お嬢様の事情8アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 5.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/11〜02/13

●本文

 黙っていれば王子様か勇者様か!?と思うほどに整った外見をした大胡 信也(おおご・しんや)は送られてきた手紙を握り締めると彼らしからぬ苦々しい表情を浮かべた。
「あいつら‥‥」
 低い呟きは、広い部屋の中に吸い込まれて行く。
「いい加減時効だと思ってたが、そうじゃなかったらしいな。俺の甘さがまさかお嬢様を巻き込むなんて思ってもなかった」
 軽く首を振る信也。
 そう。受け取った手紙にはお嬢様、白雪 可憐(しらゆき・かれん)を誘拐したと書かれていたのだ。
 そもそも、外見こそは泣く子も黙る超絶美少女の可憐だったが、中身は外見を裏切るくらいに俺様で乱暴だ。そんな可憐がやすやすと誘拐などされるはずがない。
 万が一薬か何かで眠らされてしまったとしよう。それでも、目が覚めた後はその場に居た全員をぶちのめすくらいはやってのける。
 縄を引き千切り、鉄製の巨大な扉を蹴破る事くらい、可憐にとっては朝飯前だ。
 だからこそ、信也は可憐が誘拐されても、オロオロとはするものの内心では彼女の強さを信じていた。
(‥‥でも、今回は状況が違う)
 信也はキリリと表情を引き締めると、可憐の母親・儚(はかな)の部屋の扉を叩いた。
「どうぞぉ〜?」
 間延びした声に扉を開ければ、一生懸命マニキュアをぬっている儚と目が合った。
「お話があります」
「‥‥昔の顔をしてるって事は、深刻はお話なのね。そこに座りなさい」
 信也の表情に全てを悟った儚が、目の前の椅子を勧めるとマニキュアをテーブルの端に押しやる。
「可憐様が俺の昔の仲間に連れて行かれました」
「信也君の昔の仲間‥‥それは厄介ね。それで?手紙には何と?」
 手紙が来た事まで分かっているとは、流石は儚だ。信也はグシャグシャになっていた手紙を儚に差し出すと唇を噛んだ。
 『お前の大切なお嬢様を預かってる 今晩8時 一人で第8倉庫へ来い』
「‥‥仲間に引き戻すのが目的かしら」
「仲間には、戻りません」
 はっきりと言い切った信也は、ややあってから「でも」と言葉を続けた。
「可憐様を無事に帰すと言う条件がソレでしたら‥‥」
「仲間に戻る?」
「はい。その時は、俺を解雇なさってください」
「どうして?」
「白雪家を巻き込むわけにはいきませんから」
 信也はそう言うと立ち上がり、儚に深々と頭を下げた。
 そして、儚に背中を向けると扉を開け‥‥
「ねぇ、信也君」
 何気ない様子で儚が声をかけ、テーブルの端からマニキュアを取ると手の中で転がす。
「可憐ちゃんの事、どう思ってるの?」
「‥‥お守りすべき方と、思っています」
「本当にそれだけ?」
「‥‥それ以上の感情が、必要でしょうか」
「必要とか、不必要とか、そう言う問題じゃないと思うけど」
「‥‥失礼します」
 信也は振り返らずに、部屋から出て行った。
「信也君、私は素直に気持ちも言えないような子に可憐ちゃんを渡す気はないのよ」
 そう独り言を呟くと、儚はマニキュアをテーブルの上に転がした。


≪映画『お嬢様の事情』募集キャスト≫

*白雪 可憐
 泣く子も黙る、超絶美少女。外見年齢15〜18程度
 ふわりと天使の微笑を向けられたがために卒倒した男性がいるとかいないとか
 性格は腹黒で大雑把で俺様。猫かぶりの術に長けているため、お嬢様演技も完璧
 お嬢様時は『わたくし』『〜様』『ですわ、ですの』信也は『ジイヤ』または『信也さん』
 俺様時は『俺、俺様』『お前、てめぇ』『〜だぜ、だよな』信也は『ジジイ』または『信也』

