ブラッディアアジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 水貴透子
芸能 5Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 難しい
報酬 27万円
参加人数 9人
サポート 0人
期間 07/13〜07/15

●本文

『それは‥血の契約により永久に生きる事を許された者の総称である――‥』

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彼は一人の女を捜していた。

女は彼に『永久の命』を与え、彼はそれを望んではいなかった。

誰もが羨む永久の命――、そんな物と引き換えに彼は永久の孤独をも手に入れた。

老いる事のない体では、一つの場所に長く留まれない。

数年経つうちに誰かが怪しむ。

だから彼は同じ場所に一年と留まることなく、三百年という月日を彷徨い歩いていた。

彼が望むのは永久の眠り――――死だ。

その眠りを手に入れるために、彼は、彼に『永久の命』を与えた女を捜さねばならない。

「‥僕は許さない‥僕をこんな体にした‥あの女を――」

彼は低い声で呟く。

女は『不死人』と呼ばれる種族で、自らが選んだ人間に血を分け与える事で自分の伴侶を作る。

その伴侶となった者たちを――ブラッディアと呼んだ。


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●募集事項
◎映画「ブラッディア」では出演者の皆様を募集しています。
◎今回の話の必須配役は以下の通りです。
 ・OPの『僕』/必須/男性一名
 ・OPの『女』/必須/女性一名
※上記以外の配役は出演される皆様で決めて下さって構いません。
※何か質問がある場合はNPC『ユリアナ』に聞いてやってください。
(その際は別スレッドをたてていただけると有難いです)

●今回の参加者

 fa0225 烈飛龍(38歳・♂・虎)
 fa0612 ヴォルフェ(28歳・♂・狼)
 fa0898 シヴェル・マクスウェル(22歳・♀・熊)
 fa0964 Laura(18歳・♀・小鳥)
 fa2457 マリーカ・フォルケン(22歳・♀・小鳥)
 fa3366 月 美鈴(28歳・♀・蝙蝠)
 fa4741 ジャック・ピアス(27歳・♂・豹)
 fa4961 真紅櫻(16歳・♀・猫)
 fa5810 芳稀(18歳・♀・猫)

●リプレイ本文

●始まりの夜――全ては此処から始まった。

「貴方は私の血により不死になった――‥」
 三百年前、僕・ジン(烈飛龍(fa0225))が目の前の女・アエラ(シヴェル・マクスウェル(fa0898))から告げられた。
「何だ、それは――‥」
「ジ――‥」
 困惑するジンに触れようとアエラが手を伸ばしてくるが「触るな!」とその手を叩き、振り払う。
「何だ、お前は――何で僕を‥」
 ジンがそう呟くと、アエラは微笑を浮かべながらジンの前から姿を消した――。
 この日より、ジンの終わりの見えない旅が始まったのだ‥。


