Pure Melody 失優アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
宮下茜
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
6.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/04〜03/06
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●本文
いつから家に帰るのが憂鬱になってしまったんだろう。
いつから家で笑わなくなってしまったんだろう。
いつから家で喋らなくなってしまったんだろう。
いつから家族と一緒に食事をしなくなってしまったんだろう。
いつから家に、帰っていないんだろう。
いつからこんな風になってしまったんだろう。
いつから『俺』は壊れて行った?
‥‥何時からなんて、分かりきった事を‥‥
『俺』の日常は『あの日』から狂って行ったんだ‥‥
きっと彼を放っておけなかったのは、記憶の中で寂しそうに俯く『彼』の背中と合わさったからだ。
人工的な明かりが輝く街中で、彼は何かに耐えるように地べたに座っていた。まだ中学生くらいだろうか。幼さを残した女性的な顔立ちの少年だった。
「君、どうしたの?具合でも悪いの?」
いたって優しく声をかければ、彼はビクリと肩を震わせて僕の事を見た。
「あー、お巡りさんじゃないから」
ヒラリと手を振る。スーツ姿の、いかにも会社帰りですといった雰囲気の僕の服装に幾分安心したのか、彼はほっと溜息をついた。
「なんだよおっさん」
「おっさんか。まぁ、君くらいの年齢の子からすればおじさんになるのかな?これでも23なんだけどな」
「10も違えばおっさんだろ」
自分の年齢から10を引き算する。すると、この子は13歳、中学1年生だ‥‥。
「こんな所で如何したの?誰か待ってるの?」
「誰も」
「家には帰らなくて良いの?」
「別に、おっさんに関係ないだろ」
「でも、この辺は危ないんだよ」
「喧嘩なら得意だ」
突っぱねるようにして言う彼に、僕はどう言ったら効果的なのかを考えた。恐らく、キツク言っても尚更臍を曲げられる事は目に見えている。
「‥‥ここら辺ね、最近物騒なんだよ」
「だから、俺は大丈夫だっつー‥‥」
「最近、君みたいな美少年ばかり狙われてるって言ったらどうする?」
「‥‥うそ、だろ?」
血の気の引いた顔があまりにも可哀想で、僕は苦笑しながら「嘘だよ」と言って彼の頭を叩いた。
彼が不快そうに手を払いのけ、暫くしてから騙された自分が可笑しくなったのか、小さな声で笑い始めた。
「おっさん、面白い人だな」
「沖野閏って言うんだ」
「俺は漣」
「そっか、漣君だね。‥‥さっきの話しは嘘だけど、そう言う人がいないとも限らないんだよ。だから、早く家に‥‥」
「誰も、心配なんかしてねーんだよ」
今にも泣きそうな顔でそう言うと、彼は俯いて唇を噛んだ。
≪映画『Pure Melody 失優』募集キャスト≫
*香坂 奏(こうさか・そう)
少女のような儚い外見をしている。実年齢は23(外見年齢18〜23)
知らない人(特に女性)に警戒心を発し、常に閏の傍から離れない
言いたい事は容赦なく言うが、感情を上手く表せないために閏の感情に引きずられがち
→閏が泣けば奏も泣き、閏が笑えば奏も笑う
視線は常に下に向けられており、閏との会話のみ目を見て話す
『俺』『お前(呼び捨て)』ぞんざいな口調で話す。閏も弓も呼び捨て
大きな音が苦手で、何か傷つける事を言われると閏の姿を捜す
