Blessing of fate 1アジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 宮下茜
芸能 3Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 難しい
報酬 7.2万円
参加人数 6人
サポート 0人
期間 03/31〜04/02

●本文

*蒼月*

 マスターである紅斬(こうざん)が差し出した1冊の分厚い本を、蒼慈(通称:蒼)と時岬(通称:岬)は食い入るように見詰めた。
 金色の文字で『Blessing of fate』と書かれた本は、本部員以上のクラスの者ならば誰でも知っている本だった。
「終わりなき本、か?」
「えぇ。今まで何人もの特殊部員が入り、誰1人として話を最後まで紡ぐ事が出来なかった、呪われし本です」
「僕の祖父も挑んだと言っていました。でも、途中で本に放り出されたと」
「本来物語りは紡ぎ手により、決められた運命をひた走ります。けれど、この本は紡ぎ手が途中でいなくなってしまったのです」
「しかもこの本、最初の1ページしか書かれてない」
「どうやら紡ぎ手はキャラクターの性格と物語の行き着く先、そして途中で起きる数箇所のポイントだけは別紙に書きとめていたようなのです」
「でも、別紙に書かれているだけじゃぁ、導きの効果は発揮しても、紡ぐまでには至らない」
「ですから、物語り憑きが物語の中の登場人物として本の中に入り、物語を紡がなければならないのですが‥‥」
「ポイントの分岐は自分達で選ばなくちゃならない。別紙とは言え、物語の向かう先は紡ぎ手によって決められているからな」
「どうやらそれが毎回間違っているようなのです」
 運命を捻じ曲げそうになった登場人物達は、本の外へと強制的に吐き出される。
 そして、物語は再び最初へと戻るのだ。
「物語り憑きは本の中にいる間、こちらの記憶は一切忘れています。物語の登場人物として入るわけですから、当たり前といえば当たり前なのですが」
「逆も同じ。本から外に出たら、本の中であった事は忘れちまう」
「‥‥どこでどんな分岐があり、どうやって間違えたのか。どうすれば物語を最後まで紡げるのか。それが、分からないのです」
「それで、紅斬。俺達にその本を見せるって事は‥‥」
「蒼月(そうげつ)隊に任務を与えます。この本の登場人物となり、物語を最後まで紡ぐこと」
「「御意」」


*250年 エディレイア王国*

「ルカ!!ルカ、起きなさい!」
 兄・ラズの声に、浅い眠りに入っていたルカ(18歳、第3王子)は慌てて起き上がると扉を開けた。
「何かあったんですか?」
「早くこっちに来るんだ」
 ラズがルカの腕を乱暴に掴み、衛兵に取り囲まれながら廊下を走る。
 散乱した書物、無残に切り裂かれた壁、そして何より‥‥廊下に転がる人人人人人‥‥
 赤い絨毯は彼らの血を吸って濡れており、廊下にはむせ返るような血の臭いが充満していた。
「これは‥‥」
「バズティアが攻めて来た。そして、父上が乱心された。リア姉様が‥‥」

→エディレイア第1王女リア、父であるグレイズの乱心を止めに入り死去。享年21歳

「ルカ様!ラズ様!こっちです!」
 エディレイア王家騎士・ゲイル(21歳)の導きで城から脱出するルカとラズ。あらかじめ用意されていた馬に乗り‥‥
「いたぞ!ルカ王子とラズ王子だ!」
 バズティア王国の旗を翻しながら走ってくる騎士。衛兵が前へと進み出るが、どうやら相手は『斬風の祝福』を受けているらしく歯が立たない。
「ゲイル、君はルカと一緒に『ロッタ村』まで逃げるんだ。既にレティアに援軍は頼んである。ロッタまで逃げれば何とかなるかも知れない」
「ですがラズ様は‥‥」
「ルカを、絶対に死なせるな」
「‥‥はい」
「兄様!!」
「お前の祝福を、今失うわけにはいかないんだ‥‥」

→エディレイア第2王子ラズ、ルカとゲイルを逃がすために敵と対峙、死去。享年20歳


*同年 ロッタ村*

 ロッタ村の村長であるアイズは、ルカとゲイルを迎え入れると直ぐに偵察を出した。
「現在バズティア軍がこちらに向けて進軍中です!」
「レティアの援軍は」
「ライズ王子(20歳、第2王子)自らが兵を率いて進軍中ではありますが、間に合いません!」
「‥‥アイズ様、ここは村人全員でバズティア軍をこの場に引き止め、ルカ王子様を村の外へ逃がすしか‥‥」
「でも、そうしたらロッタ村は‥‥」
 ルカの言葉に、アイズが軽く首を振る。
「ルカ様、我々の事は気にせずお逃げください。ライズ様と落ち合えれば、バズティアも手が出せぬでしょう」


