SPLive 誘いの夢アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
宮下茜
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
難しい
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報酬 |
1.1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/28〜08/01
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●本文
「今回のテーマは『誘い』と『夢』で行きたいと思っているの」
「“いざない”・・・ですか?」
「そう。“さそい”じゃないから気をつけてね」
「って言っても、意味一緒ですよね・・・?」
「あえて雅さを出そうと思って」
立花・マドカはそう言うと、小さく溜息をついて手に持った書類をスタッフに手渡した。
「背後のスクリーンは好きに使ってくれて構わないわ。出演者の人が言う映像を映してあげて」
「了解です。サンプル映像はどうしますか?」
「・・・使えそうなサンプルってあったかしら?」
「どうでしょう。月夜のサンプル映像はありましたけど・・・」
「それじゃぁ、それでも良いわ」
視線を落としながらそう言うと、マドカがまた1つ、溜息をついた。
「夢って言っても、夜に見る夢でも、将来の夢でも・・・なんでも良いわ」
マドカが指示を書いた紙をスタッフに手渡す。
・『誘い』は、歌詞でも曲でも雰囲気でも可
・照明の色、明るさは指定を明記のこと
・ソロでもグループでも参加可
・背景は『夢』を連想させるもの。サンプル以外の映像も可能だが、事前に映像をスタッフに提出すること
・歌以外もなにかプラスのモノを見せること
・歌詞はオリジナルのもののみ
「これにそって動いてくれる?」
「今回も、自分の後に歌う人の紹介をするんですよね?トップバッターの人は、一番最後に歌う人が紹介する・・・」
「えぇ。前回と変わらないから、そのように動いて頂戴」
「・・・マドカさん、大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫よ。変な事聞くのね。それじゃぁ、後はお任せするわ。私は他に仕事が残っているから」
マドカはぺこりと頭を下げると、そのまま会議室から出て行ってしまった。
その後姿をスタッフが心配そうな面持ちで見詰める・・・
「全然、大丈夫じゃなさそうですよね・・・」
◆補足
・ステージは2箇所、向かい合わせにあります。2つのステージの真ん中にはエキストラ(お客)が立っており、カメラもあります。
・AステージもBステージも同じつくりです。
・トップバッターは必ずAステージでライブを行ってください。2番目以降はAかBどちらかを選んでください。
・続けて同じステージの使用もOKですが、その場合はバックバンドの入れ替えに時間をロスしてしまいます。
・バックバンドを使わない場合は前もってスタッフに使用する曲を渡しておいてください。
・SPは、セルフ・プロデュースの事です。自分達の個性を、個性が集まった1つのライブの流れを、自分達の手で作り上げてください。
●リプレイ本文
動き回るスタッフに指示を出しながら、マドカはボウっとする頭をなんとか奮い立たせていた。きっと寝不足のせいだろう。そう思いあまり気に留めずにいたところ、足元の段差に引っかかって派手に音を立てて転んでしまった。
「いった・・・」
「大丈夫ですか!?」
その様子を少し離れた場所から見ていた蓮 圭都(fa3861)と柊アキラ(fa3956)が駆け寄ると倒れたマドカに手を差し伸べる。
「えぇ、段差があってね・・・」
なんでもないと言う風に笑うマドカ。しかし、その顔色は酷く悪い。
「どうかしたんですか!?」
一歩遅れて月影 飛翔(fa3938)が姿を現し、すぐに現状を理解するとチラリと圭都とアキラに視線を向けた。マドカと初対面ではない3人は、彼女の性格をそれなりに理解しているつもりだった。
