destiny ―firstアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 水貴透子
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 難しい
報酬 2.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/17〜07/19

●本文

『私は彼女の事を忘れる事が出来ない――』

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

その街は昼と夜とで全く正反対の顔を持つ―‥。
朝は爽やか街も、夜になれば一変する。
その中でも独特の雰囲気を持つ店が1軒存在した。

―destiny‥

「そういえば‥destiny最初のお客様ってどんな人か覚えてます?」

一人のホストが店長に問いかけた。

「もちろん覚えているよ、忘れる事なんて‥出来ないもの」

そう呟く店長は何処か寂しげに語りだした。

※※

「今日が開店の日かぁ‥」

その日は今まで生きてきた中で一番緊張していた日だった。

店にお客が来てくれるのかとか、色々と不安な感情が自分の中に渦巻いていた。

「―――‥お客、さま?」

外にいって深呼吸をしようとした時、一人の女性が入り口に座り込んでいた。

「客なんかじゃないわよ、あたしはホストクラブに来るようなお金なんて持ってないし」

じろりと店長を睨みながら女性はとげのある言い方で言葉を返した。

「そうですか‥ってずぶ濡れじゃないですか」

「雨が降ってるんだから濡れているに決まってるでしょ、だから雨宿りさせてもらってたのよ」

「中に入って下さい、そのままでは風邪を引いてしまいますから」

「いいわよ」

「開店の日に女性の方に風邪をひかれては困りますので、お入り下さい」

どんな理屈よ、そう思いながら断ろうとしたが腕を掴まれ、無理矢理に店の中に入らされてしまった。

店内は明るい色で纏められており、居心地良さを覚えた。

「何を飲まれます?」

「お金ないって言ってるでしょ」

「開店の日ですからね、サービスしますよ」

「ふん、どうだかね。ホストなんて女を食い物にしてるだけのダメ男じゃないの」

店長はシェイカーを振りながら女性の言葉に口を挟む事なく聞いている。

「最初はお前だけだよなんて言っておいて、金の切れ目が縁の切れ目で簡単に捨てるんだわ」

「まるで経験されたかのような口調なんですね」

店長の言葉に女性は「‥そうよ、全部私が経験したこと‥」と渡されたタオルで顔を隠しながら話し始めた――‥。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
●募集事項
◎映画「destiny」では出演者の皆様を募集しています。
◎今回の話に必要な配役は以下の通りです。
 ・店長(性別どちらでもOK/一名)
 ・OPの女性(女性/一名)
※上記以外の配役は皆様で考えていただいて結構です。

●今回の参加者

 fa0597 仁和 環(27歳・♂・蝙蝠)
 fa1478 諫早 清見(20歳・♂・狼)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2495 椿(20歳・♂・小鳥)
 fa3369 桜 美琴(30歳・♀・猫)
 fa3661 EUREKA(24歳・♀・小鳥)
 fa4360 日向翔悟(20歳・♂・狼)
 fa4559 (24歳・♂・豹)

