Impure Liveアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
宮下茜
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
難しい
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報酬 |
なし
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/31〜08/04
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●本文
“Impure World”
メインボーカル兼キーボードの“ユナ”(♀)とギター兼サブボーカルの“キョウ”(♂)そして、ドラムの“シュウ”(♂)の3人からなるアイドルグループである。
一番の売りは、その整った外見だろう。
ユナのどこか愁いを帯びた儚い瞳、キョウの無邪気なスマイル、そして・・・シュウの男性的な色香に引き込まれたファンも多いだろう。
しかし、“Impure”は外見だけのアイドルではない。
ユナの繊細な歌詞と、キョウが作り出す独特の旋律。そして、シュウの素晴らしい演出。
その3つが合わさり、ユナの透き通るような高い声で紡がれた時“Impure”の魅力が弾ける。
「とまぁ、俺らのこと、雑誌とかで知ってるヤツもこの中にはいるだろーけど。俺らは雑誌に書かれていたようなキラキラアイドルってわけじゃねぇっつーの、分かっといてくれるとありがてーな」
普段の無邪気スマイルはどこへやら、キョウはそう言うと、集まった面々をジロジロと眺め始めた。
ここはとあるライブハウス・・・
表向きはただの民家のようなつくりになっているが、地下には巨大なステージが組まれている。
「まぁ、ここのことを何で聞いたのかはわかんねーけど、集まったからにはそれなりの覚悟があるんだろーな?」
ニヤリ・・・到底アイドルとは思えない笑いを浮かべるキョウの後ろ頭を、ユナが懇親の力を込めて引っ叩く。
「ごめんなさい。馬鹿に進行を託そうと思った私の責任ね」
素っ気無い言葉は冷たい瞳の色と相まって、どこか威圧的に感じる。
愁いを帯びた瞳ではなく、ユナの瞳はただ単に色を映していないだけだと言う事が、この場になって始めて分かる。
「まぁ、僕らは一応去年解散した・・・いわば一般人なんだから、リラックスしてね?そうだ。お茶・・・お茶飲む?」
ふにゃんと、力の抜けた笑顔でそう言ったのはシュウだ。
可愛らしい少年のような笑顔。シュウのファンが見たら脱力するだろう。
・・・“Impure”は3年前にキョウが2人に声をかけて結成したのが始まりだった。
瞬く間に噂は広がり、アイドルグループとして名前が売れ始める・・・その前に、3人は事実上の解散をした。
雑誌などのコメントには『新しい人生のスタートを切りたい』とだけ言っていたのだが、本心は違う。
解散した本当の理由はいたって簡単で分かりやすいものだった。
『向いていない』
勿論、飽きたやつまらなくなったなどの感情があるにしろ、1番の理由はそこだった。
自分たちはアイドルには向かない。それこそ、提供者の方が合っているのではないだろうか・・・?
