香水瓶の秘密アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 難しい
報酬 7.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/15〜02/17

●本文

 煙草の臭いが充満した部屋の中、石動 帝(いするぎ・みかど)は書類が積み重なったデスクの上に靴のまま両足を投げ出していた。生憎この部屋には彼しかおらず、お行儀が悪いと諌めるような者は居なかった。
 長くなった灰をデスクの上、ガラスの灰皿に落とした時、この部屋に1つしかない扉が軽いノックの音とともに開いた。
「こちら、何でも屋さん、ですよね?」
 よく通る彼女の声は、直接帝の鼓膜を揺さぶった。
 ピシっとしたスーツに、ふわりとカールした髪は肩につくかつかないか程度。
 濃い目の化粧はそれでも、不快に思わない程度だった。
「わたくし、こう言う者です」
 ハンドバッグから取り出した名刺には、とある大企業の社名が左上に印刷され、その下に秘書と言う2文字。更に視線を右に移動させれば、彼女の名前が書かれていた。
「大野 雅(おおの・みやび)さん?」
「はい」
「こんな大企業に友人はいなかったと思うが、誰経由で此処を知った?」
「‥‥実は貴方に、あるものを取り返してきて欲しいんです」
 雅は帝の質問には答えずに、バッグの中から2枚の写真を取り出すと帝の前に差し出した。
「ほう、随分な有名人じゃねぇか。ま、アイドルってわけじゃねぇから、隠し撮りしても売れるとは思えねぇけどな」
「この2人をご存知なんですね?」
「俺だって、テレビくらい見るさ。アンタんとこの会社と競ってるとこのお偉いさんだろ?」
 短くなった煙草を灰皿に押し付け、足をデスクの上からどけた。
「そうです。名前は、右が飯島 博(いいじま・ひろし)で左が大東 泰(だいとう・やすし)です」
「あぁ、知ってるぜ。兄弟みてぇな名前だと思ったからな。ま、顔は似ても似つかねぇけど」
「この2人が持っている、とあるものを取り返して欲しいんです」
 バッグの中から綺麗な色をした香水ビンを取り出すとフタを取る。途端に良い香りが室内に広がり‥‥
「アンタのつけてるのと同じだな」
「えぇ」
「で?あるものって何だ?この香水か?あいつらがこんな良い香りの香水を愛用してるとは思えねぇけど?」
「半分はあっています。取り返して欲しいものは、この香水ビンなんです」
 雅はそこまで言うと、少し間を取った。そして、周囲を気にした後で低く言葉を続ける。
「正確に言えば、この中に入っている『鍵』を取り返してきてもらいたいのです」
「香水瓶の中に、鍵?」
 確かに、目の前にある香水瓶には色がついており、中身が見えなくなっている。鍵が入っていたとしても、振ってみない限りは分からないだろう。
「しっかし、香水ビンの中に鍵たぁ‥‥何の鍵なんだ?」
「それは言わなくてはならないことでしょうか?」
 直訳すると、言いたくないと、そう言うことだ。
「まぁ、別に良いさ。俺は仕事に見合った報酬さえ貰えりゃ文句はねぇ」
「‥‥勿論、それなりの額はご用意してあります」
 前金としてと言って、ゼロが幾つも並んだ小切手をデスクの上に置く。
「残りは成功報酬としてお支払いいたします」
「いつまでに終わらせれば良い?」
「早ければ早いほど」
 雅はそう言うと、不敵な笑みを残して背を向けた。何か用があれば、此処に電話をかけて来て欲しい。そう言って置いて行った携帯のアドレスの書かれた名刺には、真っ赤な唇の形が描かれていた。


≪映画『香水瓶の秘密』募集キャスト≫

*石動 帝
 ヘビースモーカーの何でも屋
→外見年齢、実年齢ともに20以上の方
 かなりタフで、銃の腕はなかなか
 『俺』『お前(呼び捨て)』『だ、だぜ』少し乱暴な男性口調

・飯島 博
 とある大企業の重役
→外見年齢20以上の方

・大東 泰
 とある大企業の重役
→外見年齢20以上の方

・大野 雅
 妖艶な雰囲気の美女。とある大企業の社長秘書
→外見年齢20以上の方
 香水瓶の中に入っている鍵を必要としている
 『わたくし(私)』『〜様、〜さん、貴方』『です、ですの』丁寧な女性口調

・その他
・帝の協力者(1人か2人程度)
・泰や博の勤める会社の社員
・泰や博のボディーガード    など

*外見年齢20以下の方は役が限られてきますのでご注意ください

●今回の参加者

 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)
 fa3831 水沢 鷹弘(35歳・♂・獅子)
 fa3887 千音鈴(22歳・♀・犬)
 fa4478 加羅(23歳・♂・猫)
 fa4942 ラマンドラ・アッシュ(45歳・♂・獅子)
 fa5264 新崎里穂(20歳・♀・兎)
 fa5470 榛原 瑛(26歳・♂・猫)
 fa5474 コウ・ザ・ブドウ(40歳・♂・竜)