・ゲイルとロッタ村を脱出する
→ロッタ村が陥落(村人全滅)

・ロッタ村に残り、バズティアと対決
→バズティア1500vsロッタ村300
→レティアの援軍(3000)が来るまでに持ち堪えられる確率5%
→援軍到着前に接近戦になった場合(ロッタに踏み込まれた時点で)敗北
→援軍到着後の勝率は80%

・バズティア側の祝福『火(強)』『土(弱)』『風(中)』その他『斬風・斬火』の祝福数人
・ロッタ側の祝福『斬炎(強)ゲイル』『慈恵(祝福)ルカ(使用不可)』『氷(中)アイズ』
・レティア側の祝福『斬氷(強)ライズ』『氷(強)』『光(中)』その他『斬光・斬氷』の祝福数人



『フェイズ』

 この世界『フェイズ』には3つの王国と幾つかの貴族国、そして多くの町と村があります
 『エディレイア』フェイズの中で最も力のある王国
 『レティア』エディレイアの同盟王国
 『バズティア』軍王国。エディレイアとは不仲
 多くの町や村は貴族国に属しており、貴族国は3つの王国のどれかに属しています

『祝福』(宿せる祝福は1つ)
・Bランク:火・水・風など(誰でも宿せる一般的な祝福)
・Aランク:炎・氷・嵐など(Bランクよりやや威力が高い祝福。誰でも宿せる)
→AもBも1文字のもの限定
(Sランク:大地・光陰・雷雨など(貴族以上の身分の者しか宿せない))
・αランク:治癒・結界など(攻撃系ではないもの。誰でも宿す事が出来る)
→強さは『中』のみ
・斬Bランク:刀や槍などの武器に宿せる祝福。攻撃ごとに祝福の威力がプラスされる(種類はBランクと同じ)
・斬Aランク:上記と同じ(種類はAランクと同じ)
→斬S・斬αランクと言うものは存在しない
→フェイズに銃器関係の武器は存在しない
*祝福=魔法とお考え下さい

*強さ
・弱:威力は低いが1日の能力使用上限数は5と多い
・中:1日の能力使用上限数は3(一番一般的な強さ)
・強:威力は高いが1日の能力使用上限数は1と少ない
(祝福:(Sランクの者でも、王族のみ)威力は抜群に高いが、体力の消耗が激しく、使う毎に命を縮める)

*戦闘
・祝福同士の戦闘(撃ち合い)の場合はランクと強さ、種類の相性によって勝敗が決まります
→同ランク、同じ強さ、同種類の場合は打ち消し(どちらにも被害が出ない)になります

*テンプレート
名前:(苗字は必要なし)
立場:(ロッタ村村人でもOK。王族、貴族は不可)
年齢:
祝福:(火・氷・水など)
ランク:B・A・α・斬B・斬A
強さ:弱・中・強
武器:(斬B・斬Aの者のみ)
祝福能力:威力・精度・範囲(合計数が5になるように数値を割り振り)
性格:
口調:

●今回の参加者

 fa0142 氷咲 華唯(15歳・♂・猫)
 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)
 fa3956 柊アキラ(25歳・♂・鴉)
 fa5307 朱里 臣(18歳・♀・狼)

●リプレイ本文

「ルカ王子様、貴方はエディレイアの未来を担う人物。バズティアに占領されたエディレイアを救えるのは、王子様とその祝福だけなのです」
 アイズの言葉に、ルカは自身の右手に浮かび上がる慈恵の祝福を見詰めると唇を噛んだ。
「でも、それではロッタは‥‥」
「この場は王子の御身が最優先です」
 結界の祝福(α・中)を受けしエディレイア王家騎士のメイ(朱里 臣(fa5307))が結い上げた髪を揺らしながらキッパリとそう言うと、アイズに視線を向ける。
「私はラズ王子の指示で単騎、バズティアの侵攻をレティアへと知らせに行きました。援軍要請はライズ王子がすぐにテイル王へと通してくださりましたので、私は単騎戻って参りましたが、いくらライズ王子でも、3千の兵を率いて後数刻でこの場に到着できるとは思えません。バズティア軍の到着の方が早い、それは断言できます」
「メイの言う通りです。この場で王子にもしもの事があれば、僕達はラズ王子に何と報告すれば良いのです?」
「僕達は、ラズ王子様からルカ王子様を託されたんだ。最期の、命令で‥‥」
 ラズの配下で炎の祝福(斬A・中)を受けしロッタ村出身の文官・エース(柊アキラ(fa3956))と、地の祝福(斬A・中)を受けしロッタ村出身の武官・アース(柊ラキア(fa2847))がルカの前に歩み出る。
「逃げましょう」
「王子様は、生きなきゃ」
「‥‥しかしエース、アース。僕がこの場から立ち去ったら‥‥ロッタは‥‥」
 犠牲は想像に難くない。メイもルカも、ロッタ出身の双子の心情を思いやり、苦しそうに視線をそらした。
「王子、ロッタの事はお気になさらないでくだい。我ら民の心は1つ。忠誠を誓いしは、エディレイア王家ただ1つ。アース、エース、ロッタ村の誇りにかけて、ルカ王子様を無事にレティアにまでお連れしなさい」
「「はい、アイズ様」」
「王子、行きましょう」
 メイがルカの腕を取り、それまで黙っていたゲイルが馬を確保しようと外へ出て行く。
「アイズ村長‥‥」
「王子にエディレイア女神の祝福のあらんことを‥‥」
「ルカ様、馬の準備が整いました。メイ、先導してくれ。エースとアースはルカ様の脇を固めろ。伏兵には気をつけろ、俺は後ろを守る」
『了解』