ユナの詩・キョウの曲・シュウの演出
その3つが成り立って始めて“Impure World”は走り出したのだが、3人は表舞台に立つには向かない性格だった。
外見と中身のギャップを埋めるために、演技をし続ける毎日。それは、酷い苦痛を与えるものだった。
「俺らは考えたんだ。表舞台でない場所で、ひっそりと音楽を続けていく・・・」
「まだ若い人たちの力になれればってね」
「勿論、そう言ったのはシュウよ。私とキョウは、楽しければそれで良いって言ったの」
「・・・お前たちの力を見せてもらうぜ?」
「キョウ、だからどうしてそうやって挑発的なんだ?」
「それが性格なのだから、致し方ないと思うのだけれども」
「まず、ここにユナが書いた詩がある。名前すらもない詩だ。これを基にしてお前たちに1曲作ってもらいたい」
『 』
淡く浮いた月の下 思うは幾千の過去
願いの色は鮮明で 未来に続く橋は朧
触れられない光に目を閉ざし
指先に感じる水は冷たく
暗い闇の中で1人 絶対的な存在を探している
「見て分かるとおり、この詩は未完成よ。あと2、3フレーズくらい、付け足して完成させて頂戴」
「曲は完全オリジナル。歌詞から想像する曲をつけるんだ」
「歌詞、曲ともに出来上がったら後は演出だね。これはもう、センスの問題だね」
シュウの言葉にかぶせるようにして、キョウが数枚の紙を配り始めた。
審査方法と書かれたその下には、つらつらと長い文章が続いている。
1、つけたす歌詞はどの部分に入れても良いが、ユナの元の詩を削ることは不可
2、ユナの詩のままで歌うことは不可。必ず歌詞を付け足すこと。また、長くても減点の対象になる
3、演出はなるべく“アイドル”を意識したようなもの。勿論、曲との相性も考えること
4、ステージにあるのはライトと背景用のスクリーンのみ
5、スクリーンに映したいものがある場合や、ライトの明るさ・色を変えたい場合は事前に申告すること
6、小道具をステージ上に持ち込むことは可能だが、事前準備のいる大掛かりなものは不可
「最後に1つ・・・俺らは生の音しか聞かない。テープを持ってくるなんてもっての他だ」
「グループを組むか、もしくは・・・ギターならシュウが弾けるから、シュウに頼んで」
「キョウほど上手くはないけれど、頑張るつもりだから」
「他のグループから助っ人でバックやってもらうっつーのも可。だけど、バックのメンバーは自分がどのグループに属しているのかきちんと事前に申告しておくこと」
「どのメンバーの一員だけれども、〜さんのバックバンドもやりますみたいにね」
「俺たちが聞いて良かったと思うグループがあればライブの最後に名前を挙げる。勿論、賞金なんてなんもでねーけどな」
「審査は、歌詞と曲の相性、曲名、そして・・・演出によって決められるから。みんな、頑張ってね」
●リプレイ本文
“瀬名”と書かれた表札が掛かる前、約束通りの時間に一同は集まっていた。縞榮(fa2174)が玄関横のインターフォンを押し込む。一拍の間の後に錠が外れる音が響き、一番近くにいたクク・ルドゥ(fa0259)が銀のノブを右に回して押し開けた。
整理された玄関、奥へと続く廊下の上には人数分のスリッパが置かれていた。靴を脱ぎ、突き当たりの扉を開ければそこにあるのは地下へと続く細い階段。
「いらっしゃい。下りて来てくれるかな?」
階下からシュウが顔をのぞかせ、可愛らしい笑顔を向ける。
急な階段を下りればそこは簡素なライブハウス。ステージの前には長机が置かれ、3つ椅子がしまわれている。壁際には8つのパイプ椅子が並び、一先ずそこに掛けるようにシュウが一同を促した。
「キョウとユナは、直ぐに帰ってくると思うから。帰ってきたらライブ、始めてもらって良いかな?衣装とかは持って来た?」
「はい」
控え目に頷いたのはアジ・テネブラ(fa0160)だ。
「皆でグループとか作ってきたのかな?それなら、歌う順番とか決めといてくれって言われたんだけど・・・」
「あの・・・」
