Pure Melody 失絆アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 6.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/01〜04/03

●本文

 青い空に目を伏せて
 黒く落ちる影ばかり見続けた
 帰ってこない人を待つのは止めて
 失ったものから目を背け
 全てを新しくするために
 誰も知らない場所に行って

 ずっとずっと、逃げ続けて
 自分が誰なのかも分からなくなるくらい、遠く、遠く‥‥


 彼がいなくなって1年。
 僕と友人達はずっと彼を捜していた。
 最初はほんの数人だけだったけれど、話がだんだん広がって行き、最後はとんでもない人数の人々が彼を探してくれた。
 そして‥‥僕達はついに、彼の居場所を見つけた。
 山の中にポツンと存在する、児童養護施設。
 風に乗って流れてくる、繊細なピアノのメロディと細い歌声。
 決して忘れはしない、彼の音、彼の声‥‥
 声と音を頼りに場所を探り、薄い扉を開け放つ。
 キィっと蝶番がかすかに軋み、旋律が途絶える。
 ピアノの前に座っていた彼が顔を上げ‥‥
「奏‥‥」
「初めまして。こちらに何か御用でしょうか?今、係の者を‥‥」
「奏!待ってくれ‥‥!」
「‥‥あの、もしかして貴方は俺の事を知っているんでしょうか?」
「‥‥え?」
 彼が走って来て、僕の腕を掴む。
 真っ直ぐな瞳をこちらに向け‥‥
「教えてください!俺は誰なんですか?俺、自分の名前しか知らなくて‥‥」
 目の前が暗くなったような気がした。
 明るい笑顔、真っ直ぐな瞳。それは全て、以前の奏のものではなかったのだから‥‥
「僕を、覚えてないのかい?」
「おーい閏、奏見つかったか?」
 背後から声が掛かり、彼の視線がそちらに向かう。
「うわ!奏、すっげーピュアっぽい顔立ちになってるな」
「亮、奏は僕達のこと‥‥」
「‥‥亮‥‥大原亮!」
「人を指差したらいけませんって言われなかったか?言われなかったなら、俺が教えて‥‥」
 ポロリと彼の瞳から涙が零れ‥‥たっと走り出し、亮に抱きつく。
「おい!どうしたんだよ‥‥」
「思い出した。亮、大原亮‥‥」
「もしかして、記憶喪失だったのか?」
「そうみたいだけど‥‥奏、もう僕の事は分かるね?」
 彼の華奢な肩を乱暴に掴み、此方を向かせる。
 涙に濡れている瞳を真っ直ぐに見詰め‥‥
「お前は誰だ?」
 拒絶するような瞳は、僕を見てはいなかった‥‥


≪映画『Pure Melody 失絆』募集キャスト≫

*香坂 奏(こうさか・そう)
 少女のような儚い外見をしている。実年齢は24(外見年齢18〜23)
 崖から転落し、記憶を失い、児童養護施設でピアニストとして働かせてもらっていた
 亮と会って記憶を取り戻したが、閏に関する記憶だけは戻らないでいる
 『別れの曲』を弾く事に抵抗があり、楽譜を見るだけでも気分が悪くなる
 『俺』『お前(呼び捨て)』ぞんざいな口調で話す。亮は呼び捨て、閏はさんづけ
 *嘘をつく事が出来ない(お世辞なども言えない)

*沖野 閏(おきの・じゅん)
 身長は高く、いたって普通の好青年。実年齢は24(外見年齢20〜25)
 人当たりが良く、物腰が穏やか。奏を実の弟のように可愛がっており、過保護
 『僕』『君(さん・ちゃん・君づけ)』柔らかい口調で話す。奏も亮も呼び捨て
 滅多な事では怒らないが、奏を傷つけた相手には容赦が無い
 →頭に血が上り、一瞬自我を忘れる。その際一人称は『俺』に変わり、口調も乱暴になる
 →ただ、頭に血が上っている時間は短く、すぐに自我を取り戻し冷静になる

