ワンチェンジ!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
宮下茜
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
5.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/25〜03/27
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●本文
ここは東京下町。
閑静な住宅が並ぶ中、何故か周囲の慎ましい家々の雰囲気をぶち壊すような巨大な洋館がデンと建っている。
そこは何を隠そう‥‥と言うか、隠していないのだが‥‥マッドサイエンティストの堤野さんの御宅なのだ。
「うふふ〜♪やっと出来たわぁん、チェンジ☆試作品1号ちゃ〜ん♪」
ちなみに彼、れっきとした男性だ。
本名は堤野 厳と言う、立派な名前をしている。
ただし、本人はこの名前をあまり好いていないらしく、周囲には『ゴンちゃん♪』と呼ぶように強要している。
語尾の『♪』は必須だと言うから、小うるさい男である。
「やぁ〜ん、あそこに超好みの男の子が歩いてる〜!」
窓の外を見ながら、厳が黄色い歓声を上げる。
彼は別に、男の子が好きと言うわけではない。女の子でも、可愛ければ黄色い声を上げるし‥‥
「あぁ〜!!隣を歩いてるワンちゃんもラブリー♪超好みだわぁ〜」
犬だろうが猫だろうが、可愛ければ歓声をあげ、好みだと言うのだ。
「うーん、決めたっ!あの子達にしよーっと!えぇーっと、それじゃぁ薬の入った弾をセットしてぇ‥‥えいっ!」
引き金を引く巌。弾はいたいけな少年とワンコに当たる前に破裂し、吸ったら生命に関わりそうな黄緑色の煙が噴出する。
「わ、なんだこれ‥‥うわ、変な臭い‥‥!」
ゲホゲホとむせる少年とワンコ。巌がルンルン気分で下におりて行き‥‥
「やったわぁ〜成功よん!」
「は?誰だよお前!」
「あぁん、ダメダメぇん!折角可愛い顔してるんだからぁ、お前とか言っちゃヤーダ♪」
身の危険を感じた少年が、ワンコを抱きかかえて走ろうとして‥‥見ればワンコの姿がない。
その代わりに、1人の男性が立っており‥‥
「あれ?僕、翔君と同じ視線?あれあれぇ?僕、人間になったのぉ〜!?」
「ど、どう言う事だよコレ!!お前、創なのか!?」
「そうよん、あの薬は、ワンちゃんを人に、人をワンちゃんの姿を入れ替えるものだったんだけどぉ、僕ちゃんの方はちょっと効きが甘かったみたいねぇ」
「え?俺、どうにかなってるのか!?」
「可愛い耳と尻尾だけなんて、ざーんねん♪」
犬耳、犬尻尾を装備させられている翔が巌の胸倉を掴む。
「て‥‥てんめーーー!!どうしてくれんだコレ!とっとと治しやがれ!!」
「治してあげたいのは山々なんだけどぉ、解毒用の薬を、別宅の寝室のベッドサイドに置いて来ちゃったのよぉ。僕ちゃんとワンちゃんで取ってきてくれないかしらぁ〜?」
「ざっけんなテメー!!お前のせいなんだから、お前が取ってこーーーい!!」
「いやぁよぉん!こんなか弱い私を1人であんな場所に放り投げようなんて、僕ちゃん酷いわ!」
「あんな場所って、お前の別宅だろ!?」
「そうなんだけどぉ、ちょっと失敗したロボットとか置いてたら荒れちゃって〜」
「ロボット!?って、お前、マッドサイエンティストの堤野巌!」
