クマの願いアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/18〜02/20

●本文

 僕が明ちゃんの家に来たのは、明ちゃんの3歳の誕生日の日だった。
 パパからプレゼントされた僕を、明ちゃんは嬉しそうに胸に抱いて満面の笑みを見せた。
『パパ、ありがとー』
 ギューっと、小さな手で苦しいくらいに抱き締める明ちゃんを、僕はすぐに大好きになった。
『クマちゃんは、お名前何にしよう?』
 うーんと、可愛らしい声で唸っていた明ちゃんは、ポンと手を叩くと輝く笑顔を浮かべ、ママとパパを交互に見詰めた。
『司君!司君にしよう!ね、パパ、ママ?』
 その言葉に、パパとママは悲痛な表情で何かを言おうとし‥‥思いとどまると、ぎこちない笑顔を作り、明ちゃんの頭を撫ぜた。
 ママがこっそり涙を袖で拭ったのが見えた。
 パパがぐっと唇を噛み‥‥部屋の隅に、小さな写真が飾られているのが目に入った。
 『司君』は、明ちゃんの弟の名前だった。
 司君は生まれた時から体が弱く、1歳になるかならないかのうちに亡くなってしまった。
 明ちゃんは、司君がいなくなってしまった理由が分からなかった。
 美味しいケーキを食べた時、面白いテレビ番組を見た時、『司君も一緒だったら良いのに』と呟くたび、ママが目を潤ませて頷いていた。
『明ちゃんは良い子ね』
 決まってそう言って、明ちゃんを抱き寄せてくれる。頭を撫ぜてくれて、暫くずっと、そうしてくれる。
 明ちゃんは無邪気で残酷な子だった。
 ママにそうして欲しい時は、いつだって『司君』の名前を口にした。


 そんな明ちゃんも、時が経つにつれて『司君』の話をあまりしなくなった。
 それと同時に、明ちゃんは僕にあまり構ってくれなくなった。
 幼稚園の時は、毎日のように一緒に寝て、幼稚園のお話を聞かせてくれた。何処に行くにも一緒について行けた。
 けれど小学校に上がると、あまり一緒に居る時間がなくなった。
 明ちゃんは同級生のお友達と遊ぶのに夢中だった。でも、僕は明ちゃんと一緒に寝ていたし、お話も聞かせてもらっていた。
 中学校に上がると、明ちゃんは僕をベッドの中からベッドサイドへと移動させた。
 あまりお話をしてくれなくなったけれど、でも‥‥嬉しい事や辛い事があれば、何でも僕に話して聞かせてくれた。
 高校に上がると、明ちゃんはもう僕に話し掛けてくれなくなった。
 どんなに辛く悲しい表情をしていても、僕の前で黙って涙を流すだけになった。
『どうして泣いてるの?どんな辛い事があったの?』
 僕の声は届かない。
 明ちゃんは、僕にはもう何も話し掛けてくれない。
 日に日に泣いて帰ってくる事が多くなった明ちゃん。
 ‥‥それでも、僕には何も話してくれない。‥‥話してくれたとしても、僕は何も出来ない‥‥
 この姿じゃ、何も‥‥


『神様、僕を人間の姿にして下さい』
『明の涙の理由を知りたいのですか?』
『僕、明ちゃんの悲しい理由を聞いて、どうにかしてあげたいんです。でも、この姿じゃ明ちゃんを助けてあげる事は出来ないから』
『‥‥良いでしょう。貴方を人間の姿にしてあげましょう。ただし、明の涙の理由を聞き、それを解決できた時、貴方はクマのぬいぐるみの姿に戻ります』
『有難う御座います神様!』
『1つだけ、約束があります。貴方は明に『クマのぬいぐるみの司』だと告げてはいけません。告げた途端に、クマのぬいぐるみへと戻ってしまいます』
『はい。分かりました』
 コクリと大きく頷くと、神様は明日の朝に人間の姿にしてくれると約束してくれた。


