蒼月の事情アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 4Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 難しい
報酬 18.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/24〜03/27

●本文

・物語り憑き
 それは、物語の登場人物達と触れ合う事の出来る、神秘の職業
 それは、親から子へ、子から孫へと受け継がれる伝統の職業
 それは、物語憑き本部からの指令により、日々物語の安全を守る、名誉ある職業


*蒼慈家*

 ドンマイ隊なる、おかしな名前に断固拒否の構えを示した時岬(通称:岬)はやる気のないリーダーに代わって隊名を『蒼月(そうげつ)』と決めると制服を発注した。
「んもー、岬ちゃんったら、アタシの名前勝手に使ってぇ〜」
「その言葉遣いやめてください!蒼さんがやると、妙に寒気が‥‥!」
「酷いわぁん!」
「だから、止めてくださいってば!」
 岬が両手で耳を塞ぎ、蒼慈(通称:蒼)がすすっと背後に近寄るとそぅっと首筋を人差し指でなぞる。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「はははっ!!岬ちゃんってば、声デケーって!」
「もう、あんたの飯は炊かーーーんっ!!」
「えぇぇっ!!」
 ブチ切れた岬がエプロンを床に叩きつけ‥‥
『緊急指令!緊急指令!現在A地区B−2にて物語り憑きが白雪姫の魔女の抵抗にあい苦戦中。至急応援に向かわれたし!』
 早口の無線がブツリと途切れ、岬はすぅっと目を細めると左手の親指を唇に押し付けた。
「B−2と言うと、廃工場のあるところですよね?それにしても、白雪姫の魔女クラスの物語の人物を、通常の物語り憑き程度が本部に送り返すなんて、出来ないでしょうに」
「本部が間違って仕事を割り振った可能性は低い。恐らく、たまたま遭遇しちまって手を出したんだろ」
「己の実力が分かっていないんですね。愚かな‥‥」
「岬ちゃんってば、そうやって考え込んでるとカーッコ良い♪」
「うるさいですよ。とにかく、早く行きましょう。抵抗してると言う事は、それなりに武力行使しているんですから。‥‥魔女に傷でもついたら大変です」
「毎回思うんだけどさぁ、岬ちゃんってばいーっつも物語り憑きは心配してないよねー」
「己の微々たる力を過信し、力ずくでねじ伏せようとする‥‥僕はそう言う弱い物語り憑きが大嫌いなんですよ」
「昔の自分を見ているようで?」
「‥‥蒼さん、早く行きますよ」
「はいはーい」


≪映画『蒼月の事情』募集キャスト≫

*蒼慈(通称:蒼)実年齢23歳
 高身長の色っぽい二枚目。いたってお馬鹿のボケ属性
 物語り憑き特殊部隊始まって以来の天才
 武器は木刀orプラスチック製の玩具の刀
 相手を無闇に傷つける事を嫌い、動きを封じて説得か、気を失わせて強制送還と言うスタイルをとっている

*時岬(通称:岬)実年齢18歳
 クールで落ち着いた雰囲気の少年。身長は普通。常識的でツッコミ属性
 武器は二丁拳銃。弾は3種類あり、状況にあわせて変えている
・結界弾:打ち上げ場所から半径1km以内の一般人や物を保護する
 →空に向かって打ち上げる
 →物語の登場人物が魔法や何かしらの特殊能力を使える場合に使用
 →物語り憑きや物語の登場人物、岬や蒼は結界に守られない(あくまで一般人のためのもの)
・捕縛弾:対象をネットで捕らえる
 →発射後、対象に当たる前に弾が破裂し、中からネットが飛び出して捕獲する
 →対象との距離が近いほど命中率があがる。遠いと逃げられる可能性有
・眠弾:対象やその周囲にいる人物を眠らせる
 →発射後、一定の距離を進むと弾が破裂し、中から薄い煙が出る
 →岬以外は例外なく全員、その煙を吸い込めば眠りに落ちる
 →通常は対象が風下に居る時に使用