 混乱の祝福(α・中)を受けしロッタ村の村人・トム(九条・運(fa0378))は1人村の外へと出るとバズティア軍に接近した。軍団の前で手を広げ、おもむろに土下座をすると声高に叫ぶ。
「俺の名前はロッタ村のトム!この度は、皆様にお願いがあって来た!」
「願いとは?」
「王子は我々で捕らえて虐めて引き渡しますので、どうか村には手出ししないで下さい!」
「それが村長の意か!?何とも情けない!我らの忠誠は王国にあるのではないのか!?」
 ざわつく兵達に、トムはゆっくりと唇を舐めると立ち上がって右手に浮かび上がる混乱の祝福を発動させた。威力と範囲を誇るトムの祝福は、第1騎馬隊を混乱の中に落とし、しめたとばかりに第2騎馬隊へ向けても祝福を発動させる‥‥が、彼の祝福は精度があまり良くなかった。2回目の発動は失敗し、混乱中の第1騎馬隊の脇を通ってやってきた第2騎士団に死を予感するトム。
「‥‥お前ら、どうしてエディレイアを襲ったんだ!?」
「それに答える義務はない」
 あと1回残っている祝福だったが、展開している余裕はなかった。
「ええい、俺には例え祝福など無くとも、最後の武器が残されている!それは‥‥勇気だぁぁぁぁっ!!!エディレイア王国万歳!エディレイア王家、万歳っ!!!」

→ロッタ村『秘密にしておきたかった秘密兵器』トム、バズティア第2騎士団に単独で突っ込み死去。享年18歳


 闇の祝福(A・中)を受けしロッタ村の術士・カシェ(氷咲 華唯(fa0142))は王子脱出の時間稼ぎのために村に残った。バズティアから撃ち込まれて来る祝福を見ながらアイズと共に何とか応戦する。
「村長、次は炎の祝福だ」
「あの規模だと、術士は相当な使い手らしいな」
「俺の闇と村長の氷を合わせれば何とか打ち消せる可能性がある。最も、失敗すればかなりやられるだろうけど」
 カシェの言葉にアイズが氷の祝福を撃ち、その祝福を援護するように、1拍置いてからカシェが闇の祝福を撃つ。空中で炎の祝福と氷の祝福がぶつかり、威力を削がれながらも炎の祝福が氷の祝福を打ち破る。後に続いた闇の祝福が炎の祝福を打ち消し‥‥
「次は風と土だ!」
「風のほうが威力が大きい。土は放って置いて、風をどうにかする!」
「分かった!闇の祝福よ‥‥」