*大原 亮(おおはら・りょう)
 閏と奏の同級生。実年齢23(外見年齢20〜26程度)
 見た目は少々派手だが性格はいたってしっかり者。頼れる兄貴分
 『俺』『お前(呼び捨て・さん・ちゃんづけ)』少々荒い男性口調。閏も奏も呼び捨て


・その他
 奏と閏の同級生
 児童養護施設の児童
 児童養護施設の職員  など

●今回の参加者

 fa0634 姫乃 舞(15歳・♀・小鳥)
 fa1276 玖條 響(18歳・♂・竜)
 fa1359 星野・巽(23歳・♂・竜)
 fa2044 蘇芳蒼緋(23歳・♂・一角獣)
 fa2993 冬織(22歳・♀・狼)
 fa3369 桜 美琴(30歳・♀・猫)
 fa5302 七瀬紫音(22歳・♀・リス)
 fa5556 (21歳・♀・犬)

●リプレイ本文

「ここまで戻ってるなら、思い出してもいいはずなんだけど」
 カウンセラーの南(七瀬紫音(fa5302))はそう呟くと、奏(玖條 響(fa1276))に一部だけが白く抜けている絵を差し出した。
「この空白の部分を埋めてみる気は無い?」
「埋めたいけど、何だか忘れたような感じで迷う」
 首を傾げ、目を伏せる奏。それ以上は何も言わない彼をその場に残し、南は席を立った。


「ピアノも奏も、嘘をつかない。心に傷のある子供達の癒しになっていると思うの。だから、奏は子供達に人気があるわ」
 ここの代表で指導員の桜(桜 美琴(fa3369))がそう言って、隣に座る南へと視線を向ける。
「閏君の事だけポッカリと抜けている感じね。でも、閏君がどれだけ大事な人なのかはこの絵を見れば解るわ」
 奏が描いたと言う絵を見せて微笑む南。閏(星野・巽(fa1359))はそっと絵を優しく撫ぜると目を伏せた。
「本当の事を言えば、奏にはここに居て欲しい。けれど、それは彼のためにはならないわ。貴方の事を思い出せないのは、彼がそれだけ貴方の事を深く心にしまっているからよ。だから、気を落とさないでね?」
「桜さんの仰る通りです。本人のためには、思い出す切欠が必要です」
「えぇ、そうですね」
 閏は曖昧に頷くと、ふっと視線を遠くへ投げた。
(奏が幸せなら、このままでも‥‥)