*白雪姫の魔女
 白雪姫の物語の中で林檎が不足したため、林檎を買いにやって来た
 特殊能力は2つ
・毒林檎爆弾:魔女お手製の毒林檎を相手に投げつける
 →相手に当たる前に爆発、紫色の毒の霧が発生する
 →毒と言ってもそれを吸って死にいたる事はない
 →効果は人それぞれだが、猫耳が生えたり、何故かメイド服になっていたりと、精神攻撃に近い
・魅了:『私は綺麗!』の声と共に、輝かしい光が魔女を包み込む
 →キラキラとした光に包まれた彼女に、魅了される者がいる‥‥場合がある
 →ちなみに今まで魅了された者はいない(寂しいネ)


・その他
*白雪姫の魔女と対戦していた物語り憑き
・物語の登場人物
→蒼・岬以外の特殊部隊員は不可

●今回の参加者

 fa3072 草壁 蛍(25歳・♀・狐)
 fa3251 ティタネス(20歳・♀・熊)
 fa4361 百鬼 レイ(16歳・♂・蛇)
 fa4559 (24歳・♂・豹)
 fa4579 (22歳・♀・豹)
 fa5176 中善寺 浄太郎(18歳・♂・蛇)
 fa5345 ルーカス・エリオット(22歳・♂・猫)
 fa5404 橋都 有(22歳・♂・兎)

●リプレイ本文

 蒼月隊の制服に袖を通した岬(百鬼 レイ(fa4361))と蒼(笙(fa4559))は現場に到着すると、魔女(檀(fa4579))を発見、すぐに岬が上空へ向けて結界弾を撃った。どうやら非常に興奮しているらしい魔女を宥めようと岬が1歩踏み出し‥‥
「蒼月と書いて『ドンマイ』と読む!ドンマイ隊参上!」
「‥‥あー!!何制服に落書きしやがってんだこの野郎!」
「岬ちゃん、言葉遣い悪い」
 油性マジックで書かれた『ドンマイ』のルビに岬が「晩御飯抜き」と恐ろしい事を呟く。
「酷いわ!‥‥って、岬ちゃんと新婚ごっこしてる暇はなかったんだ」
 何時の間に新婚ごっこをしていたのか。
「落ち着いて下さい〜!僕が悪かったですからあああ!!!」
 半狂乱になって謝り続けている物語り憑きの首根っこを掴み、近くの物陰へと引きずる蒼。
「はぁ〜い、お兄さん‥‥って、晴ちゃんじゃん」
 泣きながらオロオロしている彼の名前は春日晴日(橋都 有(fa5404))だ。極度の近眼で、瓶底眼鏡がトレードマークの彼だったが、現在その眼鏡はかけられていない。
「晴ちゃん、眼鏡は‥‥」
「違うんです!待ってください!僕が悪いんです!ドジでごめんなさい、間抜けでごめんなさい、生きててごめんなさいいいい!!!」
「‥‥あの、蒼さん。彼、何ですか?」
 凄まじく冷ややかな視線を晴日に向ける岬。
「元々こう言う性格なんだって。可愛いっしょ?」
「どうすれば落ち着くんですか?」
「そうだなぁ‥‥」
 考え込んでいた蒼が突然晴日の腕を取り、キビキビとした口調で喋り始める。
「とにかく、話しは署で聞かせてもらうから!カツ丼は出ないけど、卵かけご飯は出るから!」
「何でカツ丼じゃないんで‥‥って、その合言葉は‥‥蒼さん!?」
 腕を掴まれていた晴日がキョトンとした顔で蒼を見詰める。
「どっから合言葉だったんですかーーっ!!」
「とりあえず晴ちゃんから話を聞こうや」


