Pure Melody 失夢アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
宮下茜
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
7.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/17〜03/19
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●本文
あの日見た夢の欠片
それは、諦めたのではない
ただ、手放しただけ
夢に手を伸ばせば、失ってしまいそうなものがあった
夢と『彼』
天秤にかけた結果、僕は彼を選んだ
‥‥ただ、それだけだったんだ‥‥
失いたくないもののために捨てられる
その程度の、夢だったんだ‥‥
久し振りに『アイツ』なしで出かけた外で、俺は意外な人物と出会った。
中学・高校と同じ学校だったクラスメイトの1人。俺はソイツがあまり好きではなかった。
でも、アイツの友達だった。だから俺は、誘われるまま喫茶店で向かい合う事になった。
「超久し振りじゃん!高校卒業以来だろ?何、お前、ここら辺に住んでんの?」
「あぁ」
「そっか。俺もこの近くに住んでんだけど、初めて会うよな。やー、お前変わってなくて安心したわ。相変わらず顔は綺麗なのに目つき悪いよな」
「余計なお世話だ」
「つかさぁ、閏は?一緒じゃないの?」
「アイツは仕事だろ」
「や、仕事の時間だろうけどさ、お前が1人で出歩くとかありえるんだ?」
「現に今、1人だ」
「ふーん。ちったぁ成長してるってコトか?」
ニヤニヤと口元に意地の悪い笑みを浮かべていたアイツが、急に口元を引き締めると俺を睨んだ。
「お前さぁ、いい加減閏離れしろよ。あいつも、良い迷惑だろ?お前くらい顔が良きゃ、女にも世話してもらえ‥‥っと、悪い、お前女苦手なんだよな。まぁ、とにかく閏以外の誰かに面倒見てもらえよ。そろそろあいつ、解放してやれよ。お前のために夢まで諦めたんだから」
「‥‥夢?」
「あれ、お前あいつの夢知らないの?‥‥嘘だろおい、お前、閏と仲良かったんじゃないのかよ」
「閏が、夢を諦めた?俺のために‥‥?」
「あいつの高校の時の夢、本当に知らないのか?通訳になって、日本と世界を繋ぎたいって。そのためには、向こうに行って本場の英語習って‥‥でも、お前がいるから諦めた」
「何で俺のために、夢を諦めなくちゃならないんだ?」
「‥‥お前を日本に置いて、行けると思うか?あいつに頼り切ってたお前置いて、行けるわけねぇだろ。あいつはそんな情の薄い人間じゃない」
「お‥‥俺の、せいなの、か‥‥?」
「お前のせいだ。って、キッパリ言いたいところだけど、ンな顔すんなよ。なーんか俺が泣かしてるみてぇじゃん。って、俺が泣かそうとしてんだけどさ。ま、別にあいつが今幸せそうなら良いんだよ。さっき言った事は忘れてくれ。しっかし、もしここで閏に会ったりしたら俺、ぜってー1発殴られてるな。『奏に何言ったんだ!』って」
おどけるように首を竦めて立ち上がったソイツの服の裾を、思わず掴む。
「俺、閏に迷惑かけてたんだよな?‥‥閏、本当は俺の事鬱陶しいって思ってたんだよな?」
「おい、別に俺はそこまで‥‥」
「俺、閏から離れる。閏を、解放する。だから、手伝って‥‥」
ウルリ、目が潤む。
閏は俺のせいで、いっぱい我慢した。いっぱい、悲しい思いをした。だから‥‥コレは、閏の涙なんだ‥‥
「あーあ、なーんか俺、今やーっと閏の気持ち分かったわ。確かにお前、1人にしておけないよな。‥‥良いぜ、手伝ってやるよ。お前も閏も、互いに縛られすぎなんだよな」