 施設へと駆けつけた楓(冬織(fa2993))と亮(蘇芳蒼緋(fa2044))の弟・祥(虹(fa5556))は奏の姿を見ると思わず目を潤ませた。どこか怯えたような心を瞳の奥底に隠した奏は、以前と変わらないようにさえ思えたが‥‥
「2人とも、懐かしいな」
 どこまでもピュアな笑み。以前は閏だけに向けられていた笑みを受けているのは、亮だった。
「奏さん。以前の私のようですね‥‥」
 寂しそうに楓が呟き、祥が必死に茅の事や自身との出会いを話し始める。
「なぁ、お前‥‥何で亮の事閏って言うんだ?」
 キョトンとした顔で首を傾げる奏。祥が唇を噛み、奏がはっと顔を上げると楓に微笑みかけた。
「そう言えば前、亮と一緒に楓の問題を治したんだよな」
「‥‥そんなことあったか?」
 亮が首を傾げ、困惑顔になる奏。
「お前、覚えてないのか?楓、歌が歌えなくなって‥‥」
「亮さんはご存じないと思います。‥‥私が歌えるようになったのは、奏さんと閏さんのお陰ですから。私、亮さんとは初めてお会いいたしました。‥‥亮さんが私の恩人である事は、有り得ません」
 真っ直ぐに瞳を見詰められ、咄嗟にそらす奏。部屋の隅で成り行きを見守っていた閏の方へと視線を向け‥‥閏が辛そうに、目を伏せる。
「確かあの人、閏さんって名前だったよな‥‥?」
 首を傾げる奏。決して彼は嘘をつかない。嘘は、つけない。だからこれは、心の底から言っていることであり‥‥
「‥‥あんなに苦しむほど大事な人だったのに、如何して!」
「祥、落ち着け」
「2人で『約束』されてたじゃないですか‥‥!」
 奏にとって一番大切であろう閏との思い出。それを全て忘れ、自身を痛め続ける奏。1年前に力になれなかった自責の念が祥の口から次から次へと感情的な言葉を吐かせ続ける。
「祥、そんなこと言っても奏には‥‥」
「‥‥約束?祥、何言ってるんだ?」
 今にも泣きそうな顔になり、耳を塞ぐ奏。大きな音が苦手な奏は、祥の怒鳴り声に怯え出してしまった。閏が咄嗟に手を差し出し‥‥パシリとその手を払い、亮にしがみ付く奏。驚いて固まった閏を見ていられなくなった楓が視線をそらし、祥もその光景に言葉を失う。
「‥‥ちょっと外出てくるから、後頼めるか?」
「えぇ‥‥」
 祥を連れて部屋の外へと出た亮。
「お前の怒りも分からなくはないが、本当に辛いのは本人達自身だ」
「分かってるよ‥‥」
「まあ、そうやって自分の事のように怒る事が出来るってのが、お前のいいところなんだけどな」
 苦笑しながらうなだれた祥の頭を撫ぜると、扉へと視線を移す。薄い扉の向こう、閏はふっと寂しそうな笑みを浮かべると目を閉じた。
(どうしても思い出したくないなら、僕が奏の過去を持って消えても良い‥‥)


「あのね、お別れ会でショパンの『別れの曲』を弾いて欲しいの。昔ね、お母さんが聞かせてくれた思い出の曲なの」
 明後日にでも母親が迎えに来て此処を出て行くと言う渚(姫乃 舞(fa0634))がそう言って奏の袖を引っ張る。一瞬顔を歪めた奏が直ぐに笑顔を浮かべ、ゆっくりと頷く。楽譜を広げ、ピアノの前に座り‥‥最初の数小節を弾いた所で気分が悪くなり、崩れ落ちる。
「お兄ちゃんっ!!」
 渚の金切り声を聞きつけた桜と楓が走って来る。
「どうしたの?」
「私がお願いしたから‥‥」
 泣きじゃくる渚の頭を撫ぜながら「貴女のせいじゃないわ」と慰める桜。
「もう弾いてなんて言いません。だからお兄ちゃん元気になって‥‥」
 楓が奏を抱き起こし、真っ青な顔をしながら奏が目を開ける。
「奏さん‥‥」
「前にどこかであんなこと‥‥してもらった気がする」
「‥‥今必要なのは、過去の自分をどう受け止め、これからの自分を如何したいのか考えること‥‥私にそう言ってくれたのは、奏さんです」
 奏の瞳が不安げに揺れる。もう少し、あと少しだけで何かが変わる‥‥そんな予感を感じ、楓は唇を噛んだ。あと少しの『何か』を持っているのは、自分ではない‥‥
「渚を、笑顔にさせてあげないと」
 再びピアノへと向かう奏。桜が渚を連れて部屋から出て行き、代わりに閏が走って来る音が聞こえる。楓はゆっくりと奏に背を向けると、扉の前に立つ閏の瞳を見据えた。
「これから先も、そうして逃げ続けるつもりですか?」
 双方の心に届くように、声に力を込めて。


