さよならの鐘が鳴るときアジア・オセアニア
種類 |
ショートEX
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担当 |
水貴透子
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芸能 |
4Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
12.7万円
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参加人数 |
9人
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サポート |
0人
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期間 |
07/13〜07/15
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●本文
『昔から決まっていた滅びの時――‥僕らはどんな最後を迎えるのだろう』
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この世界はあと三日で滅んでしまう。
それは昔から決まっていたことであり、決して逃れられない事実だった。
それを聞いた時、僕らは生まれてきた事を呪った。
僕はまだ16歳なのに――‥大人になる前に死んでしまわねばならないのだから。
生まれてこなければ、死への恐怖も感じずに済んだのに――‥。
※※
朝が来る。
僕は起きてから自分の手を見つめ、そして息を吐く。
まだ生きている――まだ‥。
毎朝、自分が生きている事を確認して安堵のため息をつき、そして学校へ向かう。
こんな時に学校なんて―‥と思うかもしれないけれど
こんな時だからこそ、いつもと変わらない行動をしたいのだ。
「あら、貴方も学校に来たのね」
そう話しかけられ、振り向くと同じクラスの『安藤 志保』が立っていた。
「ん、何か落ち着かなくて‥そっちは?」
「ふふ、実は私も一緒。家でじっとしてると落ち着かなくて‥出てきちゃった」
「お、お前らもか」
後ろを見ると、何人も見知った顔が制服を着て、鞄を持って此方へとやってくる。
「学校で自分達の送別会でもするかね」
一人の男子生徒が茶化すように呟く。
最後の日まであと三日―‥僕らは誰と、どんな最後を迎えるのだろう?
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●募集事項
◎映画「さよならの鐘が鳴るとき」では出演者の皆様を募集しています。
◎今回の話に必要な役柄は以下の通りです。
・OPの『僕』(男性/一名/必須)
・安藤 志保(女性/一名/必須)
・このほかにも思いつく役柄がありましたら、其方を演じていただいて結構です。
※世界は確実に三日後に滅び、それを防ぐ手立てはありません。
※それを前提に話作りをしていってくださいませ。
●リプレイ本文
●最後の日まで――あと三日‥三笠 篤(三条院・棟篤(fa2333))
―死んでしまったら‥どうなるのだろう?
世界があと三日で滅ぶと分かった時から、自分に問いかけ、未だに答えは出ない。
幽霊になる?そんな非現実的な事は信じられない。
「‥今日も大丈夫‥」
朝起きて、顔を洗い、歯を磨く。そして鏡に映った自分の顔を見ると笑顔を浮かべた自分がいる。
きっと本音は怖いんだろうけど、何処か感覚が麻痺しているような感じで僕は常に笑顔を浮かべている。怖いという表現の仕方を忘れてしまったかのように思えて、さらに笑みが浮かぶ。
「母さん、出かけてくるね」
制服を着て、鞄を手に持ち、靴を履いていると「何処に行くの?」と心配そうに問いかけてくる母親の姿が視界に入ってきた。
「‥‥学校、誰もいないだろうけどね――夜までには帰るから」
篤が答えると「‥気をつけてね」と相変わらず心配そうな表情を浮かべたまま母さんは僕を見送った。
●最後の日まで――あと三日‥安藤 志保(美笑(fa3672))
私は極めて普通の女子高生だった。