●果ての道、消えぬ憎悪と空しさ
 三百年前のあの日より、ジンはアエラを探し『永遠の安息』を求めていた。ブラッディアとなった体には毒は効かない、もちろん自分で喉を突いても数時間経てば傷跡すら綺麗になくなるほどに回復する。
 どうやったら永遠の安息を手に入れられるのか?
 ジンはずっと考えて、行き着いた答えが『アエラを探す』という事だった。自分をブラッディアにした張本人なら自分に安息を与える事も出来るのではないだろうか‥という淡い期待だった。
「‥大丈夫ですか?顔色が優れないようですけど‥」
 路地裏に座り込んでいたジンに話しかけてきたのは黒い髪の綺麗な女性・リアナ(Laura(fa0964))だった。
「近くに私が借りている家があります、そこで体を休めませんか?不死人としてブラッディアが困っているのはほっとけないですから」
 不死人――その言葉にジンの表情が険しくなった。
「不死人‥お前も、あの女と同じ不死人なのか‥」
「えぇ、貴方の不死人と知り合いかどうかは分かりませんが、私は不死人です」
 相手が不死人という事もあり、警戒を解かないジンにリアナは苦笑して「別に何もしませんよ」と言って自宅へと案内した。
「珈琲でいいですか?」
 リアナの言葉に短く「‥あぁ」と呟き、少しの間を空けて珈琲をリアナが持ってきた。
「あまり‥不死人に対して良い感情を持っていないようですね」
 リアナが問いかけると「当たり前だ、俺にとって不死人は憎むべき敵だ」と低い声で答えた。
「そう‥‥貴方も不死人を憎んでいるの‥」
 リアナは珈琲を飲みながら寂しげに「‥少し私の話をしてもいいですか?」と呟いた。
「一人で生きるのは不死人にとっては苦痛なの‥でも、誰もが簡単にパートナーを選ぶわけじゃないのよ――‥だって、その人から世界を奪うんですもの‥」
 そう呟き、リアナは一枚の古ぼけた写真をジンに見せた。
「‥これは?」
 写真には若い男女が写っていて、男性に腕を絡める女性は目の前にいるリアナだった。
「私の大事な人だったわ‥大好きで彼を愛していた‥だから私はずっと一緒にいてもらいたくてブラッディアの儀式を彼に行おうとした‥」
 だけど――‥リアナは手を震わせ、瞳に涙を浮かべながら「あの人は‥私を拒絶した」と呟いた。
「私はお互いがお互いを愛していると思っていた‥でも彼はそうじゃなかったのかもしれない‥私を拒絶し、ブラッディアになる事を拒絶した彼は――」
 私の目の前で命を断った、リアナはその時の事を思い出したのか自分自身を抱きしめながら震えながら呟く。
「私が死んでしまったら‥あの人を覚えている人が誰もいなくなってしまう‥彼を覚えておく為にも‥彼の事がこの世から消えてしまわないように‥私は死ぬ事も出来ずに生きているのよ‥」
 それから暫くリアナは泣き続け、落ち着く頃には数時間が経とうとしていた。
「‥ごめんなさいね」
「別に構わない、僕はアエラという不死人を探している、知らないか?」
 ジンが問いかけると「アエラ‥聞き覚えがないわ」と涙混じりの声で答えた。
「私は貴方の不死人は知らない‥でも私の知り合いなら知っているかもしれないわ」
 リアナはそう呟くとメモに住所と名前を書き出し「此処にいる不死人を訪ねてみて」とメモを差し出しながら言ってきた。
「維苳(ヴォルフェ(fa0612))という不死人なのか‥」
「えぇ、彼なら物知りだし貴方の不死人についても知っている可能性は高いわ」
 そうか、ジンは短く告げてリアナの家を後にした。彼女は不死人、自分をこんな体にした憎いアエラと同じ不死人だ、しかし――‥彼女と話をして不死人という種族が少しだけ哀れに思えてきたジンだった――。


●自分が辿るかもしれなかったもう一つの未来
 リアナから教えてもらった維苳という不死人が住んでいる場所に赴く為、少し急いで旅をしていた。
 もうすぐ旅が終わるかもしれない、そういう期待がジンの心を逸らせていた。
「‥くそ、雨か――」
 通り雨だろうが、雨足は結構強い為ジンは近くにあった店で休憩をする事にした。
「‥貴方――ブラッディアね‥?」
 椅子に座り、外の雨を見ていると一人の女性が話しかけてきた。
「‥席、ご一緒しても宜しいかしら?」
 ジンは言葉に答えずに首を縦に振ることで返事をした。
「有難う、私はテレジア(マリーカ・フォルケン(fa2457))‥貴方と同じくブラッディアよ」
 テレジアは無表情で呟き、ジンと同じく窓を叩きつける雨を見た。
「随分と‥無表情なんだな‥不死人は一緒じゃないのか?」
 ジンが周りを見渡しながら呟くと「いいえ、あの人は家で待ってます」と先ほどと同じく無表情で答えた。
「貴方の不死人は――?」
「‥僕はアイツを許さない、こんな体にしたアイツを――‥」
 憎悪の色が見える瞳でジンが呟くと「羨ましいわ」とテレジアは一言だけ話した。
「羨ましい‥?どういう意味だ?」
「そんなにも熱い心を持ち続けていられる事が羨ましいのよ‥‥私はもう駄目‥もう疲れてしまったから―――」
 疲れた、その言葉を聞いてジンは少し納得したような気がした。彼女を見て感じた違和感――全く生きる意欲が見られないのだ。
 きっとそれは心が擦り切れて、それでも主人である不死人により死ぬ事を許されない‥その事でさらに心が擦り切れる。
「雨――止んだわね。私も帰らなくちゃ‥」
 そう言って立ち上がったテレジアを呼び止め、アエラの事を知らないかとジンは問いかけた。
「アエラ――‥そういえば少し前に別の不死人が家を探していたわ‥その不死人の名前がアエラだったような――‥」
 詳しい事は分からないわ、それだけ言い残してテレジアは店から出て行った。
「確実に‥近づいてきている、アエラに――」
 ジンは拳をギュッと握り締め、アエラを知っているであろう不死人――維苳の所へ行く為に店を出た―――‥。