 幻覚の祝福(α・中)を受けしバズティア非正規軍の幻術師・ゼノビア(あずさ&お兄さん(fa2132))は村の裏門付近に配置された数名の別機動隊の中に混じっていた。
「王子様は逃げちゃった後みたいだねっ」
 胸に抱いた人形に声をかけ、チラリとバズティア兵達の顔色を窺う。
「‥‥逃げちゃっても良かったの?」
「さぁな。俺達は王子を生きてエディレイアまで連れて来いと言われただけだ。逃げた後の事は言われてない」
「追わなくて良いの?」
「王子と共に逃げた文官、武官、騎士は勿論の事、王子だって馬には乗りなれてる。今から追いかけた所で、追いつかないだろう。最も、追いついたとしてもすぐにレティアのライズ王子軍と衝突しちまう」
 たった数機の別機動隊では、瞬殺されるのがオチだろう。
「それにしても、お前も変わってるよな。なんだって急にうちの軍について来たんだ?」
「んー、秘密♪」
 はぐらかすゼノビア。まさか、一目惚れをした人がいるからなんて事は言えない。その人はこの隊の隊長で、名前はバルバロス。バズティア王家騎士の1人だと言う。
「‥‥そもそも、どうして王はエディレイアを攻めたんだ?いや、何故グレイズ王は乱心なんて‥‥」
「グレイズ王がリア姫を手にかけたなんて信じらんねーよな。まぁ、目撃したヤツが何人もいるから本当なんだろうけど」
「そう言えば、ラズ王子をうちの兵が手にかけたってのは本当か?チラっと聞いたんだけどさ」
「本当だ。けどまぁ、ラズ王子の祝福って地だろ?」
「可哀想だよなぁ。Sランクの祝福を持たない王族の命は奪う事が許可されてるなんてよ」
「そうだよな。ロイ王子とレイ姫は保護されてるもんなぁ。ルカ王子だって、Sランクの祝福を宿しているからこそ、生きてエディレイアに連れて来い、だろ?」
「レティアに逃げたとしても、レティアはエディレイアやバズティアと比べれば、全然格が違うもんなー、すぐに見つかるだろ?」
「まぁ、ルカ王子も可哀想っちゃぁ可哀想だよなぁ」
「‥‥無駄口はそこまでにしろ」
 バルバロスの声に口を閉ざす兵達。
「ゼノビア、祝福を発動しろ」
「はい!」
 愛しい若き隊長に命令されたゼノビアが嬉々として祝福を発動する。村中を駆け回っている村人達の前に幻影の兵隊を出現させる。突然の出現に、混乱して逃げ惑う村人達。
「あははっ!!ひっかかったひっかかった♪幻覚なんだから、ぜーったいに攻撃されることなんてないのに、逃げ回ってる!」
 ゼノビアがはしゃいだ声を出し、近くにいた兵士に
「ね、私すごいでしょっ?褒めて褒めて〜♪」
 と言って擦り寄る。兵士が苦笑しながらゼノビアの頭を撫ぜ‥‥
「そろそろ時間だな」
 バルバロスがポツリと呟くと、ゼノビアの腕を取って自身の馬に乗せた。
「王に、ルカ王子がレティアの手に落ちたと言う事を伝えに行く」
「ゼノビアも連れてですか?」
「あぁ。この祝福は使えそうだから、王に報告をと思ってな。‥‥お前達はこの場を守れ。村からは1人も生きて出すな」
『了解』
「‥‥なるべく離れた方が良いな。時間が無い」
「王様に会うのに、そんなに急ぐ必要があるの?」
「‥‥いや、王に会うのに急ぐ必要はない。ただ‥‥」
「あれは‥‥」
 エディレイア城の方角から飛んでくる、紫色の巨大な祝福の塊に言葉を失うゼノビア。バルバロスが舌打ちをしながら馬を乱暴に走らせ‥‥
「ロッタの方角に向かってる!!どうして!?あそこにはまだ、バズティアの部隊が‥‥」
「流石はグレイズ王の祝福だな‥‥」

→ロッタ村術士・カシェ、ロッタ村に残りバズティア軍と果敢に戦うも、破滅の祝福により死去。享年16歳。
→ロッタ村村長・アイズ、破滅の祝福により死去。享年63歳。


 最初にその紫色の巨大な祝福を発見したのは、アースだった。
「王子様、あれ!」
「あれは‥‥破滅の祝福?」
 紫色の祝福は髑髏の形へと姿を変え、一気にロッタ村を呑みこんだ。
「ロッタが‥‥!嘘でしょ‥‥!?だって、あそこにはまだバズティアの軍だって‥‥」
「ついに自国の兵まで‥‥堕ちたな、ガウロ‥‥」
 ゲイルがバズティア王の名前を呟き、メイが動揺を隠せずにエースとアースに視線を向ける。生まれた村が失われる瞬間を目撃してしまった双子だったが、それに涙することは無かった。
「王子、お気を確かに」
 エースが呆然と村の方を見詰めて固まったルカの背中をそっと撫ぜる。
「あれは、グレイズ王の祝福‥‥なぜ‥‥何故王がロッタを!?」
「ルカ様、落ち着いてください!コレには何かしらの理由があるはずです!」
「そうだよ王子様!しっかりっ!」
 ゲイルとアースの励ましに、力なく頷くルカ。ギュっと唇を噛み、耐えるように目を閉じた後で馬を走らせ始める。万が一伏兵が潜んでいてはと、気を張り巡らせながらの道中は想像以上に辛いものだった。特にメイはルカの周囲に結界の祝福を展開し、この辺の地理に詳しい双子の言葉を聞きながら先頭を走っていた。
「王子!レティアの旗が!」
 メイがそう叫んだ時、丘の向こうからライズ王子を先頭にしたレティア軍が姿を現した。
「ルカ王子様!!ご無事でしたか!」
「ライズ王子‥‥」
「あぁ、ご無事で何より‥‥。今しがた、ロッタの方角に破滅の祝福が撃たれた時はもうダメかと‥‥危うく気を失う所でした」
 実年齢は20だと言うライズだったが、キリリとした大人びた雰囲気はそれ以上の年齢にさえ見えた。安堵のためか、ライズの瞳に涙が浮かび、背後の兵達の目にも輝くものが滲む。レティア王家は、エディレイア王家を崇拝しており、レティアの民もまた、レティア王家にしているのと同じ忠誠をエディレイア王家にもしているのだ。
「皆さんもご無事で何よりです。レティアは皆様を歓迎いたします。さぁ、行きましょう」
 ライズに先導され、3千の兵に囲まれながらルカ達はレティア王国へと入った。


