Blue Roseアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
宮下茜
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや易
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報酬 |
1.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/14〜03/16
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●本文
突然の交通事故で、私はこの世を去った。
それなのに、未だにこうして地上を彷徨っているのは何でなんだろう‥‥
「ぜぇぇぇぇったい、あんたの職務怠慢だと思うんだけど!?ちゃんと仕事してよ!仕事っ!!」
「え!?や‥‥だって、あの‥‥」
近藤 鳴、享年17歳。ただ今幽霊歴2ヶ月。
隣にいるのは自称天使のコウ。外見年齢20歳そこそこ。
「大体、天使とか言って、空飛んでないし!羽根ないし!」
「や、羽根はあるんだけど‥‥ほら、そうむやみやたらに飛んでも‥‥ねぇ?」
「ねぇ?って何よっ!」
「だって!前に鳥にいじめられたんだもん!」
「なっさけな‥‥!天使とか、嘘でしょ!?」
「本当だよ!だからこうして、鳴ちゃんの傍に居るわけで‥‥」
オロオロと困った様子のコウに、鳴が溜息をつく。
優男風のコウには、天使らしい輝きも、威厳も、なにもない。
「服が白きゃ天使ってわけじゃないんだからね!?」
「勿論だよ‥‥」
「そもそもさぁ、未練はないっつってんじゃんっ!私、サバサバした性格なんだって!」
「うん、それは読んだ‥‥」
「読んだ!?」
「鳴ちゃんのプロフィールは全部知ってるつもりだよ?」
「‥‥体重の部分、2キロ引いときなさい!」
ビシと指をさされ、コウが困ったように頷く。ここは逆らわない方が身のためだろう。
「僕だって、鳴ちゃんを早く連れて行ってあげたいんだよ。でも‥‥」
鳴の魂はまだ、この場に繋がれているのだ。
「‥‥鳴ちゃんさ、本当に思い残しない?」
「ないわよ。‥‥あえて言うなら、宏がそうかなって思ったけど‥‥もう、あんなヤツなんて知らないんだからぁっ!!」
「宏って、江島 宏君のことだよね?鳴ちゃんと付き合ってた」
「そうよ。付き合ってたわよ。きっと、私の心残りは宏なんだなって思って、会いに行ったのよ!そしたらアイツ‥‥もう、本当信じらんないっ!!」
「な‥‥何があったの?」
「本田 忍とイチャイチャ‥‥」
「忍さんって、確か学園のアイドルの‥‥」
「あぁ言うのはねぇ、ただのぶりっ子って言うのよっ!」
忍が心底不機嫌だと言う顔をして、そっぽを向く。
「ねぇ、鳴ちゃん。1度宏君と話し合ってみたらどうかな?」
「無理よ。だって、宏には私の姿は見えないんだもの」
壁でもガラスでもすり抜けられると言う幽霊スキルを身につけた鳴の姿は、宏の視界をもすり抜けてしまっている。
「これを1輪あげるから。そうすれば、きっと見えるようになるよ‥‥」
そっと念じて手を開けば、小さな青薔薇が1輪花開いていた。それを鳴の髪にそっと飾る。
「手品は上手なのね」
「手品じゃないよ‥‥。お別れも言えないままだったんでしょう?だったらさ、最後のお別れを言いに行く感覚で行ってみたらどうかな?」
「お別れなんて‥‥」
「たった一言言うだけで良いんだよ。明日の朝までに言えれば‥‥」