●協力者―――‥星蘭(月 美鈴(fa3366))の出現
「貴方、ブラッディアね――そんなに殺気を放ってどうしたの?」
 維苳の所へ行く途中の街で宿を取り、少し遅めの夕食を取っていると突然話しかけられ、ジンは少しだけ驚く。
「‥‥不死人か」
 不死人がブラッディアの事が分かるように、ブラッディアにも不死人の事が分かる、目の前の女性は星蘭と名乗り「貴方の探し人の事を教えてあげましょうか」と呟いてきた。
「アエラの事を知っているのか!」
 ガタン、と勢いよくジンが立ち上がり、テーブルの上にあった食器が床に落ちて、ガシャンと激しい音をたてながら落ちる。
「‥貴方、本気で気づいていなかったのねぇ‥そう‥知らないの‥」
 星蘭は一人納得するように微笑を浮かべながら呟くと「ヒントをあげるわ」と妖艶な笑みを見せる。
「探し人は意外と近くにいるかもしれないわよ?」
 それだけ言い残して「それじゃ、貴方の幸運を祈っているわ」と星蘭は店から出て行った。


●考え方の違い――選ばれた者・選ばれなかった者――
「‥誰だ――?」
 宿を取る為に入った街、街に入った時から感じる視線にジンは痺れを切らし低い声で呟いた。
「あら、気づいていたの?ぼんくらではなさそうね」
 クスクスと笑いながら姿を見せたのは彩姫(芳稀(fa5810))と名乗った女性だった。
「本当は『あやひめ』と呼ぶんだけど、俗世に馴染む為に読み方を変えたのよ――貴方の事は昔から知っているわ」
 ふふ、と笑みを浮かべながら呟く彩姫に「僕の事を――?」と訝しげに聞き返す。
「そうよ、どれくらい前からかしら‥えーと‥」
 彩姫は指折りで数えながら「百年くらいかしら」と答える。
「もしかしたらもっと長いかもしれないわ、まぁ‥別に大差ないしどうでもいいんだけど。私達には永遠の刻が約束されているんだもの――ねぇ?」
 そう言って彩姫は自分をブラッディアにしたであろう男性に擦り寄る。
「お前は‥不死にされた事を喜んでいるんだな――僕は‥違う、あの女が勝手に‥」
 忌々しげにジンが呟くと「呆れたー‥」と彩姫が驚愕の表情を見せながら呟いた。
「まだ憎み続けているなんて‥根気強いって褒めるべき?」
 クスクスと嘲笑うように呟くが「彩姫」と不死人から短く名を呼ばれ「‥言葉には気をつけるわ」と彩姫は少しシュンとなりながら呟く。
「お前は――永遠の孤独を受け入れられたのか‥僕には永遠の孤独なんて受け入れる事ができない――‥」
 ジンが目を伏せて呟くと「バカみたい」と可笑しそうに笑って呟いた。
「人間と私達は違うのに、どうして孤独を感じる必要があるの?人間が何と思おうが関係ないわ、永遠に若く美しいままでいられる方が数倍大事」
 私達は選ばれた者なのよ、彩姫は誇るように胸に手を置いて呟いた。
 きっと、ジンと彩姫では話がかみ合う事がないのだろう――そもそもの考え自体が異なるものなのだから。
「そういえば‥何で僕の事を知って――」
「ブラッディアでは有名よ、貴方は。捨てられたブラッディア――ってね」
「僕は捨てられたわけじゃ――」
「ふふ、別にどうでもいいのよ。精々頑張ってね?私は『彼』以外興味がないから、お役にたてずにゴメンナサイ?」
 彩姫は妖艶な笑みを浮かべて、自分のパートナーである不死人と何処かへと行ってしまった。
「僕が捨てられた―――?何だ――僕は何か大切な事を忘れているような――?」