「皆様、本日はお疲れでしょうからどうぞお休み下さい。皆様のお部屋はここになります」
 レティア王国へと入り、すぐにレティア城へと通されたルカ達。
「まずはテイル王にご挨拶をしなければ」
「いえ、それが‥‥」
「どうかしたんですか?」
「リリア家から使いがあり、少々厄介な事になっているんです」
「まさか、バズティアが‥‥」
 メイの言葉にライズがピクリと反応するが、すぐに軽く首を振る。
「皆様、本日はお休み下さい。‥‥ご安心を。我がレティアは決してルカ王子様をバズティアに引渡しはしません」
「‥‥アース、エース、それとメイ。お前達はルカ様に付き添っていてくれ。俺はテイル様に話を聞きに行く。良いですね、ライズ様」
「ゲイル殿には聞いていただいた方が良いかも知れませんね」
「‥‥それなら僕も‥‥」
「ルカ様はお休み下さい。明日、私の方から詳しい話をお聞かせいたします」
「そうですよ王子。今お体を壊されたら大変です」
 エースの言葉に渋々頷くルカ。ライズとゲイルが部屋から出て行き、ルカは俯くと唇を噛んだ。
「‥‥あの、王子‥‥お辛い時は、泣いても良いんですよ?私達に愚痴を言ったって、良いんですよ?」
 ルカと同じ年齢のメイ。もし自分がルカの立場なら‥‥そう思うと、胸が締め付けられた。アースが右目の眼帯にそっと触れ、エースが一番上までキッチリ締めたボタンを指先で弄ぶ。
「‥‥いや、泣かないよ。だって、僕が泣いたり、弱音を吐いたりしたら‥‥バズティアに、負けた事になる。囚われているロイ兄様とレイを助け出し、グレイズ父様の目を覚ますまで、僕は弱い所を見せちゃいけないんだ」
「王子‥‥」
「エディレイア王国をバズティアの手から救い出すその日まで、僕は‥‥泣かないよ」
 ふわりと微笑んだルカ。メイは顔をそらすと、奥歯を噛み締めた。
「王子、警護は私達に任せて、もうお休み下さい」
「隣の部屋で待機しております。何かありましたら声をおかけ下さい」
「王子様、お休み〜」
 メイが隣の部屋へと消え、エースとアースがその後を追う。薄い扉を閉め‥‥崩れ落ちたメイに、双子は目を伏せた。
「王子だから、エディレイアの未来を担う人だから‥‥だから王子は泣いちゃいけないの?」
「メイ‥‥」
「去年、サフィアお后様がお亡くなりになった時、ルカ王子は1番お泣きになってた。ラズ王子と、ロイ王子に慰められてたの、凄くはっきり覚えてる。ルカ王子はとっても感情豊かな方よ。それなのに‥‥あんなに辛そうな顔をしてるのに、私‥‥私、泣かせてさしあげる事も出来ないなんて‥‥!」
 自身の無力さに、メイは唇を噛むと涙を流した。もっと自分が強ければ、もっと自分にルカを安心させてあげられるだけの器があれば。そう思うと、悔しくて悲しくて‥‥
「王子には、王子の譲れない部分があるんじゃないかな。今は、泣いてはいけない時だと感じているのかも知れない。‥‥メイ、僕達は王子の感じている辛さを引き受ける事は出来ない。分かって差し上げる事しか出来ないんだ」
「分かっています。分かっていますけど‥‥」
「メイ、あんまり無理しない方が‥‥」
「無理などしてません!私は‥‥騎士でありながら、ラズ王子を‥‥」
「ストーップ!それ以上は言わないでおこ?ね?‥‥メイだけじゃない。僕もエースも、きっとゲイルさんだって‥‥悔しいんだよ」
 アースがクシャリと髪を乱し、エースがメイの頭を優しく撫ぜる。
「‥‥今日は頑張ったね、でも、ちょっと肩の力が入りすぎちゃってるかな。全てを背負い込もうとすると、近いうちに失敗するよ」
「はい‥‥」
「エースの言った通り、僕達は王子様の辛さを引き受ける事は出来ないけれど、辛い時に傍に居る事は出来る。今は泣けなくても、いつか王子様が泣きたいと思った時に傍に居て、一緒に泣く事が出来たら良いなって、そう思わない?」
 アースの言葉にメイがふっと笑みを見せると、涙を袖で拭って立ち上がった。
「不覚‥‥アースの言葉で元気になるなんて‥‥」
「あ、酷っ!!」
「‥‥さぁ、僕達は王子が安心して眠れるように警護しよう。レティアの城内だから安全だとは思うけれど、万一を考えて必ず1人は廊下の扉の前に立っている事にしよう」