「明日の朝まで?」
「明日になれば、枯れちゃうから‥‥」
コウの言葉に、鳴が視線を落とす。そっと薔薇に触れ‥‥
「そんなに言うんなら、行ってあげる。でも、これでも成仏できなかったらあんたのせいよ」
「その時は全身全霊をかけてお手伝いします」
≪映画『Blue Rose』募集キャスト≫
*近藤 鳴(こんどう・めい)
享年17歳、現在幽霊歴2ヶ月
サバサバした性格
壁をすり抜けたり宙を浮いたり出来るが、人や物に触れることは出来ない
→コウには触れられる
*コウ
外見年齢20歳程度の優男風な容姿
本物の天使なのに、鳴には自称と疑われあんた呼ばわりされている
外見同様に優しい性格
羽根もあるにはあるが、鳥に襲われた恐怖から無闇に出さない
普通の人間には見えないが、人や物には触れられる
*江島 宏(えじま・ひろ)
外見年齢高校生程度
鳴と付き合っていた。見た目は明るく爽やかな少年
サバサバした性格の鳴に引っ張られがちだった
結構優柔不断
・本田 忍(ほんだ・しのぶ)
外見年齢高校生程度
学園のアイドル。特別に顔が可愛らしいと言うわけではない
妹系で甘えたような口調&態度が特徴
密かに宏が好き
『忍』『君、ちゃん』『〜なのぉ?〜かなぁ?』
・その他
*鳴や宏の友人
・鳴や宏の家族
→鳴の姿は宏と天使にしか見えません
●リプレイ本文
「ひーろくんっ♪」
明るい忍(あずさ&お兄さん(fa2132))の言葉に、宏(Rickey(fa3846))は足を止めると振り向いた。
「おっはよ〜!暗い顔、どうしたのぉ〜?」
小走りに隣につき、そっとさりげなく宏の手を取る忍。首を傾げ、やや上目使いに宏を見上げ‥‥
「何でもないよ」
「そう?それなら良かったぁ♪忍、心配しちゃったよぉ〜?」
明るく無邪気な笑顔に、宏が手を伸ばし、忍の頭を撫ぜる。忍が嬉しそうに宏の腕に頬を押し付け‥‥その様子を上で見ていた鳴(咲夜(fa2997))がギリっと奥歯を噛み締めるとそっぽを向く。
「鳴ちゃん‥‥」
コウ(虹(fa5556))が鳴の肩にそっと触れ、何か言葉をかけようとするが、言葉は全て喉に引っかかって出てこない。小刻みに震えている肩に、コウが苦々しく唇を噛み‥‥バサバサと、近くの木で鳥が羽ばたく音を敏感にキャッチし、思わず鳴の背後に隠れる。
「ちょっとあんた、何ムードぶち壊してんのよっ!!」
「む、ムードより命の方が大事なんだってー!」
「あんた天使でしょーーーっ!!!」
鳴の涙を乾かす事が出来た代わりに、コウは頭に大きなたんこぶを作るはめになった。
藤崎 沙羅(姫乃 舞(fa0634))は宏の肩を叩くと、小さく微笑んだ。
「最近忍ちゃんと仲良いわよね。‥‥ねぇ、宏。あれから2ヶ月も経つでしょう?鳴ちゃんの事を忘れろだなんて言わないけれど、別れを受入れるべきじゃないかしら。宏がいつまでもそんなんじゃ、鳴ちゃんだって悲しむわよ?」
お姉さんぶった沙羅の言葉に、曖昧に頷く宏。ありきたりの言葉くらいでは、大切な人を失った心は癒えない。
(何度も言われてるな。同じ様なこと‥‥)
沙羅だけではなく、色々な人に言われてきた台詞は、今では曖昧に頷いてはぐらかす事を覚えてしまっていた。もう、心には届かない台詞‥‥
「ごめん、ちょっと‥‥」
まだ何かを言い続けている沙羅を押しのけて、宏はふらりと廊下に出ると真っ直ぐに歩いた。左側に広がる窓の外の風景に視線を向け‥‥開いていた窓から、風が吹き込んでくる。少しだけ甘みを帯びた風は、何故か懐かしい感じがした。
