ハムスターの願いアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
宮下茜
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/28〜03/30
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●本文
私が健君のところにやって来て、2年が経とうとしている
寂しい事、辛い事、楽しい事、沢山教えてくれた健君
私の事を、とっても大切にしてくれた健君
『桜、どうしたの?最近元気ないけど‥‥』
いつもそう言って、私の事を気にしてくれる健君
でも、私はいつも健君が心配だった
最近、学校が終われば真っ直ぐに家に帰って来て、私と遊んでくれる健君
学校でのお話、色々してくれるね
前は沢山お友達のお話をしてくれたのに、最近はお友達のお話してくれないよね‥‥?
『友達なんて‥‥』
『だって、すぐに離れて行っちゃうだろう?』
寂しそうな顔‥‥
何があったの?どうしてお友達のお話をしてくれないの?
前はあんなに楽しそうにお喋りしてくれたのに
最近では、学校でのお話はいつも、先生か授業のお話ばかりよ‥‥?
『神様、どうか教えてください。どうして健君はあんなに寂しそうな顔をしているんです?』
『健は、大切な友達から嫌われてしまったのです』
『どうして!?』
『その友達の好きな女の子が、健を好きだと言う噂が広まって‥‥勿論、噂は所詮噂なのですが‥‥』
『だったら、その噂を解けば良いんじゃないんですか?』
『そうなのですが、どちらも意地っ張りなのです』
『意地っ張りって言う事は‥‥相思相愛、そうなんですね?』
『えぇ。いずれ、時が解決してくれるでしょう』
『‥‥いいえ、ダメなんです神様。私には、その時を待つだけの時間が、もう残されていないのです』
桜は悲しそうにそう言うと、神様の手を取った。
『神様、お願いがあります。私を、人間の女の子の姿にして下さい』
『‥‥誤解を、解くのですか?』
『はい。そうすれば、健君、笑ってくれますよね?』
『えぇ。でも‥‥良いのですか、桜?貴方は健と友人の友情を取り戻した後、私と共に行かねばなりません。貴方の本当の寿命を縮める事になるのですよ』
『‥‥それでも、楽しそうな健君の顔を覚えて逝きたいから‥‥』
≪映画『ハムスターの願い』募集キャスト≫
*桜(さくら)
ハムスターの女の子
外見年齢10〜18程度(健と同じ歳くらい)
精神年齢は12、3歳程度
純粋で素直な性格で、ちまっとした可愛らしい女の子
『私』『君、ちゃん、さん』『なの、かな』子供っぽい
*健(けん)
外見年齢10〜18程度(桜と同じ歳くらい)
優しく穏やかな性格
『僕or俺(年齢にあわせて変更可)』『さん、君、ちゃん』『だね、かな』穏やか
*健の友人(桜・健と同じ歳くらい)
・健の友人の想い人(桜・健と同じ歳くらい)
・その他
健の友人
健の家族
学校関係者 など
*外見年齢20以上の方は役が限られてしまいますのでご注意ください
●リプレイ本文
健(七瀬七海(fa3599))と晃(カナン 澪野(fa3319))は教室に入っても視線さえ合わさなかった。双方がそれぞれ誤解をしており、埋められない深い溝となって両者の間に横たわっていた。
「好きなら好きって言えば良いのに」
これは晃の言葉だ。数人の取り巻きの男の子が不意に発せられた言葉に首を傾げる。
「誤解だって何度言えば判ってくれるのかなぁ」
こちらは健の言葉だ。窓の外の青空をボンヤリと眺めていた生徒が突然の言葉にビクリと肩を震わせて健の顔を覗き込む。
「本当の事、話してくれないんだ!」とは晃。
「本当の事言ってるのに、信じてくれないんだ!」とは健。
愚痴られる友人達が困ったように顔を見合わせ‥‥
「「学校に行っても無視されるし!」」
教室の対角線上に座る2人の声が、ピタリと合わさった。