≪映画『Pure Melody 失夢』募集キャスト≫
*香坂 奏(こうさか・そう)
少女のような儚い外見をしている。実年齢は23(外見年齢18〜23)
知らない人(特に女性)に警戒心を発し、常に閏の傍から離れない
言いたい事は容赦なく言うが、感情を上手く表せないために閏の感情に引きずられがち
→閏が泣けば奏も泣き、閏が笑えば奏も笑う
視線は常に下に向けられており、閏との会話のみ目を見て話す
『俺』『お前(呼び捨て)』ぞんざいな口調で話す。閏も亮も呼び捨て
大きな音が苦手で、何か傷つける事を言われると閏の姿を捜す
→その際一人称が無意識のうちに『僕』に変わる
*嘘をつく事が出来ない(お世辞なども言えない)
*沖野 閏(おきの・じゅん)
身長は高く、いたって普通の好青年。実年齢は23(外見年齢20〜25)
人当たりが良く、物腰が穏やか。奏を実の弟のように可愛がっており、過保護
『僕』『君(さん・ちゃん・君づけ)』柔らかい口調で話す。奏も亮も呼び捨て
滅多な事では怒らないが、奏を傷つけた相手には容赦が無い
→頭に血が上り、一瞬自我を忘れる。その際一人称は『俺』に変わり、口調も乱暴になる
→ただ、頭に血が上っている時間は短く、すぐに自我を取り戻し冷静になる
*大原 亮(おおはら・りょう)
閏と奏の同級生。実年齢23(外見年齢20〜26程度)
見た目は少々派手だが性格はいたってしっかり者。頼れる兄貴分
『俺』『お前(呼び捨て・さん・ちゃんづけ)』少々荒い男性口調。閏も奏も呼び捨て
・その他
奏と閏の同級生 など
注
その他キャストで奏と閏の同級生を選んだ方は『2人とどのような関係なのか』『2人をどう思っているのか』をお書き下さい
奏は閏にしか心を開きませんので、奏が友達だと思っている方はいないと思いますが、奏には友達と思われてなくても友達だと思ってると言う主張もありです。
*外見年齢20以下の方は役が限られてきますのでご注意ください
●リプレイ本文
亮(蘇芳蒼緋(fa2044))から奏(玖條 響(fa1276))の伝言を聞かされた閏(星野・巽(fa1359))は有り得ない事態に混乱を隠せなかった。
「奏‥‥どうして」
「そう言うことだから、悪い」
亮は扉を閉めると、奏の居る部屋へと戻った。足を抱え、目を瞑り、部屋の隅で唇を噛んで耐えている奏の肩にそっと手を乗せる。
「お前、本当にこれで良いんだな?」
「‥‥閏を解放して、それで閏が幸せになれるなら、俺は‥‥」
奏からの突然の拒絶に戸惑いながらも、閏は一先ず自宅へ帰る事にした。ポケットの中から鍵を取り、鍵穴へと差し込もうとした時背後から水沢 雫(葉月 珪(fa4909))に声をかけられ振り返った。
「久し振り。どうしたの?元気ないみたいだけど」
「‥‥もう会えないかも知れない」
主語を省いた言葉に戸惑う雫。暫く考え込み、恐らく奏の事を言おうとしているのだろうと察すると、言葉を慎重に選びながら励ましの言葉をかける。
「よく分からないけど、近すぎるとわからない事ってあるよね。でも、それで良いの?最後まで諦めないのが閏君じゃないかな?前から思ってたんだけど、閏君は何でも一人で抱え込みすぎだよ」
曖昧な笑みを浮かべる閏の背中を軽く叩く雫。
「閏君は、もう少し周りも見た方が良いと思うよ?」
翌日、奏の家を訪れた亮は弟の祥(虹(fa5556))を彼に引き合わせた。ニコニコと愛想良く挨拶をする祥に、普段通りの無愛想で返す奏。普通の人ならば眉を顰めたくなるが、兄から話を聞いていた祥は笑顔を崩す事はなかった。暫く沈黙が場を支配し、突然亮の携帯が明るい旋律を紡ぐ。