「バズティアはルカ王子様の身柄を引き渡すようにと言って来ました。我々は断固拒否の構えなのですが、バズティア軍は既にリリアとメゾンの近くまで進軍してきています」
「‥‥両家は何と?」
「ルカ王子様をお守りするためならば、戦うことをも厭わないと。聖クロリスもそのように申しておりました」
「そうですか‥‥」
「ゲイル殿。これはまだ未確認の情報なのですが‥‥エディレイアのターフェス家当主キジル殿がグレイズ王に‥‥」
「何故キジル様が‥‥!‥‥もう、王は昔の王ではないのでしょうか」
「聖クラリスは結界を張り、オルフェもその中に入ったと。それと、アーリアルはバズティアに徹底抗戦の構えだとか」
「パスティカは」
「無条件降伏したと」
 エディレイア貴族国の現状にゲイルが目を閉じた時、突然1人の騎士が謁見の間に飛び込んで来た。
「何事だ?」
「バズティア軍がリリア貴族国に攻撃を仕掛けました!炎の祝福の攻撃によりリリア様のお屋敷が崩れ、当主のバルファ様とロリア奥様が‥‥」
「すぐに兵を叩き起こせ!!リリアに向けて進軍だ!」
「はい!」
「‥‥ゲイル殿。すぐにルカ王子様を連れてクロリスへ。あそこならば、バズティアも易々と攻める事は出来ませんでしょう」
「しかし‥‥ん?‥‥この音は‥‥」


