突撃バレンタインアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 易しい
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/17〜02/19

●本文

 アイドル・ユナのマネージャーであり彼女の良き理解者である錦下は、ユナから渡された包みを解き、目を丸くした。
「あの、ユナ?」
「ちょっと遅くなっちゃいましたけど、バレンタインの、チョコ、です」
「それは見て分かるんだけど、何コレ?」
 包みの中にはハート型のチョコが鎮座しており、その上には真っ白な文字で『義理人情』と書かれていた。
「あの、いつもお世話になっていますって意味で、その‥‥」
 恥ずかしさに目を潤ませたユナが、心持上目使いで錦下を見やる。
 先ほどまで、歌詞に中身がないだの綺麗な言葉だけ並べてるだの、こんなの歌いたくないだの文句を垂れていた人物と一緒とは思えない。
「あの、錦下さん。えっと‥‥今日の仕事、上がりですよね?」
「あぁ。そうだけど?」
「‥‥あの、日頃お世話になってる方に、チョコ配りたいなって思ってるんです。でも‥‥」
 もごもごと口篭ったユナに、錦下は笑顔を浮かべると携帯を取り出した。
「誰にあげるのか分かれば連絡するけど?」
「あ、私があげようと思ってる方にはもう連絡したんです。その、でも‥‥」
 言いにくそうに目を伏せると、真っ白なワンピースの裾をモジモジと握る。
「作りすぎ‥‥ちゃって‥‥」
 頬が朱色に染まり、目元が薄っすらと潤んでくる。
(そう言うことか)
 錦下は苦笑しながら、半ば無意識にユナの頭を優しく撫ぜた。
「俺の知り合いで、チョコ好きなやつに連絡してみるよ」
「有難う御座います」
 ふわり、微笑んだ顔は天使のようだった。
「それにしても、ハート型のチョコって‥‥ユナ、ある意味罪作りじゃないか?まぁ、義理‥‥人情って書いてあるし、勘違いする人はいないかもだけど」
「ふぇ?だって、チョコはハートじゃないとダメなんじゃないんですか?」
「どっからその情報仕入れたの?」
 ユナが口にしたのは、映画監督・峰崎龍雄の名前だった。
「‥‥ユナ、あの人の話しは全面的に信じちゃいけません」
「え、でも、親切にバレンタインの事教えてくれましたよ?」
「あのさ、ユナ。バレンタインってどう言う日だって教わったの?」
「男女を問わず、日頃親切にしていただいた人に、義理人情と書かれたハート型のチョコを配って、1年間の無病息災をお祈りする日ですよね?」
 何か色々と混じっている気がする。
「じつは、型に流したチョコの他に、トリュフも作ってみたんです。ハート型のトリュフなんですよ」
「‥‥それにも義理人情って書いたの?」
「箱の内側に書いておきました」
 ユナがそう言って、先ほど錦下に渡したのと色違いのリボンの掛かっている箱を取り出すと、リボンを解きフタを開ける。
 コロンとしたハート型のトリュフの下には、細く切ったふわふわの紙が敷き詰められている。
「これじゃぁ、見ない人もいそうだなぁ‥‥まぁ、渡す時に必ず、義理ですって言いなね」
「はい!義理人情です!」
「‥‥人情はいらないから‥‥」

●今回の参加者

 fa0629 トシハキク(18歳・♂・熊)
 fa2495 椿(20歳・♂・小鳥)
 fa2726 悠奈(18歳・♀・竜)
 fa3547 蕪木メル(27歳・♂・ハムスター)
 fa3802 タブラ・ラサ(9歳・♂・狐)
 fa3916 七氏(28歳・♂・犬)
 fa3956 柊アキラ(25歳・♂・鴉)
 fa4044 犬神 一子(39歳・♂・犬)

●リプレイ本文

「義理人情です!」
 そう言って渡されたチョコに、椿(fa2495)は一瞬だけポカンとすると苦笑しながらチョコを受け取った。
「ありがとうゴザイマス」
 ユナの事だから恐らく『義理』だと言いたいのだろう。ソレはソレで少し寂しいが、笑顔だから良いか。そんな事を思っていた時、元気な声が響いたかと思うと悠奈(fa2726)がユナに抱きついた。
「ユナちゃん、連絡有難うー!」
「ユーナちゃん、義理人情です!」
 不思議な言葉に悠奈が首を傾げ、すぐに椿と同じ思考の順路を辿るとにっこりと笑って受け取り、青い巾着包を取り出すとユナに手渡す。
「有難う〜♪私からもプレゼンツ!お兄ちゃんの作ったチョコだから美味しいよ♪私の手作りチョコは恋人さんにしかあげないのです♪」
「はわわ、有難う御座います!あの、お兄様に宜しくお伝えくださいなのです!」
 ユナがピっと敬礼し、顔を赤くしながら嬉しそうにチョコを胸に抱く。
「ねぇ、ユナちゃん。これから他の人にも配るの?」
「はい!」
「私もついでに配りたいから、一緒に行くね!」
「俺も荷物持ちでついて行きマス!」
 悠奈と椿の剣幕に押され、頷くユナ。『心配だから』と言う本音は、どちらも胸の内にしまっておいた。


