蝙蝠の願いアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 難しい
報酬 7.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 01/17〜01/20

●本文

 真っ暗な夜空を飛び回る。冷たい風を切りながら、大きな屋敷の屋根にぶら下がる。
「夢(ゆめ)ちゃん、そろそろ寝ないと。また具合が悪くなりますよ」
「うん。分かってる」
「何を見ているの?」
「蝙蝠さん」
「まぁ、本当。たくさん飛んでるわ」
「夢ね、蝙蝠さん大好き」
「変わった子ね。どうして?」
「だって、お空を自由に飛びまわれるじゃない」
「だったら、鳥さんの方が良いでしょう?」
「ううん。夢は鳥さんより蝙蝠さんの方が好きなの」
「どうして?」
「夢、お日様よりお月様の方が好きだから」
 『夢』と呼ばれた少女はそう言って、輝くようなの笑顔を浮かべると暗い空にバイバイをしてから部屋へと帰って行った。
 大人びた横顔にはまだあどけなさが残り、トロリとした口調と相まって実年齢よりも大分幼く見える。
 蝙蝠は、夢の言った言葉を思い出していた。
『夢ね、蝙蝠さん大好き』
 その言葉が嬉しかった。
 『彼』は今まで一度も誰かに好きだと言われた事が無かった。
 暫くその家の屋根にぶら下がっていると、右手の小さな窓に夢の姿が現れた。
 掌を窓ガラスにつけ、ジっと空を見上げている夢の表情は、曇っていた。
「夢も、お月様の下を飛び回りたいな。夢、このお家から滅多に出られないんだもの」
 夢はそう言うと、不意に胸に手を当てて激しく咳き込んだ。
 目尻に涙がたまり‥‥ふっと、息を吐き出すと数度肩で大きく呼吸をした。
「お外に、出たいなぁ」
 無論、その願いが叶う事はないと分かっていた。
 夢の儚い体は、この冬の寒空に耐える事は出来ないと、自分でも知っていた。
 けれど‥‥
「夢ね、お話で読んだのよ。蝙蝠さんと、吸血鬼さんのお話。吸血鬼さんに血を吸われれば、夢の病気も治るかな?そしたら、お月様の下を歩けるかな?雪で遊べるかな?」
 そこまで言うと、夢は涙目になりながら目を伏せて小さな窓にカーテンを引いた。
 蝙蝠はそっと夢の家を後にすると、神様のいる場所へと飛んで行った。


『神様、頼みがあるんだ。俺を人間の姿にして欲しいんだ』
『夢のため、ですか?』
『いや、違う。俺のためだ。俺は、初めて他人に好きだと言われた。それが、嬉しかった。だから、それを伝えたいんだ‥‥夢に『夢』を見せてあげたいんだ』
『残酷な『夢』ではありませんか?たった一時の、儚い夢ではありませんか?』
『分かっている。でも、どうしても‥‥夢に夜の月の下を散歩させてあげたいんだ。それが、彼女の願いだから』
『貴方は本当に優しい子ですね。良いでしょう。その願い、聞きましょう。貴方を1日だけ人間の姿にしてあげましょう。そして、背には黒い羽根を』
『羽根?』
『えぇ。貴方と夢を空へ飛ばせるだけの力を持った羽根を。ただし、12時が過ぎれば貴方は元の姿に戻ります。そして‥‥』
『覚悟は出来ている。あの子はどこか俺に似ている気がするんだ。深い孤独を背負い込んだ、あの子の孤独を少しでも軽くしてやりたい』
『もしかしたら、夢は貴方を吸血鬼と思うかも知れませんね』
『え?』

