想いの形 〜紅の章〜アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/26〜03/28

●本文

 幼い時、近所にとても優しい男の子がいた。
 いつでもニコニコと笑っていて、太陽みたいに明るい子で‥‥
 よく転ぶ私に、差し伸べてくれる手は温かかった。
『大丈夫?怪我はなかった?』
 彼は何時も、私を気に掛けてくれた。
 淡い淡い恋心は、今でも鮮明に覚えている。
 例えこの身が血で穢れていようとも、過去は綺麗なままだから‥‥


 10歳で両親が他界し、私はとある闇組織に引き取られた。
 暗殺集団『ZERO−BX』
 12歳で初めて仕事に出て成功、今ではこの世界で私の名前を知らない者はいないまでになった。
「紅、今日はお前のために仕事を取ってきてやったぞ」
「お前のためと言いつつ、自分で処理出来そうにないから私に回したんでしょう?」
 目に痛いほどに金色の髪をした少年が走って来て、数枚の書類を差し出してきた。
「ひっでー。ま、本当なんだけどな」
「斬鬼も、いい加減一人で仕事が捌けるようにならないと」
「年齢は同じ位でも、俺はこの世界に入って3年目なんですー」
「まったく。まぁ、良いわ。これは全部私がやっとくから。その代わり、前回の仕事の報告書はお願いね」
「えー!事務作業押し付けんなよー!」
「それじゃぁ、斬鬼が実践に出る?」
「はいはい。俺は大人しく椅子に座ってパソコンと格闘しますよー。ぶっちゃけ、そっちのが合ってる気がするし」
「初仕事で血見てぶっ倒れたしね?」
「るっせー!俺は膝から血が出てるの見ただけでも気を失いそうになるグラスハートの持ち主なんだよ」
「まぁ、斬鬼はパソコンと仲良くね〜♪」
「僕パソコン大好きー!僕の親友だもーん!」
 笑い合って分かれた廊下で、書類に目を通す。
 薬品会社名誉会長、IT関連企業社長‥‥
「え?」
 手が止まる。左隅に載っている写真は、見た事のあるものだった。
 成長はしているけれど‥‥
「‥‥悠君‥‥?」


≪映画『想いの形 〜紅の章〜』募集キャスト≫

*大野 悠(おおの・ゆう)
 外見年齢18〜25程度の男性
 性格は優しく穏やか
 棗の初恋の人

・紅(くれない)
 本名:壱里 棗(いちさと・なつめ)
 本来は素直で優しい少女。現在は暗殺業を生業としている
 →篠宮・ユナが演じます

・その他
・斬鬼(ざんき)
 外見年齢15〜20程度
 紅と同じ組織の人間
 紅とコンビを組んでいるが、実践にはあまり出ない
 血を見ただけで卒倒しそうになる
・組織の人間
・悠の友人
・悠の家族  など


≪シーン≫

・紅(棗)が悠の前に現れる
→悠が紅の事を覚えている・いないはお任せ
→この時は紅は何もせずに姿を消す

・紅の仕事現場にたまたま居合わせた悠
→血溜まりの中で佇む紅に声をかける・かけないはお任せ
→かけた場合もかけない場合も、紅は悠にはまだ何もせずに姿を消す

・再び紅が悠の前に現れる
→貴方の命を奪います宣言をされる
→この時の悠の反応はお任せ

・紅が悠の命を奪うべくやって来る
→『私が消えるか、貴方が消えるかしか選択はない』
→紅は悠の事がまだ好きです
→悠が紅を刺してENDもOK

●今回の参加者

 fa0634 姫乃 舞(15歳・♀・小鳥)
 fa0826 雨堂 零慈(20歳・♂・竜)
 fa2495 椿(20歳・♂・小鳥)
 fa3652 紗原 馨(17歳・♀・狐)
 fa3831 水沢 鷹弘(35歳・♂・獅子)
 fa3957 マサイアス・アドゥーベ(48歳・♂・牛)
 fa4263 千架(18歳・♂・猫)
 fa5486 天羽遥(20歳・♀・鷹)

●リプレイ本文

 悠(椿(fa2495))は妹の真奈(姫乃 舞(fa0634))が差し出した書類を受け取ると、特に急ぎでもなかったのにと苦笑した。
「だって、お兄ちゃんに会いたかったんだもん☆」
 お兄ちゃん大好きっ子の真奈が悠に抱きつき、はっとした表情を浮かべると悠の顔を見上げる。
「お兄ちゃんにお客様が来てるから伝えてって秘書のお姉さんに言われたんだ。真奈はもう帰るね。お仕事の邪魔してごめんなさい」
「気をつけて帰るんだよ」
 大きく手を振って走り去る妹に小さく手を振り返し、悠は白衣を翻すとロビーへと向かって歩きかけ‥‥背後を振り返った。廊下の端に佇んでいた少女と目が合う。
「‥‥なっちゃん?」