高校を卒業したあとには何の仕事をしようか、いつか素敵な人と結婚して、子供を生んで、孫や子供達に見守られながら老衰で死んでいく――それが平凡だけど私の理想だった。
だけど――‥そんな平凡な夢すら叶わない事を思い知らされた。
「‥はぁ‥」
志保は自分の手首につけているアームバンドを外し、そこに残る傷跡を見て小さくため息を吐いた。世界が滅ぶ――‥その事を知った直後に志保は自分で命を断とうとした。それも一回ではなく、数度も。
「‥たとえ明日、世界が滅亡しようとも今日私はりんごの木を植える」
これは自分の命を断とうとして、偶然知った言葉。志保はその言葉に共感し、自分が生きた証として日記を綴るようになった。
「‥私は私らしく生きる――滅びるその時まで」
志保は大きく深呼吸をして、制服を着て学校へ向かう為に足を動かし始めた。
●最後の日まで――あと三日‥黒瀬・美沙兎(因幡 眠兎(fa4300))
「助けてください!」
美沙兎はいつものように街をうろついていると、突然女の子が助けを求めてきた。
「なに?」
「私のバッグを‥‥」
女の子は少し先を走る男を指差して涙目で話している。その男の脇には、男が持つには可愛らしすぎる花柄のバッグ。状況から察するに『ひったくり』なのだろう。
「‥はぁ、もうすぐ世界は滅びるっていうのに――暇だ、ねっ!」
美沙兎は転がっていた空き缶を男目掛けて思い切り投げつける。空き缶はカコーンッと気持ちの良い音を鳴らしながら男の頭にヒットした。それと同時にバランスを崩して男は派手に転んだ。
「いたた‥」
「ゴミはゴミ箱に――ってね、恨むならひったくりをした自分と、空き缶を捨てた何処の誰か分からない奴を恨むんだね」
美沙兎は男の手からバッグを取って、女の子に渡す。
「ありがとうございます!」
「別にいいよ、今度からは気をつける事だね」
そう言って美沙兎はひらひらと手を振りながら、再びあてもなく歩き出した。
世界が滅ぶ事が分かってから、小さな事件、大きな事件が増えだした。それらを行った人物が口を揃えて言う言葉が――‥。
「もうすぐ世界は滅びるんだから、いいじゃないか」
―――だ。
「人間って愚かだよね、運命って言葉に踊らされてさ」
そう呟いた時、後ろから誰かが棒を持って襲い掛かってきた。
「‥っ!?」
美沙兎はそれを紙一重で避け、襲ってきた人物の顔を見ると少し前に美沙兎がボコ殴りした男だった。
「どうせ死ぬなら、てめぇを痛めつけてからだ!」
「‥ショボイ遣り残しだね」
美沙兎は嘲るように笑い、男をグーで殴る。
「残念だったね、最後の夢が叶わなくて」
ふふ、と笑いながら美沙兎は歩き出した。
「‥これから何処にいこうかな‥」
そう呟いた時、視界に入ってきたのは自分が通っている学校―――通っていると言っても、ほとんどサボっているからまともに通った覚えもないのだが。
「最後くらいちゃんと学校に行くのも‥いいかな」
そう呟いて美沙兎は静かな学校内へと入っていった。
●最後の日まで――あと三日‥神楽 沙遊(叢雲 颯雪(fa4554))
ガシャン――‥
学校の美術室で激しい物音が響く。
「‥描けない、描けないよ――」
描きかけの絵をスケッチブックから破り、それをぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に放り投げた。
彼女の名は沙遊、学校が学校として機能している時は美術部に所属していて、幾つも賞を手にするという才能の持ち主でもあった。
また誰もが将来を有望視しており、彼女自身の夢も画家として生きる事だった。
しかし―――その夢は三日後に断たれる。
「もうすぐ滅びの日―――死んじゃったらどうなるんだろう‥」
彼女自身、滅びに対して恐怖こそ感じるが漠然としたもので実感はなかった。だからこそ『形ある何か』を残したくて滅びる事が知らされた時から、毎日のように絵を描いていた。
しかし―――‥絵を描くことが出来ないのだ。
まるで沙遊の手が絵を描くことを拒否しているかのように‥。
「少し気分転換に校内を回ってこようかな‥」
スケッチブックと画材を机の上に置き、沙遊は美術室を出て校内を歩き始めた。
●最後の日まで――あと三日‥今井信吾(如月明(fa5883))
もうすぐ世界は滅ぶ!その時、貴方は誰と過ごし、何をしますか?