 神様は優しく微笑むと、蝙蝠の頭をそっと撫ぜた。
 明日の夜、人間の青年の姿にしてあげると約束をして‥‥


≪映画『蝙蝠の願い』募集キャスト≫

*俺
 外見年齢18〜20代程度
 背には黒い羽根を生やしており、服も黒
 背が高く綺麗な容姿をしているため、夢からは吸血鬼だと思われる

*夢
 外見年齢18歳以下
 身長が低く、色白で華奢。儚い雰囲気で、実年齢よりも幼く見える
 一人称は『夢』で、子供っぽい口調で話す

・その他
 夢の家族
 俺の仲間
 夢の友達   など

●今回の参加者

 fa2370 佐々峰 菜月(17歳・♀・パンダ)
 fa3742 倉橋 羊(15歳・♂・ハムスター)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)
 fa3831 水沢 鷹弘(35歳・♂・獅子)
 fa4614 各務聖(15歳・♀・鷹)
 fa4713 グリモア(29歳・♂・豹)
 fa5241 (20歳・♂・蝙蝠)
 fa5353 澪野 あやめ(29歳・♀・ハムスター)

●リプレイ本文

 望(佐々峰 菜月(fa2370))は夢(パトリシア(fa3800))にお見舞いの品を渡すと丸椅子に座った。
「夢ちゃん最近元気になったよね」
 その言葉に、夢が窓の外に視線を向ける。
「夢、とっても素敵な人に会ったの」
「え?」
「今、夢が元気で居られるのは‥‥あの人のおかげなの」
 ゆっくりと目を閉じ、記憶のページを捲っていく‥‥


 応接室で、医者の榛原(グリモア(fa4713))は浩之(水沢 鷹弘(fa3831))
と未来(澪野 あやめ(fa5353))と向き合っていた。
「体力も勿論ですが、病気を治そうとする強い意志がない事には何とも‥‥」
 未来がその言葉に肩を落とす。浩之がそっと肩を抱き寄せ、優しく背中を叩く。
「夕べも咳が酷くて‥‥一生このままなのかしら」
「そんな事言ってはいけないよ。先生達も一生懸命治療に当たってくれているんだ。大丈夫、夢はきっと良くなるよ」
 自身の不安を押し込めての言葉に、未来が浩之に寄りかかる。榛原がレントゲン写真を取り出し、2人に見えるようにテーブルの上に並べると現在の夢の状況を説明する。


 至(倉橋 羊(fa3742))は妹に本を手渡すとベッドに腰を下ろした。夢とは違い健康な体に生まれてきた自分に、行き場のない罪悪感を感じる。夢が苦しそうに咳き込む度に、同じ兄妹なのにと言う気持ちが膨らんでいく。
「夢、お兄ちゃんから貰った本を読んで、分かったの」
「何を?」
「吸血鬼さんに血を吸われれば、元気になるんだよね?」
 無邪気な笑顔が至の胸を締め付ける。そっと小さな頭を撫ぜ、寂しそうな笑顔を浮かべると軽く首を振る。
「吸血鬼になんかならなくたって、夢は元気になれるよ」
「‥‥夢、そろそろ寝ないと体に障るぞ」
「そうよ、夢ちゃん早く寝ないと。蝙蝠さんは吸血鬼さんの化身かも知れないわよ?早く寝ないと攫われてしまうわよ?」
 浩之と未来が入って来て、未来が悪戯っぽく言いながら夢が読んでいた本をベッドサイドに置く。
「吸血鬼さんだったら良いもん」
 プゥっと頬を膨らませた夢の髪を優しく撫ぜ、至が「お休み」と声をかける。
「お休みなさい、良い夢を」
 未来と浩之がそう言って夢の頭を撫ぜ‥‥3人は部屋を後にした。
 至が廊下にある大きな窓を開け、飛び回る蝙蝠に声をかける。
「お前、夢の願いを叶えてやってくれないか?」
 自分の言葉に苦笑する。そんな事、できるわけないと。
「‥‥でも、蝙蝠なら出来そうな気がしたんだ」
 夢が吸血鬼だと信じている、蝙蝠なら‥‥