 斬鬼(千架(fa4263))は戻って来た紅の様子に首を傾げた。
「何かあったのか?」
「別に」
 素っ気無い態度の紅。口では否定しているが、斬鬼の目は誤魔化せない。何か起きる、そんな嫌な気配を敏感に感じ取った斬鬼がパソコンを落とすと引き出しの中から拳銃を取り出した。
「久し振りに俺も現場に出てみようかな」
「天変地異の前触れ?」
 からかうような口調。けれど、声はどこか虚ろだった。
「俺だってやる時はやるんですー!」
 笑いながら紅の背を叩く。「頑張って」そう言った紅の表情は、何故か寂しそうだった。


 伶(紗原 馨(fa3652))から紅の様子がおかしいとの報告を受けた黒鉄(マサイアス・アドゥーベ(fa3957))は冥(彩)(天羽遥(fa5486))と伶に紅と斬鬼の監視を命じた。
「「御意」」


「貴方がコンビを組むなんて珍しい事もあるのね」
「新人のおもりを任されただけです。正式なコンビではありません」
「初めまして、研修として2人のお手伝いをする事になりました彩です」
 無邪気な笑顔を見せる彩。斬鬼が不審そうな瞳を2人に向ける。彩がその視線に気付いてふわりと微笑みながら頭を下げ‥‥眼鏡を床に落とす。
「あぁっ!」
「‥‥伶‥‥」
「紅さん達のお仕事の邪魔はしませんから」
「それじゃぁ、早く行って早く帰ってきましょう」
 紅が歩き出し、斬鬼もそれに続く。その背中を、彩が鋭い視線で見詰めていた。


 現場に到着後、紅は瞬く間にリストに名前の上がっていた人物達を『消去』して行った。軽やかな身のこなしと正確なナイフ捌き。自分の身に何が起こったのかもわからずにこの世を後にした者も多いだろう。
「平気?」
 血溜まりの中に佇む紅に弱々しい笑みを見せる斬鬼。いつもと変わりないように見える紅だったが、絶対的に違う『何か』を抱えている事に気がついていた。
(とりあえず、戻ってから問い質そう)
 そう思った時、不意に背後に人の気配を感じて咄嗟に振り返った。
「なっちゃん‥‥だよね?」
 路地から姿を現した男性に、斬鬼は心当たりがあった。悠の視線は斬鬼を貫き、血溜まりの中で佇む紅へと注がれていた。絞り出したような声は掠れて震えており、紅は何も言わずにただ目を伏せて俯いていた。
「逃げるぞ」
 紅の腕を取り、走り出す斬鬼。
「待って!」
 悠が後を追ってくる気配を感じたが、それもほんの少しの間だけだった。直ぐに消えた気配に、斬鬼は紅の肩を掴むと顔を覗き込んだ。
「大野‥‥あいつは消される人間だ。だから、顔を見られても問題ない。なぁ紅、あいつは消される人間なんだ」
「だから、何?」
「‥‥なっちゃんって、誰だよ」
 紅は真っ直ぐに斬鬼の瞳を見詰めると、ふっと目を伏せた。そして、それ以上は何も語らずに、斬鬼の手を肩から払いのけると走り出した。


 冥と伶の報告に耳を傾けながら、黒鉄は継続して監視を続けるようにと告げただけでそれ以上は何も言わなかった。すでに悠と紅の関係の裏は取っていたのだが、紅が『本物の暗殺者』として価値のある人物なのかどうかを見定めるために、今回はギリギリまで手を出さないで見守るつもりだった。
 黒鉄は2人とのやり取りを追えると、弥勒(雨堂 零慈(fa0826))と功(水沢 鷹弘(fa3831))が話しこんでいる会議室へと足を向けた。
「何故2度も同じターゲットに手間取る必要がある!?」
「我々の仕事は綿密な調査が必要ですので、多少お時間を頂く場合が御座いますが、必ず遂行致しますので今暫くお待ち下さい」
「ご安心下さい。この依頼には我が組織の中でも最も優秀な人材を派遣しておりますので」


 一人で行きたいのと呟いた紅の声があまりにもか細くて、斬鬼は小さく頷くと研究室の中に吸い込まれていく紅の後姿を見詰めた。冷たいリノリウムの廊下を歩き、大野とプレートの掛かった部屋の前で立ち止まると音もなく扉を開き、中に滑り込む。研究に没頭しているらしい悠の背後に回り、暫し目を伏せた後で口を開く。
「貴方の命を、奪います」
 突然聞こえた声に驚いて振り返る悠。全体的に色素の薄い少女は、確かに記憶の中の女の子の面影が残っていた。
「‥‥何故とは聞かない。なっちゃんは、そうしなきゃいけないんだよね?」
 何かを言いかけた紅が、口を閉ざす。ギュっと唇を噛み、何かに耐えるようにそらされた瞳。悠はそっと近付くと、頭を撫ぜた。
「大丈夫?」
 寂しそうに微笑んだ悠。紅が顔をあげ‥‥縋るような瞳を覗かせた後で俯くと、踵を返した。
「逃げても無駄。貴方が何処に居ようと、私は必ず貴方を狩る」
「逃げないよ」
「‥‥貴方は、馬鹿よ‥‥」
 震える声で呟いた紅が、研究室から出て行く。悠は棚に並んだ薬品のうちの幾つかをダンボールの中に入れ、書類やフロッピーも一緒にその中に入れるとガムテープを貼り付けた。


