トンネルアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 水貴透子
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 2.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/21〜07/23

●本文

『貴方は――本当にこのトンネルから抜け出れると‥思う?』

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今にして思えば、興味半分でこんな場所に来た自分達が馬鹿だったのだ。

いわくつきのトンネル―――何処にでもある怪談話。

「行ってみようよ」

仲間うちの誰かが言った。

「確かに面白そうだよな、何か起きたらそれはそれで面白いし」

幽霊、オカルト話はそれだけで人間の好奇心をくすぐる。

何故それに人は興味を持つのか、それは信じていないからだ。

絶対に何も起きない、無事に帰れる―‥そんな根拠のない自信が好奇心へと変わり、いわくつきの場所に行ってしまう。

「此処が入ると出られないって言われてるトンネルね」

これから起きる恐怖の事など、微塵も考えることなく、そして躊躇う事なくトンネルの中へと入っていった――。


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●募集事項
◎映画「トンネル」では出演者の皆様を募集しています。
◎今回の話に登場する人物は、出演者の皆様に考えていただくことになります。
◎話の内容はゼロなので、考えることが多いかもしれませんが‥頑張ってください!

●今回の参加者

 fa2640 角倉・雨神名(15歳・♀・一角獣)
 fa3066 エミリオ・カルマ(18歳・♂・トカゲ)
 fa3319 カナン 澪野(12歳・♂・ハムスター)
 fa3366 月 美鈴(28歳・♀・蝙蝠)
 fa3802 タブラ・ラサ(9歳・♂・狐)
 fa3846 Rickey(20歳・♂・犬)
 fa4823 榛原絢香(16歳・♀・猫)
 fa5556 (21歳・♀・犬)

●リプレイ本文

「本当に行くの?」
 昼間のトンネルでは大した恐怖は感じないのだが、実際に夜中のトンネルを見て少し臆病風に吹かれながら新(タブラ・ラサ(fa3802))が希(角倉・雨神名(fa2640))に問いかける。
「当たり前でしょ〜」
 オカルト好きの希にとっては、このいわくつきのトンネルは絶好の肝試しスポットだった。しかし怖いものは好きなのだが、怖がり‥という事は新には内緒にしてある。
「あれ、キミ達もこのトンネルに?」
 新と希がトンネルに入ろうとした時、突然話しかけてきたのは二人と同じくトンネルに入る為にやってきたヒュー(エミリオ・カルマ(fa3066))だった。
「‥び、びっくりした‥」
 希が小さく呟き「ハハっ、GHOSTかと思った?」とからかうように呟いた。
「幽霊なんかいるはずないよ」
 新がため息混じりに呟き「じゃ、中に入ってみようか」とヒューが一足先に中へと入って行った。大人‥しかも男の人が一緒だという事は二人に多少の安心感を与えていた。


