Two Days colorアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 易しい
報酬 1.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/23〜02/25

●本文

 ハッカの飴を舐めながら上った、秘密基地へと続く獣道。
 きっともう、上る事はない。
 きっともう、来る事はない。
 明日で最後だから。
 全部全部、明日で、最後だから。


 窓の外には、今にも溶けてしまいそうな夕陽。
 オレンジ色の光が教室の中に広がって行く。
「蒼(あお)」
「何?」
 ノートにペンを走らせながら、蒼は顔を上げもしない。
 左手で机の端に置いてあったクッキーを一つ、つまむと口の中に入れる。
「明日、学校休む気ない?」
「ナイ」
「‥‥明日、あの『秘密基地』に行く気、ない?」
 その言葉に、ピクリと反応した蒼が顔を上げる。
「懐かしい名前だね」
「明後日、この町を出て行く」
「突然だね」
「前から決まってた。でも、言わなかっただけ」
「他の仲の良い子には言ったの?」
「言ってない。誰にも知られずに、出て行く」
「‥‥まるで、逃げるみたいだ」
「逃げるんだよ。ここは、辛い思い出が沢山あるらしいから」
「他人事だね」
「他人事だよ。逃げるのは、母親だもの」
「緑(りょく)のお母さんは悪くないとは思うけど」
「あの人は、お父さんの死を未だに理解出来てないんだよ」
 自嘲気味の笑みを顔に張り付かせ、緑が窓を薄く開ける。
 まだ冷たい風が蒼の前髪を揺らし、ふっと溜息をつく。
「その父親の死すら、緑には他人事みたいだね」
「‥‥あんまり一緒の時間を過ごさなかったから」
「お仕事、忙しい人だったんだよね」
「さぁ、よく知らない。そんなことより、蒼は明日、どうするの?」
「他の子は?」
「知らない」
「‥‥もっと仲の良い子、いるのに何で?」
「何で蒼を誘ってるのか?蒼だけを、誘ってるのか?」
 緑がキュっと唇と噛むと、窓をピシャリと閉めた。
 腰掛けていた机から下り、足元に置いてあった鞄を掴むと肩にかける。
「逃げたくないから」
「は?」
「蒼が、好きだから。‥‥最後の、思い出」
「そんな事突然言われても‥‥」
 困惑する蒼をそのままに、緑は机と机の間をスルリと抜けて扉の方に歩いて行く。
「そう言えば、基地で隠れんぼした事あったよね。覚えてる?蒼が鬼だった時、結局蒼は見つけられなかった」
「他の皆は見つけた。でも、緑だけは見つからなかった」
「‥‥あんなに傍に居たのに」


≪映画『Two Days color』募集キャスト≫

*蒼(あお)
 17歳の高校2年生
 クールな雰囲気。頭が良く、運動神経も抜群
 緑の事は、ただの幼馴染程度にしか思っていない
 無口で無表情
・外見年齢15〜18程度

*緑(りょく)
 17歳の高校2年生
 全てを諦めているかのような雰囲気で、口調も素っ気無い
 蒼のことは昔から好きだが、どこが好きと言う事は良く分からない
 父親が事故死し、母親とともに別の町へと引っ越す予定
・外見年齢15〜18程度

・その他
・友人
・学校関係者   など
*小中高のエスカレーター校設定にした場合、外見年齢小学生・中学生の方は主要人物の後輩として参加可能です

*外見年齢20以上の方は役が限られてきますのでご注意ください

*蒼目線のお話になります
・お話の流れとしては『シーン1:普通に登校する蒼』→『シーン2:やはり緑が気になって学校を後にする』→『シーン3:秘密基地で緑の姿を捜す』→『シーン4:発見、蒼の返事』となります
・緑は恐らく、木の上などの高いところに居るのではと(『あんなに傍に居たのに』と言っていますし)
・シーン3では『蒼が緑を見つけ出す』ようになさってください
・シーン3で『友人』が捜索に参加するのも可ですが、『学校を早退してまで緑を捜す仲』ですので、仲良し設定になります
→教師の方の参加はあまりオススメできません(大人の方が参加して捜すほど大事ではありません)