 晴日は自他共に認めるドジっ子さんだ。可愛い女の子ならばそれなりにちやほやされるだろうが、残念ながら彼は男の子だ。『テヘ☆晴日しっぱ〜い♪』で許されるような愛されキャラではない。
 つい数時間前、彼はうっかり自分の足に躓き、転んで眼鏡を落としてしまった。超近眼の彼は眼鏡がないと何も見えず、オロオロと眼鏡を探していたところ、アイスに舌鼓を打っていた魔女と激突してしまったのだ。
「折角のドレスが!や、それ以前に顔も‥‥近くに水道があるから洗いましょう!」
 魔女の腕を引っ張って公園の水道へと導こうとした晴日だったが、何故か魔女はご立腹だった。
「洗うのが嫌なんですか?それなら、ハンカチ濡らしてきますから!」
 魔女が止めるのも聞かずに、晴日はハンカチで思い切り魔女の顔を拭いた‥‥


「どうやら魔女さん、お化粧が取れるのがイヤだったみたいなんです」
 シュンとしながら話す晴日。少し離れた位置で怒りまくっている魔女の顔は、化粧が所々剥がれてグッチャリ風味になっている。
「とにかく止めましょう」
 岬がそう言って走って行き、蒼もその後に続く。
「あれ?魔女だけじゃなく、猟師までいるじゃん」
 蒼の言葉にピクリと眉を顰める猟師(ルーカス・エリオット(fa5345))
「田舎臭い呼び方は止めろ。俺の事は『狩人』と呼べ!」
「下流ど?」
「変なイントネーションで言うな!!」
 猟師が怒りの声をあげ、彼は蒼に任せれば大丈夫だと踏んだ岬が魔女に声をかける。
「とりあえず魔女さん。顔が酷い事になってますから‥‥」
「あ、貴方もそうなのね!私の素顔を見て笑うつもりなのね!!」
「え?いや、だから、酷い顔になってるので‥‥」
「人の外見を馬鹿にするなんて!」
 魔女が毒林檎爆弾を取り出して投げ始める。岬が喰らわないように注意しながら進み、蒼に爆弾を喰らい、うさ耳メイド姿へと変身する。
「げ!当たるとそんな事になるんですか!?」
 尚更真剣に避けなければならないと慎重になる岬とは違い、蒼はずんずん進んでいる。ねこ耳、ヤンキー使用セーラー、変身させられている方は案外ノリノリでポーズなど取っているが、見ている方は涙ものの拷問だ。爆弾を喰らい、ミニナース姿に変身する蒼
「ミニはやばいだろ!いくら俺が美脚でも‥‥」
「ポーズとってないでとっとと進め馬鹿ーーー!!」
 そう叫んだ瞬間、爆弾を喰らってメイド姿へと変身する岬。焦ったために正常な判断が出来なくなり、次々と変身させられていく。
「魔女ー!!ナイス!」
「ナイスじゃないですよ!!」
 ブルマにスク水、レオタード、バニーガールにウェディングドレス。恥ずかしさに悶絶&涙目になりつつも前進する岬。
「魔女様(とメイク)は俺が守−るっ!」
 そう叫んで猟師が矢を放つ。手や腕を狙うのだが、手に当たれば頭痛が、腰に当たれば肩こりが、膝にあたればヘルニアが治ると言う優れものだ。
「きゃー!!猟師ちゃん、お友達になりましょー!」
「俺は狩人って言ってるだろー!!」
 蒼の言葉に猟師が怒鳴り返した時、突然魔女の背後から何者かが現れ、彼女の腕を掴んだ。
「見つけた!何でこんな所で油売ってるのよ!」
 彼女の名前はカラボッセ(ティタネス(fa3251))眠れる森の美女に出てくる、祝宴に呼ばれなかったからと言って呪いをかけた魔法使いだ。本来なら12人目の魔法使いが「眠るだけ」と訂正を入れるはずなのだが、何故かその魔法使いが物語りから姿を消してしまったのだ。彼女がいなければ話が進まないと言う事で捜しに来たのだが‥‥
「ちょ、その人は違いますよ!!」
「うるさいわね!この紡ぎ車でもくらいなさいよ!」
 岬の強い口調にプチリと来た彼女が紡ぎ車を投げ‥‥自分の手にプスリと刺すとその場で眠ってしまう。
「一体何だったんだ?」
 キョトンとした岬の背後から、再び厄介な声がかかった。
「止めなさい魔女!こんな事をしてもお母様はお喜びになりませんよ!」
 場違いな台詞を吐きながら颯爽と現れた彼は白雪姫の王子(中善寺 浄太郎(fa5176))だ。その背後には白雪姫の棺を運ぶ役目を担っている王子の家来(草壁 蛍(fa3072))が大人しく控えている。
「私の物語の登場人物が迷惑をかけて申し訳ない。ここは私に任せてくだされば、華麗に彼女を止めて‥‥」
 台詞も途中で毒林檎爆弾を喰らい、犬耳の生える王子。どうやら全く役に立たないらしい彼をそのままに前進する蒼月隊。その様子を横目で見ながら、なにやら画策する家来。実は彼女、女王を消して白雪姫の棺を運ぶ運命から解放されようと企んでいたのだ。こっそりとバッグの中から手榴弾を取り出し‥‥
「こ、この手は使いたくなかったけど‥‥」
 それまで大人しく眼鏡を探していた晴日が、眼鏡探しを諦めて戦闘に参加する。
「ねばねばネット〜!!」
 背負ったホルダーから飛び出す、蜘蛛の巣のように複雑に編まれた網。それが見事に王子と家来にかかり、投げようとしていた手榴弾が上空へと打ち上げられ爆発する。
「何て事してくれるんだ!!」
「め、メガネメガネ‥‥」