≪映画『クマの願い』募集キャスト≫

*司(つかさ)
 クマのぬいぐるみ
 外見年齢12〜18程度の少年。精神年齢は12、3歳程度
 純粋で素直な性格
 『僕』『さん、君、ちゃん』『かな、だね』子供っぽい

*明(めい)
 実年齢17歳。外見年齢15〜19程度
 少々気が強く、言いたい事はズバっと言うタイプ
→友人関係で悩んでいる
 『私』『君、ちゃん』『だよ、よね』気が強そうな言葉遣い

・その他
*明の友人(外見年齢15〜20程度)
 明の家族
 学校関係者

*外見年齢20以上の方は役が限られてしまいますのでご注意ください

●今回の参加者

 fa1689 白井 木槿(18歳・♀・狸)
 fa1772 パイロ・シルヴァン(11歳・♂・竜)
 fa2640 角倉・雨神名(15歳・♀・一角獣)
 fa3652 紗原 馨(17歳・♀・狐)
 fa4570 ミレナ(13歳・♀・兎)
 fa5189 鈴木悠司(18歳・♂・犬)
 fa5264 新崎里穂(20歳・♀・兎)
 fa5480 ヒノエ カンナ(22歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 大人っぽいクラスメイト達。未だに子供っぽさの抜けない明(角倉・雨神名(fa2640))は少しだけ背伸びをしてしまった。
「美味しい?悠君のために一生懸命作ったんだよー」
 恋愛感情もない悠(鈴木悠司(fa5189))に料理部の部活中、手料理を振舞った。ただそれだけ。でも、悠には都(白井 木槿(fa1689))と言う彼女がおり、都はその光景を見て誤解してしまった。都は気の弱さゆえに、明と悠を避けてしまうのだった。
「都先輩‥‥」
「ごめんね、今は明ちゃんと話したくないの。明ちゃんはあたしよりも悠と一緒の方が楽しいんじゃないのかな?」
 話し掛けようとした明を避けて、部活も出ずに帰ってしまう都。
「都とケンカでもしたの?」
 悠は楽天的でいつでも笑顔で、そしてとんでもなく鈍感だった。明も都もいない部室で、香(紗原 馨(fa3652))と玲奈(ミレナ(fa4570))が顔を見合わせて目を伏せる。2人は明と都がどうしてそうなってしまったのかを知っていた。けれどソレを言ってしまっては悠を責める事になってしまう。
「都さんが、何か誤解をしているのかも。何かしました、悠さん?」
 玲奈の問いかけに、首を傾げる悠。都の変化くらいは気付いて欲しい玲奈だったけれど、悠は気付いてはくれない。閑散とした部室内に顧問の本田美奈子(新崎里穂(fa5264))が現れて、いない部員の事を香に尋ね、香が言いにくそうに明と都にあった事を小声で説明する。
「如何しちゃったんだろうねぇ」
 そんな香と美奈子の背後で、悠の呑気な声が響いた。


