小鳥の願いアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 2.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 01/10〜01/13

●本文

 私は歌を紡ぐ
 いつだって、綺麗な声で喜びの歌を紡ぐ
 悲しみの歌は紡がないわ
 だって、この籠の中から出られない悲しみなんて歌っていたら尚更哀しいじゃない
 だから、私は喜びの歌を紡ぎ続ける
 雨の日も
 晴れの日も
 陰鬱な曇り空の日も
 直ぐ前の道を通る貴方のために
 歌を紡ぐ


 私がこの家に連れてこられたのは数ヶ月前
 この家のお婆さんが私をペットショップからこの場所に連れてきてくれた
 綺麗な声の私を気に入ったお婆さんは、前の通りが見渡せる場所に置いてくれた
 屋根つきのそこは雨の日でも快適で
 風の強い日や寒い日以外は外で歌っていられた

 私は風が大好きだった
 風の運んでくる匂い、音、どれも新鮮で大好きだった
 中でも一番大好きだったのが、あの人がこちらに向かってくる足音
 規則正しい音はメトロノームのようで
 私はその音が聞こえると歌を紡ぎ始めた

 彼の名前は知らない
 ただ、ギターをやっているのは知っている
 彼はいつも、私の歌を聴くと暫し足を止めて聞き入ってくれる
 そして、1曲歌い終わると極上の笑顔を見せて去って行く
 私は彼が好きだった
 あの優しい笑顔が好きだった
 私の歌を聞いている時の彼の眼差しが好きだった

 私は、彼が私の歌に何を重ねているのか知っている
 彼の隣を歩いていた女の人
 彼女が何時の間にかいなくなってしまったのを、私は覚えている
 彼の隣を歩いていた女の人は、歌が上手な人だった
 1回だけ聞いた事がある
 彼女が歩きながら歌っていた歌
 その声は、高く澄んでいた

 私は彼の寂しさをわかっていた
 あの優しい笑顔の裏側にあるものを、知っていた
 彼のために歌を歌ってあげたいと思った
 けれど、私の言葉は彼には通じない
 だから私は‥‥


『神様、お願いです。私を人間にしてください。この言葉では、彼に伝えたい事が伝えられないから』
『その願い、聞きましょう。貴方を1日だけ人の姿にしてあげましょう。ただし、12時が過ぎれば貴方は元の姿に戻ります。そして‥‥』
『分かっています。でも、どうしても彼に伝えたいんです。私の歌で、あの笑顔に宿る影を少しでも和らげてあげたい』
『必ずお前の歌が伝わるとは限らない。それでも、か?』
『それでも、歌いたい。伝わると信じて、歌いたい。私は、あの人が好きだから』

 神様は優しく微笑むと、私を鳥籠から出してくれた
 そして‥‥私を人間の女の子の姿にしてくれた‥‥


≪映画『小鳥の願い』募集キャスト≫

*私
 歌を紡ぐ小鳥
 外見年齢は10代〜20代程度
 詳細はお任せいたします

*彼
 外見年齢は10代〜20代程度
 いつもギターを持ち歩いている
 詳細はお任せいたします


・その他
 彼の友達
 彼の家族   など

●今回の参加者

 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa2495 椿(20歳・♂・小鳥)
 fa2539 マリアーノ・ファリアス(11歳・♂・猿)
 fa3120 (14歳・♀・狼)
 fa3159 妃蕗 轟(50歳・♂・竜)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)
 fa4614 各務聖(15歳・♀・鷹)
 fa5331 倉瀬 凛(14歳・♂・猫)

●リプレイ本文

 人の姿になった私(姫乃 唯(fa1463))は彼(椿(fa2495))の後を追いかけた。どうやって歌を聴いてもらおうか。そればかりを考えながら歩いて行くと、彼が小さなライブハウスへと入って行くのが見えた。私は暫し朽ちかけた看板を見上げた後で、地下へと続く階段を下りた。