文月 舵(fa2899)が隣に座る渦深 晨(fa4131)と玖條 奏(fa4133)に目配せをした後で、シュウの瞳を真正面から見詰める。
「シュウさんにギターをお願いしても宜しゅうでしょうか?」
「えぇ、僕のギターで良ければお力になりますよ。楽譜があればそれなりに弾けると思いますし。それでしたら、文月さんのグループが最後と言う事にしても宜しいでしょうか?」
「それじゃぁ、私たちのグループが先ですね」
アリエラ(fa3867)がそう言って、他の面々の顔を見渡す。皆一様に異論はないと言うように頷き、その光景を不思議そうに見詰めるシュウにエルティナ(fa0595)が助け舟を出す。
「2手に分かれたんです」
「あ、そうなんですか」
シュウが納得顔で頷いた時、キョウとユナが階段を下りて来た。
◆
歌:森の愉快な仲間たち
曲名:Orpheus
暗闇の中でスクリーンに明るい月が大きく映し出され、スローテンポのイントロが流れ始めると同時に、ヴォーカルのククとアジがステージ上にあがってシルエットを映す。
ステージ全体を淡い色のライトが照らし、ククが持って来たスモークマシンが足元にふわふわとした白い霧を作り出す。
淡く浮いた月の下 思うは幾千の過去
願いの色は鮮明で 未来に続く橋は朧
白系のワンピースを着たククにスポットライトが当たり、ワンフレーズ歌うと今度は黒のワンピースに身を包んだアジにスポットが当たる。
先ほどよりも小さくなった月の前、サックスの榮とキーボードのエルティナ、ベースのアリエラがライトの向こうに薄っすらと見える。
触れられない光に目を閉ざし
指先に感じる水は冷たく
心に落ちる涙は熱く
正面を向いた2人が歌詞に合わせて手を見詰め、胸に手を当てる。
夜空が明けて行く空の映像がスクリーンに映され、スポットライトは重なるように2人を照らし出す。段々とテンポアップしていくメロディに、微かにスモークが揺れる。
Calling 声を聞かせて
Where 貴方は 今 どこにいるの
向き合い、反対を向き、離れ・・・目まぐるしくつけられた振りに、シュウがにこやかな笑顔を向ける。
暗い闇の中で1人 絶対的な貴方の存在を探している
ヴォーカルの2人が向かい合って手を差し伸べ、スクリーンには暗い夜空が映し出される。
貴方という名の道標を
ヴォーカル2人が目の前に座る3人の方に手を伸ばし、その背後では小さな月が映し出されている。スポットライトが色を落とし始め、ゆっくりと語りかけるようなメロディが最後の旋律を奏でる。スクリーンに大きな月が明るく浮かび上がり、ヴォーカル2人のシルエットが映し出された。
◇
歌:T.R.Y. with F
曲名:Little
舵が弾くキーボードの音色がしっとりと響き、暗い背景が音と共に徐々に青みを帯びていく。スクリーンに映る映像がゆっくりと夜空の映像へと変わり、高音の切ない音が繊細なメロディを紡ぐ。
全体的に白で統一された3人の衣装に青いライトが映りこみ、晨の右手首に、奏の左手首に巻かれたリストバンドが小さく存在を主張する。
淡く浮いた月の下 輝くのは幾千の過去
願いの色は鮮明で 未来に続く橋は朧
濃紺の照明からぼんやりとした白色へ、中段から控え目に発せられる青のライトが定点で撮った夜空の背景をなおいっそうの事美しく見せる。ゆっくりと雲が流れる映像の前で、ヴォーカルの2人が交互に歌い、軽やかなダンスを入れる。それはステップを踏む程度の激しくないもので、キーボードのみの緩やかなメロディに合わせているように見える。
触れられない光に目を閉ざし
指先に感じる水は冷たく沈む
固く閉ざされてる表情 柔らかな頬に手を宛てる
切ないメロディが低音を纏い始め、夜空を流れるスピードが曲と共に増して行く。スモークマシンがステージの端で細かい靄を作り出し、シュウがギターの音を紡ぎ始める。
『Don‘t cry』(泣かないで)
全ての演奏が止まり、3人の声が語りかけるように優しく響く。
いまだ暗い闇の中で1人 絶対的な存在を探してる
孤独の片隅に咲かせた小さな花と共に