「‥別に変わった所はないね」
 ヒューはトンネルを見渡しながら小さく呟く。
「‥誰?」
 聞こえてきた声の方へ視線を向けると零(カナン 澪野(fa3319))とロイ(Rickey(fa3846))の二人が立っていた。
「あ、貴方達も肝試し?実は私達も――‥」
 希がトンネル近くに停まっていた車の事を思い出し、そう言って零に近寄ると「ここはそんな軽々しく来ていい場所じゃないよ‥」と零は沈んだ表情で呟いた。
「え?どういう事?」
 新が問いかけると「零の姉さんが行方不明なんだと」とロイが震える零の代わりに答えた。
「ま、俺も興味半分で来ているからアンタらの事はいえないんだけどな」
 ロイは軽く笑って呟く。
「僕には灯(虹(fa5556))っていうお姉ちゃんがいるんです‥でも突然いなくなって‥色々と調べてお姉ちゃんがこのトンネルに来たって話を聞いて‥」
 ぐす、と半分涙の混じる声で呟くと「Pinky Swear‥」とヒューが呟く。
「え‥?」
「指きり‥。俺も一緒に姉さんを探してあげるよ」
 ヒューが小指を差し出し、零を安心させるように呟く。その言葉に希と新も「私達も探してあげる!」と零に向かって叫ぶ。
「ありがとう‥」
 そう言って笑顔を見せる零を見て、ロイだけは複雑そうな表情をしていた。零の話を聞けば灯が行方不明になったのは三ヶ月前、果たして生きているだろうか‥?という想いが彼の中にはあるのだ。
「貴方達、このトンネルに肝試しに来たの?」
 首のチョーカーに付いている鈴をチリンと鳴らしながら話しかけてきた赤い髪の少女は鈴(榛原絢香(fa4823))と名乗った。
「え‥そうだけど」
 誰だっけ?と皆は心の中で呟くが『誰かの知り合いなんだろう』と思い、深く追求する事はなかった。
「このトンネルを案内してあげる、結構広いのよ?」
 行きましょ、そう言って足早に目の前を歩く鈴に皆は動揺を隠せないままついて行く事にした。
「このトンネルには色々な噂があるのよ、例えば遥か昔‥土地神に人柱にされた女の人の自縛霊とかネ」
「ヒトバシラ‥Sacrifice?災害を鎮めるために人を埋めるという儀式だね」
 この地域ではいつまで人柱制度があったのだろう‥元々探究心の強いヒューは鈴の話を聞きながら考えていた。
「きゃあっ」
 突然、希の叫ぶ声がトンネル内に響き渡る。どうしたの、という新の言葉に「誰かが足首を掴んできて‥」と震える声で答えた。
「あれ‥?」
 新がある一点を見たまま視線を動かさない。
「どうしたの?」
 零が問いかけると「あっちから風が‥気のせいかな」と首を傾げながら答える。
「あっちには何もないわよ?」
 チリン、と鈴を鳴らしながら鈴が呟く。
「あ――‥お姉ちゃん!?」
 零がトンネルの途中で蹲って座っている人物を見て叫ぶ。
「‥‥れ‥い‥?」
 行方不明になった時の服装のまま灯は駆け寄って零を抱きしめた。
「わ‥私、もう駄目かと‥でも良かった‥」
 ぎゅっと零を抱きしめる灯だがその体は氷のように冷たかった。
「Sister?」
 ヒューが口笛を吹きながら「良かったね」と零の頭を軽く撫でてやる。
「あ‥あぁ、本当に良かったな!でも三ヶ月もここに?」
 ロイが少し怪訝そうな顔で灯に問いかけると「何も‥思い出せないんです‥」と零の手を強く握り締めながら呟いた。
「お姉ちゃん、こんな所にいたから体が冷え切ってるよ、早く出て暖まらないと‥」
 そう言って灯の手を引っ張って外に出ようと促すと、鈴がクスと意味深な笑みを浮かべた。
「貴方は――本当にこのトンネルから抜け出れると‥思う?」
 そう呟いた瞬間、鈴の背後からカツカツと誰もいないのに足音だけが響いてくる。
「え――‥」
 近づいてくる足音にその場にいる皆は恐怖を隠しきれない。
「貴方のお姉さん、本当に生きてる‥?」
 零は聞こえてきた声に勢いよく後ろを振り返るが‥誰もいない。
「零‥?どうしたの?」
 相変わらず冷たい灯の手に不安を抱えたまま「‥何でもないよ」と出口を探す。月夜の光が差し込んできているはずなのに、出口へは一向に辿り着かない。
「ふふ、まさか真っ直ぐなトンネルで迷っちゃった‥とか?」
 楽しげに呟く鈴に多少の苛立ち感はあるものの、出られないかもしれないという事に今はそれどころではなかった。
「こんな危険な場所に連れてきちゃって‥ごめんね」
 希が申し訳なさそうに呟くと「別に幽霊信じてないし」と答え、希を安心させるように手をぎゅっと握り締めた。
「うふふ‥」
 一瞬だけ自縛霊と化した女性・幸枝(月 美鈴(fa3366))が姿を見せた。しかし溶ける様に消えた。
「ひっ‥」
 灯が声にならない悲鳴をあげ、零の手を強く握り締める。その時「やっぱり‥」と新が呟く。
「どうしたんだ?」
 ヒューが問いかけると「あの行き止まりの壁から風が吹いてくる」と新が行き止まりの壁を指差しながら呟いた。
「もしかしたら、あの壁の向こうが出口なのかもしれないな」
 ロイも手を当てて風が来ることを確かめながら答えた。
「で、出られるんなら早く出ましょう!」
 灯も恐怖の為に体を震わせながら叫ぶ。その時、灯の手を強く握る零に笑みを零すと「お姉ちゃんがはぐれないようにだよ!怖いわけじゃ‥ない」と語尾は弱々しかったが強がりを言って見せた。
「‥本当に出られると、思うの?」
 薄気味悪い笑みを浮かべ、鈴が呟く。
「‥アンタ‥一体誰の知り合いなんだ?」
 その時初めて知る、鈴を知る者が誰もいない事に‥。
「‥早く!この壁を通ればきっと外に‥」
 新の言うことは仮説でしかない、こんな状況で直に信じるというのは無理な話だ。
「‥信じる、先に行くね!新くん」
 そう言って希が一番最初に壁へと向かって飛び込んだ。ぶつかる刹那、希の体は壁へと溶け込みトンネルの中から消えた。
「‥女の子を先に行かすなんて最低だな、俺」
 さ、行こう!とヒューとロイが叫び、残った全員で壁へと飛びこんだ――‥。

「貴方は逃がさないわ――‥私と一緒に永遠の孤独を彷徨いましょう――‥」

 そう言って幸枝が手を掴んだ人物――それは‥‥。


「外だ‥はは、俺達‥外に出られたんだ!」
 ロイが心から喜んでいると「零は‥?」と呟く灯の姿があった。
「せっかく外に出られ‥た‥の、に――?あ、れ‥わ―た‥し‥?」
 零を探すためにトンネルへと再び入ろうとした時、灯に異変が起きた。まるで草木が枯れるかのように灯の体はミイラ化していった――‥。
「き、きっとこの人‥死んでたんだ‥」
 ロイが呟く。灯を解放する為に今度は零を幸枝は引き込んだのだろう。
「どうしよう、探さないと!」
 希が叫ぶが、聞こえてきた鈴の音に肩を竦める。
「あ、あんな所から血が――‥」
 トンネルの入り口からにじみ出てくる血、それが誰のものなのかは考えたくもなかった。
「と、とりあえず警察に届けた方がいい、皆!車に乗ってくれ」
 ロイが車に乗り込みながら叫び、皆もやりきれない思いと何もできない無力さを思い知らされながら車へと乗り込んだ。
「ちっ‥こんな時にぃ!」
 キーを差込み、エンジンをかけようとするが思うようにかからずに苛立ちが募る。
「かかった!」
 こんな所からはおさらばしよう、そう言って車を走らせ、遠のくトンネルの姿に安堵のため息を漏らした。
 しかし――――‥。
「ちょ‥あれって‥」
 ヒューが指差したもの、それは紛れもなく先ほどのトンネル――。
「何で、あのトンネルがここに?!」
 その時、鈴の音が聞こえたような気がした‥。


「うふふ、ねぇ‥抜け出れると‥思う?」
 自分への生贄として死んだ幸枝に向かって問いかける。
「獲物は‥逃がさない。好奇心は‥猫も、暗闇の中で永遠に彷徨うがいいわ‥」


 彼らの恐怖は終わらない―‥。



END