*大胡 信也
 女性ならば思わずキュンとしてしまうほどの王子様&勇者様外見。外見年齢15〜20程度
 控え目な笑顔(困った時)と凛々しい表情(夕食のメニューを考えてる時)に卒倒する女性がいるとかいないとか
 性格はいたってヘタレ。可憐に散々いびられた過去を持つために、絶対服従
 通常時『俺、私(可憐に接する時)』『〜さん』『です、ます』可憐は『お嬢様』または『可憐様』
 ヘタレ時『わたくしめ』『〜様』『です、ます』可憐は『お嬢様』
 ひっそりと可憐に思いを寄せている。白憐(はくれん)と言う白猫を飼っている。

・白雪 儚
 可憐の母親で、外見は可憐にソックリの落ち着いた大和撫子風美女
 中身はいたって若者で、言葉遣いも砕け調子
 『私・儚ちゃん・儚様』『〜さん、〜君、〜ちゃん』『〜じゃーん』『〜でしょぉ』
 『超〜』や『マジ〜』なども使う


・その他
*可憐を誘拐した人々
・白雪家のお手伝いさん
・可憐や信也の友人     など

*今回、信也の過去と関係のあるお話になります
・信也は過去、色々な出来事があってすれていました。そのため、あまり宜しくないお友達とつるんでいました
→過去の詳細は具体的には出ませんので、詳細を決める必要はありません
・信也は現在ではヘタレですが、本当はかなり可憐に近い性格です。計算高く、腹黒で喧嘩が強いですが、俺様ではありません
→今回の信也はこちらの性格で行動します

・このお話をシリアスにする場合は、OPの流れの通りになさってください
・このお話をコメディにする場合は、可憐が大暴れなさってください(それはもう、信也の心配も裏切るくらいの大暴れを展開なさってください)

*注意事項*
・その他のキャストの性格を決めるにあたって以下の事を厳守下さい
*見た目と性格のギャップ
例1)超美少女でお嬢様外見なのに俺様口調で凶暴な性格(可憐)
例2)王子様か勇者様かと思うほどの外見なのに、ヘタレで腰の低い性格(信也)
→今回、シリアスにした場合は必ずしもこの注意事項を守らなくてはならないわけではありません。コメディの場合は厳守ください。

●今回の参加者

 fa0142 氷咲 華唯(15歳・♂・猫)
 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0868 槇島色(17歳・♀・猫)
 fa2640 角倉・雨神名(15歳・♀・一角獣)
 fa3072 草壁 蛍(25歳・♀・狐)
 fa3251 ティタネス(20歳・♀・熊)
 fa3319 カナン 澪野(12歳・♂・ハムスター)
 fa5404 橋都 有(22歳・♂・兎)