「あ、林檎がなくなった‥‥こうなったら、私の美しさの前にひれ伏しなさい!」
 魔女お得意(?)の魅了の炸裂に「ラァブッ‥‥!」と叫びながらメロメロになって卒倒する猟師と、何故か攻撃をモロに喰らっている蒼。
「しっかりしろ蒼さん!!」
 ペシペシと顔を叩かれ、何とか復活する蒼。
「ひ、ひどいですわ!この美しい私に向かって不細工などと!!」
 テンションが上がり、幻聴が聞こえ始めた魔女が涙を流しながら鼻をかむ。
「いやああ!!見ないで!見ないでこの素顔!狩人!メイク道具!メイク道具をここへ!」
「今すぐに」
 猟師が背中の化粧箱を下ろし、中から必要なメイク道具を取り出すと鏡を持って魔女の前に立つ。錯乱した魔女が必死にメイクを施し‥‥
「私って美しい‥‥」
「いつもながら素晴らしいパーフェクトメイクです魔女様!」
 ファンデーションの塗りすぎで大変な事になっている顔だが、魔女は満足のようだ。その隙に隣まで来ていた蒼。猟師が魔女を守るように前に立ちはだかり‥‥
「まぁまぁ、ちょーっと彼の話を聞いてやってくんないかね〜?」


「魔女様を苛めようとしたんじゃないのか。悪い、誤解した」
「こちらこそ、嫌な気持ちにさせてしまってすみません」
「晴ちゃんヘタレだし、悪気無しっ子だから許してやって?」
「私も、勘違いをしていたようです。申し訳ありませんでしたわ」
 どうやら丸く収まった場。しゅんとした晴日がチラリと魔女に視線を向け‥‥
「でも、お化粧なんかされない方が優しそうで素敵なのに‥‥」
「そうそう、キミって素顔美人だし、もっと自信持って!」
「‥‥そんなお世辞!」
「全く。皆様に迷惑をかけて‥‥私がいなければこの物語は一体どうなってしまうのか。ほら、きちんと謝らなければなりませんよ?」
 ねばねばネットから抜け出した王子がそう言い‥‥
「「「あんた誰?」」」
 家来以外のその場に居た全員に首を傾げられる王子。あれだけ強烈な登場シーンを作ったにも拘らず、なんて存在感のない人なんだ‥‥


・後日
「実はさ、ウォータープルーフの化粧品とメイク術本を魔女に贈ったんだ」
「そうなんですか」
 カツ丼を作りながら頷く岬。蒼が岬のエプロンのポケットに何かを入れる。
「請求書は岬ちゃんへ♪」
 ブチリとキレる岬。丁度近くにあった醤油を取り‥‥その日の蒼の夕食は、醤油の海に沈んだカツ丼だった。