→その際一人称が無意識のうちに『僕』に変わる
*嘘をつく事が出来ない(お世辞なども言えない)
*沖野 閏(おきの・じゅん)
身長は高く、いたって普通の好青年。実年齢は23(外見年齢20〜25)
人当たりが良く、物腰が穏やか。奏を実の弟のように可愛がっており、過保護
『僕』『君(さん・ちゃん・君づけ)』柔らかい口調で話す。奏は『奏』弓は『弓ちゃん』
滅多な事では怒らないが、奏を傷つけた相手には容赦が無い
→頭に血が上り、一瞬自我を忘れる。その際一人称は『俺』に変わり、口調も乱暴になる
→ただ、頭に血が上っている時間は短く、すぐに自我を取り戻し冷静になる
・黍里 漣(きびさと・れん)
可愛らしい外見をした少年。実年齢13(外見年齢12〜15)
漣が7歳の時に実の母親が他界。去年父親が再婚し、新しい家族が出来たのだが、上手く馴染めないでいる
悪ぶってはいるが、根は優しく純粋な子
家に居場所がないと思い込んでいる
→父親と再婚相手に気を遣いすぎて息苦しくなってしまったため
→大好きな父親を取られてしまったと言う喪失感
一人称は無理に『俺』を使っているが、本来は『僕』
『お前』『だ、だな』を無理に使っているが本来は『〜さん』『だね、だよ』と少々子供っぽい口調
・その他
*漣の家族
→兄弟が居る場合は母親の連れ子設定
奏と閏の同級生 など
注
その他キャストで奏と閏の同級生を選んだ方は『2人とどのような関係なのか』『2人をどう思っているのか』をお書き下さい
奏は閏にしか心を開きませんので、奏が友達だと思っている方はいないと思いますが、奏には友達と思われてなくても友達だと思ってると言う主張もありです。
●リプレイ本文
奏(玖條 響(fa1276))は待ち合わせ場所に現れない閏(星野・巽(fa1359))を心配して捜していた。閏が遅れて来るなんて、有り得ない。もしかしたら、事故にでも遭っているのではないか?嫌な想像を振り払うように首を振った時、視界の端に閏の後姿を見つけた。
「閏!なかなか来ないから心配して‥‥」
言葉が途切れる。振り返った閏の隣には、漣(ウィン・フレシェット(fa2029))の姿があった。
「奏‥‥わざわざ捜しに来てくれたのか?」
「こいつ、何?」
あからさまに嫌そうな顔を向ける奏の肩を叩き、人差し指を路地の方に向ける。
「そこで拾ったんだけど」
「拾ったって、犬猫じゃあるまいし‥‥」
「漣!見つけたっ!!」
雑踏から聞こえて来た声に、視線を向ける。そこには漣の叔母である遥(四條 キリエ(fa3797))が荒い息をしながら立っていた。
「叔母さん」
「さっき優君から帰りが遅いって電話があったの。心配したわ」
「あ、いっけね‥‥連絡してなかった‥‥」
「本当は家の方に帰って欲しいんだけど‥‥」
困ったように頬に手を当てる遥の背後から、再び漣の名前を呼ぶ声がした。その声にビクリと反応し、脱兎のごとく駆け出して行く漣。遥がその後追い、由利(椎名 硝子(fa4563))が呆然とその背中を目で追う。
「あの?」
「あ、すみません。漣がお世話になっていたみたいで‥‥あの子の母親です」
由利の若さに面食らった閏が目を丸くし、由利が慌てて補足する。
「血の繋がった本当の母親ではないんです。漣の父親と去年結婚したばかりで」
「こんな事を聞くのは失礼かも知れませんが、上手く行ってないんですよね?」
「‥‥はい。全然懐いてくれなくて、嫌われてるみたいなんです。やはり、血の繋がらない私が母親を名乗るなんて‥‥あ、ごめんなさい。こんなお話‥‥私はこれで失礼させて頂きますね」