「プロデューサーって大変でしょうけど無理しないでくださいね」
「そうですよ。お体を労わってくださいね?」
アキラが笑顔で飛翔の言葉を受け継ぐ。しかし、マドカは困ったような表情を見せただけだった。
「本当に、大丈夫だから・・・」
◆
ざわめく会場内が、カウントに合わせて静かになって行く。アキラと圭都はBステージに立つと、Goの指示を待ってからマイクを掴んだ。
「SPLive今宵のテーマは『誘い』と『夢』。最初に誘うのは『十六夜』の3人です!」
一拍置き、声をあわせると3人が立つステージに向かって腕を伸ばした。
「夢への応援歌『未来(あす)の先へ』!!」
Aステージに光が灯り、目もくらむような白の光の中で飛翔とEven(fa3293)そして猫宮・牡丹(fa4060)が元気良く歌いながら飛び出して来た。
『未来(あす)の先へ』
さあ走り出そう目指す夢へ 恐れるものは何もない
未来を目指すのは自分自身だから
飛びたて Tomorrow
照明が色を和らげ、暫し客席から困ったような声が上がる。目がくらんだせいか、ステージ上にいる3人がよく見えない。
まず1歩 次に2歩 大股小股構わない
遮る壁があるのなら横にずれてかわせばいい
目指す先見ていれば 道なんて幾らでも
いっそ振り返り手を振って「お前らも来いよ」と余裕みせろ
拓けた道を飛んでいる背景が映し出される中Evenのラップが弾け、それを援護するようにノリの良い演奏が響く。
目的地 遥かな夢 届かないって嘆くなら
進んで見せろよ いつだって
そう 誘う光は心(ここ)にあるから
背景の速度が遅くなり、それにシンクロするように演奏も緩くなる。穏やかになりつつある場に刺激を与えるようにライトが色を増す。
さあ羽ばたこう遥かなる空へ 見えないものは何もない
道を照らすのは自分自身だから
踏み出せ Tomorrow
再びのサビに元気を取り戻した音が、突き抜ける背景の前で弾ける。空の中央から真っ白な光が膨らみ、ステージ上がその光の中に包まれる。Evenの声がしっとりと響き、突如として闇に包まれた。
「続いて誘うは欧州から舞い降りた歌姫。『マリーカ・フォルケン』(fa2457)さんで『I SING ONLY FOR YOU』です」
闇の中から聞こえた声に反応するように、Bステージに2つの光の筋が灯り、しっとりとしたピアノの繊細なメロディーが響く。ピアノの弾き手は若い女性で、その前に立ったマリーカは胸元が大きく開いた緋色のドレスに、キラキラと光るダイヤのイヤリングとネックレスをしていた。
『I SING ONLY FOR YOU』
『ただ あなたの隣にいたかった
あなたと同じモノを見たかった
闇の中に閉じこめられた 名もない小鳥
夢さえ見る事を許されずにいたのに
あなたは光を差し伸べてくれた
何も持たない小鳥は ただそれにすがり
ただ一生懸命に己の生命を輝かせた
あなたがくれた ただ一つの贈り物だから
だから あなたにもう一度会いたい
せめて この歌が届いて欲しい
何も持たない 名もない小鳥からのただ一つのお返しに』
闇夜から暁へ移り変わる背景にリンクするように、マリーカの繊細な歌声とピアノのメロディーが明るい音色を奏で始める。朝を演出するステージの上で、可愛らしい小鳥の鳴き声が微かに聞こえ・・・マリーカが丁寧に頭を下げるとマイクに顔を近づけた。
「さて、次に皆さんを誘うのは『美笑』(fa3672)さんで『夢月(むつき)色の囁き』です。張り切ってどうぞ!」
パールホワイトのロングワンピースを身に纏った美笑のバックで、更待月がセピア色の空に浮かんでいる。ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、ビオラの重厚なメロディーは聴き慣れた旋律を紡ぎ出し、クラシックを齧ったことのある者ならばそれがベートーベン作曲の『月光ソナタ』第1楽章をアレンジしたスローバラード調の曲だと言う事にすぐ気がつく。
『夢月(むつき)色の囁き』
月の夜に 囁いた言葉
「君を守る」と 誓ってくれたのに
今 貴方は 遠く離れて もう逢えないけど
せめて今夜 夢の中で 逢わせて欲しいと月に願う
夢の中で 逢う貴方は
いつも 静かに微笑んでいるの