家に帰った晃は、ソファーに寝転がってテレビを見ていた姉の灯(姫川ミュウ(fa5412))に一言声をかけると頬を膨らせてテーブルを挟んだ向かいの椅子に腰を下ろした。
「何膨れてるのかなぁ〜?折角の可愛い顔が台無しだよ〜?」
「うるさいなぁっ!」
女顔であると言う事を気にしている晃がプゥっと頬を膨らませ、プイっとそっぽを向く。
「お姉ちゃんに関係ないよっ!」
「関係ないとは、晃のくせに生意気だぞ♪」
ニィっと口の端を上げた灯がソファーから飛び起き、晃の背後に回ると頭をクシャクシャにかき回す。
「ちょ‥‥何やって‥‥もー!やめてよーっ!」
ジタバタと暴れる晃。暫く髪の毛を乱していた灯が、ふっと手を止めると晃を後ろから抱き締めた。
「誰かと喧嘩しちゃった?」
「‥‥喧嘩って言うか‥‥」
「原因は勿論、分かってるよね?ちゃんと話し合ったのかな?ちゃんと相手の子の話しは聞いてあげたのかな?」
「‥‥‥‥‥‥」
「勝手に勘違いして突っ走っちゃってるってことはないかな?私もね、友達と喧嘩しちゃうと視野が狭くなっちゃう時があるんだ」
「だって‥‥どうしたらいいのか‥‥」
「じっくり話し合ってみたらどうかな?相手の話をちゃんと聞いてあげれば、きっと見落としてた何かを見つけられるかも知れないよ?」
にっこりと微笑んだ灯が、不安そうに首を傾げる晃の頭を優しく撫ぜた。
健は兄の洋(九条・運(fa0378))の妙な説教に飽き飽きしていた。
「暗すぎるぞ!それでも若人か!」
「もー、お兄ちゃん五月蝿いよ!近所迷惑だって!」
「傷とか痛みとかを恐れずに、有りの儘の自分を太陽の下に曝け出してくりゃぁ良いんだよ!言語と肉体言語で魂をぶつけ合い、真実を明らかにしてくるんだ!」
「‥‥お兄ちゃん、自分の言ってる言葉の意味分かってるの?」
「ん?意味なんてなぁ、テンションでどうにでもなるんだよ!!」
‥‥洋はこの時始めて弟が『もの凄い可哀想な者を見る瞳』をしている事に気付いた。
桜(星辰(fa3578))は宏美(ウィルフレッド(fa4286))の姿を見つけると走りよった。彼女の口から理由を聞いた後で、寂しそうな表情で首を傾げる。
「それが宏美ちゃんの本当に望んだことなの?」
晃が好きなのに素直になれずに健の方にアプローチをかける宏美。それが誤解を生んでしまった直接的な原因なのだが‥‥宏美は俯いたまま、口を閉ざしていた。
「好きって言う言葉は、気軽に使っちゃ良くないよ。そのせいで、2人は喧嘩しちゃってるんだし‥‥今から私、健君と晃君を呼んでくるから、宏美ちゃんはここにいてね」
「でも‥‥」
宏美が何かを言いかける前に、桜は軽やかな足取りで公園の方へと走って行った。
雨(角倉・雨神名(fa2640))は公園の中を不安顔で彷徨っている桜に気付き、声をかけた。
「健君と晃君なら、最近公園には来てないですよ?多分家にいると思いますが、案内しましょうか?」
雨の言葉に頷く桜。どこか不思議な雰囲気を宿す桜に、過去を重ねる雨。
(何だか、今にも消えてしまいそうな雰囲気の子‥‥)
「ここが健君のお家だけど‥‥」
「あの、雨さん。お願いがあるんですけど‥‥晃君を公園に呼び出してもらえませんか?」
「どうして?」
「えっと‥‥仲直り、させたいから‥‥」
晃と健の喧嘩を知っている雨は、ゆっくりと頷くと晃の家の方に走り出した。桜はその背中が路地の向こうに消えるのを見送ってから、ゆっくりとインターフォンを押した。
「あの、桜って言います。健君はいますか?」
桜を見て、誰だろう?と不審顔の健と晃。視線は宏美と雨、桜の上を行ったり来たりしている。
「‥‥もしかして、健の彼女!?」
「え!?どうしてそうなるの!?」
突然声を荒げた晃に、健がすかさず言葉を挟む。
「宏美ちゃんはどうなるんだよ!!」
「落ち着いて2人とも。そうじゃないんだって‥‥ねぇ、宏美ちゃん。話してくれるよね?」
桜に顔を覗き込まれ、宏美は渋々頷くと、健が好きなわけではないと言う事をはっきりと伝える。
「え‥‥?」
「何度も違うって言ったじゃん」