 1度仕事をしただけのユナにチョコレートを貰えると思っていなかったトシハキク(fa0629)は、「義理人情です!」と言って渡されたチョコレートの包みを解くとハート型のチョコを1つ口の中に入れた。甘党の彼は、ふわりと口元を綻ばせると不安そうに見詰めるユナの肩をポンと叩いた。
「なかなかいけるんじゃないか?将来恋人になる人が羨ましいぜ。こんないいチョコレートをプレゼントしてもらえるってことなんだからな」
「そんな‥‥」
 真っ赤になって首を振るユナに苦笑しながら、独り言のように呟く。
「俺も想い人からチョコレートをもらえれば嬉しいが、それはまた別の話だものな」
「‥‥バレンタインは、無病息災をお祈りする日ですから、きっと貰えますよ」
 目を丸くするトシハキク。ユナの背後で椿と悠奈がなにやら合図を送ってくるが‥‥恐らく、誰かに間違った情報を吹き込まれて信じているのだろう。そちらの方は2人に任せるとして‥‥
「恋をすれば色々と成長すると言うし、頑張ってくれよ。俺みたいな裏方が言う事じゃないだろうが、関わった人が大人気になるのが一番の喜びなんだから」
「有難う御座います」
 心底嬉しそうに微笑んだユナに笑顔を返し、そっと思う。
(もっとも、等身大の相手との恋じゃないと不幸になる事が多いと聞くし、事務所側がしっかりサポートしてくれれば良いんだが‥‥)


 錦下から電話を受けていた蕪木メル(fa3547)は、トリュフのチョコを受け取ると少し申し訳なさそうに、それでも嬉しそうに頭を下げた。
「ユナさん、有難う。個人的には知らない仲なのに、貰っちゃってごめんね」
「こちらこそ、受け取ってくださって有難う御座いました。義理人情です!」
 謎フレーズに、一瞬だけパチリと瞬きをしたメルだったが、直ぐに意味を悟ると包みを解いてトリュフを1つ口の中に入れた。
「うん、美味しい。ホワイトデー、楽しみにしててね」
 笑顔で親指を立てるメルの様子に、ユナが安堵の溜息を漏らすと頭を下げて踵を返す。(随分礼儀正しい子だけど‥‥チョコ配りに男を連れて歩くのはどうかなぁ)
 ユナの隣を歩く椿の背中に苦笑すると、チョコをバッグの中に入れた。


 錦下からその場で待っているようにと言われたタブラ・ラサ(fa3802)は、ユナから「義理人情です!」の言葉とともに差し出されたハート型のチョコに、少し照れつつも笑顔でお礼を言った。子供だから甘い物が好きそうだし、勘違いされる可能性も低いだろうと考えての事だったのだが‥‥
「でも、義理人情‥‥って、なあに?」
 首を傾げ、無邪気な瞳を向けるタブラに、ユナが動揺する。
「メリークリスマスと同じような意味だとは思うんですが‥‥」
 絶対違うだろう回答に、背後の椿と悠奈が顔色を曇らせ、不安そうな視線をタブラに向ける。が、タブラはある意味では『大人』だった。コクリと頷き、「そうだったんだ」と納得したように呟くと再びお礼を言って頭を下げた。


「ユナさんお久しぶりです。チョコレート作りすぎたんだって?連絡貰って笑っちゃった。うっかりさんなところもあるんですね」
 柊アキラ(fa3956)がユナに苦笑しながら首を傾げる。
「普段はしっかりさんなんですが‥‥えっと、義理人情です!」
 義理人情の言葉にポカンとするアキラ。しっかりさんならこんな妙な言葉はかけないように思うが‥‥
「有難う御座います。開けてみても良いかな?」
 笑顔で何とかカバーすると、チョコの包みを解いた。ハート型のチョコにもデカデカと書かれている義理人情の言葉に絶句し‥‥少し考えた後でバッグの中から大きな包みを取り出すとユナに差し出した。
「バレンタインって、外国では男性から女性に送ったりするんですよ。日頃の有難うの気持ちかな?チョコじゃないし、義理人情とはかかれてないけれど貰ってください。そんなに手は込んでないんですけれど、美味しいと思います」
「えっと、有難う御座います!」
 嬉しそうな笑顔を向けるユナに「ワンホール入ってるんで、事務所の皆さんやメンバーさんと一緒にどうぞ」と告げる。イチゴのシフォンケーキを大事そうに抱えたユナが、あっと小さく呟くとケーキを慎重な手つきで椿に渡し、1つチョコを取って差し出す。
「あの、お兄様にもどうぞです。義理人情です!」
「あ、有難う御座います。きっと喜ぶと思います。‥‥でも、渡す時に人情はいらないですよ。人情つけなくても義理で十分伝わりますから」
 にっこり微笑んで手を振って去っていくアキラの背中に、ユナがポツリと呟く。
「メリークリスマスもメリーで通じるのでしょうか」