 蝙蝠(fa5241)は神様に人の姿にしてもらうと、不思議そうに羽を動かしたり腕を回してみたりした。
「これが‥‥俺?」
 暫く色々な所を動かした後で、夢の元へと向けて羽ばたき始める。途中で仲間(各務聖(fa4614))が飛んできて、人間の為に命を懸けるなんて馬鹿げていると、非難の言葉を向けたが、蝙蝠は構わずに夢の病室の窓へと飛んで行くと、そっと窓を開けた。突然入ってきた冷気に夢が起き上がり、蝙蝠の真っ赤な右目と目が合う。
「吸血鬼さん?」
 夢が毛布を肩に掛け、蝙蝠の所まで走って来ると大きな瞳を輝かせる。
「夢の血を、吸いに来たの?」
「いや。夢の願いを叶えに来たんだ」
「夢の、願い?」
 ふわりと微笑み、夢を毛布ごと抱きかかえると羽根を広げる。寒くないようにと気をつけつつも、満月の下を空へと飛び出す。
「うわぁ、すごい!すごい!」
 夢が蝙蝠の腕の中ではしゃぎ、初めて見る夜の町並みを興味深げに見下ろす。切り裂くような冷たい風に時折夢が咳をしながら、それでも楽しそうに眼下に広がる世界を見詰めていた。何処に行きたいのかと訊けば、夢は蝙蝠の赤い瞳を真っ直ぐに見て言った。
「吸血鬼さんの行きたい場所に、行きたい」
 蝙蝠は、自分が訪れた事のある場所の上を順々に回って行った。公園・学校・遊園地・湖‥‥。湖面に浮かんだ月が、吹いた風に揺れる。まるで泣いているみたいだと夢が言い、蝙蝠は夢の言葉に寂しそうに微笑むと、来た道を引き返して行った。


 夢を床に下ろすと、目を閉じるようにと囁いた。首筋に顔を近づけ、指先でそっと夢の首筋を押すと顔を離す。
「夢は吸血鬼に血を吸われたんだから、きっと元気になれるさ」
「本当!?夢、元気になる?」
 満面の笑み。無邪気で、無垢で、蝙蝠を吸血鬼だと信じて疑わない夢。
「今みたいな笑顔でいれば、きっと元気になれるから」
 蝙蝠はそう言うと、夢の体を優しく抱き締めた。小さいけれど、しっかりとした温もり。
「笑顔の夢が、俺は一番好き」
「夢は、吸血鬼さんの全部が好き」
 夢が蝙蝠の背に手を回し、ギュっと抱き締めると放す。
「また会えるよね?夢ね、頑張って元気になるよ。約束!」
 夢の小指と、蝙蝠の小指が絡まる。
「またな、夢‥‥」
 蝙蝠はそう言って夢の頭を優しく撫ぜると、夜空へと飛んで行った。夢が窓に近付き、手を振る。蝙蝠の姿が見えなくなるまで、ずっと、ずっと‥‥


 元の姿に戻った蝙蝠は、こいつを連れて行かないでくださいと神に祈る仲間に首を振った。
「俺の事は良いから‥‥たまにで良いから、夢を見守ってくれないか?」
「‥‥分かった。少しだけならね」
「有難う」
 蝙蝠はそう言って微笑むと、ゆっくりと目を閉じた。もう、仲間が呼びかけても目を覚ます事は無かった。
「何で、自分が死ぬって分かってて、あの子の所に行ったんだよ。何で‥‥」


 蝙蝠は、今まで誰かに好きだと言われた事が無かった。
 だから、夢から言われた言葉が嬉しかった。
 嬉しかったから、お礼がしたかった。
 生きる希望を失いつつある彼女の、光になってあげたかった。
 夢の元気な笑顔を、見たかった。
 彼女の将来を、祈りたかった。
 例え自分の命を懸けても、悔いる事は無かった。
 ‥‥蝙蝠は、夢が好きだったから‥‥