暇潰しに買った雑誌には大きな見出しでそう書いてあった。
信吾は両親を早くに亡くしており、今は叔父の家で暮らしている。世界が滅ぶという事に対し信吾は特別な感情を持っていない。そして希望もない、希望を持つ必要はないのだから。
「‥これが運命なら仕方ない‥」
ベッドに横になりながら、窓から見える空を見上げてため息混じりに呟く。これが運命なのだと諦めていれば何も悲しい事はない、自分達はそういう運命の元に生まれた、運がなかった――そう思えば良いだけの事。
「信吾、何処にも行かなくていいのか?」
突然、叔父が部屋に入ってきて短く告げてきた。
「‥元々、学校にもあんまり行ってないし‥変わりはないと思うけど?」
信吾が答えると「‥もうすぐ、ほら‥」と言葉を濁しながら呟いてくる。
「世界が滅ぶから?関係ないよ、どうせもうすぐ終わるんだし、好きにさせてよ」
ごろりと寝返りをうって、叔父に背中を向けながら信吾は呟く。
「‥最後なんだ、後悔のないように生きろ」
叔父はそれだけ言い残すと静かに部屋から出て行った。
「‥‥‥ねよ」
静寂に耐え切れなくなり、信吾は呟いて瞳を閉じる――が何か胸をもやもやと渦巻く何かがあり、信吾は眠れなかった。
「‥あ〜‥くそ!」
ガバッと起き上がり、Tシャツの上に学ランを引っ掛けて外へと出る。
信吾が向かった先は――――学校。
●最後の日まで――あと三日‥大和・優(仁和 環(fa0597))
「もうすぐ‥会えるんだね」
優は母校の前に立ち、空を見上げながら呟いた。彼は世界が滅びるという事に対して悲観的な感情は持っていない。むしろ数年前に亡くした婚約者にやっと会える―‥と嬉々的感情すら持っていた。
彼女を亡くした時、自分で自分の命を断つ事も考えたが滅びの事を知っているが故に『いつか同じ場所に召されるだろう』と心が壊れる事なく生きてこられた。
「そういえば――お前と出会ったのもこの学校で‥だったよな」
優は持っていたスケッチブックを開き、今はもう亡き彼女の笑顔が描かれたページを捲る。優のスケッチブックには婚約者と過ごした思い出の場所がラフ画で描かれている。
「‥朝顔、紫陽花、花菖蒲、桜‥」
優は呟くたびにページを捲りながら、懐かしそうに花の名前を口にする。
「‥花は必ず散るもの――僕達が散るのも仕方ない事なんだろうね」
優は門をくぐり、在学中に婚約者とよく弁当を食べていた屋上へと向かった。滅びる事が分かっているから学校に通う生徒などいなく、校舎の中はシンと静寂のみが存在した。
「懐かしいね‥」
屋上へのドアを開き、外へ出ると自分が在学していた頃と変わらない風景が視界に入ってくる。
「‥この壁にもたれながら弁当を食べていたよね」
優は座り、壁に背を預けながらスケッチブックの真っ白なページに目の前に広がる風景を描き出す。もちろん――‥愛する彼女の姿も描く。
「懐かしくて涙が出そうだよ‥」
絵の中でのみ生前と変わらない笑顔で自分を見つめる婚約者の姿に優の瞳には涙が浮かびそうになっていた。
「さて――次は三年の校舎に行こうかな‥」
スケッチブックを閉じ、鉛筆もバッグに直してから優は屋上を後にした。
●最後まで――あと三日‥遠野・要(久遠(fa1683))
―今日は暇?