 もうずっと、彼女(パトリシア(fa3800))は俺に逢ってくれない。大分前に営業を止めてしまったこの場所は、俺達の練習場所。ここで、ついこの間まで彼女は澄んだ声で歌っていた。それなのに‥‥。‥‥逢いたいけれど、彼女の苦しみを思うと待つしか出来ない。
(そう言えば、今日はあの小鳥、いなかったな)
 彼女のような、綺麗な声で歌う小鳥。真っ白なカナリアは、いつだって楽しそうに歌っていた。その姿が、彼女とダブル。部屋の隅に置いたギターに視線を向けた時、突然倉瀬 凛(倉瀬 凛(fa5331))が少しだけベースで音を紡いだ。けれど、すぐに膝の上に置くと溜息をつく。
「どうせ練習したって無駄」
「凛君」
 鳴(苺(fa3120))が凛の言葉に首を振り、そんなことないと弱々しく呟く。
 そう。皆、彼女が心配。彼女がいないと、音が響かない。あの、澄んだ綺麗な歌声がないと‥‥
「あの、すみません」
 綺麗な声に視線を上げれば、可愛らしい少女が1人戸口に立っていた。鳴が首を傾げ、凛が不審気な視線を向ける。
「私、ちぃって言います。ギターの方のファンで‥‥」
「あぁ、そうなんだ?有難う。俺の名前は斎 楽って言うんだ」
 右手を差し出す。戸惑ったようにちぃが手を握り返し、首を傾げる。
「あの、皆さん楽器を持っていらっしゃいますけど、どうして演奏なさらないんですか?」
「歌い手が、いないんだよ」
 鳴がそう言ってちぃに笑顔を向ける。少しだけ寂しそうに目を伏せると、すぐに笑顔に戻ってちぃに詳しい話を聞かせる鳴。その様子に凛が少しだけ眉を顰めるが、特に何を言い返す事も無かった。
「だからね、無期限活動休止中って言うのかな?」
「‥‥あの、私に考えがあるんですけれど」
「え?」
「彼女さんを元気付けるために、演奏会をしましょう!歌い手がいないなら、私が歌います!だから‥‥」
「気持ちは嬉しいけれど、でも‥‥」
 俺の言葉を遮って、歌い始めるちぃ。澄んだ綺麗な声に、外れる事のない音。それまで胡散臭そうにちぃを見ていた凛の表情が変わり、黙って成り行きを見守っていた椎名雅(各務聖(fa4614))と鳴が顔を見合わせて頷く。
「楽さん、やりましょう!」
 雅がそう言い、鳴がはずかしそうに鞄の中から楽譜を取り出すと押し付ける。
「曲なら、あたしが作ったのがあるから」
「鳴が?」
「お姉ちゃんに伝えたい言葉、詰め込んだだけのモノだけど‥‥これじゃぁ、ダメかな?」
 見れば楽譜には何度も直した後があり、鳴の必死さが伝わって来た。
「でも‥‥」
「悩んでるだけじゃなくて、自分から動いてもいいんじゃない?あたし、いつまでも元気のないお兄ちゃん、嫌だよっ」
 プイとそっぽを向いた鳴に苦笑する。確かに、このままで良いわけがない。待っているだけでは、変わらない。だから‥‥
「有難う、ちぃ」
 きっかけを作ってくれた、ちぃの頭を撫ぜる。ちぃが、別に何もしていないからと小さく呟き‥‥
(そう言えば、この声。どこかで聞いた事があるような‥‥)


 声をなくしてしまった楽さんの彼女・莉音さんのために、歌を歌う。きっと、楽さんも莉音さんに逢えば笑顔が戻るはず。凛さんがアコギを持ち、雅さんがキーボードを肩から下げる。
「これで2人とも元気になってくれればいいけど」
 雅さんがそう言って、私に笑顔を向ける。莉音さんの家の前、狭い路上でのミニライブ。楽さんと鳴さんがギターを持ち、私に大きく頷いて見せる。軽快な曲が流れ出す。皆が皆、莉音さんに伝えたい思いを乗せて、紡いでいる音。息を吸い込む。
『聞いて欲しい 僕らの声を 耳を傾けて 俯いたままでもいいから』


 柊響二(マリアーノ・ファリアス(fa2539))は突然響いた曲に、慌てて姉の部屋へと駆け出した。
『ただ 気付いて欲しいんだ』
 知らない女の子の声は透き通っており、姉の歌声に似ていた。
『君が君である限り 僕らも変わらない』
 部屋に入る。莉音が窓の外を見て目に涙を溜めている。
「お姉ちゃん、聞こえる?」
 頷く莉音。頬を滑った涙に、響二は莉音の手を取って歩き出した。
『傍で待つから いつか顔を上げてくれるまで』
「お姉ちゃん、行こう」
「でも‥‥」
『君の笑顔が必要だから』
「皆、お姉ちゃんのこと待ってるんだよ!」