●リプレイ本文

 開店初日、まだ店も開けない時間から店長・春日(桜 美琴(fa3369))が招いた女性・百合(EUREKA(fa3661))は涙をぼろぼろと零していた。
「‥分かってるわ‥」
 タオルで顔を隠し、百合がポツリと呟く。
「私が世間知らずで馬鹿だったのよ‥でも――‥あの笑顔や優しさを‥嘘だとは思いたくなかった‥コウジ(諫早 清見(fa1478))に喜んで欲しかった‥」
 嗚咽混じりに百合が呟き、春日は彼女の言っていた『ホストは女を騙す馬鹿な男』と言うのを完全否定できない自分が情けなかった。この店では女を騙すやり方はさせていないが、他店ではそれがまかり通る現実。
「おかげで財布も身も心も空っぽ!‥笑っちゃうでしょ?仕方ないわよね‥ホストだし、お金がなくなればポイで当然‥」
 あは、と渇いた笑いを見せながら百合が呟いた。
「口汚しかもしれませんが‥これでも飲んで暖まってください‥体が冷えていると心まで冷えてしまいますから」
 そう言って熱いスープを百合に差し出したのは、バーテン・慶(日向翔悟(fa4360))だった。
「‥‥代金払えないわよ」
 彼女の警戒心は未だ解けないのか、じろりと慶を見て呟く。
「お金なんていいわよ」
「‥と店長が仰っているので結構ですよ」
 お金がいらない、ホストクラブで聞ける言葉とは思わなかったのか百合は瞳を丸く見開いて驚いている。
「そういえば‥先ほどコウジと仰っていましたが‥idealのコウジ‥ですか?」
 言いながら近寄ってきたのは夏生(仁和 環(fa0597))だった、その問いに「そうだけど‥」と百合は瞳を瞬かせながら答える。
「これ、どうぞ」
桂(椿(fa2495))が温かいおしぼりを百合に渡しながらにっこりと笑む。
「ちょっと行って来ますね〜」
 桂はそう呟き、手をひらひらと振って正面玄関から外へと出て行った。それに合わせて奥の椅子に座っていた隼人(笙(fa4559))も裏口から外へと出て行った。
「二人とも熱いねぇ‥」
 クス、と笑みながら夏生が出て行った二人を思い浮かべて呟く。
「何かリクエスト、ある?」
 夏生は百合に問いかけると「私は客じゃないし‥お金ないわよ」と素っ気無く答えた。
「店長が認めたらお客だよ、それに店長がお金いらないって言ってるんだから思いっきり楽しめば?」
「‥そうね、じゃあ演歌をお願いするわ」
 百合が「演歌」と呟くと「本当に演歌でいいんだね?俺、演歌弾いちゃうよ?」と意地悪な笑顔を見せながら答える。
「‥‥‥嘘、何か明るい曲頼むわ」
 百合が呟くと「OK、都(月見里 神楽(fa2122))」とdestinyが誇る歌姫の都を呼んだ。
「今日のみーちゃん、お客様の為に頑張りますよぉ♪あ!春日さーん、慶さんでもいいの、百合さんが元気になれる飲み物を出して欲しいのぉ」
 都が言うと「分かった」と慶が百合に飲み物を差し出した。そして都にも「ついでだ」と言って飲み物の入ったグラスを渡した。
「ありがとうって‥ミルクに見えるのぉ、小さいからってからかわないでぇ‥」
 がっくしと肩を落としながら呟くと、百合から少しだけど笑顔が見えた。
「ほら、いつまでも遊んでないで仕事しろ」
 夏生がパシと都の頭を軽く叩きながら言うと「はぁい‥」と夏生の演奏で、都が歌い始めた。


「コウジってホストはどれだ?」
 桂と隼人がやってきたのはideal、そして店内に入りコウジを呼びつけた。最初はざわついていた店内も「全く何なんだよ‥」と面倒そうに欠伸をしながらやってくるコウジに店内はシンとした。
「百合さん‥って女性を覚えているでしょう?彼女を傷つけて悪いとは思わないんですか?」
 桂が問いかけると「君らには関係ない事だよね?」とコウジはさらっと答える。
「‥そうですか、すみませんがちょっとお借りしますね〜」
 コウジの腕をガシッと掴みながら桂がにこやかに他のホストに向かって呟いた。
「ちょ‥何――」
「‥煩い、ガタガタ言わずに来い」
 桂とは反対側の腕を掴み、二人はdestinyへと向かっていった‥。


「何で‥此処に?」
 二人が出て行ってから数十分過ぎ、戻ってきた時にはコウジも一緒だった。
「ちょっと!店に帰せよ!もうすぐ店が――」
 店内で騒ぎ立てるコウジに「その心配はいらないよ」と夏生が答える。
「無断外出は俺がフォローしとくから、あそこの店長とは馴染みだし」
「それで、彼女に何か言う事があるんじゃないか?」
 隼人が謝罪を促すように言うと「アンタらだって似たような事してるだろ!?」と叫びだす。
「一緒にするな、俺達ホストは客に夢を見せるのが商売だ‥夢を潰す商売じゃない」
 隼人が淡々と言うと「俺もね‥」と桂が呟きだす。
「この仕事が綺麗事だけで出来るとは思ってません、でも‥キミは百合さんに一言でも『ごめん』と言いましたか?たった一言だけど、それが大事なんです」
 桂と隼人の言葉に最初は百合の気持ちも考えていなかったコウジが、段々と真剣に考えるようになって「‥‥ごめん」と短く呟いた。
「香嬢と瞳嬢と綾嬢、プライベートで鉢合わせないように気をつけてな?」
「な、何でそんな事まで!?も、もうこんな事はしないって!ホントごめんな?百合さん」
「もう‥いいの‥ありがと」
 百合は下を俯いたまま呟き、コウジが店から出て行くと同時に涙を溢れさせた。
「やだ‥雨の雫が残ってた‥」
「ふふ、そうね‥」
 春日がそう言って外の様子を見に行くと「雨、あがってるわ」と百合に呟いた。
「そろそろ帰らなきゃ‥」
 百合の心からの笑顔を見せながら店を出ようとすると春日がそれを呼び止める。
「貴方の気の向いた時にでも‥来て下さい。ご指名が私だと嬉しいかな?」
 春日が名刺を渡しながら呟いた言葉に「店長がホストの営業妨害してどうするのよ」と笑顔を見せながら呟く。
「あ、それもそうね」
 ふふ、と笑いながら百合は出て行った――。