今朝早くから友人から携帯電話にメールが届いた。それに対して僕は『学校があるから』と短い返事を打ち、友人からの誘いを断った。
こんな時に学校なんて誰も来ないに決まっている、そう頭の中では理解しているのに、体は勝手に学校へ行く準備をしているのだ。家族からも「こんな時まで‥」と呆れられたが、僕はこんな時だからこそ‥と考えて家を出た。
友人からは『要って世界が滅ぶ事に対して結構達観的なんだな』と言われた。その時は「そうかな?」と言葉を濁したが‥、実際は。
「‥そんな事は‥ないです」
要は自分の手を見て小さく呟いた。がたがたとみっともないくらいに震える手。教師という立場から自分が死に対して怯え、生徒を怖がらせるわけにはいかない‥そう考えて要は気を張り詰めて行動していた。避けられる未来なら、せめて恐怖を少しでも軽くしてやりたいという要の優しさだった。
「あれ――‥門が開いてる‥?」
学校に到着すると、門が人間一人くらい通れるほど開いていた。風に揺れて門はキィキィ‥と悲鳴のような軋み音を響かせている。
「誰か‥来ているんですかね‥」
もしかしたら泥棒?嫌な予感が要の頭を過ぎるが、頭を左右に振り、嫌な汗を流しながら学校の門をくぐった。
●最後まで――あと三日‥石川弘(木場修(fa0311))
「此処の戸締りもよし――と」
弘は学校の事務員として雇われていた。きっと生徒達は家族や自分の愛する人と最後を迎えるのだろう――‥そんな事を考えながら校舎内の見回りをしていた。
弘もとても大切な人が存在していた。だいぶ昔にだが恋人を亡くしているのだ。彼女以外と付き合う、ましてや結婚など考えられず30代半ばを過ぎても独り身であった。
「こんな結末なら‥アイツ以外に大切な人を作らずに正解かな‥」
大事な人を二度も亡くすなんて‥きっと自分には耐えられない、だからこれでよかったんだ‥そう呟きながら見回りを続ける。
「みんなが過ごしていた学校の風紀、規律を見回って静かに人生が終われたら、それでいい」
しかし、校舎内に話し声が聞こえてきて俺は眉間に皺を寄せながら声の方へと歩いていった。
●送別会の準備:篤・志保・沙遊
「‥しーちゃん?それにあーくんも‥はは、二人ともどうしたの?」
篤と志保は送別会の会場を、自分達が過ごした教室にしようと決め、向かっている途中で沙遊と出会う。外見同様に明るい性格の彼女が浮かない顔をしている事に篤と志保は首を傾げながら互いの顔を見合わせた。
「もうすぐ‥滅びの日でしょ?何だか学校に来たくなっちゃって‥篤ともすぐ其処で会ったのよ」
ね?と問いかけてくる志保に「うん」と篤は短い言葉を返す。
「ついでに自分達の送別会をしちゃおうと思ってるんだけど‥沙遊も一緒にしない?」
「わ、いいの?私も一緒にしたい♪」
そう笑って答える沙遊だったが、やはり浮かない顔のまま。
「何かあったのか?」
いつもと雰囲気の違う沙遊に疑問を持った篤が問いかける。すると彼女は困ったように笑いながら「絵が‥描けないんだ」と呟いた。
「絵?」
「うん‥こんな時だからこそ何かを残したいって‥絵を描いていたいって思うのに、何も描けないの‥どうしてかな‥?」
そう呟くと沙遊は自分の手を強く握り締める。そして場の空気が重くなったのを感じたのか「はは、こんなの私らしくないよね」と拳に込めていた力を抜く。
「ただの冗談!冗談だから気にしないで」
「‥沙遊‥うん、送別会で気分転換したら描けるようになるかも!ね、篤」
「そうだな、少し遊んで気分転換するってのはいいアイデアだと思う――というわけで強制連行!白状すると準備するのに人数が足りないんだよ」
おどけたように篤が言うと「もしかして手伝わせる為に誘ったの〜!?」と沙遊は頬を膨らませながら叫んだ。
「そういえばしーちゃんのそれは何?」
沙遊が志保の持っていたバスケットを指差しながら問いかける。
「これはお菓子とかお弁当とかかな、結構多く作ったから、きっと三人でも食べきれないよ」