●リプレイ本文

 命からがら宝田家から逃げ出してきた薫(カナン 澪野(fa3319))はブスっとした顔をしながら信也(氷咲 華唯(fa0142))の後をついて来ていた。
(可憐誘拐なんてどーでも良いけど、それで信也兄さんがいなくなるのは嫌だし‥‥)
 ピリピリとした様子の信也に、薫は「可憐を助けるためじゃなく、会いに行きたいから一緒に行く」と言って同行を申し出た。
「別にアイツが心配なわけじゃないし、兄さんを助けるためでもない。僕の勝手だ!」
 言い出したら聞かない白雪家の血を思い出し、信也は苦悩した後で条件付きで薫の同行を許可したのだ。『危ない事は絶対にしない、危なくなったら逃げる』その2つを守れるならばと、渋々承諾したのだった。
 綺麗に部屋を纏めた信也に続き、白雪邸を出ると真っ直ぐに伸びる道を繁華街の方へと歩き出す。
「ちょっと信也さん!」
 突き刺さるような声に、信也と薫は足を止めた。両手に大きな買い物袋をぶら提げた女性が2人、バレンタイン間近の華やかな雰囲気漂うお菓子屋さんから出てくる。ビクトリア朝時代のメイド服を着た大田 武子(MAKOTO(fa0295))と、ふわロリなドレスに身を包んだ高田麗子(ティタネス(fa3251))が走り寄って来ると、信也に非難がましい視線を向ける。
「可憐さんが誘拐されたって、どう言う事ですの!?わたくし、怪しげな人達と一緒に居るのを見ましたけれど、てっきり可憐さんのお友達かと思ってましたのよ!」
 人懐っこそうな愛らしい顔をした麗子は、中身は高飛車お嬢様だ。しかも、服のセンスにしろ愛猫の名前にしろ、とにかくセンスがない。薫が口の中で「すげぇ」とポツリと呟くが、彼にしたって外見だけ見ればアンティークドールのような愛らしさがある。口さえ開かなければ‥‥
「賊は可憐殿ほどの猛者を捕らえるほどの手練!微力なれど拙者も助太刀いたす」
 とりあえず、メイド服を脱げ。思わずそうツッコミたくなるような侍口調で武子が呟き、主人である麗子の前に歩み出る。信也が何かを言おうと口を開いた時、突然背後から彼にアタックを仕掛けてきた者がいた。
「いたたた‥‥あれ?皆さん、どうしたんですか?」
 姫月 牡丹(槇島色(fa0868))が強かに打った腰に手を当てながら首を傾げ、道に転がった蜜柑を袋の中に戻してから立ち上がる。
「実は、可憐さんが誘拐されたようなんですの」
「ゆ、誘拐!?それは警察に連絡した方が良いです!今すぐ、110番です!」
 慌てながらもポケットから携帯を取り出し、パカリと開け‥‥信也が咄嗟に携帯を取り上げようとした所、うっかり小指が牡丹の眼鏡に引っかかった。カシャンと落ちる眼鏡を薫が拾い上げ、顔を上げるとその場で硬直した。
 ジャージにどてら姿の地味で大人しい雰囲気の彼女が、指を鳴らしながら不敵な笑みを浮かべている。
「そう言うことならあちきも協力するぜ!全員まとめてぶちのめ‥‥」
 信也が薫の手から眼鏡を取り上げ、そっとかける。途端に先ほどまでの大人しさを取り戻した牡丹が、眼鏡を親指で押し上げる。
「‥‥皆さん、誤解をされているようです。可憐様は誰にも攫われておりません」
「でも‥‥」
 静かな信也の声に、麗子が反論しようとする。が、信也の冷ややかな瞳を見詰め、思わず言葉を飲み込む。
「俺と『薫』は、ただ単に儚さんに言いつけられ、買い物をしている途中なだけです。何処の誰が嘘を流したのかは知りませんが、皆様もその様なデマに翻弄されませんようお気をつけ下さい」
 その言葉が嘘だと言う事は、薫を呼び捨てにしたことで直ぐに分かった。薫はれっきとした白雪家の人間だ。信也は例え1歳にも満たない子供であろうとも、白雪家の人間を呼び捨てにするような事はしない。
「分かりましたわ。どうやらわたくし達の勘違いのようですわね。お騒がせして申し訳ありませんわ」
 麗子の言葉に武子が何かを言おうとするが、思いとどまって口を閉ざす。信也が「急ぎますので、失礼致します」と言って踵を返し、牡丹が慌てて携帯の番号を書いた紙をその手に握らせる。
「もし、何かありましたら‥‥」
 去って行く2人の背中を見詰め、暫し目を閉じて何かを考えた後で、麗子は歩き出した。
「親友を放っておけるわけないじゃありませんの」
「姫様の御身、拙者が命に代えてもお守りいたします」


「可憐ちゃん、ああん。やっぱり素敵‥‥あーんた達っ、傷一つだってつけたら許さないからね!」
 と言うわけで、まんまと誘拐されてしまった可憐(角倉・雨神名(fa2640))はと言うと、薬が切れた途端に黒スーツにゴージャスなコートを羽織った男性の姿を直視してしまい、思わず盛大な溜息をついた。
「アタシは大善寺良彦よ。善良と書いて悪人と読むとかは言いっこなし。ジェニファーって呼んで頂戴!」
「何がジェニファーだ!」
 どっから『ジェニファー』が出てきたのか甚だ不思議だ。手足を縛っていた紐を馬鹿力で引き千切れば、すぐさま良彦(橋都 有(fa5404))の部下が巻きなおしてしまう。
「怨みとかはないのよぅ?お金も有り余ってるし。ただ、その可愛い姿を譲って欲しいだけなの。あなたにだって悪い話じゃないでしょぅ?情けない男の嫁に納まる器じゃないと見たわよ」
「まぁな。情けねー男の嫁になんて、頼まれたってなってやるかっつーの!」
「話が分かるじゃない!さすがは白雪家のお嬢様だわ」
「だいたい、最近の男は弱っちすぎんだよ。この間なんて、ちょっと死角からのハイキックくらわしただけで伸びちまったんだぜ?まったくよー、か弱い俺様の蹴りくらい止められなくちゃヤローとは言えねぇよな」
 愚痴を垂れる可憐に近付くと、良彦はガシっとその肩を掴んだ。