 夕陽に染まった町を歩きながら、明は心の中のモヤモヤを振り払おうと首を振った。まだ冷たい風に髪を靡かせ、ふっと視線を上げれば視界の端に公園が映った。ブランコの上にちょこんと座る、小さな男の子に思わず足を止める明。自称大人のお姉さんとしては放っておくわけにはいかない。周囲を見渡して、彼の保護者がいない事を確認した後でそっと近付くと首を傾げた。
「ボク、こんなところでどうしたの?名前は?」
 俯いていた顔が上げられ、明は視線を合わすべくしゃがみこんだ。
「僕、司って言うの」
 少し舌足らずな調子で、司(パイロ・シルヴァン(fa1772))はそう言うと微笑んだ。警戒心のない、無垢な笑顔に明が微笑み‥‥
「パパかママは?」
「お家?」
「お家?って訊かれても、私にはわかんないんだけど‥‥」
 苦笑しながら立ち上がり、司の隣で揺れているブランコに腰を下ろす。
「お家の場所、分かる?」
「分かるよ?」
「そっか。じゃぁ、迷子じゃないんだね」
「うん。め‥‥お姉ちゃんはどうしたの?」
 うっかり明の名前を言ってしまいそうになった司が、慌てて言葉を飲み込む。
「自己紹介し忘れちゃってたね。私、明って名前なんだ」
「明お姉ちゃん」
「明でいーよ」
「明ちゃん」
 ふわりと微笑んだ司の顔は、明の心の奥底で眠る、大切な『何か』を思い出しそうで‥‥
「部活の先輩とね、ちょっとギクシャクしちゃって。‥‥って、司君にこんなこと言ってもしょうがないか」
「ううん。僕、分かるよ」
「私がね、ちょっと大人っぽくなろうとして無理して‥‥結局、都先輩を傷つけちゃったんだ。仲直りしたいけど、無理みたい」
「‥‥どうして?ごめんなさいって言えば仲直り、出来るでしょう?」
「ごめんなさいを言う機会がね、ないの」
「機会?」
「都先輩にね、避けられちゃってるの。だから‥‥」
 ポンと司がブランコの上から飛び降り、何も言わずにスタスタと公園の出口に向けて歩いて行く。突然の行動に戸惑いながら、明は司を追い、その腕を掴んだ。
「司君!?」
「避けられても、追う事は出来るよね?逃げられても、腕を掴む事は出来るよね?明ちゃんなら、都先輩と仲直りできるよ」
 司はそう言うと、明の手をするりと抜けた。
「あ、ちょっ‥‥」
「明日も、ここにいるね」
 大きく手を振って去って行く司の背中を見詰めながら、明は司の言った言葉を心の中で反芻した。


 逃げる都の手を掴み、必死に誤解を解こうとする明。けれどその言葉は都には届いていない。香に言われて玲奈が美奈子を呼びに行き、遅れて来た悠が部室内に入った途端に明の声が響いた。
「わ、私、彼氏いるもん!だから、都先輩は勘違いしてるんだよ!」
「明って彼氏いたんだ!?」
 素っ頓狂な声を出した悠に、都が驚いた顔をして2人を見比べる。
「2人は本当に、何でもないの?」
「だから、そう言ってるじゃないですか!」
 明の言葉に都が困惑し、未だに要領を得ていないらしい悠に香が説明を入れる。
「そんなコト思ってたの?馬鹿だなー、僕が好きなのは都だけだよ」
 悠がそっと都の肩を抱き、安堵した様子の明に都がポロリと涙を零す。
「明ちゃんはあたしなんかよりずっと可愛いし、良い子だし、あたしなんかじゃ敵わないって思ったら‥‥悔しくて、哀しくて。‥‥でもほんとは、明ちゃんの悲しそうな顔見るたび苦しかった。ほんとに、ごめんなさいっ‥‥!」
「良いよ都先輩。ようは、悠君のせいだってコトで‥‥」
「え、僕が悪かったの!?」
 驚く悠の様子に微笑みながら、都が香と玲奈、美奈子に視線を向ける。
「香ちゃんも玲奈ちゃんも、それに先生も‥‥迷惑かけてごめんなさい」
「2人がまた仲良くなってくれて良かった‥‥」
「本当に」
 瞳を潤ませながらの玲奈の言葉に香が頷き‥‥ふと、悠が明に視線を向ける。
「そう言えば明、彼氏ってアレ嘘でしょ?」
「嘘なんかじゃないよ!今日、私の帰りを公園で待ってるんだから!疑うならみんなで行こうっ!」
 やけに慌てた様子の明に、悠以外の全員が『嘘』を感じ取ったが、鈍感な悠だけは明の雰囲気を察してやる事が出来なかった。
「それじゃぁ、見に行こう!」