●真実を知らぬ――それがどれだけ幸せか
 目の前の男は『不死人』を憎んでいると言った。
 男の名はダニエル(ジャック・ピアス(fa4741))と名乗り、親友が不死人で、自分の恋人をブラッディアにされたのだと話した。
「永遠の命など――神をも冒涜する生物ですよ、不死人は‥」
 小さな喫茶店の中でダニエルは呟き、両手で持っていたグラスが割れてしまうのではないかというほど強い力でグラスを握り締める。
「あら、また会ったわね?」
 クス、と笑みを浮かべて近づいてきたのは不死人・星蘭だった。
「何で此処に――」
 ジンが問いかけると「うふふ、私のブラッディアが旅行に行きたいって言ったから♪」とラブラブっぷりを見せた。
「不死人――!?」
「あら、人間と一緒なんて珍しいわね」
 チラリとダニエルに視線を移したあとに星蘭が呟く。
「お前らがいなければ‥」
 ギリと唇を噛み締め、ダニエルが星蘭に襲いかかろうとするが星蘭のブラッディアがそれを制した。
「私は貴方なんて知らないわよ?」
 ブラッディアに押さえつけられたまま、ダニエルは「僕の恋人を‥」と消え入りそうな声で呟いた。
「恋人?」
「僕は親友だと思っていた奴に恋人を奪われた!だから不死人だけは許すものですか!」
 親友に恋人を奪われた、ダニエルのその言葉を聞いて「あはっ」と少女らしい笑い声をあげながら近づいてきた不死人がいた。
「知らぬが仏とは‥よく言ったものだよね!」
 猫を抱きながら話しかけてきたのは夜羅(真紅櫻(fa4961))と名乗った不死人だった。
「あら、夜羅――貴方もこの街に来ていたの?」
 星蘭が話しかけると「久しぶりだね☆」と夜羅はにぱっと笑いながら星蘭に挨拶をする。
「本当に久しぶりねぇ、40年くらいぶりかしら?」
「もうちょっとじゃない?私はずっと旅してたから♪」
 ね、と猫に話しかけながら夜羅が言う。
「知らぬが仏とは‥どういう事ですか!」
 叫んだダニエルに夜羅が「そのままの意味だよ」と答える。
「貴方の親友は私とも友達なんだ、本人から聞いた事だから間違いはないと思うけど―」
「いいから‥貴方が知っている事すべてを教えてください!」
 ダニエルは嫌な汗が流れるのを感じ、夜羅に向かって叫ぶ。
「えーと‥ダニエルちゃんだっけ?貴方の恋人は――難病にかかっていたって知ってる?」
 夜羅が呟くと「‥え?」と瞳を丸く見開いたダニエルが小さく呟いた。
「病状が悪化していくにつれて髪の毛が抜けたり‥女だったらとても苦しい変化を出てくる難病‥だからアイツはダニエルちゃんの恋人にブラッディアになるように勧めたみたいだよ」
 今まで知らなかった恋人の病気、そして明かされていく親友の気持ちにダニエルは戸惑いを隠せなかった。
「恋人はダニエルちゃんに病気の事を言いたくない、そしてアイツは恋人を失って嘆くダニエルちゃんを見たくない――その結論がブラッディアにするというものだったんだ」
「そんな――‥」
「けど、結局ブラッディアになるのを拒んで、ダニエルちゃんの恋人は遠くでひっそりと息を引き取ったって聞いてる」
 夜羅の言葉に「それは違う!」とダニエルが叫んだ。
「恋人は‥ブラッディアになったと自分の口で僕に言いました!」
「それは嘘だよ、ダニエルちゃんを心配させないように――そして自分を忘れるように吐いた嘘」
 そんな、ダニエルは呟き大粒の涙を瞳から溢れさせた。
「今――アイツは何処に――?」
「ダニエルちゃんの恋人の墓を護る為に遠くの街で暮らしているよ」
「其処を‥教えてください‥全ては僕の弱さが招いた結果‥」
 ダニエルは夜羅から親友が住んでいる・そして恋人が眠る街を聞いてジンにぺこりと頭を下げて、その場からいなくなった。
「さて、私達は旅行の続きでもしましょうか?」
 星蘭はブラッディアににっこりと笑ってみせる。
「相変わらず星蘭ちゃんはラブラブだね!私のところも負けてないけど!」
 ね〜?と猫をぎゅーっと抱きしめながら呟いた。
「多分、ジンちゃんの旅の終わりも近いよ♪私のカンはよく当たるから」
 夜羅の言葉を聞いて「そうだといいな」と言い残して、店を出た。


●旅の終わり――全ての始まり
「此処が‥維苳の住んでいる街か――」
 其処は今まで訪れた街の中で一番大きな街だった。街が広いという事は住んでいる人間の数も多いという事。
「‥探すのに苦労しそうだな」
 ため息混じりに呟き「とにかく探すしかないか‥」と足を動かし始めた。