苦笑混じりに志保が答えると「私、しーちゃんのお菓子好き〜」と楽しそうに笑って答えた。
「俺、父さんからビデオカメラ借りてきたから送別会の時に撮ろうぜ」
篤は肩からさげているバッグを指差しながら呟く。
「ふふ、何か楽しくなりそうだね」
それから三人は自分達の教室に向かい、扉を開ける。普段は鍵が閉まっているのだが最後に来た人物が閉め忘れたのだろう、扉は遮るものなく簡単に開いた。
「‥あっつー‥ずっと閉めきってるせいだね、熱気が凄いや‥」
手で自分を仰ぎながら志保が呟き、それぞれ窓を開け始めた。熱気によって熱った体に外からの風はとても心地よく感じられた。
「さて、準備を始めよう」
●おとなたち:優・要・弘
「あれ――‥要‥?」
屋上から出た後、懐かしげに校舎内を歩いていると、懐かしい友人と出会う。
「どうして此処に?」
優が問いかけると、要は苦笑しながら「僕は此処の教師ですから」と答えた。
「そういえば‥此処の先生だったっけ、忘れてたよ。最期に母校の教師って‥何か運命かもしれないね」
「そうですね、あれ――?そういえば婚約者の方は?婚約したと聞いていたのですが‥」
要が優の婚約者を探すように周りをキョロキョロと見渡すが、それらしい人物はいない。
「彼女は‥少し前に亡くなったよ‥」
答える優がとても辛そうに言葉を紡ぐから、要は思わず「す、すみません‥」と居たたまれない気持ちになって謝る。
「いや、気にしなくていいよ」
そう呟いた時に「誰だ」と向こうから歩いてくる男性がいた。
「あ、石川さん‥こんな時まで見回りですか?ご苦労様です」
要が丁寧に頭を下げると「其方こそ大変ですな」と弘も言葉を返す。
「あ、此方はこの学校の事務員をされている石川さんだよ、こっちは僕の友人の‥」
「大和です、この学校の卒業生でして懐かしくて勝手に歩き回っていました」
すみません、と優が頭を下げると「いやいや、いいんですよ」と弘は頭をさげながら言葉を返す。
「もうすぐ滅びる日だからね、学校に来る人も少なくて寂しかったところだ、俺は大歓迎だよ」
「そういえば僕達の他にも何人か学生がいたな」
思い出したように優が言うと「え?」と弘と要が聞き返してくる。
「何か送別会をするからとか話しているのを聞いたな、僕が階段を降りている時に教室に入っていったから、向こうは僕に気がついていなかったみたいだけど」
「最後に送別会‥ですか、若い子達は奇抜なことを考えますね」
「若い事はいいことだなぁ‥」
とりあえず大人三人は、送別会をしようとしている三人の学生の所に行く事に決めた。
●送別会準備・其処へやってくる問題児:信吾
「何で無駄な事だってわかんないんだよ」
篤・志保・沙遊が送別会の準備をしている最中に教室に入ってきたのは信吾だった。全てを諦めている信吾にとって、三人が行おうとしている事が理解出来なかった。
「確か今井先輩だよ、結構問題児って話を聞いた事ある」
ヒソ、と志保が篤に話しかける。
「無駄な事なんて、それは俺達が決める事だから、センパイに言われたくないッスね」
篤が教室に飾り付けをしながら答えると「だから!無駄な事なんだよ!世界は――」と叫び始める。
全てを諦めた信吾にとって、前向きに生きている彼らは自分を否定されているような気がして耐え難いものだった。
「あ、何だったら先輩も参加します?人数は多いほうが楽しいだろうし」
志保が笑って信吾を誘うと「何で‥笑えるんだ?」と信じられないものを見るような目で志保を見つめた。
「世界は滅ぶ、確かに変えられい事ですけど‥だからといってネガティブに生きなきゃならない理由にはならないですよ?先輩も我慢してるんじゃないですか?」
志保が問いかけると「俺は我慢なんてしてない」と信吾は志保を睨みながら叫ぶ。
「‥だったら――なんで泣いているんですか?」
話したのは沙遊、言われた信吾は「え?」と呟いたあとに自分の頬に手を滑らせる。そこから伝わってきた感触は濡れている自分の頬、そしてとめどなく自分の瞳から溢れてくる涙。