「悪い。ちょっと外出てきて良いか?」
知らない人と2人きりにさせられる事に不安顔の奏の頭を無意識に撫ぜる亮。閏の代わりをしたいわけではないのにと、思わず苦笑し‥‥
「すぐ帰ってくるから」
そう呟き、出て行ってしまう。
「うちの兄貴、世話焼きでしょ?」
沈黙に耐え切れなくなった祥がかけた言葉は、呆気なく無視された。視線さえ合わせてくれない奏に、何か話題はないかと視線を泳がせた祥がある人物の顔を思い描き、再び視線を奏に戻す。
「茅が心配してましたよ」
「茅、が?」
初めて反応を返す奏。一瞬だけ目が合い、直ぐにそらされる。
「俺思うんですけど、今無理に離れなくても良いんじゃないですか?もう何年かすれば、自然に自立できるかも知れない」
「‥‥お前、何も知らないのに、そんな事言うな」
静かな、けれど怒りの篭った低い口調。時間が経つにつれて、余計に離れられなくなった奏と、そんな自分のために夢を諦めた閏。今にも泣き出しそうな表情の奏に、祥は立ち上がるとそっと隣に腰を下ろした。ビクリと震える肩に手を乗せ‥‥
「確かに俺は、詳しい事は知りません。でも、このままじゃ奏さんも閏さんも辛いままだと言う事ぐらいは分かります‥‥」
「お揃いでどうした?」
奏の家から出てきた亮はそう言うと、深川 司(Rickey(fa3846))と霧島 沙織(椎名 硝子(fa4563))、そして閏に視線を向けた。
「俺達は、水沢から奏の様子がおかしいみたいだって聞いて‥‥」
「悪いけど、奏は出てこない」
睨むような亮の視線を受け、閏が真っ向から視線を返す。
「亮、話しがある。少しいいか?」
「とりあえず、立ち話もなんだし、喫茶店にでも行かないか?」
険悪な雰囲気を敏感に感じ取った司が、妹の千尋(姫乃 舞(fa0634))を待たせていると言う喫茶店へと3人を連れ出す。ジャズが小さくかかっている喫茶店で1人ココアを飲んで待っていた千尋が司の顔を見つけ走ってくると、他の面々に挨拶をする。千尋が取っていた席に腰を下ろし、飲み物を頼んだ後で一息つくと、未だに険悪なムードを漂わせている閏と亮に自分の近況を語り出す司。
「この春から海外勤務が決まってさ、本当はこいつが心配で迷ってたんだけど、折角のチャンスだし行こうって決心したんだ」
「私ももう高校生になるんだから、お兄ちゃんばかりに頼っていたら何も出来ない子になっちゃうもん。‥‥離れるのは寂しいけど、心まで離れちゃうわけじゃないもんね」
にっこりと微笑んだ千尋の頭を軽く撫ぜる司。沙織がつられて微笑み‥‥
「そう言えば司、昔から海外で働きたいって言ってたよな。‥‥閏だって、もっと早く奏に話してれば‥‥」
うっかり口を滑らせた亮が、はっと動きを止める。
「‥‥今、なんて言った‥‥?」
「いや、だから‥‥俺、奏に言ったんだよ。お前の夢‥‥」
言いかけた亮の言葉が途切れる。怒りの炎を瞳に宿した閏が、思い切り亮の頬を殴ると声を荒げる。
「なぜ奏に言った!」
「っ‥‥痛ってぇなぁ。何すんだよ?」
「だからなのか!?今回の事は、お前のせいだったのか!?」
「‥‥俺のせい?ふざけた事言ってんじゃねぇぞ」
胸倉を掴み、至近距離で閏を睨みつける亮。突然の展開に沙織が千尋を抱き締め、司が立ち上がる。
「お前、人のせいにする前に自分の事考えろよ。ずっとアイツから‥‥奏から逃げ続けやがって!」
「何を‥‥」
殴りかかろうとした閏の腕を取り、間に割って入る司。
「二人とも冷静になれって!」
暫くの睨み合いの後に、大人しく椅子に座り‥‥
「大原君が勝手に言ったのはまずかったと思うけど、沖野君もそこまで怒るって事は、思い当たる節があるからでしょう?少しでも良いから、素直になってみたらどうかしら?」