*テンプレート
役柄:友人、教師、家族、蒼、緑
役名:(役柄友人、家族は苗字は必要ありません)
口調:
性格:
登場シーン:『シーン1』『シーン2』『シーン3』『シーン4』
シーン毎の詳細:
参考台詞:

●今回の参加者

 fa0074 大海 結(14歳・♂・兎)
 fa0352 相麻 了(17歳・♂・猫)
 fa1609 七瀬・瀬名(18歳・♀・猫)
 fa3014 ジョニー・マッスルマン(26歳・♂・一角獣)
 fa4909 葉月 珪(22歳・♀・猫)
 fa4956 神楽(17歳・♀・豹)
 fa5196 羽生丹(17歳・♂・一角獣)
 fa5488 大曽根千種(17歳・♀・一角獣)

●リプレイ本文

 瑞希(七瀬・瀬名(fa1609))は登校途中に見知った後姿を見つけ、足を速めた。ポンと肩を叩き、ほんの少し頬を染めながら微笑む。
「蒼、お早う」
 ゆっくりと振り返った蒼(羽生丹(fa5196))が読んでいた本から視線を上げ、瑞希の顔を見るとふと足を止める。
「‥‥あぁ、瑞希。お早う」
「どうしたの?何か考え事?」
 蒼らしくない、心此処に在らずと言った様子に首を傾げる。2人の間に妙な沈黙の時が流れた時、瑞希の背後から藍(大海 結(fa0074))が走りながらやって来た。
「どうしたの2人とも、遅刻しちゃうよ?」
「え?そんな時間だっけ。大変!」
 瑞希が藍に続いて走り出し、腕時計に目を落とした蒼もそれに続こうとする。
「よ!ひっさしぶり」
 突然肩を叩かれ、走り出そうとしていた足を止めると振り返る。相変わらず明るくナンパっぽい外見をした丈(相麻 了(fa0352))に溜息をつき‥‥
「突然肩を叩くなよ。驚くだろ?‥‥あれ?お前、制服は?」
「おいおい、もうボケちゃったのかよ。俺は去年隣町に引っ越したじゃんか」
「あぁ。そうだったっけ。お前、存在感はあるけど存在価値はないから忘れてた」
「ひどいぜ蒼ちゃん!」
「ってかお前、学校は?」
「そーりつ記念日っすよー。それより蒼、緑は?久しぶりに会いたいなーって思ってたんだけど」
「バカ。お前の学校は創立記念日でも、俺達は学校があるんだぞ?」
「あっちゃー、すっかり忘れてた!」
「ったく、相変わらず‥‥」
「蒼!何してるの、遅刻しちゃうよー!?」
「今行く!‥‥それじゃぁジョーカー、俺は‥‥」
 瑞希の声にそう返した後で振り返ると、何時の間にか丈の姿はなくなっていた。


 誰も座っていない緑(神楽(fa4956))の席に視線を向けた後で、蒼は深い溜息をついた。まさか本当に休むだなんて‥‥
「どうかしてる」
「え?何か言った?」
 目の前に座っていた藍が眉根を寄せながら首を傾げる。
「や、藍に言ったわけじゃなくて‥‥ちょと俺、早退する」
「え、早退って、どうして‥‥?」
「ちょっと蒼、何処行くのよ!?」
 うろたえる藍の声を聞きつけた瑞希が立ち上がると、ツカツカと蒼の前に歩み出る。
「散歩」
「な、わけないでしょう。蒼、今朝からなんか変だよ?」
「五月病」
「五月じゃない」
「‥‥メンドクサイけど、待たれてるらしいから迎えに行く」
「どう言う事よ、ねぇ、ちょ‥‥」
 瑞希の手を払って、鞄を片手に教室を出て行く蒼。
「どうしたんだろう‥‥」
「私も早退する。だって、気になるじゃない」
「え、待って、僕も一緒に行く‥‥!」
 瑞希が蒼の後を追い、瑞希の後を藍が追いかける。その様子を職員室の窓から目撃した英語教師のマイケル(ジョニー・マッスルマン(fa3014))は窓をスパーンと開けると声を張り上げた。
「貴様らサボリKA〜〜〜!?」
 ビクリと一瞬だけ止まった3人が、直ぐに走り出す。その様子に『ズル早退』だと直感したマイケルが3人を捕獲すべく走り出した。


