夜桜 〜盗賊・闇之〜アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
宮下茜
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
8.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/16〜01/19
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●本文
太陽の光を全身に浴びながら、広い草原をひたすら前へと進んで行く。
「待ってくださいよ〜!お師匠さまぁ〜!」
スラリとした長身の美女の背後から、小さな少年が大きな荷物を背負って走って来る。
「祐(たすく)!遅い!」
「そんな事言われましても、これ全部お師匠様の物じゃないですかぁ〜」
肩で息をしながら走って来た祐の頭の上には、ピョコンと三角形の耳がついている。
「猫なんだから、もっとすばしっこく!」
「無理ですよぉ〜!」
祐はそう言うと、お師匠様である桜(さくら)に情けない顔を見せ、耳をシュンと横にさせた。
「そもそも、お師匠様の荷物は着物が多すぎるんです。仕事の時用と普段用、それから替えの物の3つで良いじゃないですかぁ」
「祐のくせに文句言わない!」
ピシャリと言われ、祐が渋々返事をする。
裾が極端に短い着物を着た桜は、白く細い足を惜しげもなく風に晒している。
「それで、お師匠様。今度の依頼はどんなものなんですか?」
「んーっと、盗賊狩りって言うのかな。村を荒らす盗賊を追っ払ってほしいって、そんだけ」
「また物騒な依頼ですねぇ」
「そ?」
桜の長い髪が風に揺れる。
「集団で小さく弱い村を襲う事しか出来ないような連中を、私は怖いと思わない」
裾の短い着物に、腰元をキュっと縛っている真っ赤な帯はリボンの形。
白い着物の裾部分には鮮やかな桜の刺繍。
長い髪を頭の高い位置で1つに結び、夜空を走り抜けるその姿は知る人ぞ知る存在。
『夜桜(よざくら)』と呼ばれる彼女は、幼い猫半妖の男の子を連れて日々村から村、町から町を点々としている。
彼女の専らの仕事は盗賊や海賊、人斬りなどの討伐だが、気に入ればその他の依頼も請け負う。
報酬はその場その場で変わり、小さな飴玉1つで依頼を請ける事もあれば、驚くような値段を吹っかける場合もある。
そんな彼女が今回請け負ったのは周辺の村々を荒らし回っている盗賊団『闇時雨(やみしぐれ)』の頭『闇之(やみの)』の討伐だ。
彼についてはまともな情報は皆無に等しいが、漆黒の衣装に身を包んだ美青年であると言う事だけは噂に流れている。
盗賊団の人数は数百から数千。
アジトは桜が依頼された村から数キロの地点にある洞窟の奥深く。
洞窟の近くには幾重にも罠が仕掛けられているらしいが‥‥
さて、どうやって依頼を成功させようか?
≪映画『夜桜 〜盗賊・闇之〜』募集キャスト≫
*桜(夜桜)
外見年齢20〜25程度
長身の美女で、日本刀を愛用している
一人称は『私』
目上の者や依頼者に対しては敬語を使う
氷の能力を宿しているが、能力を使用すると瞳の色が一定時間銀色に変わるため、使いたがらない
*祐
外見年齢10〜15程度
可愛らしい顔をした男の子で、猫の耳及び尻尾がついている
一人称は『僕』
少々子供っぽいが、丁寧な口調で話す
炎の能力を宿しており、レベルが上がれば大きな村を一瞬で炎の海にするくらいの事が出来る
が、残念ながら今はまだマッチ程度の小さな炎しか作り出せない
*闇之
盗賊・闇時雨のリーダー。外見年齢18〜28程度
かなりの美男子らしいが、無表情で常に黒い服を着ている
一人称は『俺』素っ気無い喋り方をするが、滅多に口を開かない
闇の能力を宿していると言うが‥‥?