「ふ〜ん、そんな事があったんだ?‥‥で、それ夢じゃないって今でも信じられる?」
 夢の話を聞き終わった後で、試すように言う望。夢が当然と言うように頷き、望が可愛らしい笑みを浮かべると首を傾げる。
「それじゃぁ、夢ちゃんも吸血鬼になれたのかな?‥‥私、きっと吸血鬼さんが力をくれたんだと思うよ。夢ちゃんの言ってる事、きっと本当だよ」
 望が夢の手の上に自身の手を乗せ、元気になって良かったと呟く。
「でも油断しちゃ駄目だよ!お医者さんの言う事ちゃんと聞いて治そうね!‥‥夢ちゃんと外で遊べる日、楽しみにしてる」
 にこりと微笑んだ望が、壁に掛かっていた時計を見上げて腰を浮かせる。望が夢に手を振り、夢もそれに応える。
「それじゃぁ、また明日!」
 望はそう言うと、夢の部屋を後にした。


「食事の量も増えて来ているようですし、良い傾向ですね」
「時々物思いに耽ってはいますけれど、以前からですし‥‥切欠は分からないけれど、嬉しいわ」
 未来がそう言って微笑み、榛原が先日夢と交わした会話を思い出して苦笑する。体力が回復し始めた時、一体何があったのか気になった榛原は夢に訊いたのだ。その時、夢が吸血鬼の話を嬉しそうにしていたけれど‥‥
「このまま行けば、じきに外で遊びまわれるようになれますよ。お兄ちゃんと一緒に、ね」
 部屋の隅で聞いていた至が、嬉しそうに微笑む。
 夢が元気になったら何をしよう。どんな事をして遊ぼう。至の頭の中で、色々な遊びが浮かんでは消えていく。
「もしかすると、あの蝙蝠達が良い影響を与えてくれたのかも知れないな」
 冗談半分、本気半分で浩之が言った言葉に、榛原が首を傾げる。そう言えば‥‥と、未来はこの間夢と交わした言葉を思い出していた。
『最近蝙蝠さんが来ないの』
 寂しそうに言う夢に、蝙蝠は死んだかどこかに行ってしまったのだろうと察した未来が、笑顔で夢を諭した。
『その蝙蝠さんは夢ちゃんの心の中にいつもいるのよ?お友達でしょう?』


‥‥数年後


 月の綺麗な夜、雪の降る中に佇んだ夢は上空を飛び回る蝙蝠を見詰めながらあの時の事を思い出していた。彼に、伝えたい事が沢山ある。‥‥あの日みたいに目の前に現れてくれないか。淡い期待を持って見詰めていた空からは、粉雪しか落ちて来ない。
 夢は少し迷った後で、上空を飛ぶ蝙蝠に声をかけた。
「夢、頑張ったよ。約束、守れたよ。‥‥有難う。吸血鬼さん、大好き」
 あの時の吸血鬼さんではないと知りながらも、気持ちを伝えられた事に満足していた。至が夢の名前を呼び、夢が玄関へと走り出す。
 ‥‥蝙蝠は夢の姿が扉の向こうに消えた後で、空に向かって喋りかけた。
『お前が望んだように、あの子は元気にしてるよ』

   『お前は、あの子の中でずっと生きてるんだね‥‥』



○NG集
・パトリシア『吸血鬼さん』
「夢、お兄ちゃんから貰った本を読んで、分かったの」
「何を?」
「吸けちゅきしゃ‥‥」
 はーい、もう1回行ってみよー

・羊『名前間違い?』
「お前、夢の願いを叶えてやってくれないか?(苦笑)‥‥でも、鬼た‥‥」
 はーい、カットです!
「ご、ゴメンナサイ!思わず欅さんの名前呼んじゃって!」
「ハム太君、俺の名前は『け』からはじまるんだよ(怨笑)」

・聖『軌道修正』
「‥‥たまにで良いから、夢を見守ってくれないか?」
「‥‥分かった。たこし‥‥だ、だけならね?」
 修正してもカットでーす
「すみません!」
「『たまに』で『少し』って返すから、間違えちゃうよね?(苦笑)」