「あ、お兄ちゃん!!」
聞き慣れた声に、宏は閉じていた瞼を開けた。廊下の先からトテトテと走って来る妹の雨(角倉・雨神名(fa2640))は、少し怒ったような顔をしていた。
「お兄ちゃん、今朝のアレ何!?」
「アレ?」
「忍さんよ!お兄ちゃんが大変な時に、ベタベタベタベタ!!お兄ちゃんも、嫌いなら嫌いってはっきり言えば良いのに!!」
「雨、あれは違うんだよ‥‥忍さんは‥‥」
「言い訳なんて聞きたくない!お兄ちゃんは、鳴さんの事‥‥好きじゃなかったの!?」
「‥‥好きだったに、決まってる‥‥だろ‥‥」
つぅっと頬を滑り落ちた涙に驚くと、力いっぱいそれを拭った。
鳴がいなくなってから、宏は友人に囲まれて帰るようになった。
「‥‥お前、今日暗い顔してるけど、大丈夫か?」
「大丈夫だよ。また明日!」
明るい顔で手を振る。決して寂しさなんて見せないように。最近では「大丈夫だよ」と言うのが口癖になっている気がする。
(前までは、鳴に言ってたのにな‥‥)
鳴が何か些細な失敗をした後でかける『大丈夫か?』の台詞。少しからかうように言えば、鳴がむきになって返す『大丈夫だよ!』と言う言葉‥‥それすらも、懐かしい。
チャイムを押し、少し待った後で扉が開く。鳴の父親の隆(水沢 鷹弘(fa3831))が小さく微笑みながら迎え入れてくれ、宏は丁寧にお辞儀した後で中に入ると、鳴の遺影の前で手を合わせた。
「宏君、今まで鳴に良くしてくれて有難う。鳴も、きっと君に感謝しているよ」
「そんな事‥‥」
「どんなに落ち込んでいても、もう鳴は帰ってこないんだ。宏君も鳴の分まで精一杯幸せに生きて欲しい‥‥」
また、繰り返される、冷たい言葉。もう鳴はいない。だから、鳴の分まで幸せになれ。前を向け。残された者の使命は、逝ってしまった人の分まで生きること。‥‥『きっと、鳴もそう願ってる』
(‥‥鳴も願ってる。鳴がそう言ってる。どうして彼らには鳴の言葉が聞こえる?何故?どうして?‥‥ 俺 に は キ コ エ ナ イ ノ ニ ‥‥)
ボウっとどこか遠くを見詰める宏をそのままに、隆は席を外した。一人になった途端に襲う、深い悲しみ‥‥
「鳴‥‥。どうして俺を残して独りで逝ってしまったんだよ‥‥」
写真の中で微笑み続ける鳴は、何も語ってはくれなかった‥‥
流川 彰(ルーカス・エリオット(fa5345))は呆然としたまま道を歩いていた。幼い時から一緒に育ってきた鳴の突然の他界を、まだ受入れられていなかった。突然ヒョッコリ出てきたり、後ろから叩かれたりするんじゃないか。実はまだ、近くにいるのではないか‥‥
「あれ?彰さん?」
突然背後から声をかけられ、彰は足を止めると振り返った。少し目を赤くした宏が、奇遇ですねと言いながら走って来て彰の隣に立つ。
「久し振り。元気‥‥なわけ、ないよな。‥‥何かさ、まだ実感できないんだよな。朝起きたら鳴と顔あわせるんじゃないかって‥‥」
「そうですね‥‥」
「あいつ、本当にいなくなっちまったのかな‥‥」
寂しそうな様子で呟いた彰に、宏が口を閉ざす。暫く、冷たい沈黙が場を支配し‥‥
「ゴメン。お前も、辛いよな」
「‥‥はい。彰さんほど鳴と一緒の時を過ごさなかったと言っても、やっぱり‥‥」
時間ではなく、思い出の数ではなく、悲しみは、その人を想う気持ちと比例する。
「こんなシンミリしてちゃ、鳴に怒鳴られちまうか。‥‥いや、殴られるか?」
「蹴られる心配もあります」
彰と宏が顔を見合わせ、寂しさを吹き飛ばすかのように、声を上げて笑った。