 紅(葉月 珪(fa4909))は買い物帰りに見かけた見知った背中に、思わず声をかけた。
「蒼くん?学校はどうしたの?どこか具合でも悪くて早退してきたの?」
 そうではないと分かるような顔色だったが、こんな時間に学校が終わっているとも思えない。
「ちょっと厄介な事が起きて、今から緑を捜しに行かなきゃなんないんだけど‥‥」
「そう言えば、緑ちゃん引っ越しちゃうんでしょう?‥‥寂しくなるわね。それで、緑ちゃんを捜しに行くっていうのは、どう言う事なの?」
「知らない。隠れんぼっつってた」
「隠れんぼって言うと‥‥『秘密基地』ね?懐かしいね、よくあそこで遊んだよね」
「‥‥俺、前にあいつだけ見つけられなかったんだ」
「緑ちゃんは、寂しかったんだろうね」
 何でもないように呟かれた紅の言葉は、確かに『何かを伝えようとしていた』。けれど、蒼はあえてその事は考えずに俯くと、紅に背中を向けた。
「ねぇ蒼くん、私も一緒に行っちゃダメかな?」
「‥‥勝手にすれば?」


 秘密基地につくと、腰に手を当てて少し怒った様子の瑞希と、懐かしそうに周囲を見渡す藍の姿があった。
「2人とも‥‥」
「蒼の行動パターンは大体分かるんだから。‥‥で、どうして此処に来たの?」
 観念したらしい蒼が、此処に来た経緯を説明し、緑が言った言葉をそのまま伝える。勿論、告白の事は伏せて‥‥
「しょうがないなぁ、私も一緒に捜してあげるよ♪蒼だけだと、何時までたっても見つからないと思うし」
「僕も手伝うよ」
 瑞希の言葉に藍が言葉を挟み、蒼と紅、瑞希と藍の2チームに分かれて付近を捜索し始める。
「久し振りに来たけど、あの頃とあまり変わってないね」
「こんなとこ、誰が来るでもないしな」
「あの時、緑ちゃんだけ見つけてもらえなくて残念そうだったよね」
「ムキになって見つからなさそうな所に隠れるあっちが悪い」
「‥‥ねぇ、緑ちゃん、他には何か言ってなかった?」
「何かって?」
「もしかしたら今も傍で隠れていて、此処の様子が見えるような場所に居るんじゃないかしら?」
 紅の言葉と、緑の言葉が重なる。『あんなに傍に居たのに』そう言った緑の表情は‥‥
「今度はちゃんと見つけてあげなきゃね」
 そう言うと、蒼から離れて行ってしまう紅。
「ンな事言ったって、あいつ一体ドコに隠れてたんだよ‥‥」
「バーカ、アイツが居る所って言ったら一つしかないだろ!」
 またしても唐突に現れた丈が、呆れたような顔で蒼の頭を叩く。
「しっかりしろよ。忘れたのか?あの時、皆で誓い合った‥‥」
「桜の木‥‥」
 蒼が走り出し、秘密基地の中央に生えた一番大きな木の根元に行くと上を仰ぎ見る。
「‥‥緑‥‥」