「ゴンちゃん♪って呼んでね☆ちなみに、科学者だけじゃなく、発明家でもあるのよん♪」
結局数分間の押し問答の結果、翔と創は巌の別宅へと薬を取りに行くのであった。
≪映画『ワンチェンジ!』募集キャスト≫
*翔(かける)
いたって普通の男の子‥‥のはずが、現在は犬耳犬尻尾つき
運動神経はまずまず。飛びぬけて良いと言うわけではない
性格は荒いが、創には優しい。口調は少々荒い
外見年齢は16〜20代前半程度
*創(はじめ)
いたって普通のワンコ‥‥のはずが、現在は人間の姿に
元犬なだけあって、運動神経はかなり良い
性格は優しく穏やか。口調は少々子供っぽい
外見年齢は16〜20代半ば程度
・堤野・巌(つつみの・いわお)
ロクでもない研究&実験に勤しんでいる男性
実年齢は不明だが、外見年齢は20代後半
可愛い物が大好きで性格はいたって乙女チック
・その他
・巌の作った危険極まりないロボット
→防犯用として作られたため、攻撃をして来る場合があるが、大きな怪我は負わせないようになっている
・翔の友人
→犬耳犬尻尾を見ても動揺しない、親友クラスの友人限定
・翔の家族
→友人と同じく、犬耳犬尻尾を見ても動揺しない、寛大(?)な家族限定
●リプレイ本文
無責任な兄に代わり同行を買って出た桜(豊浦 あやね(fa3371))は翔(虹(fa5556))のダルメシアン柄な犬耳犬尻尾を見て安堵の溜息をついた。
「その程度で済んで良かったですね」
絶句する翔。初対面の丁寧な挨拶で勝手に良識派の人だと思い込んでいたのだが、どうやら違うらしい。厳と一緒に住んでいる彼女は、何時の間にか一般感覚に狂いが生じ、兄感覚基準になっている節がある。
「犬耳犬尻尾とか、ありえない!‥‥まぁ、創と話せるのは嬉しいけど」
最初は違和感だった人間版・創(Rickey(fa3846))の姿だが、意外と慣れてくるものだった。頭を撫ぜれば無邪気に微笑み、お手もお座りも翔が命じれば素直に実行する。
「でも、このままで良い筈はない!‥‥なぁ、本当に薬を取って来たら戻るんだよな?ってか、あの人途中からどっか行っちゃったけど‥‥」
「ま、まぁ、ウチらが戻って来るまでには戻って来ますよって」
「どっか行ったのか!?本当に無責任だなぁ」
桜がハリセンを背中に隠す。きっと厳も、翔達が戻ってくる頃には楽しくない夢の世界から生還しているだろう。
「そもそも、何で関西弁なんだよ。あの人は‥‥」
「あら?翔、まだお散歩してたのね」
買い物袋を提げた姉・静(葉月 珪(fa4909))の登場に脱力する翔。静の視線が犬耳へと注がれ、翔が身を強張らせる。
「今日の夕食は翔の大好きなオムライスだから、夕食までには帰って来てね」
スルーされる犬耳犬尻尾。しかも、己の心に正直な尻尾が夕食のメニューを聞いて左右に揺れる。‥‥思わず涙目になったその時
「あっ翔兄だ!」
満面の笑みを浮かべた弟の朗(ヒノエ・シオン(fa5487))が走ってきて抱きつく。
「友達と一緒に出かけるの?アレ?お姉ちゃんも一緒だ」
弟には見せたくなかった姿に犬耳を押さえるが、今回もあっさりとスルーされる。どうしてウチの家系はこんなにも不思議系が多いのかと、犬耳犬尻尾と言う最も不思議系になっている翔が頭を抱える。癒しを求めて創の髪を撫ぜ、ヒシっと抱きつき‥‥
「創、一緒に頑張ろうな」
「あら。翔の彼氏だったの?」
「ち‥‥ちがーーーうっ!!!」
一旦家へと帰る道すがら、どうしてこんな事になってしまったのかの説明をいれる翔。