●リプレイ本文

 豪華な調度品に囲まれた薄暗い室内で、ブランデーの入ったグラスが揺れる。
「流石は『何でも屋さん』と言うところか‥‥」
 電話越しに女性が小声で何かを言い、男性は口元に笑みを浮かべるとグラスを煽った。


 帝(榛原 瑛(fa5470))は堅苦しいスーツに溜息をつきながら、目の前で必死に説明をする水原サラ(敷島ポーレット(fa3611))に視線を向けた。
「こっちがビルの見取り図と警備の人員、タイムテーブル。んで、これが秘書とボディーガードの情報ね。目を通しておいて損はないわ」
「はいはい」
 半ば投げやりに分厚い資料に目を通す。企業のセキュリティ情報や重役達の詳細なプロフィール、秘書やボディーガード達の詳細まで‥‥
「ンでヤローのプロフィールなんか読まなきゃなんねーんだ」
「文句言わない!」
 ピシャリと言い放ったサラに、帝は長くなった煙草の灰を灰皿に落として肩を竦めた。何でも屋をやっているだけあり、それなりに記憶力に自信のある帝は一通り資料を読み終わるとサラの前に押し返した。
「んじゃ、そろそろ行くか。外は頼んだぞ」
「OK。名刺は持った?」
「あぁ、鞄の中に入ってる」
「ハンカチは持った?ティッシュは?」
「‥‥お前は俺の母親か!」
 ヤレヤレと口の中で呟くと、紫煙を吐き出して短くなった煙草を灰皿に押し付けた。火が消えると同時に、帝の表情がキリリと引き締まった。


 会議室の中からは薄いドア越しに、秘書が重役と交わすスケジュールの確認や最近の売り上げ状況などの事務的な会話が続いていた。帝は廊下に数箇所設置されている監視カメラを気にしながら、それでも不審のない行動でそっと扉の向こうの会話に耳をそばだてていた。
「今日もよろしく頼むよ」
「畏まりました。肌身離さずお守りします」
 足音が近付いていく気配を感じ、帝は反対側の扉にさっと身を隠した。第3会議室と書かれた部屋は『空室』のプレートがかけられており、確かに室内には誰もいなかった。壁に広げられたスクリーンの白が目に痛い‥‥。
 扉が閉まり、規則正しい足音が廊下の向こうへと去っていく。帝は少し考えた後で彼女が去って行ったのとは反対の方向へと歩き出し、階段を使って1階上のフロアに足を踏み入れると『大東』と書かれたプレートの前で足を止めた。扉の向こうに人の気配はない。1度チラリと視線を廊下の先に向け‥‥
「此方に何か御用でしょうか?本日の面会予定は伺っておりませんが」
 事務的で、聞きようによっては機械的とも取れる声に視線を上げれば、大東の秘書・篠原 都(千音鈴(fa3887))が小さなポーチを片手に佇んでいた。
「あれ、おかしいですね。アポは取ったはずなんですけれど」
「失礼ですが、お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
「えぇ、沢野 徹と申します」
 サラが作ってくれた偽の名刺には、この会社が懇意にしている取引先の社名が入っていた。役職はかかれておらず、不審に思って尋ねようと口を開きかけた都を制すように、帝は鼻をひくつかせた。
「いい香りですね。香水か何かですか」
「有難う御座います。愛用しているものなんです」
「そうなんですか。私の知り合いの女性が同じ香水をしてましてね、もしやと思ったんです」
「特に珍しいものでもありませんので、同じものをお使いの方がいらしても不思議ではないかと」
「えぇ。凄い偶然です。彼女が言うには特別な品だそうですけれど‥‥」
「先ほども申しましたが、特に珍しいものではありません」
「綺麗な瓶に入っているんですよね。1度拝見した事があるんです」
 都の視線が一瞬だけポーチに注がれる、その瞬間を帝は逃さなかった。右手をポーチへと伸ばし、咄嗟に都がその手を払いのける。
「女性の私物に手を伸ばすとは、随分不躾なんですね」
「無礼をお詫びします。ただ、ポーチの中に入っているものは貴方の私物ではない。違いますか?」
 相手は女性で、片手にポーチを持っている。足元はヒールだし‥‥手加減をして挑んだ手合わせで、帝は彼女に武道の心得が有る事を知るとすぐさま別の作戦に切り替えた。
「重ね重ねの無礼を先にお詫びしておきます」
 そう断った後で、帝は都の足を払った。驚いた都がポーチを手から落とし、ソレを空中でキャッチすると後ろに倒れこみそうになっている都の手を取って助けた後で、ヒラリと踵を返して走り始める。
 一瞬のうちに様々な事が起こって混乱した都だったが、直ぐに立ち上がると階下にいるはずの泰(加羅(fa4478))の元へと走った。
「泰様申し訳ありません!アレを奪われました!」
「なんだと!?」
 帝の風貌を必死に説明する都の隣で、泰は電話を取ると素早く番号をプッシュした。
「飯島!香水瓶が奪われた!」
『何だと!?直ぐに取り返せ!』
 泰は博(水沢 鷹弘(fa3831))と2、3言葉を交わした後で切ると、都にボディーガードを呼ぶように指示を出し、地下駐車場へと向かった。
 一方博は、電話を切った後で口元に微かに笑みを浮かべると、ブランデーの入ったグラスを手元に引き寄せた。
「上手く行ったようだな。くれぐれも途中で捕まったりはしないでくれよ?成功報酬の小切手はもう切ってしまったからな‥‥」


