだが‥‥ふと、視線を上げると首を傾げた。
「ユナさんはお料理スル時、味見ってしてるのカナ?」
誰もが聞きたくて聞けなかった事をサラリと言ってのけた椿に、ユナが軽く首を振る。何をするのか分かった慧がすかさず水を用意し、椿が「はい、あーん」と言ってユナの口の中へ料理を入れる。素直に従ったユナが、口の中に入れられたものに眉を顰め、口元に手を当てる。慌てて慧がユナに水を差し出し、悠奈が背中をそっと撫ぜる。レシピ通りに作っているのに何故か不味くなってしまう七不思議を保持している悠奈は、一生懸命作った物が不味かった時のショックやそれを出してしまった自己嫌悪などをよく分かっていた。
「ごめんなさい‥‥こんなに不味いの、出すつもり、なかったの」
ユナが今にも消え入りそうな声でそう言って、目を伏せてギュっとスカートの裾を握り締める。泣くのを堪えているかのような表情に、誰もがかける言葉を探していた時、慧がすっとユナを抱き締めると艶やかな長い髪を撫ぜた。
「そう言えば、お土産を渡すのを忘れていたね」
そう言って、薔薇のミニブーケと小さなクッキーの包みを取り出すと、俯いたままのユナに手渡す。お礼を言おうと口を開いたユナだったが、頬を滑った涙に口を閉ざす。
「実はね、クッキーは僕の手作りなんだ。初めて作ったから、形はいびつで味もそれなりなんだけど、ユナさんに喜んでもらえたらなと思って、心を込めて作ったんだ」
ブーケとクッキーを胸に抱いたまま静かに涙を流すユナを、タテハが心配そうに見詰める。
「料理に大切な事って、相手を思いながら作る事だと思うよ。だから、ユナさんは間違ってないんだよ。ただ、やり方がちょっと違っちゃっただけでさ」
「そうだよ!喜んでもらいたいって気持ちは凄く大事!腕は場数を踏めば上達するけど、気持ちや愛情はそうじゃないでしょ?大事なのは愛情です♪」
慧の言葉に悠奈が大きく頷くと、ユナの肩にそっと手をかける。
「友達だから食べてもらえたなんて、思って欲しくない。愛情が詰まってたから食べたんだ〜って、思って欲しいのです。あう、上手く言えないけど、錦下さんも皆も、きっとそうだと思うんだよね」
「そうそう。一人で頑張りすぎちゃったみたいダネ」
椿がユナの頭をクシャリと撫ぜ、ゆっくりと顔を上げたユナに笑顔を向ける。
「友達だから上辺取り繕いたくはないし、正直に言いマシタ。でも、料理にこもってる『ユナさんの想い』は間違いなく美味しいのデス。だから‥‥絶対残さないモン♪」
「でも、こんな不味いの‥‥」
シュンと肩を落としたユナの視界の端に、料理を美味しそうに食べるタテハの無邪気な笑顔が映る。その隣では、運も黙々と食べており‥‥だんだん味に慣れてきたフォルテがゆっくりと箸を進めている。錦下が慧に頼まれていた料理本を片手に入って来て、ユナの泣き顔に驚きつつも本を慧に手渡す。
「僕も料理は初心者だけど、一緒に作ってみない?」
「皆でわいわい料理スルのも楽しいかもダヨ?俺は味見専門だけどネ!」
慧と椿がユナを誘い、悠奈が錦下に胃腸薬をこっそりとプレゼントした後でユナに可愛らしいフリルのエプロンをプレゼントする。
「これ着て頑張ろう?」
「‥‥一緒に、作りたいです。ちゃんと、皆さんに、美味しい料理、食べてもらいたいです」
ユナがそう言って目元を拭い、キリっと表情を引き締めると顔を上げた。
一子と錦下が買って来た材料と、料理本を基に料理を作り直す。味見専門だと言う椿と、料理を作らせては危険と言うタテハが遠巻きに見ている形で作業は進められた。フォルテと悠奈、慧の協力もあって、ユナは何とか美味しい料理を作る事が出来た。
仕切りなおしと言う事で、ゼフィリアが宙返りなどの軽業を披露し、タテハがユナに色々と話しかける。運がぬいぐるみと、携帯番号とアドレスの書かれた紙をユナに手渡す。
「暇な時なら、試験品や自信作の実験台になれるんで気軽に召喚してくれ。それ以外の呼び出しやメールも歓迎するぞ。気分転換になるしな」
ユナが少し恥ずかしそうな、嬉しそうな笑顔を覗かせ‥‥美味しい料理を前に誰もが笑顔で話に花を咲かせる。
「あの、今度はきちんと、最初から美味しいの、作りますから。だから‥‥またお料理作ったら、食べてくれますか?」
悠奈の背後に隠れ、耳まで真っ赤にしたユナが消え入りそうな声でそう呟き‥‥勿論と言う、優しい言葉に嬉しそうな笑顔を見せる。悠奈がユナの可愛らしい笑顔に思わず抱きつき、椿と慧がユナに笑顔を向ける。タテハがユナと悠奈に飛びつき、ゼフィリアとフォルテが安堵した様子で料理を口に運ぶ。同じ裏方的仕事仲間と言う事で、一子が錦下の心中を察して肩を叩き、一心不乱に料理を口に運んでいた運がその様子に視線を上げる。
「良かったな、ユナ」
錦下がポツリ、呟いた言葉が優しく響いた。