「先輩だって怖いんでしょ?我慢しなくていいと思うよ‥?」
沙遊が呟いた時、信吾は自分の胸で渦巻くもやもやしたものの正体が分かったような気がした。
それは――自分の中で認められなかった『恐怖』の感情。認めたくなくて、でも認めなくてはいけないもの。
「そっか‥‥俺は‥‥本当は我慢してたんだな‥‥」
そう言いながら信吾はその場に膝折れる。
「せっかく来たんだし、先輩も楽しみましょ、これ教室に飾ってくださいね」
沙遊が飾りを信吾に渡しながらにっこりと微笑む。信吾はそれを受け取り「‥あぁ‥」と短く答えた。
最後の日まであと三日、信吾はようやく本来の自分に戻れたような気がした。
●もう一人の来校者:美沙兎
「‥暇人な奴らだね」
学校へきて、少し騒がしい教室を覗いてみると四人の生徒が教室に飾りつけをしていた。その中には『問題児』の名を轟かせている信吾の姿もあった。
「送別会なんて‥辛気臭い‥」
美沙兎は湿っぽいものや辛気臭いものが大嫌いで、四人が行おうとしている送別会に対しても良い感情を持つ事が出来なかった。
「あれ‥お前は――」
信吾がドアから顔を覗かせている美沙兎に気づき、驚いたものでも見るような表情で美沙兎を見た。
「意外な奴が学校に来たな‥」
信吾が呟くと「アンタにだけは言われたくないわよ」と美沙兎は言葉を返した。
「それで、何してるの?」
美沙兎は分かってはいたが、流れ的に聞いてみる事にした。
「送別会っつー名前のバカ騒ぎ」
信吾が答えると「‥ふぅん」と美沙兎は興味なさげに曖昧な相槌をうつ。
「どうせ四人しかいねぇし、お前も一緒にやらね?」
「遠慮する、送別会なんて辛気臭いの嫌いだし」
美沙兎が答えると「辛気臭い雰囲気に見える?」と苦笑混じりに篤が呟いた。
「三日後が滅びの日なんだから‥少しでも沢山の思い出を作りたいんです、最後の瞬間に笑っていられるように‥」
志保が呟くと「笑っていられるように‥?」と美沙兎は言われた言葉を繰り返した。
●全員集合・楽しい時間はすぐに過ぎて――。
「あれ、遠野先生じゃん」
美沙兎が送別会に参加して、飾りつけをしている最中に要、優、弘の三人が教室へと入ってきた。
「キミ達は何をしているんだ?」
弘が問いかけると「送別会です」と志保がにっこりと笑って答えた。
「この教室――‥僕達もこの教室だったよね」
要が優の方を向き直り、問いかける。
「え、此処の卒業生だったんですか?」
沙遊が問いかけると「そ、此処が僕の席で――」と要が窓際の後ろから二番目の机に手を置いた。
「そう、そして僕が此処で‥隣が彼女だった‥」
優も机に懐かしそうに触れる。彼女――というのが誰を指すのかは学生組には分からなかったが優の悲しそうな顔に誰も聞きだす事は出来なかった。
「そうだ、せっかくだから皆で送別会をしようよ」
美沙兎が優・要・弘の三人を誘う。
「そうだね、せっかくだからお誘いを受けようか」
ねぇ?と要が優と弘に問いかける。
「僕は別にどっちでも‥」
優が言うと「それ、スケッチブックですか?」と紗遊が首を傾げながら問いかける。
「あ、優は画家だから神楽さんと話が合うかもね」
要が言い「画家‥なんですか‥」と沙遊は少し表情を曇らせながら呟く。三日後に世界が滅びてしまわなければ、きっと自分も辿っていた未来。
「神楽‥さんも画家志望?」
優が問いかけると「はい、画家志望でした」と過去形に言葉を直した。
「最後だから‥何か形に残るモノが描きたいのに‥絵を描くことが出来ないんです‥」
沙遊は自分の手を握り締めながら悲しそうに呟く。
「もしかして――‥誰かに認められたいとか考えていないかな?自分の為にじゃなく、他の誰かを意識しすぎているとか‥」
優の言葉に沙遊はハッとして、目を見開く。
「今の自分の気持ちを描く――それを心がければきっと良い絵が描けるはずだよ」
ね、と紗遊の頭をポンと撫でて、優は要のところへと向かった。
「先生は‥怖くないの?」