ポカンとする晃と、ぷぅと頬を膨らます健。
「もっと強くはっきり言えば良かったかなとは思うけど、それにしたって晃が全然話し聞いてくれないし‥‥」
「だって、宏美ちゃんは健のことばっかり褒めるし‥‥」
「だからって、無視することないだろっ!」
「無視してたのは健だろっ!?そもそも、健は俺が宏美ちゃんの事好きだって知ってるくせに、あんなに仲良さそうに‥‥」
言いかけて、はっと口を閉ざす晃。宏美が驚いたように目を丸くして数度瞬きをし‥‥
「‥‥私、健君じゃなくて‥‥晃君が好きなの」
消え入りそうな声で呟かれ、晃は顔を赤くすると健と桜に視線を向けた。
「も‥‥もしかして健、お前最初から‥‥」
「知ってたけど、第3者が口出しするような事じゃないし」
宏美が突然の展開に嬉し涙を流し‥‥
「宏美を泣かせたのはどこのどいつだぁぁぁっ!!」
突然の怒鳴り声と共に輪の中に割り込んできた宏美の兄の柑(帯刀橘(fa4287))に驚く一同。シスコンらしい彼に必死に宏美が説明を入れ‥‥
「‥‥そうだったのか。‥‥健君、だっけ?妹が迷惑をかけた。‥‥でも、お前が態度をしっかりしていれば、こんなことには‥‥!」
話しの矛先が晃に向けられ、「すみませんお義兄さん」と謝ってしまう晃。
「お前にお義兄さん呼ばわりされたくないっ!帰るぞ宏美っ!」
グイっと腕をつかまれた宏美が、曖昧な笑みを浮かべながら手を振る。
「‥‥凄いお兄さんだな、晃」
「うるせー、わざわざ言われなくても分かってるっつの」
盛大な溜息を吐いた晃が目を伏せ、もごもごと小さな声で健に謝罪の言葉を述べる。
「‥‥悪かったよ‥‥その、色々‥‥ごめん。誤解してた」
差し出された手を取る健。
「あーあ、お姉ちゃんの言うとおりだな」
「お姉さんに何か言われたの?」
「きちんと話し合ったの?って。確かに、俺が健の言葉をもっとちゃんと聞いてればこんなことにはならなかったんだよな」
「‥‥でも、新鮮だったよ」
「何が?」
「晃と喧嘩するなんて、そうそうないから」
顔を見合わせて微笑む晃と健。そんな2人の姿に安堵した桜がそっとその輪を抜け‥‥
「健君」
雨に声をかけられ振り向く健。戸惑ったような表情をした雨が、低い声で先を紡ぐ。
「こんな事言っちゃ駄目なんだろうけど、でも‥‥言わないと後悔するかも知れないから言うね。‥‥私、桜ちゃんがどこか遠くに行ってしまう気がするの。だから‥‥」
健がその言葉に弾かれたように走り出し、公園の前の道を曲がって行く桜の背中を追いかける。
「待って!!君はいったい‥‥」
「桜って、名前つけてもらった時‥‥とっても嬉しかった。綺麗な花の名前を、有難う」
「‥‥桜って‥‥え‥‥?」
「短い間だったけど、とっても楽しかったよ。健君、今まで‥‥有難う」
微笑んだ桜へと伸ばした手は、虚しく空を切った。
「そうそう、言い忘れるところだったけど、お兄ちゃんにはお墓は絶対に作らせないでね。いっつも私の事妙な名前で呼ぶんだもん」
「桜‥‥」
ふわりと溶け消えた桜。健が呆然とその場に立ち尽くしていた時、突然背後から誰かが走って来た。
「健、見つけた!あのな、お前の大事にしてた‥‥」
「うん、知ってる」
「何だお前。未来予知の能力でも身につけたのか?」
「違くって、桜が‥‥知らせに来てくれたから」
「‥‥お前‥‥頭は大丈夫か?」
「その言葉はお兄ちゃんにそっくりそのまま返すよ。大体、いっつも桜のこと妙な名前で呼んで‥‥。お墓は作らせないでねって言われてたよ?」
「ヤバイ、弟が別世界の入り口を開けてしまったらしい!どうすれば‥‥」
真剣な顔で壁に手をつく洋。健が盛大な溜息をつきながら兄をそのままにして公園へと足を向け‥‥ひらりと、目の前に落ちてきた淡い色の花弁を掌に乗せる。
「桜‥‥」
どこかに木でもあるのだろうかと視線を上げても、どこにもその色は見て取れなかった。健の視界に広がるのは、どこまでも広がる美しい空の青色で‥‥
ゆっくりと視線を掌へと戻せば、淡い色の花弁は何時の間にか消え去っていた‥‥