・その他
村長(桜に依頼をした人)
桜と祐に同行を申し出る人(村人)
闇時雨のメンバー など
●リプレイ本文
桜(深森風音(fa3736))は今回の依頼主である村長に、村中にある噂を流して欲しいと相談を持ちかけた。
『明日夜、村の南、帯羅川に沿って大金を積んだ車が通り候』
たて看板に御触書を貼り付け、警護の者は皆帯刀にして怪しき人近付きし折は容赦なく斬り捨てとの事。皆、近寄るべからず。その2文も付け加えた。
「闇時雨の拠点は割れているにも関わらず闇之の詳細は不明。推測するに、闇之は襲撃の折は表に出ないのではないかと」
桜の隣でジっと成り行きを見守っていた祐(倉瀬 凛(fa5331))が目を輝かせる。
(やはりお師匠様は凄い方です)
聡明にして美麗、祐はそんな桜に尊敬の念を抱いていた。
「お話では洞窟近くには罠が多数仕掛けられているとの事ですが」
「それに関しては心配御無用」
彼がそう言った時、背後の障子が音も無く開き、蓮(斉賀伊織(fa4840))が入って来た。
「この子は罠を避けて洞窟へと入る道を知っておる」
「宜しくお願いいたします。弓も少し腕に覚えがありますので、お役に立てるかと」
「それから、同行を申し出ている者達がおるのだが」
彼が言葉を濁した次の瞬間、障子を開けて2人の猫半妖が元気良く入って来た。
「祐〜!久しぶりなの〜☆」
「お久しぶりなのにゃ」
魅唯(岩倉実佳(fa5239))が泥だらけの体で祐に抱きつき、あかり(神代タテハ(fa1704))が屈託のない笑顔を向ける。
「祐、知り合い?」
「猫半妖の村で‥‥」
「みーちゃんも一緒に行くの〜!倒せ闇之なの〜!」
「あかりも足手纏いにならないように頑張るのにゃ」
「でも、2人とも戦闘能力あんまないし‥‥ねぇ、お師匠様?」
ダメと言ってもついて来そうな2人の猫半妖に桜は軽く溜息をつくと、同行を許可したのだった。
月が綺麗な真夜中、桜をはじめとした討伐隊は闇時雨が根城とする洞窟に向かっていた。
「美青年だって言っても、村を荒らしまわっていたら台無しですよねぇ」
桜が負けるはずがないと確信している祐は軽口を叩きながら荷物を背負って桜の後に続いている。蓮の先導で洞窟の傍まで来ると、あかりが持っていた巾着の中から小さな石のついた指輪を取り出し祐に手渡した。
「あかりはここで見張りをしてるにゃ。誰かが来たら、祐君に意思を飛ばすにゃ」
猫半妖同士は離れていても意思疎通が出来る。祐は分かったと言うように頷くと、渡された指輪を目の高さにあげた。
「それはお守りのようなものにゃ。何処でも良いから、つけていて欲しいのにゃ」
右の小指に嵌める。桜が祐に洞窟内の偵察を指示する。荷物を置いて身軽になった祐が暗がりの中に入り、少し先まで見てきた後で戻ってくる。
「どうやら大部分のメンバーは出払っているようです」
「そう。それなら行きましょう」
あかりに危なくなったら逃げるように指示し、祐の作り出した小さな炎を頼りに進んで行く。
「僕だってこの位は出来るんですよ!」
と自慢げに話す祐に、桜が小さく溜息をつく。
「蝋燭の1本でもあれば十分でしょう」
正論と言えば正論だが、もう少し祐を褒めてあげて欲しい。
猫半妖の虎丸(ヨシュア・ルーン(fa3577))はピクリと耳を動かすと立ち上がり、闇之(神代アゲハ(fa2475))の所に走り込んだ。黒装束に白の仮面をつけた闇之が、分かっていると言うように頷くと低く呟く。
「やはりアレは罠か」
「旦那、例の大金の輸送は罠だと気付いてやしたのですか!?」
「朧気にな。どうせ村人の中でも少々腕に覚えのある程度の輩だろう」
「旦那の力を持ってすれば一捻りですね!」
「まぁな」
闇之は自嘲気味な笑みを口元に浮かべると、置いてあった短刀を握り、部屋の隅で丸くなっていた猫半妖・綺羅羅(ベルシード(fa0190))に声をかけた。
「綺羅羅。起きているんだろう?」
「あんなにドタバタ足音立てられちゃ寝てられないよ」
欠伸をしながら背伸びをし、近くに立てかけてあった斬馬刀を取ると立ち上がる。唇をペロリと舐め、ニヤリと微笑むと目を輝かせる。
「手加減はナシで良いんだよね?」
「お前の好きなようにやれば良い」
闇之の言葉に綺羅羅が走り出し、虎丸がその後に続く。2人の背を暫く見詰めた後で、闇之がゆっくりと歩を進めていく。
前方が騒がしくなる。どうやら敵部隊とやりあっているようだ。刀同士がぶつかり合う鋭い音に、錫杖の音。怒声に悲鳴、肉の切れる音に何かが落ちる音。
どうやら自分が行く必要はないらしい。そう思った闇之の前に、1人の女性が走りこんで来た。小さな猫半妖の少年を連れた彼女と目が合う。
「貴方が闇之ね」