静かな旋律が再び息を吹き返し、穏やかな中で芯の強い盛り上げを見せながら音が広がって行く。
左右からのライトが交差するように3人に当てられ、夜空のスクリーンにカレイドスコープの映像が重ねられる。スモークにキラキラと光が反射する。3人の歌声が掻き消え、余韻を残したまま旋律が溶け消える。
上部からステージ上を照らしていた照明が消え、間接照明だけが照らし出す中でスクリーンの映像が黒く染まる。
カレイドスコープの光が波紋のように小さく回り、ふっと・・・全ての照明が消えた。
◆
2組の演奏が終わると、シュウがパチパチと手を叩いた。しかしキョウもユナもそれに続こうとはせず、どこか虚しい雰囲気が漂っていた。
「私が先に出した歌詞を見て、それぞれがどんな事を想像したのか何となく分かるような繋ぎだったわ」
ユナはそう言うと、ふっと視線を上げた。
「この歌詞は、対がたくさんあったと思うわ。あとね、不思議な矛盾もあったと思うの」
「矛盾、ですか?」
「願いの色は鮮明なのに、未来に続く橋は朧。それから、触れられない光はどの光だと思ったかしら?単純に考えれば、鮮明な願いじゃないかしら。過去は幾千もあるのに、未来に続く橋は1つ。歌詞には1つとは書かれていないけれど、未来に続く橋と言われて複数はあまり思い浮かべないと思うの。この歌詞のベクトルは、願いであり、未来であるの」
ユナはそう言うと、ピラリと1枚の紙を一同に差し出した。
見慣れた歌詞の下に、続きの歌詞がある。そして・・・曲名は『Dream Road』となっている。
「歌詞の途中でね、目を閉ざしってあるでしょ?つまり、それ以下は目を開けない限りは周囲は見えないの。だから、水を感じるのは目ではなく指先。暗い闇の中、それは目を閉じているからよ。鮮明な願いに、朧な未来に、目を背けるの」
もし輝く月が地上に舞い降り 冷たい水を温め
揺らめく未来への橋を 照らす時がきたならば
勇気を出して Open My Eyes
「まずね、Orpheusの歌詞は良く出来ていたと思うわ。ただね、『貴方と言う名の道標』はどうかなって。その前の部分で『絶対的な貴方の存在』としたのよね?それなら、『道標』である『貴方』は『絶対的』でしょう?それなのに、未来に続く橋は朧なの。道標が絶対ならば、未来は朧じゃないでしょう?絶対的な道標があるならば、未来は絶対的でないと。次のLittleは・・・歌詞を変えてはいけないって、最初に言ったわよね?『輝くのは幾千の過去』ではなく『思うは幾千の過去』よ」
ユナが言葉を切ると、視線をシュウに向ける。
「演出は・・・森の愉快な仲間たちは少し演出過剰だったかなって。振り付けが細かくて、見てて疲れちゃったなって。あと、最後の羽根が舞い落ちるって言うのも、番組だったらスタッフさんがやってくれるけど、こう言う場面では自力でやるか、頼むかのどっちかしかないよね?どうやっての部分をキチンとしないと。T.R.Y. with Fは綺麗だったと思うよ。カレイドスコープなんて、よく考えたね。ちょっと嫉妬しちゃうなぁ」
シュウが苦笑しながらそう言って、3人に視線を向けた。
◇
シュウが淹れたお茶を飲みながら、エルティナは先ほど見た歌詞の内容を思い出していた。ユナが続けた歌詞の中、曲名だけではなく・・・なにか、他にも意味を含んでいるように思う。
「ユナさん、1つお聞きしたい事があるんですけれど」
「はい?」
舵が隣に座るユナに声をかけ、少し言葉を探した後に質問をぶつける。
「あの歌詞の中の『月』とは、何を指してはるんです?」
その言葉に、その場に居た全員の視線がユナに集まる。夢への道と題された歌詞の中で、月は重要なターニングポイントにあった。月が舞い降りてきたからこそ、未来へと続く道が鮮やかになったわけであって・・・
「あれは・・・そうね、月なんてそんなに良いものじゃないけれど。貴方達もいるんじゃないかしら?夢への道を照らしてくれる『仲間』が」
「仲間・・・」
ポツリと呟いたククの声が、やけに長くその場に漂っていた・・・。