SPLive 雅な薔薇アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
宮下茜
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
難しい
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報酬 |
1.3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/14〜08/18
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●本文
デスクの上に書類を並べ、立花・マドカはスタッフを呼ぶと普段はあまり見せない笑顔を向けた。
「今回のテーマが決まったわ」
「マドカさん、随分ご機嫌ですね」
「・・・何か良いことでも?」
「久しぶりにゆっくり眠れたから、元気なだけよ」
「それは良かったです。顔色、悪かったですからね」
「心配をかけたわね。もう大丈夫だから安心してね?」
「それで、今回のテーマは・・・」
スタッフ一同が書類に視線を落とし、困惑の表情をマドカに向ける。
「『雅』な『薔薇』ですか・・・?」
「そう。雅な薔薇」
「雅って、和風ですけれど・・・薔薇って洋風じゃないですか?」
「そこが良いんじゃない」
「良いんじゃないって、そんな簡単に言わないでくださいよ・・・」
「薔薇をいかに雅に魅せるか。雅って、慎ましい雰囲気でしょう?華美な薔薇を、いかに大人しく魅せるか」
「大人しく、しかも美しく・・・ですか?」
「えぇ」
マドカは軽く頷くと長い髪を肩から払った。
「背景のサンプル映像は、今回は特になにも出さなくて良いわ」
「え!?良いんですか!?」
「・・・えぇ。ただし、薔薇の映像をいくつか選んでおいて。出演者の言う薔薇の映像がなければどこかで調達してきて」
「うわ、大変そう・・・」
「文句言わない!」
ビシっと人差し指を突きつけられ、愚痴を零したスタッフが思わず肩を竦める。
「それから、はいコレね。毎回同じような内容だけれど、基本的なことが書かれているから」
・『雅』は、歌詞でも曲でも雰囲気でも可
・照明の色、明るさは指定を明記のこと
・ソロでもグループでも参加可
・背景は『薔薇』もしくは『薔薇をモチーフにしたもの』
*今回、スクリーンに映す映像は『何でも可』ではないのでご注意下さい
・今回はサンプル提出がないので、事前にどんな映像が良いかををスタッフに伝えておくこと
・歌以外もなにかプラスのモノを見せること
・歌詞はオリジナルのもののみ
・自分の前に歌う人を紹介すること(個人orグループ名、曲名、+α)
・トップバッターの人の紹介は最後に歌う人がすること
「毎回マドカさん、流れが大切って言ってますけど、流れって難しくないですか?」
「そうね。難しいかも知れない。でも、流れがあって1つの物語があるから楽しいんじゃない」
「そんな安易に言わないでくださいよ・・・」
「例えば、今回のテーマならば“薔薇が花開く”を流れの基準においても良いし“薔薇が散る”を基準においても良いわ。要は薔薇なのよ、流れの大本は。後は各自で自分なりの『雅さ』を演出すれば良いの」
「薔薇が流れの大本・・・ですか?」
「そう。薔薇に流れを絞れば、あとは時の流れの繋ぎをやれば良いの。夜に蕾だった薔薇が朝花開くとかね」
「朝に蕾だったのが夜開くでも良いですしね。なんだかバリエーションが沢山ありますね」
「薔薇が生花の場合はその流れでも良いし、もし・・・薔薇が造花だったら?」
「蕾なら蕾のまま、咲いているならそのまま・・・ですね」
「咲けない哀しさ、咲けない切なさ、咲き続けなければならない誇り、咲き続けなければならない絶望、色々考えられるわ」
「咲き続けなければならない、絶望ですか?」
「永遠を哀しいって思う人もいるってコト」
マドカはそう言うと、不思議な笑顔を浮かべた・・・
◆補足
・ステージは2箇所、向かい合わせにあります。2つのステージの真ん中にはエキストラ(お客)が立っており、カメラもあります。
・AステージもBステージも同じつくりです。
・トップバッターは必ずAステージでライブを行ってください。2番目以降はAかBどちらかを選んでください。
・続けて同じステージの使用もOKですが、その場合はバックバンドの入れ替えに時間をロスしてしまいます。
・バックバンドを使わない場合は前もってスタッフに使用する曲を渡しておいてください。
・SPは、セルフ・プロデュースの事です。自分達の個性を、個性が集まった1つのライブの流れを、自分達の手で作り上げてください。