「‥‥能力者がいたとは、驚いたな」
「私の名前は夜桜。貴方なら、聞いた事があるはず」
「うちも随分厄介なのに目を付けられたものだな」
「向こうも苦戦しているみたいだから、手っ取り早く終わらせるわ」
スラリ、銀色に光る刃を抜く。祐が控え目に後ろに下がり、後ろから誰か来ないか見張っている。
闇之がクナイに似た形の短刀を投げ、桜が刃で受け止める。地を蹴って桜が闇之の懐に瞬時に飛び込み、闇之が自分の影に潜り、桜の背後へと移動する。直ぐに桜が間合いを取り、2人が睨み合う。
「如何して能力を使わない?」
「嫌いだからよ」
はき捨てるように呟いた桜の言葉に、闇之が短刀を媒体に闇刃を作り出し、桜へと投げつける。幾つかは刃で防いだのだが、足元に来た刃が避けられずに桜の太ももを深く傷つけた。
「お師匠様!」
鮮血が飛び散り、祐が慌てて荷物の中から包帯を取り出そうとするが、着物がぎっしり入っておりなかなか見つからない。
「だから着物は3着って言ったのに!」
こんな時にそんな事を言っていても仕方がない。桜は痛む足に奥歯を噛み締めると、闇之を鋭く睨みつけた。
「貴方、何故盗賊なんてやってるの?」
「知りたいのなら、冥土の土産に教えてやろう。‥‥俺は元はあの村に住んでいた。だが、俺の能力を知った村人が俺を追い出した」
闇之が桜の目の前まで迫ってくる。短刀の切っ先を桜の鼻先に突きつけると、仮面の奥の瞳を自嘲気味に細めた。
「能力者に生まれた者の宿命ね。でも、私は盗賊になんてならない。貴方は、心が弱いの」
「な‥‥」
「知ってる?巨大な岩でも小さな亀裂の霜柱で簡単に割れるって」
使いたくなかったけれど、仕方がない。桜は苦々しい表情を浮かべながら、目を閉じて氷の柱が洞窟を貫く光景を思い描いた。足元から冷気が広がり、洞窟内の温度が一気に低下する。
異変に気付いた綺羅羅と虎丸が戻って来て、それを追ってきた蓮と魅唯が突然の光景に目を丸くする。‥‥ビシリと大きな音が響いたと思った次の瞬間、洞窟が激しく揺れ始めた。桜達と闇之達の間に岩が落ち、両者の姿が見えなくなる。
「仕留め損ねましたね」
「そんな事言ってる場合じゃなーいっ!早く逃げないとっ!」
魅唯が走り出し、蓮がそれに続く。
「お師匠様早く!」
「そう言われても‥‥」
足からの出血と、能力を使った後の疲労感で上手く体に力が入らない桜。祐は懸命に桜に近付くと、持っていた荷物で桜に瓦礫が当たらないように奮闘する。
「祐、貴方1人で逃げなさい」
「嫌です!」
「命令よ!」
「絶対行きません!僕のお師匠様はお師匠様しかいないんですから!それに‥‥僕だって役に立つでしょう?」
誇らしげに祐がそう言って、荷物で瓦礫を避けていく。
「本当、馬鹿な子。でも、私に似て良い子だわ」
「お師匠様に似なくて、ですよ」
祐が軽口を叩き‥‥轟音が鳴り響く。洞窟が崩れて行く音に目を閉じ、全てを覚悟した時‥‥祐の小指に嵌っていた指輪が輝き始めた。小さな光がだんだん膨らんで行き、眩しさのあまり目を閉じた次の瞬間、2人は洞窟の外に座っていた。
「祐君!」
「あかりちゃん?」
「良かった。その指輪、役に立って」
あかりが指輪に触れ、指輪がボロボロに崩れ落ちる。あかりが自分の妖気を込めて作ったお守りに助けられた桜と祐は、安堵の溜息とともにあかりにお礼の言葉を述べた。
桜は銀色に輝く瞳を気にしつつも、次の依頼に向けて歩いていた。
「でも、どうしてあんなに高額な依頼料を?」
「自業自得で困ってる人だったからよ。それに‥‥」
言いかけた桜の前に、闇之と綺羅羅、虎丸が立ち塞がる。祐が驚いて硬直し、桜が持っていた小さな袋を投げつけると歩き出す。
「俺はお前に負けた。お前は、俺の命を奪う権利が有る」
「いらないわ、そんな権利」
「だが‥‥」
「‥‥貴方は最低な盗賊だけど、仲間にとっては最高の頭よ。仲間を見捨てるなんて、許さない。貴方には、仲間を守る義務がある」
「再び盗賊になろうとも?」
「その時は貴方と戦うわ。何度でも、戦う」
桜が投げたのは、先ほど依頼主から貰ったお金だった。闇之が怪訝そうに桜を見、桜が振り返ると口元に笑みを浮かべた。
「貴方達の新たな出発のための資金にしなさい」
それっきり、振り向かずに歩き始める。祐が慌ててその後に続き、背後で闇之が小さく礼を言う声が聞こえた。
祐が桜の優しさと聡明さを改めて実感していた時、突然桜が足を止め、祐を振り返った。
「そう言えば、随分軽装だけど、私の荷物は?」
「あっ!お、お師匠様助けだすために‥‥えっと」
「‥‥お馬鹿―――っ!!!」
桜が祐を蹴飛ばし、祐が泣きながら走ってついていく。
「お師匠様、待ってくださいってばーっ!」