会釈をして去って行った彼女の背中を見詰めながら、奏が「一体何だったんだよ」と小さく呟いた。何か真剣に悩んでいるらしい閏の表情に不安になり‥‥
「このままじゃ‥‥」
閏の言葉は、奏が服の裾を引っ張ったことで途切れた。
「遅かったね。心配したんだよ」
「悪い‥‥」
橘 優(カナン 澪野(fa3319))の元に逃げ込んだのを確認した遥は、安堵の溜息をついた。薄く開いていた扉が閉じ、優と漣の姿が消える。由利に無事に優君の家についたと連絡を入れようとした時、扉が開き、中から優が顔を出した。
「遥さん、いるんでしょ?漣、何かあったの?」
「‥‥義姉さんと町でばったり遭遇しただけよ。優君、いつもゴメンね。もう少し時間が掛かりそうなの。漣の事、宜しくね」
「うん‥‥」
翌日、夕べの事を問いただしていた優は、漣の態度に思わず声を荒げた。
「いつまでもこんな事してて良いわけないだろう!?帰る方が良い!漣のそれは、ただの甘えだよ!」
何も言わずに駆け出して行った漣に、優は唇を噛み締めると拳を握った。
「‥‥僕は、間違ってない‥‥!」
閏は久し振りに会った友人、新川・浩介(葛城・郁海(fa4807))と向かい合って珈琲を飲んでいた。
「奏が嫌がるのは分かってるんだ。でも、放っておけない‥‥僕は偽善者かな?」
「そもそも、どうして放っておけないって思うんだよ?」
「‥‥昔の奏に、似てるんだ」
奏はポツリと呟くと、千円札を財布から抜いてテーブルの上に置いた。
「愚痴聞いてくれた御礼に、奢るよ」
「さんきゅ。これから捜しに行くのか?」
「あぁ。きっと今日も夜の町を彷徨ってるだろうから‥‥」
樋野さくら(ヒノエ カンナ(fa5480))は懐かしい後姿に声をかけた。相変わらず変わっていない閏に微笑みかけ‥‥
「あのさ、小さい男の子見なかったかな?なんて言うか、昔の奏みたいな雰囲気の‥‥」
「本当に相変わらずなのね!相変わらず香坂君のお世話ばっかり?‥‥何か、性格も変わってなくて安心しちゃった。あ、で、その男の子なんだけど‥‥見たよ」
何処で見たのかと尋ねる閏に、さくらは丁寧に場所を教えると上目使いに閏を見上げた。
「一人で寂しそうだったから声かけたんだけど、何でもないって噛みつかれちゃった」
「そっか‥‥」
「やっぱ、沖野君も気になったんだね。あの子の事」
「樋野さんも?」
「そう。理由は、沖野君と一緒。何となく、香坂君みたいだったからさ。‥‥って、何でそんな泣きそうな顔してるの?」
「いや、俺の他にも奏を気にかけていてくれた人がいたんだって‥‥」
「沖野君は知らないかも知れないけど、香坂君を心配してた人って結構いたんだよ。でも、皆何も出来なかった。勿論、あたしも例外じゃなくね。‥‥でも、沖野君は出来た。香坂君、沖野君が傍に来ると途端に安心したような顔になってたし」
「樋野さん‥‥」
「あの子も、きっと沖野君ならどうにかしてあげられる。だから、早く行ってあげなよ!」
ポンと背中を押され、奏はさくらに笑顔を向けると手を振って去って行った。‥‥さくらの胸の中で、昔の淡い想いが疼き‥‥そっと、頬に手を当てた。
漣を発見した閏は、誘拐犯に間違えられると困るからと言う理由で漣から遥の連絡先を教えてもらった後で、漣をつれて奏の家に来ていた。あからさまに嫌そうな顔をする奏を宥めすかした後で、遥の所に行って来ると言って出て行こうとする閏を、奏が引き止めた。
「何で、あいつをそんなに構うんだよ」
「何だか放っておけないし‥‥」
「閏はいつもそうだ。俺の事だって‥‥あいつと俺を重ねてるのか?‥‥あいつは、俺じゃない!」
切なそうな表情で訴える奏の頭をポンと1つだけ撫ぜると、背中を向ける。