 家から出てきた莉音さんに、皆が集まる。
「僕は楽さんと莉音さんが一緒に居るのを見てるのが好きだった。あなたの居ないバンドなんて、このバンドじゃないよ。例え歌えなくたって、莉音さんはこのバンドに居て欲しい」
「そうだよ。歌えなくても、皆気持ちは変わらないし、俺は莉音に傍に居て欲しい」
 楽さんが莉音さんの体を抱き締める。雅さんが莉音さんの肩を叩き「泣くだけ泣いたら戻っておいでよ。待ってるからね☆」と言って笑顔を向ける。
「ありがとう‥‥」
 莉音さんはそう言うと、涙を浮かべて微笑んだ。
 ‥‥皆の声は、莉音さんに届いた。楽さんは笑っている。私が、好きだった笑顔で。それなら、私の歌も届いたのかな?
(‥‥きっと、届いたよね。だって、私は、その笑顔が見たかったんだもの‥‥)

   「‥‥あれ?ちぃは‥‥?」


 公園の滑り台の上、神様(妃蕗 轟(fa3159))の足元で、ちぃはか細い声で歌っていた。
『聞いて欲しい 僕らの声を』
 夜空に澄む声は、あまりにも切なく弱々しいものだった。苦しくなってくる呼吸、段々と近づいてくるその時。神様が何度も歌を止めるようにと優しい言葉をかけてくれたが、ちぃは首を振るといつも歌っていたあの歌を歌い始めた。
『小さな籠の中 見える空 太陽の光浴び 囀るは喜びの歌』
 神様が優しくちぃの髪を撫ぜた次の瞬間、ちぃは小鳥の姿へと戻った。


 何時の間にか姿を消したちぃを捜していた楽と莉音は、あの美しい歌声を聞いて公園の中へと入って行った。お礼も言えないままで別れるのは嫌だと言って、他のメンバーも彼女の姿を捜し回っている。莉音が小さく咳き込みながらも、声のする方に視線を向ける。
『太陽の光浴び 囀るは喜びの歌』
 聞いたことのある歌‥‥月光に照らされる彼女の横顔が見えたと思った瞬間、淡い光を放ちながら姿を消すちぃ。慌てて駆け寄ると、白いカナリアが瀕死の状態で歌い続けていた。後から走って来た雅が、鳥の足についていたタグを見て驚いたように目を丸くすると口を開く。
「おばぁちゃんの小鳥‥‥なんでここに?」
「ちぃだ」
「え?」
「この鳥が、ちぃだったんだよ!」
 楽はそう言うと、小鳥の体を優しく抱き上げた。要領を把握できていない凛と鳴が首を傾げ、ついて来ていた響二が「病院に連れて行かないと!」と声を上げる。
「この近くに獣医さんがいるの、知ってる!」
 雅がそう言って、楽について来るように促すと走り出す。
(死なせない!絶対に、死なせない!)
 まだか細い歌を紡ぐちぃを見詰めながら、死に物狂いで走る。誰もが、祈った。この小鳥の命を、奪わないでくださいと。彼女を、連れて行かないでくださいと。


 楽さんが、本当に嬉しそうに笑ってくれた。それだけで、私は幸せ。きっと、私の歌声は届いた。もし我侭な願いが叶うなら、偶にで良い。私の歌声を思い出して欲しい。そして‥‥いつまでも、笑っていて欲しい。私は、楽さんの笑顔が大好きだから。
『ちぃ、ちぃ』
 私の名前を呼ぶ声がする。優しい声。必死な声。声の先には、光が見える。私は、ゆっくりとその声の方に向かって歩き始めた。


 雅のおばあさんから譲り受けた白いカナリア、ちぃは、楽に習ってギターを弾く莉音の真剣な横顔を見詰めていた。響二が興味深そうに莉音の手元を見詰め、凛と雅が楽しそうにお喋りをしている。鳴が楽譜片手に低い唸り声を上げ‥‥楽が顔を上げると、ちぃに向かって柔らかく微笑む。その笑顔を受け、ちぃは息を吸い込むとあの曲を歌い始めた。

 『諦めないで 言葉はなくてもいいから』
 『音を止めない限り 込めた想いは届くから』

 そう。言葉は通じなくても、旋律がきっと届けてくれる。
 私の言いたいこと、私の思っていること。
 きっと、彼らは気付いてくれる。
 だってほら、私が歌を紡げば皆嬉しそうに微笑んでくれる。
「今日も綺麗な歌声だね、ちぃ」
「あたしが作った歌だよね、それ?」
「今度、私がギターを弾けるようになったら合わせて歌ってくれるかな?」
「どうせなら、ちぃの歌声に合わせて皆でまた演奏会やりたいね」
「良いかも!それなら、響二君にちぃを持ってもらって‥‥」
「うん!僕がちぃを持つよ!」

 ‥‥私は大好きな人達の傍で、今日も歌っている‥‥