 戻って来た紅の表情に、斬鬼は咄嗟に彼女を抱き締めた。研修としてこの場を遠くから見ているであろう2人が『監視』だと言う事に気付いていた。今の紅ではきっと気付けていないだろう。だから‥‥守れるのは、斬鬼しかいなかった。
「ごめんね、斬鬼。‥‥有難う‥‥」
 呟かれた言葉が決して自分以外の人には届かないように、斬鬼は強く強く紅を胸に抱くと、金色で書かれた製薬会社の社名を睨みつけた。


「任務を遂行しないならば、紅を狩りますか?」
 冥の言葉に、黒鉄は目を閉じて低い唸り声を上げると首を振った。
「いや、まだ手は出すな」
「‥‥それにしても、まさか紅さんの知り合いだったとは」
 信じられないと言った様子の伶の言葉に、冥は不敵な笑みを浮かべると首を傾げた。
「知り合いだから狩れないって、意味が分かりません。私なら、誰であろうと狩る自信がある‥‥伶さんも、そうですよね?」


 紅は斬鬼を戸口に待たせると、1人室内に入った。読んでいた書類から顔を上げ、悠は一瞬だけ斬鬼に視線を向けた後で立ち上がると紅と向き合った。
「貴方に、選ばせてあげる。貴方が消えるか、私が消えるか」
「紅!」
「斬鬼は黙ってて!」
「でも‥‥」
「‥‥それしか、選択肢はないんだね」
 悠の言葉に、紅は視線をそらすと軽く頷いた。
「それなら、僕が消える方を選ぶ。‥‥僕に、なっちゃんの命を奪う事は出来ない」
「‥‥もし貴方がこの場で生き残っても、きっと貴方は‥‥」
 紅の瞳が一瞬だけ鋭く光り、華麗な手さばきでナイフを取り出すと真っ直ぐに悠の胸に突き刺した。
「‥‥ずっと、なっちゃんが好きだよ‥‥」
 紅の迷いが、手元を狂わせた。一瞬で心臓を貫くつもりが、悠は致命傷を負いながらも即死する事はなかった。紅が悠の傍にしゃがみ込み、そっと手を握る。
「悠君は、私の心の支えだった‥‥私は、悠君の事が‥‥」
 紅がその先の言葉を口に出す前に、悠の瞳が静かに閉じた。立ち上がろうとしない紅の肩は、微かに震えていた。決して漏れ聞こえてこない嗚咽は、斬鬼の心を激しくかきむしった。
(紅の心は、一生あいつに囚われる。ずっと‥‥)
「‥‥もう、楽になれよ」
 斬鬼の声に振り返る紅。拳銃を真っ直ぐに構え、斬鬼は紅を撃った。スローモーションで倒れていく紅。弾は心臓から少しそれた場所に当たたらしく、紅の瞳は驚きと安堵の色を宿して斬鬼を見詰めていた。
(ずっと他の男を想い続け、苦しんで身を滅ぼすのを見るのが嫌なんだ。だから‥‥)
「‥‥斬鬼‥‥ありがとう‥‥ごめんね」
 紅の細い腕が重たげに上げられ、斬鬼はそれを掴むと紅の傍に膝を折った。
「お願いが‥‥あるの。これで‥‥」
 小さいながらも、必死に紡がれる紅の言葉。斬鬼は紅から託された『未来』の書かれた紙を胸に抱いた。
「強く‥‥生きて‥‥竜真‥‥」
 手から力が抜け、斬鬼は紅から初めて呼ばれた本名に困惑しながらも、そっとその遺体を悠の隣に寝かせた。
「任務完了。貴方については命令を受けていないから、いずれまた」
「斬鬼も早く去った方が良いわ」
 開いた扉の向こうから冥と伶が声をかけて去って行く。斬鬼は暫く悠と紅の顔を見詰めた後でそっと姿を消した。

「‥‥お兄ちゃん?‥‥どうして!?い、いやああああああっ!!!」


 伶と冥の報告を聞き、黒鉄はすぐに斬鬼を討つように指示を出したが、斬鬼の行方は掴めないまま時は流れた‥‥


‥‥それから10年後

「報告に来るのが遅くなって悪い。やっと地盤が固まったんだ」
 お線香に火をともし、吸っていた煙草を供える。
「俺らの『家』をぶっ潰す。お前が望んだ通りにな」
「お兄ちゃん、棗さん。見ててね‥‥」
 真奈が手を合わせ、竜真が空を仰ぎ見る。遠くから鳥の鳴き声が尾を引いて聞こえ‥‥
「今度来る時は、良い報告持ってくるからな、棗‥‥」