 酒場・商店街――人が集まりそうな所で『維苳』の事を聞いて探すが、本人の顔すら知らないジンにとっては果てしなく気が遠くなるような気がした。
「貴方――その不死人を探してどうするの?」
 壁に寄りかかり、人の波を眺めていると帽子を深く被った女性に話しかけられた。
「不死人って‥維苳という人物の事を知っているのか?」
 ジンが問いかけると「えぇ、知っているわ」と女性は短く答える。
「古い友人だから――貴方は何故、彼を探すの?」
 女性は再度問いかけてくる。
「僕をこんな体にした不死人の女について聞くつもりだ、知っているなら教えてくれないか?」
 ジンが問いかけると女性は少しの間を置いて「‥いいわ」と答えた。
「表通りをまっすぐ行くと少し大きな教会があるわ、その教会の裏にある赤い屋根の家が彼の家よ」
「そうか、助かる、ありがとう――アンタの名前は‥?」
「別に名乗るほどの者でもないわ」
 女性はそれだけ言い残すと、ジンの前から姿を消した。
「‥‥変な女だな」
 ジンは呟き、教えてもらった道順で維苳の家へと向かっていった。

「‥ブラッディアがこんな所に何の用だ?」
 ジンが家を訪ねて、開口一番にそう言われた。
「‥アンタが‥アエラについて知っていると聞いた――どんな些細なことでも構わない、教えてくれ」
 ジンが必死な表情で話すと「待っていろ」とため息混じりに呟いた。
「ユリ(ユリアナ・マクレイン(fz1039))に食事を持って行ってくる」
 ユリ?とジンが眉を顰めながら呟くと「俺のブラッディアだ」と短く答えた。
「分かった‥」
「中に入ってリビングにでも行っててくれ」
 維苳は呟き、隣の家へと歩き出した。どうやら維苳はブラッディアとの仲が不仲なのか分からないが一緒に住んではいないようだ。
「‥広いな‥」
 家の中に入り、ジンが小さく呟く。家の中には最低限のものしか置いていなかった、恐らくはすぐに引っ越すことが出来るようになのだろう。
 待つこと数十分、維苳がリビングへと姿を現した。そして「ほら」とジンに向けて缶コーヒーを放り投げた。
「アンタは‥ブラッディアと不仲なのか?」
「‥?‥あぁ、別に暮らしているからそう思ったのか、別に不仲というわけではないよ。引きこもり‥ってワケでもないんだがユリは人目につくのを嫌ってね」
 それで?と維苳が言葉を紡ぎ「聞きたいのはユリのことじゃなく、アエラの事だろう?」とジンの前に座りながら話し始めた。
「生憎と‥アイツとは滅多に会う事はないからな‥ただ、彼女は誰よりも一途だったな、愛する人間の為ならたとえ憎まれても構わないと思うほどに」
 維苳はチラリと視線をジンに向けて呟く。
「憎まれ――?どういう事だ‥?」
「それにアイツほど乙女心炸裂な奴もいないだろうな」
 クックッと笑いを堪えながら維苳は話すが、話を聞いているジンにはとても信じられない話だった。

 自分の記憶の中のアエラは嫌がる自分をブラッディアにした女だ。
 嫌な笑みを浮かべて、自分を不死にしたのを楽しんでいるような女だ。
 きっと、維苳の言うアエラと自分が探しているアエラは別人なのだろう。
 自分の探すアエラが、そんなに優しい不死人のはずがないのだから。