 待機していたサラの車に飛び乗ると、帝は後ろを振り返った。泰のボディーガードの大場(ラマンドラ・アッシュ(fa4942))と稲田(コウ・ザ・ブドウ(fa5474))の乗った車の後から、泰も追いかけてくるのが見える。細い路地裏を走って良い様なスピードではないために、サラはあえて大通りの海岸線沿いの道を選ぶとアクセルを踏んだ。
「ああ、もう!しつこい!」
 どんなに速度を増しても離れない追尾車にサラがイライラと爪を噛み‥‥突然聞こえた乾いた音に、サラが目を見開く。
「嘘でしょう!?」
「ならどんなに良いか」
 ミラー越しに見る背後では、大場が銃を構えているのが見える。
「ちょ、撃ってきたわよ!!私の車に傷でもついたらどうするのよ!帝、何とかしてよ!」
「もう遅いっつの。きっと車体に黒い穴があいてるぜ?」
 左右にハンドルを切りながら、背後から聞こえて来る銃声に舌打ちをするサラ。「私の愛車が!」憎憎しげに呟かれた一言に首を竦めると、帝はバックシートから拳銃を一丁取り出し口笛を吹いた。
 助手席から身を乗り出した大場がモーゼル2丁を構えて連射し続けている。
「ヘタな鉄砲も数撃ちゃ当たるっつーけど、もー少しスマートに撃てねぇかねぇ」
 軽口を叩きながらシートベルトを外すと窓の外に身を乗り出し、瞬時に構えると引き金を引く。左前輪に当たった弾のために車が蛇行し‥‥稲田の乗った車がそれに乗り上げ、派手に空中で回転すると道路に叩きつけられる。
「あれで大東も追って来れないわね」
「道路が塞がっちまったからな。‥‥それにしても、なぁんか引っかかるんだよなぁ」
 煙を吹いている拳銃を後部座席に放り投げると、帝はポケットから煙草の箱を取り出した。


 砂の踏む音に視線を上げれば、雅(新崎里穂(fa5264))が長い髪を押さえて歩いて来ていた。
「任務は成功したんですね。お疲れ様です」
 成功報酬だと言い差し出そうとした小切手を押し返すと、帝はポケットから香水瓶を取り出した。
「あんたがどこまで知ってるかは分からないけど、思うに俺はコレをあんたに渡したらはめられる気がすんだ」
「私は‥‥」
「あんたを疑ってるわけじゃない。ただ、あんたの背後に誰かいる、その存在が鬱陶しいだけだ」
 帝はそう言うと、香水瓶を海に向かって放り投げた。綺麗な弧を描いて沈んで行った瓶にサラが口笛を吹き‥‥
「利用されたっぽくてムカツク。そう伝えといてくれ」
 帝はそう言うと、雅にヒラリと手を振って去って行った。


博サイド
「鍵をどうするかと思っていたんだが、これは良い!鍵を盗まれた事を理由に大東を辞任させ、任務失敗で石動に金を払う必要もない。私の一人勝ちだな!」
 高笑いをする博の前で、雅はそっと手首につけた香水の香りをかいだ。


泰サイド
 泰は今しがた受けた電話に震えていた。都がただならぬ様子の彼に近寄り‥‥
「全て、飯島にはめられていたんだ」
 震える声に、都が目を丸くして首を傾げる。
「それはいったい‥‥」
「そうか。そうだったのか。私の失脚が目的か‥‥だが、良い。運はまだ完全にあっちに行ってはいない。‥‥例の裏帳簿を持って来てくれるか?」
「はい」
 都は丁寧に頭を下げると、泰の前を後にした。


帝サイド
 帝は短い通話を終えると、テーブルの上に置いてあった煙草に手を伸ばした。ポケットを弄り、ライターを取り出すと火をつける。
「どこに電話してたの?」
「とある可哀想な男んとこにな」
「可哀想な男〜?なにそれ」
「まぁ、相手にとってみれば幸運の電話だったろうな」
「相手にとってみればって事は、帝にしてみたら何なの?」
「一斉清掃」
 帝は簡単にそう答えると、灰皿の中に灰を落とした。深く煙を吸い込み、ユルユルと吐き出し‥‥
「自滅がオチだろーよ」
「はぁ〜?」
「どっちが先に堕ちるか見ものだけどな。ま、結局どっちもどっちで堕ちるっつー話しだな」
 帝は小さくそう呟くと、煙草を灰皿に押し付けた。