「そう言えば、可愛いわねソレ」
「や、可愛いとかそう言う問題じゃ‥‥」
「無理に戻さなくても良いんじゃないかしら。今の時代は個性が重要よ」
「個性とか、そう言う次元の問題じゃ‥‥」
「え?昔から翔兄は耳と尻尾あったよ」
これからやろうとしている事を全否定する朗。可愛い顔して酷い事を言う朗に翔が遠くを見詰める。静が家の中から救急箱を持って来て、怪我をした場合に手当てをする人も必要だからと同行を申し出、お姉ちゃんが行くならと言って朗もついて来る。もうこれ以上は何も起こらないでくれと願う翔だったが‥‥
「翔、なのか?」
突然背後からかかった声に、翔は足を止めた。胴着に木刀を持った志郎(神塚獅狼(fa3765))が不思議そうな顔で耳と尻尾を見詰める。彼が疑問を口にする前に正直に喋ってしまう翔。何を言われるのかとやや上目使いに様子を窺い‥‥
「まぁ、こう言う事もあるんだな。‥‥俺で良ければ同行しよう」
彼の父親は近所で道場を経営しており、志郎も有段者で彼がいてくれれば心強いのは確かなのだが、このあっさり風味の返しは何なのだろうか。
「ここがゴン兄の別宅ですさかい」
周囲の家々との調和の取れていないゴシック調の洋館に溜息をつく翔。とりあえず入ろうと歩み出した時、突然朗が静の腕を掴んだ。
「お姉ちゃんが入るなら僕も行く。こんな面白い状況で、危険だから子供は『マテ』なんて理屈は聞けないよ?」
ふらついている静を中に入れれば危険だし、何より翔達の足手纏いになりかねない。ここは自分がしっかりしなければと気を張る朗。流石に子供の朗まで危険な目に遭わせるわけにはいかないと判断した静が救急箱を翔に差し出す。
「私達は此処で待っていますが、せめてこれを‥‥」
「いや、邪魔になるから良いよ」
断られ淋しげな表情の静に微笑みかける朗。
「翔兄は強いから大丈夫。それに、志郎さんや創までいるんだもん!翔兄、ロボットなんてぶちのめしちゃえ〜!」
コブシを振り上げて応援する朗。翔は無邪気な弟の頭を撫ぜると、桜の差し出した鍵で扉を開けた。
「ゴンちゃん♪が薬はベッドサイドにあるって言ってたよね」
鼻をふんふんさせながら呟く創。律儀に♪までつけるところがお利口さんだ。
「とりあえず、寝室は‥‥」
『侵入者アリ、侵入者アリ』
突然廊下の端からか弱そうな少年・一号(倉瀬 凛(fa5331))が出てくると翔の目の前で停止した。どう見ても強そうに見えないロボットに手を差し伸べ‥‥背後から鉄パイプを取り出す一号。
「か、翔君に乱暴したら僕が許さないんだからっ!」
創が翔を守るように立ちはだかる。一号が無表情で鉄パイプをぐにゃりと折り曲げ、懐から林檎を取り出し片手で握り潰す。
『警告。ココハゴンちゃん♪ノ別宅デス。直チニ退去シテ下サイ』
強烈な力の差を感じた翔達が、一号の脇をすり抜けて走り出す。
『侵入者ハ警告ヲ無視シマシタ。追跡シマス』
追ってくる一号に吠える創。
「朗に激励された事だし、これを貸そうか?」
志郎が木刀を翔に差し出す。
「あ、あんなわけわからん物とまともにやりあえるかっ!!」
「‥‥同感だな」
志郎がそう呟いた時、床に撒かれていた油に足を取られる翔。なだらかな傾斜を滑り‥‥創が持ち前の運動神経を発揮し、滑り行く翔の腕を掴む。足元に開いていた落とし穴の中で蠢く蛙の大群に悲鳴を上げる翔。
「とりあえず、近くの部屋へ‥‥」