 公園で待っていた小さな司に、悠が目を丸くする。香と玲奈が顔を見合わせ、都が律儀に司に頭を下げる。困惑したらしい司が明を見上げ‥‥
「‥‥ごめんなさい。本当は、司君は昨日会ったばかりの子で‥‥悠君の言ったとおり、彼氏なんていないんだ。あの部活の時に悠君に料理あげたのも、皆大人っぽくて‥‥ちょっと、背伸びしたくなっちゃって‥‥彼氏が出来たらこんな事するのかな?とか、思ってた事を実践しちゃって‥‥」
「そうだったの」
「みんな、誤解させちゃってごめんね」
「もう良いじゃん、済んだ事なんだし。それよりも、今度部活で何作る?」
 悠が明るい声を出して、次から次へと料理の名前を挙げ連ねていく。司が明の服の裾をチョンチョンと引っ張り、綺麗な色のハンカチを差し出すと笑って手を振る。
「え?司君?」
「元気になって、良かった」
 突然の突風に目を瞑り‥‥開いたそこに、司の姿はなかった。


「私、バカだよね。もう大人なんだって見栄張って、みんなを傷つけちゃってた」
 窓を開け、外の新鮮な空気を入れると、ベッドサイドに置いてあったクマのぬいぐるみをそっと持ち上げる。
「男の子と付き合って、ぬいぐるみなんて卒業するのが大人だって‥‥でも、そんな自分勝手なの違うよね。ごめんね‥‥司君」
 ふっと、途中で消えてしまった『司君』の顔を思い出す。ぬいぐるみの司君と同じ名前‥‥それは奇跡としか言いようのない偶然‥‥。明はギュッとぬいぐるみを抱き締めると、今まで報告し忘れていた事を、包み隠さず全て司君に話した。


『上手く行きましたね』
 明が寝静まった後で、神様(ヒノエ カンナ(fa5480))はそっと司の元を訪れると微笑みかけた。
『有難う、私の願いを叶えてくれて。私が貴方の、ではなく、貴方が私の願いを叶えてくれたのよ、きっと』
 そっと、クマのぬいぐるみにキスをする。
『貴方の未来に希望が満ち溢れん事を。分けてあげてね、明にも、他の子にも。皆愛しい我が子ですもの』
 全ての願いを叶える事は神様にも不可能で、もしそれをやってしまったら世界はメチャメチャになってしまう。だから、神様が出来る事はほんの少し。その少しの願いを叶えてあげて、それをどんな大きな願いにつなげられるか、それはその人次第。
 幸せそうに眠る明の髪を撫ぜ、最後にもう1度だけ司の頭を撫ぜた後で、神様はすぅっと姿を掻き消した。‥‥神様の姿が完全に消えた次の瞬間、窓の外から眩しい朝日が差し込んできて、明が目を擦りながら起き上がった。カーテン越しに差し込んでくる朝日の中、静かに座っている司に満面の笑みを向ける。


   「お早う、司君」


○NG集
・雨神名&悠司『何か違う‥‥』
「美味しい?悠君のために一生懸命作ったんだよー、肉じゃがとお味噌汁、ご飯と‥‥」
「あの、これって部活で作るようなものですか?」
 悠司が首を傾げ、雨神名が「彼氏さんと言うより新婚さんですね」と率直な感想を漏らす。本番では料理がケーキとなったのは言うまでもない。

・カンナ『夜行性ゆえ』
『私が貴方の、ではなく、貴方が私の願いをかなえてくれたのよ、きっと‥‥ぐぅ』
 目を瞑ったカンナが勢い余ってクマのぬいぐるみに頭から衝突する。その衝撃で目を開けて、ぺしゃんこになったぬいぐるみに驚き‥‥
「はっ!!ごめんなさい!うっかり眠ってしまって!」
 目を擦り、ぬいぐるみをキチンと元に戻してから再び撮影開始となる。
 夜の背景だが、現在はお昼の1時だ。真昼間に撮ったこのシーンは、結局この後数テイク同じNGで撮り直しとなるのだった。