忍は部屋で1人になると、テーブルの上に突っ伏した。
「鳴ちゃんのことはぁ、私だって驚いてるし、ショックだし‥‥宏君が落ち込むのも分かるけどぉ、でも‥‥あんな元気のない宏君、黙って見てるなんて出来ないよぉ」
弱っている所につけこんで宏を落とそうとしていると、陰口を言われている事を忍は知っていた。
「‥‥鳴ちゃん、忍は、宏君に笑っていて欲しい、それだけなんだよ‥‥」
鳴は、今まで閉ざしていた心をゆっくりと開いた。そうする事によって、鳴に話し掛けてくるいくつもの声を聞くことが出来た。
『何時だったか山に登った時に、途中で足が痛くなった鳴を背負って下りたことあったよな‥‥』
「あの時、彰兄の背中が温かくって眠っちゃったんだよね‥‥」
『忍、いつも真っ直ぐな鳴ちゃんが憧れだった』
「私も、忍に憧れてたよ。素直に人に甘えられる忍が羨ましかった」
『鳴、一目だけでいい。もう一度、会いたい‥‥!』
「‥‥宏‥‥」
鳴の瞳に涙が輝き、コウはへにゃりと微笑むと鳴の頭を撫ぜた。
「鳴ちゃんは幸せ者だね」
皆に愛されている子は、きっと天国に行っても幸せになれる‥‥
「何よその、締まりのない顔!天使なんだから、もっと威厳をもって!」
「は、はい!」
突然怒られたコウがピシっと敬礼し‥‥クスリと顔を見合わせて微笑むと、夜が明けるのを静かに待った‥‥。
朝日が昇り始めるのを見届けてから、コウは鳴の髪に飾った青い薔薇を綺麗に整えると背中を押した。
「奇跡は、起こるからね。声は、想いは、届くから」
ゆっくりと頷いた鳴が、宏の部屋へするりと入り込むと青薔薇に手を乗せる。突然部屋の中に現れた鳴に、宏が目を見開き‥‥すぐに彼女の存在を受入れると、目に涙を溜めた。
「鳴!鳴‥‥お前に会いたかった!俺、お前に何もしてやれなくて、もっと色々してやれば良かったって後悔ばかりで‥‥」
「‥‥私は、宏と同じ時間を過ごせて幸せだった」
「鳴‥‥?」
「宏‥‥これからは、自分が幸せになる道を探して。私だけに、囚われないで」
「本当に、これでお別れなのか?」
縋る手は、鳴の腕を捕まえた。記憶の中と全く同じ、細い腕‥‥けれど、以前のような柔らかな温もりはなかった。
「いつまでも私の事を忘れないって、約束して。忘れられるのが、一番悲しいから‥‥」
「‥‥約束する。鳴の事、忘れない。‥‥泣いてばっかりじゃダメだよな。俺、寂しさも受止められる、強い男になるよ。鳴はずっと、俺の心の中で生きていくから。だから‥‥」
最後は笑顔を覚えていて欲しいから、鳴は微笑んだ。それは、泣き笑いのような笑顔だったけれど‥‥
「来てくれて、有難う」
「宏、私‥‥」
陽が、完全に地上に姿を現した。薄暗かった世界が、華やかに輝き始める。青薔薇がハラリと散り、鳴の姿は宏から見えなくなった。
「‥‥有難う、鳴‥‥」
『宏、大好きだよ‥‥これからもずっと、大好きだよ‥‥』
もう届かない声は、すれ違う。鳴はそっと宏の頬に手をかざすと、唇を近づけた。最後のキスは、唇同士が触れ合う事はなかったけれど、心は確かに触れ合った‥‥。
「もういいの?」
そう問いかけるコウに頷くと、鳴は歩き始めた。彰と忍を追い越し、1本の電柱の前まで来ると足を止めた。
「‥‥ねぇ、コウ。天国って、どんな所?」
「地上ほどじゃないにせよ、良いところだよ」
コウが純白の羽根を広げ、鳴の手を取る‥‥
一瞬だけ、空から強い光が一直線に地上を突き刺した。
彰が、忍が、宏が足を止め‥‥自然に浮かんだ涙に、3人は彼女の名前をポツリと呟いた。