 差し込んできた光に、真行寺 蓮実(草壁 蛍(fa3072))は薄く微笑むと椅子から立ち上がった。
「約束通り来ました。お嬢様は無事なんでしょうね?」
「あらあら。私の下で喘いでいた坊やがこんなに素敵な目をしてくださるだなんて」
「要求は何なんですか。手を出すなら直接俺にやれば良い」
「坊やは馬鹿ね。長年私の下にいたのに、まだ分からないの?同じ様な『属性』の人間は、自身を痛めつけられるよりも大切な人を痛めつけられるほうがクルって」
「‥‥お嬢様は無事なんだろうな!?」
「知らないわ。そんなに無事を知りたいんなら、自力で確かめてみれば良いでしょう?言葉と態度だけではなく、行動と実力で」
「‥‥俺の大切な人に手を出したこと、後悔させてあげます」
 ギラつく瞳に、蓮実は思わず舌なめずりをした。何時の間にか成長していた信也は、思わず笑みがこぼれるほどに『危険』な雰囲気を纏っていた。着物の裾を肌蹴させ、太ももからスっとナイフを取り出すと切っ先を信也に向けて構える。
「おいで、坊や。可愛がってあげる」


 薫は半べそをかきながら、薄暗い倉庫の中を歩いていた。
(どこにいるんだよ可憐!)
 蓮実を見るまで、薫は可憐の心配など微塵もしていなかった。むしろ、相手の生死を心配するほど、薫は可憐の強さに絶対的な信頼を寄せていた。けれど、蓮実の表情を見て悟った。今度ばかりは、可憐も無事ではすまないかもしれないと‥‥。長い廊下を進み、突き当りの扉をそっと開ける‥‥
「随分、元気そうだな」
 ケラケラと笑いながら良彦と歓談していた可憐が、涙を人差し指の背で拭いながら薫を振り返る。その能天気な顔に、思わず怒りの言葉をぶつけたくなったが、何とか堪える。
(心配して損した)
 でも、無事で良かった。薫は、心底そう思った。いくら口先では嫌いと言っても、幼い頃から一緒に育ってきた仲だ。相手がピンチに陥れば、簡単に見捨てられるはずが‥‥
「突然入って来て、失礼な子ねぇ。楽しい時間を邪魔しないで頂戴。吊るしておしまい!」
「え、おい!?」
「いーぞ!やっちまえ!」
「てめ、この、ヤメロ!こっちはお前を助けに来たんだぞ!?」
「はぁ〜?だーれがンな事頼んだんだっつの!」
 舌を出した可憐に、薫がブチ切れながら大暴れを開始する。
「全くうるさい小娘ねえ!顔だけは可愛いのに幻滅よぅ!可憐ちゃんを御覧なさい、怒鳴ったって顔は崩れないわよぅ!?」
「俺は小娘じゃねぇっ!!顔が崩れねぇって、可憐はメイクが濃いだけだ!おーろーせーっ!」
 ジタバタする薫をそのままに、良彦と可憐の視線は扉へと注がれていた。頬や腕から血を流しながら、信也が無表情で入って来ると可憐の腕を乱暴に掴み、グっと奥歯を噛み締める。
「お前、この怪我‥‥」
「手加減されてましたから、平気です。それより、お嬢様がご無事で何よりです。一緒に、帰りましょう」
「‥‥来んのが、おせーんだよ。テメーがおせーから、自力で何とか出来ちまったじゃねぇか」
「今度からは、もっと早く来ます。いえ、今度からは‥‥」
「ンだよ」
「何でも、ないです」
 そっと、手を繋ぐ。飲み込んだ言葉をまだ言う勇気は出ないけれど、その細い手を握り締める勇気くらいならあるから‥‥。
 遅れて入ってきた麗子と武子が安堵の溜息を漏らし、牡丹に連絡を入れる。蓮実と良彦が寂しそうな、それでいて嬉しそうな瞳で成長した信也の後姿を見送り‥‥


「‥‥僕の運命って、何?」
 すっかり忘れ去られた薫は、宝田家の人達が助けに来てくれるまでずっと倉庫の片隅で吊り下げられていたのだった。
「‥‥へーっくしゅん!‥‥さぶい‥‥」