 微かな金属音に、アースとエースは飛び起きた。
「これは‥‥剣の音‥‥?」
 ルカの部屋の前を見張っていたメイが、声をかけてから室内に入る。
「王子!」
「‥‥起きてるよ。どうしたの、この音は?」
「分かりません。‥‥もしかしてバズティアが‥‥?」
「まさか、こんなに城の近くまで迫るまで誰も気付かなかったなんて有り得ない」
 ルカが首を振り、隣の部屋からアースとエースが入って来る。
「とりあえず、謁見の間に行きましょう。きっとそこならばライズ王子もゲイルさんもいるはずです」
「王子様、準備は大丈夫?」
「あぁ、すぐに行こう」
 身支度を整えたルカを囲む形で部屋を出る。右手へと続く廊下を走り‥‥
「アース!!」
 廊下の端から飛び出してきたバズティア兵に気付き、エースが剣を抜き、アースが槍を構える。
「メイ、結界!」
「分かってる!」
 ルカを結界で守るメイ。前方から現れたバズティア兵をエースが斬り、反対側から現れたもう1人をアースが槍で突き刺す。
「2人とも、後ろからも!!」
 メイが声を荒げる。エースに前を任せたアースが後ろから来た敵と対峙するが、前後を挟まれた形になってしまい、身動きが取れなくなってしまう。
「‥‥どうして城の中まで‥‥!」
「それより、斬っても斬っても次から次に出てくる‥‥まさか、こんな大軍に襲われるまで気付かなかったとでも!?」
「‥‥ねぇ、2人とも!何かこの兵おかしい!」
「まるで‥‥痛みを感じていないみたいだ」
「ルカ王子様!!」
 バズティア兵を斬り伏せながらライズが姿を現し、その後ろからテイルとゲイルが走って来る。
「ご無事でしたか!?」
「ライズ王子、これはいったい‥‥!?」
「分かりません。気付いたら城の中にバズティアの兵が‥‥!」
 ライズがそう言った時、階上から何かがキラリと光ったのが見えた。上へと視線を向ければ、矢を構えた兵士が1人‥‥その矢の先端は、ルカに向けられている。
「ルカ王子様!!」
「大丈夫です!王子は私の結界で‥‥」
 矢の先が赤く輝き、炎の祝福が宿されているのかと刹那緊張する。メイが攻撃を跳ね返すべく結界に集中し‥‥突然テイルがルカとメイを突き飛ばした。メイをエースが支え、アースがルカを支えた時、鈍い音を立ててテイルの背中に矢が刺さった。
「テイル王!!」
「テイル兄様!!」
「どうして‥‥!!」
「こ‥‥これは、祝福なんかじゃない‥‥早く、俺がまだ自我を保っていられるうちに、早くルカ王子様を外へ‥‥」
 テイルがライズに指示を出し、ゲイルが何事かに気付き矢に視線を移す。
「皆さん、こちらです!こちらに城の地下を抜けて外に出られる道があります!」
「テイル王!!」
「ダメですルカ王子様!こちらへ!!」
 ライズがルカの腕を引き、ゲイルが後ろを、アースとエースが前を守りながら城の中を走る。メイが周囲を警戒しながら、敵の気配を感じ次第3人に教え‥‥ライズは調理場へと一行を連れてくると、床に詰まれていた荷物を脇にどかし、現れた取っ手を引き上げた。
「この石段を下り、最初の分岐を右、次を左、その次を右、交互に進んでください。すでに聖クロリスには使者を送っています。入り口に待機しているかと」
「ライズ王子は‥‥」
「テイル王が倒れた今、私と姉のミラがこの場に残り、この国を動かす使命があります。ルカ王子様方に、エディレイアの女神とレティアの女神の加護があらん事を。‥‥アース殿、エース殿、メイ殿にゲイル殿、ルカ王子様をお頼み申します。どうか、御武運を」
 ランプを手渡され、石段を下りると天井が閉まる。何かでそこを塞ぐ音がし‥‥
「いったいどうなってるんですか!エディレイアに続き、レティアまで‥‥城に踏み込まれるまで気付かなかったなんて‥‥!」
「そう言えばゲイルさん。さっきテイル王が言った事はなんなんです?これは祝福じゃないって」
「‥‥あれはおそらく、呪縛だろう。3つの王国に属する聖貴族領にある神殿で守られている」
 その3つの聖貴族国とは即ち、エディレイアの『クラリス』レティアの『クロリス』バズティアの『クルリス』だ。
「呪縛と言う力が封印されているとは聞いていたが、詳しい事は俺もわからない。ただ、あの矢に宿っていた赤い光‥‥もしもアレが火系統の祝福の場合、もっと鮮やかな色をしている。そうだろう」
「えぇ、確かに‥‥あれは毒々しいまでにどす黒い赤色でしたね」
「何か大きな力が動こうとしている事は確かだな。‥‥とりあえず、聖クロリスまで行こう」
 ゲイルの言葉に歩き始める一行。ライズに教えて貰った通りに分かれ道を右・左と交互に進んで行く。
「‥‥それにしても、あの兵達はなんだったんだろう」
「まるで突然城の周りに現れたみたいでした」
「‥‥生きている者じゃない感じがした」
「まさか、死者が生き返ったとでも‥‥?」
「そんな祝福はないはず。でも、呪縛なら‥‥?」
「有り得ない事じゃないね。ただ‥‥僕達は呪縛がどんなものなのかまだよく分かっていない」
「‥‥そう言えばゲイルさん、テイル王とどんなお話を?」
「エディレイアの現状を聞いてきた」
 ゲイルはそう言うと、先ほど聞いた事をそのまま伝えた。
「ターフェス家のキジルさんって、グレイズ王と親しかった方ですよね?」
「どうして王がターフェス家の当主を‥‥」
「そもそも、どうして王は乱心したんでしょう?」
 結局はそこに行き着いてしまう。グレイズ王の乱心。そして、リアとラズの死。
「‥‥ここ数年のフェイズはおかしかった。でも、ここまでになるとは‥‥」
 エースが口を閉ざし、アースが近年3王家で起きた主な事件を口に出す。