●リプレイ本文
◆
忙しく走り回るスタッフに的確な指示を飛ばしているマドカを見つけ、相麻 了(fa0352)は深々と頭を下げた。
「右も左も分からない青二才なので、宜しくご指導下さい」
「あら?貴方は・・・」
硬かったマドカの表情が少しだけ緩み「相麻君ね?」と小さく確認のように呟くと顔を上げるように一言向ける。
「今日は、一緒に素敵なライブにしましょうね?」
マドカがそう言って右手を差し出し、了はその手を取ると元気の良い返事をした。
◇
着物生地を使った深緑のドレスを身に纏い、腰に赤蔓薔薇モチーフのベルトを巻いたCamille(fa0340)と雛姫(fa1744)、そして蓮 圭都(fa3861)が明るいライトの中に姿を現す。
「紳士淑女の皆様方ようこそお越し下さいました。SPLive本日のテーマは『雅な薔薇』。薔薇の色の移り変わりをどうぞお楽しみ下さい!トップバッターはこの方『Black Rose』の名の通り、黒薔薇を歌うはソウマ・・・いえ期待の新人『JORKER』!花言葉はあなたは、私のもの」
順々にマイクを渡しながら喋り、最後の言葉だけ声を合わせる。
左肩に黒薔薇のタトゥー、素肌に鋲打ちのレザーベスト、細身のレザーパンツ、背景には年代がバラバラの映画のモノクロの映像が流れている。スタンド式のマイクを引き寄せると同時にバックに控えたバンドがハードロック調の曲を奏で始める。
『Black Rose』
求め合って
闇に包まれて
体重ねあえば love machine
言葉は要らない juicy night
お前はもう俺のモノ
俺の胸の中で
ただ鳩のように鳴けばいい
ah 俺は黒い薔薇 ふしだらな恋の呪い
ah 俺は黒い薔薇 雅な愛欲の使徒
ギターとオルガンが主旋律を奏で、間奏ではバイオリンのソロが切ないほどに細い音を紡ぎ出す。その中を、弾みをつけて1回だけ後宙をして“魅せる”。観客席から盛大な拍手と歓声が上がり、再び続くメロディに観客は徐々に惹きこまれて行った。
「でわ、次は『長春花』の『優しき奇跡』!次の薔薇は桃と青。花言葉は優しさと奇跡。優しい奇跡が舞い散ります」
歌い終わった後のまだ落ち着いていない荒い息で元気良くそう言うと、にっこりと極上の笑みを浮かべた。
桃色の薔薇が刺繍された袴と袖のない着物を着た夢想十六夜(fa2124)と白と藍を重ねた狩衣を着た月影 飛翔(fa3938)が月の光が映る水面の中2輪の桃と青薔薇の蕾が解けて花弁になり舞い上がっている幻想的な背景の前に立つと、横笛や鼓の音が踊るメロディが響き渡る。
『優しき奇跡』
桜散りゆく 夜空見上げ 遠くに浮かぶ影を見ていた
遠くから聞こえる鈴の音色が 胸にしみて 涙止む事を願った
桜の色が眩しく見えるのは何故?
心の何処かで貴方が 笑っているからでしょう
心に花の棘 決して抜けるの事のない
その痛みに涙を流して 貴方の背を見守った
あの時 薔薇の花の下 誓った約束胸に秘め
桃色の花弁が舞い散る中を、十六夜が柔らかく舞い踊る。飛翔が弾く琴の音が、2色の花弁を撒き散らせながら舞う十六夜の美しさを引き立たせる。
「次は『Serenade』曲名は『Rosa laevigata ―恋告鳥―』、薔薇は白薔薇、花言葉は「恋の吐息」。ここに恋を確かに感じる瞬間があります」
月明かりの下 見送った青き影は 貴方の背中でした
薔薇の花の下 誓った約束だけが 立ち止まる背を押してくれた
貴方に出会えた事で私は今
この先を照らす光を見つけたの
心の花の棘 決して抜ける事はないけれど
その痛みが直に優しい思い出となれば
青き月のように 心の貴方を照らせられる
幾万の星の中 貴方という星に出会えた事は
偶然や運命ではなく 奇跡なのでしょう
薔薇の花の下 誓った二人だけの約束
指先が例え 貴方に届かなくても
永久(とわ)に忘れる事はない 優しい奇跡
月下に舞う花弁のように
優しい奇跡に 祈りを込めて
青色のライトが花弁を鮮やかに映し出し、一筋の月光の中、両色の花弁が舞い散り光の中で2輪の蕾が綻び始めているのが見える。風が舞い、2枚の花弁が舞い上がると突然舞台は暗転する。その中でチリンと小さく風鈴の音が響き、長く尾を引いてその場に透明な音を残した。
薄明かりの照明の中、まだ風鈴の音が耳に残っている。白薔薇の織模様のついた白い着物を着て舞台の上に身を倒した蓮城 郁(fa0910)の上に、薔薇の織が入った紗の薄衣を肩にかけ白のワンピースのスカートを揺らしながら近づいた観月紗綾(fa1108)が薔薇の花弁を降らす。背後に控えた琴とピアノのバックバンドが郁が起き上がるにしたがって細い旋律を紡ぎ出す。