 あれから数日後――春日はとある病院に向かって走り出していた。
「春日さん、何処いったのぉ?凄く硬い顔だったよ?」
 慌てて出て行った春日を見て、都が呟く。
「百合さんが――事故に遭ったらしいんです」
 普段は穏やかな桂も険しい顔で呟く。
 それから暫くは重苦しい空気が続き、キィと扉を軋ませながら春日が店に戻ってきた。
「店長‥」
 隼人が呟くが、春日は緩く首を横に振った。
「‥私が名刺なんて渡さなければ‥」
 弱々しく呟く春日に「俺はそうは思いませんよ」と桂が呟く。
「貴方と出会った事で、確かに彼女は救われたと思いますから‥」
「俺もそう思う、最後は不幸ではなかったはずさ‥」
 そっと春日の頭を撫でながら隼人が呟くと、春日は声を押し殺して泣いた。
「‥彼女が安らかに眠っていられるよう、このカクテルを――」
 慶がそっと、この場にいない百合のためにカクテルを作り、あの時彼女が座っていた席へと置いた。
「良い夢を―――‥」
 夏生がピアノを弾きながら小さく呟いた。夏生が演奏している中、都は目を伏せて、複雑な思いを心の中に馳せていた。


 そして――これは彼女が死す直前の話――。
「‥変な人達ばかりだったな‥」
 横断歩道を渡りながら百合は、春日から貰った名刺を見て小さく呟いた。
「せっかくだし‥行ってみようかな」
 そう呟きながら微笑んだ瞬間、信号を無視して突っ込んでくる車があった。百合は結局事故に巻き込まれ、病院に運ばれたが出血が酷くて帰らぬ人となった‥。
 しかし、心は確かに癒されていた‥。


END



打ち上げ
「毎回恒例!消化物は俺のモノ!」
 椿さんが撮影で使った食料、そして出演者からの差し入れを独り占めしようとしていると「椿‥全部食うなよ?」と桜さんが水羊羹を差し出し、春日モードで話しかける。
「神楽もおやつ食べたいです♪」
 にっこりと笑顔で言われ、椿さんは泣く泣く(号泣)しながら月見里さんにおやつを渡した。
「‥神楽ちゃんの食べる分『だけ』は残しマス!」
 だけかよ、と突っ込みをいれたいが本気で椿さんが泣きそうなので、あえて言う事はなかった。
「大食魔人・ツバキンって名前はどうだ?」
 笙さんの提案に椿さんの芸名が『ツバキン』に変わる危機!
「キンツバに似てていいネ!」
 しかし本人は危機を嬉々として受け入れており、『モデル兼音楽家・ツバキン』の誕生であった――。
「さて、俺はそろそろ――」
 そういって仁和さんが撮影所を後にしようとした時‥桜さんに肩をガシッと掴まれ、カメラ片手に「梅雨と隅っこさんの写真を撮らせてね♪」と凄く爽やかな笑顔でお願いをしていた。
「ま‥また!?」
「えぇ、またお願いしたいわ♪」
 隅っこで仁和さんが写真を撮られている間にEUREKAさんが凄く楽しそうにピアノを演奏していた。
「楽器が目の前にあるのに、弾けないなんて拷問よね!」



おしまい。