突然、篤が要に問いかける。それは学生組全員が思っていたことだった、要の態度を見ていると『恐怖』なんて微塵も感じていないように思えた。
「僕だって‥怖いですよ、ほら‥」
要はそう言って自分の手を差し出して見せた、出された手はカタカタと小刻みに震えており、怖いと思っている証拠のように見えた。
「でもね―――‥キミたちがいるなら平気です」
要の言葉に「何で?」と志保が問いかける。
「だって、僕は教師ですから‥生徒の前で格好悪い所は見せられないでしょう?僕だって‥最後まで格好良い教師でいたいんです」
「格好良い事言ってるね、昔‥男子から本気で告白されて困っていた頃とは大違い」
優がボソっと呟くと「優!その話はナシでしょう!」と顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「‥確かに今でも女性と見間違うくらいに美人だからな」
弘が小さく呟いた言葉に「え――?」とその場にいた全員が凍りついた。
「ご、ごほん‥それは置いといて‥キミ達と会えて‥先生は幸せでしたよ」
要が呟いた言葉に、全員が涙が出そうになった。
「また――‥いつか出会えるさ」
優が儚げに笑みながら言い「そうですね‥いつか、また‥」と空を見上げながらにっこりと笑って答えた。
「篤、こんな時なんだから――泣いてもいいんだよ?」
志保の言葉に全員の視線が篤に集中する。
「え、何を言って‥」
「だって――篤、会った時からずっと泣きそうに笑うんだもの‥」
志保の言葉に篤は張り詰めていた何かが切れたかのように、涙を溢れさせる。
「‥大人にくらい‥なりたかったんだ‥何も変わらなくていいから――‥」
せめて大人に‥と篤は号泣しながらひたすら言葉を繰り返した。
「篤は十分大人じゃない、大人って年齢だけじゃないでしょ?篤は‥十分大人だよ」
美沙兎が「泣き虫」と言いながら呟くと「俺よりは十分大人な考えを持ってるし」と信吾も苦笑しながら話した。
「あの!」
沙遊が何かを決意したかのように、教室中に響く大きな声で叫んだ。
「ねぇ、皆‥もし良かったら絵のモデルになってもらえないかな?最後に一枚だけ描きたい絵ができちゃったから‥」
少し照れて呟く沙遊に皆は「喜んで」と答えた。
●別れの時――いつか、また会いましょう
沙遊が絵を描いている間、志保の持ってきたお菓子や料理を食べながら、時間を潰していた。
「出来た!」
沙遊が満足気に叫び、スケッチブックを皆の方へ向ける。鉛筆書きで飾り気のない絵だったが、沙遊は今まで描いた、どの絵よりも素晴らしい出来だと自負している。
「素晴らしい絵だね、この絵を見るだけでキミがどんな才能を持っているか伺えるよ」
優が言うと「ありがとうございます」と紗遊は笑って答える。
「タイトルはあるのか?」
「あ、俺も聞きたい」
弘と信吾が問いかけると、沙遊はにっこりと笑って「今確かな、この瞬間‥です」と答えた。
確かにこの瞬間、自分達は存在していた――それを現す素晴らしい絵、それと‥。
「これも滅んだあとに残せるかな‥」
篤は近くに置いておいたビデオカメラを取り、呟く。
「うん、きっと‥誰かが見てくれるよ、私達が存在した証」
美沙兎が呟き、外を見ると夕日が沈みかけていた。
「そろそろ‥帰らなきゃね」
「そうだな、さよならの時間だ」
信吾が少し寂しげに呟くと「違うよ」と美沙兎が呟く。
「さよなら?違うよ、またね――だよ」
美沙兎が笑いながら言うと「そうだったな、またな」と言って信吾は先に帰っていった。
「私、世界が滅びるって分かった時に自分で自分の命を断とうとした‥けど、あの時から今日まで‥そして残された時間、悔いがないように過ごせたら‥と思う」
そう言って「またね!」と涙を浮かべながら志保も帰っていく。
今日、集まった皆は色々な苦難を乗り越えてきっと‥最後は穏やかだったことだろう。
だって――最後に素晴らしい思い出を作ることが出来たのだから‥‥。
END