郁「東雲、朝未き、暁降ち、鳥が告げるは朝の訪れ。まだ明けきらぬ紺天を、ゆうるりと舞い降りた一陣の風」
伸ばした手には戸惑いの表情を浮かべて触れず。
郁「逢瀬を重ね」
紗「いつしか育まれる想い、心寄せる時」
郁「人と」
紗「鳥とが」
二人「恋を知る」
見詰め合った瞳は悲しげにそらされ。
紗「夜が、明ける」
郁「やがて飛び立つ暁の鳥」
紗「約束のない空へと帰る」
名残惜しい瞳はそのままに、身を翻す紗綾の着物を掴み、衣を抱くと薔薇の花弁が舞台上に舞い、一瞬だけライトが凶器なまでに明るくなる。
“翼”を無くした“彼女”と見詰めあい、触れ合う。
二人「それは恋の奇跡。夜毎紡がれる儚き夢が、確かな夢へと変わる時」
『Rosa laevigata―恋告鳥―』
夜 謳うことを忘れた鳥のように
吹く 風に 身を寄せていた
いつしか 風も吹くことを止めると
誰が私に 教えたの
言の葉を 囁くは貴方(夢見るように 瞳を開ける)
恋の迷いを 囀るは鳥(囁きさえ 耳を貸さずに)
一人の夢を ただ見ていた 嘗ての私は 何処にもいない
恋の吐息 微かに(怯える その手を繋いだなら)
互いの心に 堕ちてゆく(離さず 参りましょう)
いつしか 自分の心に 自分でない 誰かが棲むこと
誰が私に 教えたでしょう
紡ぐ 夢
紡ぎあげられる 恋の夢
互いの胸 花咲かせ 白い花びら 花開く
追いかけ・問うよう、互いに歌い合う。曲調は小夜曲、ピアノの旋律のみが切ないほどに繊細なメロディを紡いでいた。
二人「それは恋の奇跡。夜毎紡がれる儚き夢が、確かな夢へと変わる時」
客席に向かって深々と頭を下げると、開いた扇をBステージへと向ける。
「Carrin、紅恋花。抱くは紅の薔薇」
ステージ上の2人の視線が絡み合い、小さく微笑む。
「その言の葉は【貴方を、愛します】」
バイオリンが奏でる小鳥のさえずりとともに流れる静かなイントロ。胸と髪に大輪の赤い薔薇を飾った雛姫が笑顔でお辞儀をし、優雅に腕を広げると楽しげなメロディがバックスクリーンに映し出された開いたばかりの1輪の赤い薔薇の映像を華やかに彩る。
『紅恋花』
天高く響く鳥の歌声と甘い蜜の香り
清らかな朝日に包まれる
秘密の花園の鍵の在処
知ることができるのは恋する2人だけ
ねぇ 綺麗になれる魔法教えて?
I love you
優雅に咲 red rose
華やかなその色に私も染まりたい
fall in love
情熱の花 red rose
あなたがそばにいてくれれば
どんなピンチも乗り越えられるの
艶やかな薔薇のように私も花開きたい
ねぇ 幸せになれる呪文聞かせて?
I love you
誇らしく香る red rose
瞳を閉じればほら 重なる想い
fall in love
満開の紅恋花
あなたの笑顔に勇気を貰って
花園の扉を今開くわ
薔薇が花弁を広げ満開になり、ゆっくりと回転していく。誇るような美しさを画面いっぱいに広げた前で、3人の奏でる音色が溶け合うように響く。雛姫の透明な歌声とバイオリンの響きが一体となって広い会場内に染み渡った時、ふっと最後の旋律が名残惜しそうに空間を漂い、溶け消えた。
盛大な拍手の中、出演者達がステージの上に一列に並ぶ。端から順々に頭を下げてゆくその姿を途中まで見た後で、マドカはスタッフの一人を呼び止めると言伝を頼んで会場を後にした。
◆
「本日はお疲れ様でした」
ステージが終わって廊下に出ると、そこにいたのは20代後半くらいの若い男性だった。首からスタッフのパスをぶら提げており、圭都が首を傾げてスタッフの背後を見やる。
「マドカさんなら、お帰りになりましたよ。次の仕事が押しているんだそうで、最後まで見届けてから大急ぎで」
「それなら仕方ないな」
飛翔がそう言って、足元に視線を落とす。いつもならば、マドカが感想を伝えるためにこの場で待っているのに、なんだか少しだけ寂しい気がした。
「そう言えば、マドカさんから皆さんに言伝を預かっているんですが・・・」
「ぜひ聞きたいわ」
圭都の言葉にコクリと頷くと、視線を宙に彷徨わせる。
「華やかなステージで、流れもきちんと考えられていたと思う。でも、根本的なものが抜け落ちているライブで、正直悲しかった」
「根本的なもの・・・?」
「見てくださるお客様への感謝、場を作り上げるスタッフ達への感謝、一緒にやれる仲間への感謝。魅せるライブと、見せるライブは違う。SPで一番必要なのは心。悩んで話し合って、作り上げるライブは最高のもの。技術や演出、華やかさも勿論大切。でも、このライブでは“心と心の繋がり”を大切にして欲しかった“この会場にいる全ての人と作り上げるライブ”にしてほしかった。自分達だけで作り上げる、そんなライブにはしてほしくなかった」