 縺れる指が、不器用に別れの曲を紡ぐ。目を閉じれば浮かぶ、あの日の光景‥‥
「前にも同じ事、あったよね」
 ビクリと肩を震わせた奏。閏が華奢な肩に手を乗せ、柔らかい笑みを浮かべる。
「奏の音は、嘘をつかない。ピュアで、綺麗な音‥‥」
 だから心に届く。だから、傷ついた心を癒せる。嘘偽りのない、透き通るような音だからこそ‥‥。
「周囲に合わせる必要はないんだよ?自分のペースで歩けば良い。ゆっくり、1歩ずつ前進すれば良いんだよ?‥‥辛くても、自分から逃げないで‥‥」
「俺、閏さんとどこかで会ったこと‥‥あるんだよな?」
「‥‥奏が僕の顔を見るのが辛いなら‥‥もう、来ないから。安心して?」
 頭をそっと撫ぜ、背を向ける閏。大きく目を見開いた奏が何かを言おうと口を開き‥‥
「でも、『何か困った事があればいつでも来て?電話だって、いつでもかけて来てくれて良いんだよ?』」
「閏!!」
 最初に奏に声をかけた時の台詞をそのままなぞった閏。それは、閏の意識を無視して勝手に零れ落ちた言葉だった。
「閏‥‥ありがとう」
 振り向けば、奏が微笑んでおり‥‥閏は駆け寄ると、その体を抱き締めた。
「俺‥‥また逃げてた。やっぱり閏がいなくなった現実受け止められなくて‥‥」
 涙が奏の頬を滑り、閏の瞳もまた、ゆっくりと潤んでいく。
「奏、お帰り」
「‥‥ただいま、閏‥‥」


「嬉しい、有難う!お兄ちゃんの弾いてくれた別れの曲、今まで聞いた中で一番綺麗!」
 無事に別れの曲を演奏し終わった奏に渚が笑顔で抱きつく。奏がその頭を撫ぜ、極上の笑顔を見せた後で桜の元へと走って行く渚。
「‥‥閏、俺はここに残るよ。‥‥ここには俺の音楽を必要だと言ってくれる子がいるから」
「そうか‥‥」
「電話するよ。休みの日は‥‥会いに行っても、良い?」
「あぁ。楽しみに待ってるから」
「‥‥あの、奏さん。この間はすみませんでした、俺‥‥」
「祥、今度お前ん家に行っても良いか?」
「‥‥はい!」
 奏に手を振って、施設を後にする4人。
「2人が納得して出した答えなら、それがきっと最良なんだろうな」
「えぇ。お2人が選んだ道は、きっと未来へと続いています。後はその道を頑張って歩ききるだけ。‥‥私も、自分が選んだ道を歩ききります」
 楓が亮の言葉にそう返し、深呼吸をすると腕を空へと伸ばした。


「本当に、良かったの?」
 桜は去って行く4人を見送りながら、隣に立つ奏に声をかけた。
「えぇ」
「‥‥私はここの子供達同様、奏にも幸せになって欲しいの。上辺だけじゃない、本当の幸せを‥‥」
「俺の決めた道だから‥‥後悔はしない。この道の先に、きっと幸せはあるはずだから」
 爽やかに微笑んだ奏を見て、安堵の溜息をつく桜。
「これからもお願いね?」
 ポンと背中を叩き、微笑む桜。奏はピアノの前に座ると楽譜を広げ、ゆっくりと別れの曲を紡ぎ始めた。

 ピュアな旋律が紡ぐ『別れの曲』
 それは永遠の別れではなく、暫しの別れ
 未来へと続く道は、きっと繋がっているから‥‥


○おまけ
冬「響殿、指が止まっておる!」
響「(真剣にピアノ弾き中)」
冬「左手がお留守になっておるぞ!(手をペチン)」
響「いきなり両手でなんて無理ですよー!」
巽「両手一緒に弾いた方が、指の動きを覚えられ(ると思い)ますよ(爽笑)」
紫(一理あるけれど、難易度高い気が‥‥)
響「指は別撮りじゃないですかー!」
虹「でも、それなりに弾けた方が色々なシーンも撮れますし」
蒼「そうそう。だから‥‥」
舞「頑張ってください!」
美「応援してるわ、玖條君」
冬「ほれ、指が止まっておる!(手をペチン)」
巽「あ、間違えましたね。はい、最初から(にっこり)」
響「き、厳しすぎますよーっ!(涙)」