「今から3年前、レティアのケラー王妃の他界、その翌年、レティアのジュバッサ前王の他界、そしてその翌年、エディレイアのサフィア王妃の他界」
「この3年に集中してますね」
「いや。違うな」
 ゲイルがアースとエースの言葉を遮り、ゆっくりと口を開く。
「ケラー王妃の他界の前年、バズティアのロイズ第3王子が暗殺されてる」
「‥‥ロイズ王子は病弱で、バズティアの自室から出られないだけと聞いていますが?」
「いや、ロイズ王子は既に他界してる。享年12歳だ」
「‥‥どうしてそんな幼くして暗殺なんてされないとならないんです!」
「待ってメイ。僕はバズティア王国の事はそれほど詳しくは知りません。でも、ロイズ王子がSクラスの祝福を受けた方と言うのは記憶しています」
「Sクラスの祝福を持つ王族を手にかけてはいけない。これは、フェイズの最も重要な決まり事‥‥だよね?」
「ロイズ王子は何者かに首を絞められた痕があった‥‥と、聞いている。不思議だとは思わないか?城の警備はどうなっていたんだ?見ず知らずの人が襲ってきて、ロイズ王子だって声を上げただろう。それなのに何故、王子を殺害した犯人は見つかっていない?そして、最も不思議なのは‥‥」
「その事実をひた隠しにするバズティア」
「正解だメイ。アース、ロイズ王子殺害の前年は何があったか覚えてるか?」
「えぇっと、ケラー王妃が亡くなったのが247年。その2年前だから‥‥バズティアのエリス現王妃‥‥」
「そう。エリス王妃がバズティアに入ってから、続けて王族の誰かしらが亡くなっている。‥‥エース、もうお前には分かっているな?亡くなった者達の共通点が」
「はい。祝福の種類、ですよね?」
「そうだ」
「どう言う事なのエース?」
「ロイズ王子は『許与』の祝福、ケラー王妃は『祝』の祝福、ジュバッサ王は『慈』の祝福、サフィア王妃は『恵』の祝福」
「‥‥人を傷つけない『真なる祝福』を受けている王族の人ばかり‥‥」
 祝福の中でも『真なる祝福』と呼ばれる『人を傷つけない』祝福は数が少なく、天から強く愛された者だけが宿す事が出来るとされている。
「現在『真なる祝福』を受けている人物は、王族貴族を合わせルカ様しかいない。しかも、ルカ様が宿している慈恵の祝福はランクS、強さは祝福」
「‥‥でも、どうして真なる祝福を受けた人ばかりが?」
 メイが首を傾げた時、前方に小さな光を見つけた。‥‥ふわりと冷たい風が頬を撫ぜる。
「やっと外に出られたか」
「ルカ王子様、大丈夫〜?」
「大丈夫だよ、アース」
 気遣うアースに微笑み返すルカ。入り口に立っていた、クロリス聖騎士隊の1人が此方に手を振り‥‥
「皆さん!!しゃがんでください!」
 突然叫ばれ、咄嗟にエースがルカをしゃがませ、アースとメイ、ゲイルが素晴らしい反射神経で地に伏せる。
「光の祝福よ!!」
 1人の聖騎士がそう唱え、ルカ達の背後へと祝福を飛ばす。威力は弱だったらしく、小さな破裂音と共に背後で何かが崩れ落ちる音がする。ルカを身を挺して守っていたエースが立ち上がり、地に伏せて動かなくなった人物を見る。
「これは‥‥バズティア兵の格好。いったいいつからつけてきていたんです‥‥?」
「そんな‥‥気配なんてしなかったのに!」
「つけてきたとすれば、最初からと言う事になるな。ここは迷路のようになっているし‥‥でも、それなら何故攻撃してこなかったんだ‥‥?」
 既に事切れているのを確認した後で、アースがそっと兵の顔を覗き込み‥‥尻餅をつく。
「どうしたんだ、アース?」
「え、エース‥‥この人‥‥この人‥‥!」
 震える指先が指し示す先には、見慣れた顔があった。ほんの何時間か前まで、一緒に居た人物‥‥
「アイズ‥‥さん?」
「馬鹿な!アイズ村長はロッタで‥‥!」
 ゲイルが怒鳴り声を上げた瞬間、アイズの体が砂のようになり、さらさらと地面に還って行った。
「一体何なんだ?何が起こってるって言うんだ‥‥!?」
「死者蘇生の能力‥‥」
 聖騎士の背後から現れた男性がそう呟き、長い前髪をかきあげる。
「初めまして、ルカ王子様に王家騎士のゲイル殿、メイ殿、文官のエース殿に武官のアース殿。私の名前はメイフィス。クロリス聖貴族国当主レリーシャ様の命を受け、皆様方をお迎えに参りました」
「メイフィス‥‥聞き覚えのある名前だな。エース、何か知っているか?」
「えぇ。メイフィスさんと言えば、バズティアのグラディ貴族国の専属軍師ではありませんか?」
「昔の話です」
「弱小貴族国をあれほどまでに育て上げた若き天才軍師。13歳にしてグラディの専属軍師になったと言う噂を聞いた事があります」
「そんなデマを信じてはいけません。それより、早くクロリスに行きましょう。レリーシャ様が首を長くしてお待ちです。何でも、色々とお話がおありだとか」
 先を立って歩くメイフィスに続き、聖騎士達に守られながら進む一行。
「‥‥そうそう、先ほどのお話ですが、私がグラディの専属軍師になったのは12歳と10ヶ月の時です。お間違えのないよう‥‥」
 メイフィスはそう言うと、クスリと笑ってエースの瞳を真正面から見詰めた。挑発的な瞳を受け、エースはただ柔らかく微笑むと隣を歩くルカを守るように腕を掴んだ。アースとメイもルカを守るように立ち‥‥
「バズティアのスパイなどではありませんので、ご安心下さい。今の私の仕えしお方はレリーシャ様ただ1人ですので」
 若き天才軍師は苦笑しながら呟くと、空を見上げた。そこには毒々しいまでに赤い月が浮かんでおり‥‥気のせいか風も、血の臭いを孕んでいるような気がした‥‥