「いや、男からバレンタインチョコを貰ってと言われても、自分‥‥そっちの趣味はないので」
『だからね、チョコ渡すのは俺じゃなくてユナなの、ユーナー!女の子!』
 七氏(fa3916)と錦下が不毛な言い争いをしてから約1時間後、目の前に現れた可愛らしい少女に七氏は安堵していた。義理人情ですとの不思議な言葉も、チョコを貰えると言う事実の前には霞んでしまう。
「この度はまことに結構な物を有難う御座います。こうしてバレンタインチョコを頂いた以上、一ヵ月後のホワイトデーには三倍返しに全力を尽くしたいと思います‥‥」
 深々と下げられた頭に、オロオロとするユナ。そんなユナの様子は置いておいて、七氏は椿の腕をガシリと掴むと真剣な眼差しを向けた。
「ホワイトデーに三倍返しが出来ないと世にも恐ろしい事が起こると聞く。何が起こるのかは具体的には知らないが、何を三倍にすべきなのだろう?数か?‥‥チョコの数を三倍返されたらユナ嬢が困りそうだが‥‥」
「難しく考えなくてOKだと思いマス」
 椿が的確なアドバイスをし、それでも悶々と考え込んでいるらしい七氏は、良い人なのだろう。


 元気な「義理人情です!」の言葉に一瞬驚いた犬神 一子(fa4044)は、直ぐに豪快に笑うとユナの頭をわしゃわしゃと撫ぜた。
「そうだな、義理と人情は大切だもんな。ありがとよ」
 頭を撫ぜられて嬉しそうなユナの前で、包みを開けてトリュフを1つ口の中に放り込む一子。
「ん、美味しいな。‥‥それにしてもユナ、義理人情はどこから聞いたんだ?」
「峰崎監督です。ご存知ですか?」
 美味しいの言葉を聞いて嬉しそうなユナが、笑顔のまま元凶の名前を出す。噂には聞いた事のある峰崎の名前に、納得した一子がニヤリと笑い‥‥
「一ヵ月後にはバレンタインの仁義を通すためにホワイトデーなるお礼参りがあるんだ。家内安全を願ってな。クッキー、マシュマロ、キャンディの選択権があるから、早めに言っておいた方が良いぞ?」
「皆さんが言っていたホワイトデーとはそう言うイベントなんですか!」
 素直に信じたらしいユナ。勉強になりますと言う可愛らしい様子に頭を撫ぜ‥‥きっと背後の2人が後で訂正するだろうと、チラリと視線を向けた。


 椿が少し席を外している間に、悠奈がユナにバレンタインの本当の意味を教える。
「バレンタインは、好きな人にチョコを渡して告白する日で、そう言うのは本命チョコって言うの。お世話になった人や友人に送るチョコは義理チョコ。人情はオマケかも。無病息災は‥‥節分?」
 間違いだらけの解釈にユナが顔を赤らめ、悠奈が頭を撫ぜながら優しく諭す。
「ユナちゃんのは本命さんが入ってなかったんでしょ?なら問題ないよー?」
「でも、私‥‥」
 今にも泣き出してしまいそうな様子に悠奈が何か声をかけようとして‥‥バサリとユナの前に赤い薔薇の花束が差し出される。
「本命デス。あと、コレもあげるね。お返し希望考えてネ」
 ホワイトデー特集の載っている雑誌も一緒に渡されたユナが、キョトンとした顔で薔薇と椿を見比べる。
「薔薇・フランス・36本でネットで検索してみてね♪ゆっくりでイイのデス」
「えっと、有難う御座います?」
 やはり理解不能らしいユナが悠奈に視線を向け、意味が分かったらしい悠奈が苦笑しながらユナの頭を撫ぜる。
「お仕事上がりナラ、ご飯食べに行きたいナ」
 お腹を鳴らした椿に、悠奈とユナが頷いて立ち上がる。
 ユナが薔薇の花束にそっと顔を近づけ、花弁に1つだけ口付けを落とした。