「良かった、緑居たんだね」
 木の上から下りてきた緑に瑞希が声をかける。その背後からは藍と紅が姿を現し‥‥
「私達、先に学校行ってるから2人で仲良く話し合いしてね」
「とりあえず、マイケル先生には怒られないとだね」
 藍が苦笑しながら呟き、瑞希が2人にウインクを残すと歩き出す。このまま一緒に居たら、嫌な事を言ってしまいそうな気がして‥‥
『馬鹿だな‥‥俺‥‥』
 乾いた笑い声を上げながら、丈が瑞希の隣を歩く。決して聞こえないであろう声。瑞希も藍も紅も、丈が何を言っても言葉を返してはくれない。
『緑の事が、好きだったんだ。でも、あいつは昔から蒼しか見てなくて‥‥』
 死んでからも2人を取り持ってしまう、自分の不器用さ加減に自嘲気味の笑い声が零れる。丈は1度だけ蒼と緑を振り返ると、隣を歩く瑞希達にそっと声をかけた。
『じゃあな』
 溶けるように消失していく丈の姿は見えなかった。けれど、瑞希達の耳には小さな風の音となって聞こえた。
「‥‥何か、誰かに話し掛けられたような‥‥」
「気のせいじゃないかしら」
「‥‥そう、だよね。‥‥あー、なんか、丈の事思い出しちゃった」
「丈君、懐かしいね‥‥」
「あいつってお人好しでさぁ、チャラけて見せてるわりには優しくて‥‥何て言うか、私と似てたんだよね‥‥」


「ねえ、覚えてる?あの日の隠れんぼの事。私ね、ずっと蒼が見つけ出してくれるのを待ってた」
 吹いた風に前髪を揺らしながら、蒼よりも少し高い視線の緑が目を細める。
「そしてら『好き』って言おうと思ってた。蒼の事がとても好きだったから。でも、賭けは私の負け。だからずっと言わずにおこうと心に決めたの。‥‥でも駄目。2度と会う事がないかも知れないと思ったら、その誓いを破ってしまった」
 困ったような蒼の顔に、微笑を向ける。
「蒼が私の事、何とも思ってないことくらい分かってる。ずっと見てきたから。でも、言わずには居られなかった。後悔はしてないよ。言わない方が、後悔してただろうから」
 蒼は、何時の間にか緑から視線を外していた。だんだんと潤んでくる瞳を見ているのが、辛くなってきたのだ。
「ねぇ、1つだけわがままを言っても良い?‥‥私の事、忘れないで。こんな勝手な幼馴染がいたって事を。‥‥忘れられてしまうのが、多分一番辛いから」
 頬を伝った涙を乱暴に拭い、緑は笑顔を浮かべた。
「今日は私を見つけてくれて、有難う。最後にとても大切な思い出が出来たわ。‥‥この思い出があれば、私は大丈夫だから」
 背伸びをして、そっと抱き締める。その気持ちには応えられないけれど、コレだけは言える。
「幸せでな」
「有難う、蒼。今まで、有難う」


   ‥‥きっと忘れない、今日と言う日を
   何年経っても、きっと覚えている
   風の通り過ぎる音、遠くから聞こえた車のクラクション
   雑草の匂いと混じって香った、蒼の匂い
   蒼の体温、低い声‥‥
   最後の約束を、貴方が守ってくれるのかは分からない
   それでも、私はきっと忘れはしない


   ‥‥大好きな人に見つけてもらった、幸せな日を‥‥


○出演者達の一言感想
神楽「木の上が寒かったです(苦笑)」
丹「台詞が多くて大変でした」
瀬名「元気な女の子、楽しかったです」
了「最後、消えるところのCG処理が楽しみです(笑)」
珪「良いお姉さんを演じられていればと思います」
結「ちゃんと高校生に見えていればと思います」
ジョニー「ミーの素晴らしい走りっぷりをとくとご覧あれ!(笑)」