「でもやっぱり、放っておけないよ‥‥」
「兄が再婚したのは、漣のためでもあるの。中学生になったとは言え、まだ子供だし、兄は多忙だから必然的に漣は家に1人になってしまう。‥‥義姉は、漣の母親の事も理解した上で漣を大切にしているわ。漣の母が歌ってた歌まですっかり覚えちゃって‥‥不器用で、漣にどう接して良いか躊躇ってるみたい」
「そうですか‥‥」
「漣の母親はね、とても優しい人だったけれど体があまり丈夫でなかった。彼女の性格からして、新しい家族が仲良くあるように願っていると思うわ‥‥」
「俺、いや、僕、此処にいても良いの?」
「‥‥閏が良いって言ったんだから、良いんだろ」
「閏さんがって、ここ、奏さんの家じゃ‥‥」
合わない視線に、漣は奏から嫌われていると思い、目を伏せた。沈黙が場を支配し、居心地の悪さに両手を膝の上で握り‥‥
「あの、さ。お前‥‥逃げてばっかで良いのか?」
「え?」
急に話し掛けられ、漣がビクリと震えた。
「お前は、継母の気持ち決め付けて、逃げて‥‥でも今のままじゃ、何も進展しないだろ?お前には今、継母と真っ向から向き合う必要があると、思う。あと‥‥」
言いかけた言葉を呑みこむ。これ以上閏に迷惑はかけるなと、喉元までせり上がって来た言葉を押し戻す。もしソレを言ってしまえば、その言葉は自分にも跳ね返ってくるわけで‥‥
「何でもない」
立ち上がり、出て行った奏と入れ替わる形で、閏が部屋にやって来た。
「‥‥漣君。お母さんの本心を知りたくはないか?」
漣が路上で倒れ、奏の家に運び込まれたと言う連絡を受けて、遥と由利は奏の家へと急いでいた。普段はきちんと整えている身なりだったが、遥から連絡を受けて着の身着のままで来た為に随分とラフな格好だった。
「漣の容態はどうなんですか!?」
髪を振り乱して息を切らせた由利に、命の別状はないと告げる閏。安堵した由利が漣の寝ている室内に入り、そっと手を伸ばし‥‥漣の頬に触れようとして、寸でのところで引っ込めた。漣に触れて良いものか、迷う彼女の耳に聞き慣れた曲が響いてくる。
単調なピアノの音は、夫や遥から聞いていた、漣と実母の思い出の子守唄の旋律をなぞっていた。ゆっくりと優しく、強かに響くピアノの音色に子守唄を口ずさみ‥‥そっと漣の頭を撫ぜる。
「‥‥おかあさん‥‥」
閏の作戦で狸寝入りをしていた漣が目を開け、初めて呼んでくれた『お母さん』と言う言葉に涙を滲ませる由利。
「漣が無事で本当に良かった‥‥」
「あの曲、どうして?」
「遥が教えてくれた。簡単だったから、直ぐ覚えた」
ピアノ室から出てきた奏は、浮かない顔をしていた。今にも脆く壊れてしまいそうな危うさに、閏が思わず手を差し伸べ‥‥
「‥‥まだ俺には閏が必要で、だけど‥‥だけど俺、ちゃんと、成長してるよな?あの時から、成長、してるよな?」
不安そうな顔で閏を見上げる奏。伸ばした手を頭に置くと、優しく撫ぜる。
「大丈夫だよ。奏は少しずつ前進してる。‥‥周囲に合わせる必要はないよ?自分のペースで歩けば良い」
(奏よりむしろ、僕の方が‥‥)
閏は心の中でその先の言葉を打ち消すと、未だに不安そうに目を潤ませる奏に心からの笑顔を見せた。
件名:色々有難う
from:漣
本文
家に帰る事にしたよ。誤解が解けてから、お母さんとも仲良くやってるよ
この間なんて、一緒に買い物に行ったんだよ
‥‥優には沢山迷惑かけたけど、これからも宜しくね?
件名:良かったな
from:優
本文
お母さんとの誤解が解けて良かったよ。
これから漣はマザコン街道まっしぐらになるかも?(笑)
‥‥また遊びに来なよ?待ってるから