ああ 夢が醒めずに続けば
悲しい気持ちも 忘れることができるのでしょうか
だけど 夢は醒めて
貴方が いない寂しさだけを残すのです・・・
美笑とバックの演奏者達のみを浮かび上がらせていたピンスポットが、曲の進行にしたがって円を狭くしていく。美笑だけが闇の中に薄く浮かび上がる中、セピアの更待月を見上げ寂しそうに微笑むと、すっと全ての照明が落ち、会場内は闇に包まれた。
「夢に誘われても、朝が来れば夢は終わり。けれど、希望と言う名の夢は終わることなく続いていきます」
闇の中から聞こえる美笑の声は落ち着いており、しっとりと諭すような響きは耳に心地良い。
「今日のライブの最後にそんな眩しい夢へ『朧月読』に誘ってもらいましょう。『Dazzling』どうぞ!」
薄暗い照明が灯り、中央に黒のサテンスーツをゆるく着こなし椅子に座ったアキラが浮かび上がる。単一のリズムを紡ぐギターの音にかぶせるように、アキラの弾くチェロのメロディーが響く。アキラにだけ当てられていたピンスポットがステージ上手にも浮かび上がり、その中を黒を基調としたシンプルなワンピースに身を包んだ圭都がゆったりとした足取りで中央へと進んで行く。
『Dazzling』
緩やかに滲む夢のアト 僕らはずっと遠い場所にいて
鮮やかに色づく世界の中で ただ見つめてた未来に
伸ばした手 空を切って 目覚めが始まった
漆黒の背景が圭都の歌声とともに色を宿し始め、暗色の背景が移り変わる。圭都が中央に座るアキラの隣に立ち、真っ直ぐに前を向くとそっと目を伏せた。
夢の端に囚われてるような ぼやけた視界に
眠りの中みたあの光想い 見つけたよ
瞳を開けて 移り変わる世界に
緩やかだったテンポが少しだけ早くなり、単一リズムが違和感なく色を変え始める。それに応えるかのように、背景の暗色が明度を増し、個々の色の識別が可能になる。時折入るモノクロの背景が、明るくなりつつあったステージをふっと暗く染める。
ただ一歩踏み出す 幻惑の中
誘われるまま 出会うために
伸びやかな圭都の声を支えるアキラの低音が、七色に変化する明るいライトに照らされて広がって行く。暗かった世界に一筋の光が差し、その光が周囲を染め上げる。全てが闇から引き上げられた時、始まりの朝がやってくる。
音が消えると同時に背景も白一色で止まり、明るくなったステージ上で圭都とアキラが丁寧に頭を下げた。
◇
*SPLive『誘いの夢』
光に誘われながら、羽ばたく道は夢へと続いている。突き抜けるような高い空の下、未来への道はきっと真っ直ぐだから・・・。走っていた足を止めれば、しっとりとした夜がやって来る。誘いの光が消え失せてしまったならばその場で蹲り、闇と言う鳥籠の中で差し伸べられた光を感じて。朝になればきっと光は明るく周囲を染め上げ、光の方向に歩いて行けるから。光の先に向かう途中で、再び闇に包まれたのなら朧に浮かぶ更待月に願いを託して。夢の中で輝く光の先に、届かない手を伸ばして。夢から醒めれば未だに周囲は暗く、闇の中で寂しさだけが木霊する。・・・まだ明けやらぬ夜に、再び目を閉じる。朧に霞む夢の中、見詰めていただけの未来に手を伸ばした。けれど光は遠く、手が空を切った刹那、甘い夢は溶け消えて。淡く滲む世界の中、夢で見た未来の光が闇を照らして。未だに夢に囚われたままの心を奮い立たせ、踏み出す1歩、幻惑の中で。未来への光が消えやらぬうちに、誘われるまま進む、光の中へ・・・
◆
「今回はね、美笑さんと朧月読の繋ぎが凄く美しかったわ。夢からの覚醒、再び目を閉じれば夢が見えてくる。夢の終わりは新たな誘いへの導き。今回のテーマをよく理解して綺麗に表現してくれたって、凄く感謝しているわ。全体的に起承転結、一連の流れ、凄く頑張って作ってくれたと思う。ただね、起は少し元気すぎたかしら。未来へ向かう羽ばたきの勢いが、承で急に夜の闇に囚われてしまったみたいな印象を受けちゃって。最後のサビで盛り返さないで緩やかなままマリーカさんに続けられたらそれほど浮いて見えなかったかも知れないわ。あと、マリーカさんと美笑さんの繋ぎも、夜朝夜で慌しかったかなって。でも、皆よく頑張ってくれたわ。有難う」
マドカはそう言うとほんの少しだけ、はにかむような笑顔を浮かべた。