「そうだぞ閏。奏とちゃんと話し合った方が良いんじゃないか?もしかしたら奏、自分のせいで閏が夢を諦めたと思い込んでるかも知れないぜ?‥‥それって、結構辛いぞ」
目を閉じ、深呼吸を繰り返していた閏がゆっくりと口を開く。
「奏に、真実を伝えたい」
チラリと亮に視線を向ける。亮の携帯が場違いなまでに明るい旋律を紡ぎ‥‥そのメールは、祥からだった。どうやら奏の方も本格的に『お別れ』を言おうとしているらしい‥‥
「今から、奏の家に行くか?」
「‥‥あぁ」
「閏もとうとう子離れ、か。寂しいだろうけど、必要な事なんだ。頑張れよ」
「私はこれでお暇するわ。香坂君に宜しくね」
司と沙織が腰を上げ、千尋がペコリと頭を下げ、司の腕に擦り寄る。去って行く3人の背中を暫し見詰めた後で、閏は亮に促されて席を立った。
閏を家に招き入れた奏は、隣で心配そうに佇んでいる祥の服の裾をギュっと握り締めながら、途切れ途切れの言葉を紡いだ。
「閏、その‥‥俺は‥‥」
言葉は出ない。お別れは言いたくない、そんな心が邪魔して、奏の唇は頑なに言うべき言葉を拒んだ。ギュっと唇を噛み、逃げ出すように部屋を後にするとピアノの前に座る。きっと閏なら気付いてくれる‥‥ショパンの『別れの曲』。繊細なメロディラインをなぞる。これで最後。これでサヨナラ。そんな気持ちが奏の指を重たくし、上手く弾けずに間違えてばかり。得意のアレンジも上手く行かず、何度も間違えては戻りを繰り返す。寂しげな音に、祥と亮が不安顔で成り行きを見守り‥‥
「奏、聞いて欲しい事があるんだ」
肩を叩く閏。物悲しい旋律が途切れ、閏は奏の隣に腰をかけるとそっと背中を彼に預けた。
「夢は、諦めたんじゃない。ただ単に、将来から逃げたんだ‥‥奏を、理由にして。夢を追って、奏も失うのが怖かった。両方失うより、確実に残る方を取ったんだ」
とても身勝手な理由で‥‥奏を縛り付けた。外に目を向けさせようと努力していたんじゃない。無理にそうさせることで、奏は尚更内に引っ込んだ。閏だけしか、見えなくなって‥‥
「でも、後悔はしてない。僕には、奏が必要だった」
「‥‥俺にも、閏は必要だった。でも‥‥何時の間にか、必要以上に甘えが出た‥‥」
「今は、このまま離れた方が良いと思うんだ。1度離れて、お互いが自分の足で立てたら‥‥その時は並んで歩こう、また一緒に」
「‥‥うん。閏と1度、離れる。今の俺には一人で歩くのが必要だと思うから」
微笑んだ閏。涙を流しながらも、それに応える様に微笑んだ奏。
「今まで、有難う。‥‥また一緒に‥‥」
奏の言葉が途切れ、閏はそっと彼の華奢な体を抱き締めた。祥と亮が複雑な瞳で2人を見詰め‥‥
この別れが、果たして良かったのかどうかは分からない。
何故ならば、2人が別れてから1週間経ったある日‥‥
「奏さん?あれ?奏さん‥‥?」
インターフォンを押しても返事のない部屋に、祥はあらかじめ奏から預かっていた合鍵を使うと部屋の中に入った。相変わらず生活感の薄い部屋の中を見て周り‥‥キッチンへ入り、テーブルの上に置いてあった1通の手紙を見つけると足を止める。
『祥へ
少し、遠くへ行って来る
奏』
「奏‥‥さん?」
慌てて携帯を取り出し、兄へと連絡を入れる。亮がとんで来て祥から詳しく説明を聞き、すぐに閏と司、沙織と雫へと連絡を回す。それぞれが直ぐに駆けつけ‥‥
「何で、奏‥‥?」
閏が手紙を握り締めて床に膝をつき、司と亮、沙織と雫が外へと駆け出していく。一瞬だけ迷った後で、祥も奏を捜しに駆け出して行き‥‥結局、奏は見つからなかった。
‥‥何故ならば、奏はそれから姿を消してしまったのだから‥‥