「‥まぁ、今話せるのはこのくらいだな――って聞いているか?」
 ボーッとしているジンに維苳が問いかけると「あ、あぁ‥」と動揺を隠せないように言葉を返した。
 その時―‥玄関から激しい音が聞こえ「此処にいるんだろう!不死人!」と怒鳴り散らす男の声が響いた。
「な――?」
 ジンが驚いていると「近くに住む不死人嫌いの人間だ」と維苳がため息混じりに呟いた。
「お前等みたいなのがいるから――俺の娘は!」
 男は刃物を維苳に向けて叫ぶ、粋がってはいるが刃物を持つ男の手はガタガタと震えている。
「あのな、前にも言っただろう?アンタの娘をブラッディアにしたのは俺じゃない、別の不死人だ。してない事で罵られるのは勘弁ならないね」
 維苳が言うと「煩い!」と刃物を振り回して維苳――そしてジンに襲い掛かってきた。
「お前も不死人か!」
 そう言って男がジンに向かって刃物を突き出してきた――その時。
「ぐあっ!」
 狙われたのはジン、吹き飛んで壁に激突したのは男――そして男を吹き飛ばしたのは維苳の家を教えてくれた親切な不死人だった―――。
「お前‥」
 女性を見て維苳が驚いた顔で、女性とジンとを交互に見比べた。
「アンタは‥」
「少し通りがかったものでね、貴方もブラッディアなら気をつけなさいな」
 そう言って家を出て行こうとする女性に「待てよ」と維苳が呼び止めた。
「自分を追いかけてくれている男と親友を前にして随分な態度だな?おまけに人の家の壁をぶち抜くし――。いい加減、元に戻ったらどうだ―――――なぁ?アエラ」
 アエラ、その言葉にジンが大きく瞳を見開く。アエラと呼ばれた女性はため息を吐き、観念したように帽子を取った。
「貴様あああああっ!!!」
 長年探していたアエラの姿を目の前にした事で、ジンの気持ちが激昂する。
「お前さえ!お前さえいなければ、永遠に安らぐことが出来るんだ!」
 そう叫んで、ジンはいつも持ち歩いていたナイフを取り出し、アエラに切っ先を向ける。
「‥やってみなさい、それで貴方の気が済むのなら‥」
 アエラは両手を広げ、瞳を伏せる。
「お前さえいなければあああっ!」
 どす――と鈍い音と嫌な感触がジンの手に伝わってくる。アエラはジンにより刺され、大量の血を流してその場に倒れこむ。
「血―――‥」
 それと同時にジンの中で失われていた記憶がはっきりと甦ってきた。
「違う――アエラじゃない‥悪いのは‥アエラじゃ‥ない」
 がくん、とその場に崩れ落ちジンは自分の手についたアエラの血を見つめる。
「そうだ‥あの時の僕がこんな風に沢山の血が流れて――」
「死に掛けた所をブラッディアの儀式を行い、アエラが救った」
 ジンの言葉の続きを維苳が言う。
「起きれるか?いくら俺達が不死でも血が大量に流れ出たら暫くは動けなくなるんだぞ」
 アエラを抱き起こし、奥のベッドまで運ぶ。
「お前は三百年という放浪の旅の中で薄々と気づいていたんじゃないのか?不死人と殺める手立てなどないという事に」
 そう、不死人は『死』が存在しないゆえに不死人と呼ばれている。一度生まれ落ちたら永久に生き続けなければならない。
 永久―――‥一人で生きるには長すぎる時間、それゆえに不死人はブラッディアを求めるのだ。
「アエラは‥大丈夫なのか‥?」
「血が大量に流れたから、暫くはベッドの上から動けないだろうな」
 アエラをベッドに運び終えたあと、維苳は最初に襲ってきた男を軽々と担ぎ、玄関先に投げ捨てる。
「いいか?お前等如き人間と俺達は違うんだ、不死人を襲おうなんて馬鹿な真似は‥命が惜しかったら止めておけよ」
 男に維苳が呟くと「ひっ‥」と男は言葉にならない悲鳴をあげてバタバタと家の前から姿を消した。


●遠回りの始まり――これから先は幸せが
 結局、アエラが意識を取り戻したのは一週間後の事だった。
「‥ごめんなさい、怪我で記憶を失った貴方に全てを説明できるほど‥私は強くなかった‥憎むことが貴方の生きる糧となるのなら――それでもいいと思ったのよ」
 アエラは申し訳なさそうに、小さな声でジンに対して謝罪をした。
「僕のほうこそ――三百年前のあの日‥アエラから話を聞こうともしなかった‥全ては僕が悪かったんだ‥」
 許してくれ、涙を零しながら呟くジンに「これから一緒にいてくれる‥?」と不安そうな声でアエラが問いかけてくる。
「もちろん!僕達の間に空白となった三百年という月日を埋める、そのために僕はアエラのブラッディアとして生きていく――永遠に」
 ジンが呟くと「ありがとう」とアエラは涙を流しながら笑った。
 三百年ぶりにジンが見た、愛する人の笑顔だった――。


 それからもジンは数年おきに街から街へと移動しなければならない日が始まる。
 ただ――孤独だったあの頃と違うのは‥いつも隣に愛する人がいるという事‥。
 三百年という遠回りをしたけれど、ジンとアエラ、この二人は今、此処からが始まりなのだ――。


END