創が扉を開けた瞬間、上から水が降って来る。綺麗な創の髪の毛が台無しになった事に翔が怒り‥‥よく足元を見なかったために、張られていたピアノ線に引っかかり、顔目掛けてパイが飛んでくる。
「何なんだこれはーー!!」
「罠の仕掛けられてる場所とかは分からないのか?」
「ゴン兄自身かてよぉ知れへんですもんっ!」
志郎の言葉にやや逆切れ気味に返す桜。ゆっくりと近付いてくる一号の気配を感じ、喧嘩をしている場合ではないと悟り走り出し‥‥足元に張られていた蜘蛛の巣のようなものに引っかかり、身動きが取れなくなる。
「ええい、鬱陶しい!」
脱出を試みる志郎だったが、動くほどに絡まっていく。絶体絶命の展開に、必死に翔を庇おうとする創。涙目で精一杯一号を睨みつけて唸る。
「翔君は僕が守るんだからっ!」
その言葉に停止する一号。ジっと翔と創に瞳を向け‥‥
『危険人物デハナイ様デス。追跡ヲ中止シマス』
クルリと反転し戻って行く一号に、安堵の笑みを見せる創。
「よく分からないけど、良かったぁ。僕、翔君の事守れたかな?」
寝室を目指す一行の背後にピタリとくっついて行く黒い影。
「今日の日のために、私は生きて来た」
ニコニコしながらわけのわからない言葉を呟く彼は、弐號(丙 十哉(fa5574))だ。家中に仕掛けられた罠を点検していく彼。暗い部屋に閉じ込めて人の嘲笑を録音したテープを延々と聞かせたり、ソファーにブーブークッションを仕込んだり、けたたましい音を立てる目覚まし時計を置いてみたりと、精神的苦痛を感じる罠を主流にしていた。
とにかく内気で姿を現さない彼の陰湿な罠に悩まされる翔達。
「どうにかならないのか!?」
弐號が背後からついて来ている事は知っているのだが、近付こうとするとマヨネーズビームを発射されてしまう。
「そう言えば‥‥」
困った時にはこれを読めと、厳からあらかじめ渡されていたメモを思い出す桜。カサリとメモを開き‥‥
「なんやねんこれっ!‥‥えっと、永遠の二号さんっ!」
「‥‥どうせどうせどうせええええ!!」
桜の言葉に、突然現れた弐號が激しく泣き崩れる。
「私なんか一号さんにはなれないんですううう」
一号よりもパワーの劣る弐號。あまりの荒れように、どうしたら良いものかと顔を見合わせた時、プツリと弐號の動きが止まった。
ベッドサイドに置かれていた琥珀色の液体の入った瓶を見つけた創。嬉しそうな表情を覗かせ、すぐに寂しげに目を伏せる。
(もっともっと翔君とお話ししたかったけど‥‥)
揺れている尻尾と、緩んだ表情。翔の視線が創へと注がれ‥‥
「でも、これを使えばもう創とは話せないんだよな‥‥」
「うん。だから、今のうちに言っておくね。翔君、いつも優しくしてくれて有難う。僕、翔君の事大好きだよ」
シンミリとした翔に微笑みかける創。翔が涙を浮かべながら創に抱きつき‥‥
「だからね、本物は薄ピンクなの」
厳が素っ気無くそう言い、琥珀色の液体の入った瓶を指差す。
「そんな事言ってなかったじゃないか!」
「翔君落ち着いて」
創の声に、翔が口を閉ざす。姿は犬へと戻った創だが、言葉だけは喋れていた。
「僕、翔君とお話できて嬉しいよ」
「俺だって嬉しいけど‥‥」
「ほーらボールよ〜!」
「わんっ!!」
厳の投げたボールを追いかける翔。犬耳と犬尻尾はなくなったのだが、習性は残ってしまったのだ。
「嫌なら、薬持ってくれば良いでしょう?」
チラリと創と翔を横目で見る厳。翔がボールを厳へと投げつけ‥‥
「別にこのままで良いよっ!」
「有難う、翔君」
創が嬉しそうにそう言って、翔の腕の中に飛び込んだ。